いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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今そこにある日本農業の危機と希望の有機給食 食政策センター ビジョン21代表・安田節子

 1965年73%あった食料自給率は2022年38%にまで下がっている。

 

 世界大戦後、米国の余剰穀物処理の対処として早い段階で大豆、とうもろこし(飼料用)が関税撤廃され、また、小麦の大量の輸入を受け入れた結果、国内生産の減少が加速し自給率の低下が進んだ。米国の要請で貿易自由化を進め輸入に頼る政策が日本農業を弱体化させた。

 

 そして現在、輸入依存では日本は立ち行かなくなることが明白となった。化学肥料、飼料、燃料など必須の生産資材は、コロナ禍、異常気象、ウクライナ紛争により多数の国々が輸出規制し、輸入量減少、価格高騰に見舞われている。しかも円安だ!

 

 生産資材が高騰しても農産物価格は上がらず農家は赤字にあえいで廃業が増加している。今後、肥料調達が滞れば国内生産は危うくなる。今そこにある日本農業の危機なのだ。

 

 日本農業が苦境にある中、米国隷属を象徴するのがミニマムアクセスだ。要らない米を輸入し続けている。ミニマムアクセスは1993年ガット・ウルグアイラウンド合意で輸入量が消費量の3%に達していない農産物(日本の場合は米)には低関税での輸入機会を開いておくというものだ。欧米のミニマムアクセスは主に乳製品だ。鈴木宣弘氏によると、2014~2019年の枠充足率(全1374品目)は平均53%(WTO)で、無理してそれを満たす国はない。日本政府は「輸入義務」との(虚偽の)説明によって、毎年77万㌧もの米を買い続けている。しかもそのうち36万㌧は米国から買うという密約がある。大量の輸入米は米余りによる低米価で苦しむ農家の廃業を後押しする。農政の最大の矛盾であり、ミニマムアクセス米の輸入は止めるべきだ。

 

 また酪農も同じだ。酪農家は一昨年に比べて肥料2倍、飼料2倍、燃料3割高に見舞われていても国内在庫の過剰で価格は低迷している。一方で、大量の乳製品(チーズ、バター、脱脂粉乳など)を「最低輸入義務」として毎年13・7万㌧(生乳換算)を輸入し続けている。その一方で、政府は酪農家に減産要請し、生乳の廃棄や、頭数削減の補助金を出し、酪農家は泣く泣く乳牛を殺処分している。現在、離農する酪農家は後を絶たない。

 

 政府は、価格保証や個別所得補償など取るべき有効な策はあるのにまったく手を打たない。「ミニマムアクセス」については決して表立てさせず頬被りだ。なぜなのか?

 

 日本農業を衰退、消滅させ、米国に食料を依存せざるを得ないようにして日本の完全隷属を成し遂げようという米国の意図へ政府が隷従している故ではないかと思ってしまうのである。

 

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 日本の農地は減少し続け、最大だった1961(昭和36)年609万㌶から2019年には439万㌶に、約169万㌶も減少。このうち、水田の減少が大きく1961年から30%減少し100万㌶減少した。耕作放棄地は2015年42・3万㌶で全農地の10%に当たる。主食を担う稲作農家は全国で03年の163万7750戸から21年は65万4000戸に急減。このペースで担い手が減少していけば、現在は国内自給率が100%近いコメも不足する恐れがある(シンクタンクの三菱総合研究所)という。同研究所は、農水省のデータなどから農家全体の戸数が50年に17万7000戸になるとみる。23年2月比で81%も減少する計算だ。米という基礎的な食料の持続的な生産と安定供給が、脅かされている。

 

 地方の農村では高齢化、離農、人口減少が加速している。各地で増加する獣害は農村の衰退と表裏だ。農村地帯では、人口の減少で地方交通機関は採算が取れず、鉄道やバスの便数の削減や路線の廃止が進んでいる。店舗の廃業、撤退で買い物難民を生み、人口減少に拍車をかけている。草刈りや用水路の整備など共同作業はできなくなり請負企業に委託するとしても、委託料が払えない人が増えて、共同体は消滅へ向かう。

 

 貿易自由化とは、日本農業の安楽死を進めるためのものだった。そしてそれはほぼ達成されようとしている。迫りくる農業の危機は全国民の食料危機と認識すべきなのだ。

 

