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辺野古新基地建設 軟弱地盤で国が設計変更 あの土砂投入は何だったのか

計画は振り出しに 冷静に見れば辺野古は頓挫

 

 沖縄県名護市の辺野古米軍新基地建設計画をめぐり、安倍政府は昨年末、埋め立て予定区域の一部で土砂投入に踏み切ったが、当初から指摘されてきた建設予定地の海底にある軟弱地盤の存在を認め、設計変更が避けられない事態となっている。設計変更には沖縄県の認可が必要となり、県が承認しなければ基地建設は頓挫する。強引な工事を進めてきた安倍政府だが、強力な県民の反対世論を打ち崩すことはできず、みずから棚上げにしてきた重大な過失によって墓穴を掘るかたちとなった。

 

 防衛省が軟弱地盤を確認したのは、埋め立て予定区域の北東部分で、計画ではV字型滑走路の先端部分にあたる。埋め立て予定区域の中ではもっとも沖合にあり、滑走路を支えるケーソン(鋼鉄製の箱)の真下に位置する。その存在は、2014~16年におこなわれたボーリング調査ですでに明らかになっており、防衛省の土質調査報告書(2016年3月)にも、「当初想定されていないような特徴的な地形・地質」「非常に緩い・柔らかい」と記述している。防衛省はこの報告書を2年間公表せず、昨年はじめて公表した。

 

 それを見た地盤工学の専門家らは「構造物を建てるためには地盤改良が必須」「基地建設ができるかどうかがわからないくらいの重大な欠陥」だと指摘し、当時の翁長雄志・沖縄県知事もその問題を理由の一つとして埋立承認撤回を表明したが、安倍政府は事実を認めないまま昨年12月、土砂投入に踏み切った。

 

 すでに明らかになっている軟弱地盤は、大浦湾のケーソン護岸設置箇所を含むうえに、水深が30㍍と深く、地質調査が成り立たないほど緩い軟弱な土質が厚さ40㍍にわたって広範囲に広がっている。

 

 地盤の強度を確かめるボーリング調査は、試料(土)を採取する筒を地中に沈めておこなう。そのさい、筒を大型ハンマーで打撃した回数を「N値」とし、その値が大きいほどその地盤は強固であることを意味する。通常、大型構造物の基礎としてはN値50以上が必要とされているが、防衛省は13年の埋立承認申請時にはこの地点を「N値11」と想定していた。だが調査結果では、滑走路の北辺にあたる複数の地点で「N値ゼロ」を連発した。筒をセットしただけでズブズブと地中に沈み込んでいったことを示している。専門家の間では「マヨネーズ状」「豆腐並み」の地盤と呼ばれ、「そもそも構造物を建てるのに適しておらず、まして飛行場としては使えない」とまで指摘されてきた。

 

 辺野古の埋め立て造成のために設置するケーソンは総数38に及び、大型ケーソンの重量は7000㌧以上にもなる。その基礎となる捨石も最大200㌔㌘にもなる石材だ。それらの設置物を、N値ゼロの地盤に置いたとたん、そのまま地下40㍍まで沈んでしまうことになり、「ケーソン護岸や基礎捨石を現状の計画のまま造成・設置することは不可能」というのが地質調査が示す結論だった。防衛省が作成した埋立承認願書で「厚さ15㍍の沖積層(砂層)、N値11」「砂・砂礫層が主体であり、長期間にわたって圧密沈下する軟弱な粘性土質は確認されていない」としていた当初の設計条件は、まったくの誤りであることが明らかになり、設計概要の全面的な変更が避けられないことは政府自身も早くから認識していた。

 

 しかも問題はケーソン護岸だけでなく、護岸に囲まれた埋め立て区域にも厚さ46㍍もの軟弱地盤が広がっていることが判明しており、造成のためには埋め立て区域全体の地盤を総入れ替えしなければならない可能性も濃厚になっている。

 

 軟弱な地盤を改良するためには、大量の砂杭を打ち込む特殊な工法を必要とし、水深も深く難工事になるうえ、膨大な費用と長い工期が必要となる。県は、総事業費は防衛省の当初計画の10倍以上となる2・5兆円、移設工事全体は10年以上かかると試算しているが、米軍に提供する基地であるという特殊性から安全性の担保は絶対条件であり、国は工事に着工しながら総事業費も完成時期も見通せていない。

 

 同じく厚さ18~24㍍の軟弱地盤の上に建設した関西国際空港では、地盤沈下を防ぐため、埋め立て区域に2・5㍍間隔で直径40㌢、長さ20㍍の砂杭をあわせて220万本打ち込んだが、その後も沈下は止まらず、護岸のかさ上げ工事や滑走路や建物の水平を保つための鉄板で挟むジャッキアップをやり続けなければ空港としての安全性が確保できない現状にある。台風や高潮のたびに滑走路は水浸しになり、今後予想される地震や津波に耐えうるものでないことが関係者の間で確実視されている。

 

 辺野古新基地の予定地では、大浦湾の海底に見つかった辺野古断層が「2万年前以降にくり返し活動した、極めて危険な活断層である」(知事撤回理由書)といわれており、直下型地震の危険性に加えて、沈下が確実な地盤の上に、膨大な弾薬や化学物質を扱う軍事施設を建設することの無謀さが浮き彫りになっている。これほど大規模な地盤改良が自然環境に与える影響についても見直さなければならず、そもそも造ったとたんに沈んでいくような滑走路を誰が何のために造っているのか、根本から疑われるような粗雑な計画の実態が明らかになっている。

 

 設計変更を迫られた政府は軟弱地盤の追加調査の結果を今年度中にまとめ、3月以降に沖縄県に設計変更を申請する方針だが、昨年まで沖縄県が土砂投入前に再三求めていた計画変更の指導を無視し、防衛局を「私人」とみなす禁じ手を使って知事権限を無効化したうえで土砂投入に踏み切ったのは国自身だった。いまさら県が変更を承認する筋合いはない。すぐに行き詰まることがわかっていながら、なぜ膨大な税金を投入して土砂投入を強行したのか? を問わなければならない。国は県が不承認とした場合に違法確認訴訟などを起こす構えだが、司法判断が出るまでは予定区域の北東部の工事には手が付けられない。

 

 さらに設計変更にともなう土砂の輸送手段、港の使用権、環境アセスなどの環境保全にかかわる再調査、海底の地形を改変させる行為に必要な岩礁破砕許可など、膨大な案件について知事認可のやり直しが必要になり、工事は「遅れる」どころの話ではない。国が地元知事の認可を「不要」とする前例を広げれば広げるほど、憲法も行政法もない無法国家ぶりを内外に知らしめることになり、そのすべての責任を国が負うことを意味する。もはや安倍政府のために法治国家としての統治システムを崩壊させるところまで来ており、安倍政府の側が八方ふさがりに陥っている。

 

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