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 もうひとつ、日本の農業危機と言えるのが農薬多使用だ。

 

 OECD加盟国のうち、単位面積当たりの農薬使用量は、日本は1位か2位のダントツの農薬使用大国なのだ。なかでも、ミツバチの大量死、子どもの脳神経への影響などで国際的に禁止や規制が強化されているネオニコチノイド系農薬について、日本の基準値は諸外国に比べて桁違いに緩く、出荷量は右肩上がりに増え続けている。

 

 作物に残留する農薬は規制値以下だから問題ないと政府は言う。しかし、私たちは食品から無作用量以下の微量とはいえ、反復、慢性、複合摂取しているのだ。それが脳や神経に影響し、発達障害や神経疾患の増加との関連が指摘されている。

 

 『秋田魁新聞』によると、東京大学大学院山室真澄教授らの調査で、水田で使用される農薬が飲料水を汚染している実態が明らかになった。斑点米を作るカメムシの防除に使用されるネオニコチノイド系殺虫剤ジノテフランが、田んぼから河川に流れ、それを水道原水とする全国各地の水道から毎月検出されている。EUの飲料水基準の8倍近くという最高値が出たのはコメどころの秋田市だった。2023年8月の調査では秋田市水道からEU基準の30倍超を検出した。

 

 米の等級制度により、検査で、斑点米が1000粒中1粒までなら一等米だが1粒増えれば二等米に落ちる。買い取ってもらう価格が大きく下がるため、農家はカメムシ防除農薬を大量散布することになる。斑点米はカメムシの吸い口が黒い点になった米粒だが、食べても無害であり、単に見栄えの問題でしかない。しかも色彩選別機ではじくことができる。農薬は不要なのだ。

 

 2020年に農産物検査規格の見直しが行われたが、斑点米の等級制度だけはそのまま温存された。農薬企業の(等級をなくせば農家が農薬使用を減らす)という意向が働いたのではないか。

 

 水田に使用された農薬は、飲料水や米、魚介類を汚染し、水田が育んできた多くの生物が姿を消した。そして今現在も日本列島に住む私たちの体を、汚染し続けている。有機稲作への転換が必須だ。

 

 みどりの食料システム法が2022年4月に施行された。有機農業面積拡大を謳う一方、技術革新を掲げ、ゲノム編集技術による品種開発に力点を置いている。ゲノム編集は米国が規制なし、表示なしで開発を推進するなか、日本はこれに追随し、政府が強力にバックアップして、日本は、ゲノム編集食品が流通する世界で唯一の国となった。現在、ゲノム編集されたトマト、マダイ、フグに続きヒラメや米国からのトウモロコシが届け出を受理されている。日本での流通が当たり前になり、消費者の受容があると見なされれば、米国から多数のゲノム編集食品が輸出されてくるだろう。

 

 コルテバ(デュポン/ダウ)とバイエル/モンサントがGM同様ゲノム編集技術でも「基本特許」を握る。ゲノム編集のCRISPR/Cas9などのツールと派生した動植物を使用するプロセスはすべて特許が取得され、彼らに特許料が入る構造なのだ。

 

 ゲノム編集は予期せぬ変異を制御できないことが明らかになっている。制御できない技術は応用化してはならない。動物に食べさせての安全性評価はされていない。ゲノム編集はいまだ統一された評価法もない。日本人は人類が初めて口にする食品のモルモットにされようとしている。

 

 こうした危機に直面する現在、学校給食の有機化が全国で取り組まれ始めたことは特記すべき明るい兆しだ。関連して、みどり戦略の有機面積拡大策のオーガニックビレッジに手を挙げた地域は全国で100カ所近くに上っている。

 

 有機農業は農薬、化学肥料を必要としない、遺伝子組み換え(含むゲノム編集)を使用しない、地域内の物質循環に則し、種子も飼料、肥料も地域で自給し、外部資材に依存する必要がない農業なのだ。まずは水田を有機水田へ転換し、安全な有機米を学校給食に入れよう。給食は自治体が決めることができる。地方自治体の公共福祉、公共事業として有機給食を学校、病院、職員食堂、老人施設、フードバンクまで行きわたらせたい。全国に有機給食が広がり、小さな自給圏がたくさん作られていけば、日本は有機自給国家へ向かう。アグリビジネスの餌食にされない、食の安全や食料安全保障が守られる真の独立国を目指したい。

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