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書評『米軍基地がやってきたこと』(デイヴィッド・ヴァイン著)

 デイヴィッド・ヴァイン著『米軍基地がやってきたこと』は、世界70カ国以上に約800の軍事基地を持つアメリカと、基地が置かれた国の政府や現地住民との関係を、歴史的に検証、考察している。ヴァインは人類学を専門とするアメリカン大学の准教授だが、沖縄やグアム(アメリカの属領)にふれて、アメリカ政府や米軍の横暴な振る舞いを浮き彫りにしている。北朝鮮をめぐる情勢とかかわって、グアム島民の米軍基地やアメリカの植民地支配からの脱却を求めるたたかいが伝えられる今、参考になる1冊である。

 

 

 

ケビン・メア「ゆすりたかりの名人」発言の背景

 

 ヴァインは2010年末アメリカン大学の授業に招いた国務省日本部長のケビン・メアが沖縄県民を見下し、「ゆすりの名人」などと口汚く罵倒したとき、直接現場に居合わせた指導教員である。本書で、当時の事情をあらためて説明している。

 

 メアを招いた授業は、米軍基地について学ぶ学生たちが、沖縄に研修で訪れる準備のために、ヴァインが企画したものであった。メアは30年にわたる外交官勤めのうち、18年間は沖縄など日本各地を歴任していた。ヴァインによれば、メアは学生たちに地図を見せて、米軍基地が沖縄に集中している理由を次のように語った。

 

 沖縄は東京との距離よりも北朝鮮や中国に近く、地域の安全を保障するには軍の駐留が欠かせないため、ある意味「地理上の犠牲者」だ。「しかもわれわれは、アメリカ人にとって地の利のいい居場所に“居心地のいいすばらしい施設”を確保している」と。

 

 メアはさらに、「沖縄の歴史」について、「県内の米軍基地の多くは第2次世界大戦後にアメリカが日本を占領したことに起因する」として、こう続けた。「あそこはいわば日本のプエルトリコだ」。プエルトリコ人のように沖縄県民はほかの日本人より「肌が黒く」「背が低く」「なまりがある」と。ヴァインは学生たちとともに、外交の経験と思慮を持つ人物から飛び出す人種的侮べつに満ちた言葉に驚いたという。

 

 メアは、「沖縄県民は東京(政府)から金をゆすり取る名人だ」と続けた。基地の大半は、日本政府がアメリカに賃貸する私有地にある。その賃貸契約の更新時期になると沖縄の政治家や何やらが大勢基地の撤去を要求する。しかし、彼らは本気で基地がなくなることを望んでいるわけではない。「それが賃料をつり上げるやり口だから」。

 

 メアはまた、日本の文化では「賄賂が日常茶飯事」で「沖縄人は名人」、つまり政府からカネをせしめたり、第2次世界大戦中に沖縄の人人が味わった苦しみに対する「罪悪感」を利用したりするのがうまいと語った。そして、沖縄が日本で最も貧しい「理由のひとつには、沖縄が1972年までアメリカに占領」され、日本経済に組みこまれなかったことがあるが、「例の島国根性のせいもある」とつけ加えた。

 

 「島国根性」のおかげで、県民は昔からサトウキビやゴーヤを植え、あとは収穫頃までただ待つのみ。そして近頃では「怠惰がすぎてそのゴーヤさえ育てられない」。メアは、沖縄県民の離婚率や飲酒運転、家庭内暴力、出生率の高さは、彼らが泡盛好きのせいだといって、講義を締めくくった。

 

 メアの講義を受けた学生たちはショックを受けて、日本を訪れたときにジャーナリストに、この話を伝えることを確認しあった。ヴァインは学生たちのこの行動を保証すると約束した。学生たちが日本で、メアの大学での公的発言を伝えたことは、沖縄はもとより全国、世界各地で怒りを広げ、アメリカ政府はメアを更迭せざるをえなかった。

 

沖縄返還と引換えに6億㌦  返還でなく買取

 

 ヴァインは本書で、メアの沖縄県民に対する雑言はそのままそっくり、アメリカにはね返ってくることを、次のように明らかにしている。「アメリカ側こそ、米軍の東アジア駐留にさらに手厚い支援金を出すようにと長年、日本政府に迫ってきたのだから」。少なくとも1972年以降、日本は米軍基地と駐留に他のどの受け入れ国よりも多い、何百億㌦もの金を出してきた。

 

 普天間飛行場の閉鎖と沖縄からの海兵隊員の移転についてはほとんど何も動いていない。少女暴行事件後の1996年合意のもとで動いたといえるのは、「数数の基地が新設されたこと」だ。具体的には、嘉手納空軍基地の1473世帯とキャンプ・フォスターの1777世帯の移転計画の一環として、日本は米軍住宅の新設に20億㌦を拠出することにすでに同意していた。

 

 これは、嘉手納560世帯の集合住宅を大改修し、米軍住宅の駐車場を1世帯当り2・5台分にするという「非常に贅沢な広さに拡張する」こととセットであった。「つまり強姦事件への対応として始まったものが、結果的に大規模な住宅建設計画、つまりアメリカに無償で新築の住宅を提供する話になってしまった」のである。こうしたごまかしで、日本から巨費をかすめ取るやり口は、厚木から核搭載能力を持つ空母艦載機を移転させる岩国などの歴史的経験とも重なって、全国共通の怒りを駆り立ててきた。

 

 ヴァインは、「日本が米軍基地のために“思いやり予算”やその他支援に巨費をあてていることを考えれば、ケビン・メアが沖縄県民を“ゆすり屋”呼ばわりしたことは、なおさら皮肉というものだ」と、次のように指摘している。

 

 1972年の沖縄返還協定は一般に「本土復帰」と呼ばれたが、日本側は交渉のなかで、沖縄返還との引き換えに、アメリカへの繊維製品の輸出規定に従うこと、6億8500万㌦支払うことに密かに同意していた。この金額には、日本に返還される建物やアメリカが整備したインフラの費用と、沖縄から核兵器を撤去する費用が含まれていた。「核兵器の撤去」については、密約によって「緊急時には再び核兵器が持ち込める」ととり決めたおまけもつけて。

 

 さらに、日本政府は当時のドル安傾向へのテコ入れにも犬馬の労をとり、ニューヨーク連邦準備銀行に1億1200万㌦を25年間、しかも無利子で預け入れることにも同意していた。またそれとは別に、「基地の維持費と沖縄の防衛費として2億5000万㌦を5年にわたって支払った」。

 

 日米関係の専門家、ガヴァン・マコーマックが「1972年の“返還”は実際には買い取りであって、日本はその後ずっと莫大な金を払いつづけている。実質的にそれは逆レンタル料であり、家主たる日本が賃借人であるアメリカに金を支払っている」と語った言葉も紹介している。

 

米軍一人当り1600万円 再編費用も日本に

 

 ヴァインは、「現在、日本の思いやり予算は、米軍の駐留に対して軍人ひとりにつき年間15万ドル(約1600万円)ほどを助成している。2011年だけを見ても、日本の納税者は71億ドルすなわち駐留経費全体の4分の3近くを賄っている」ことに注意を向けている。

 

 そのうえで、「日本政府は普天間基地の閉鎖と海兵隊の県外移転を援助するために60億9000万㌦の支払いを約束したばかりか、沖縄、グアム、北マリアナ諸島、岩国などの大規模な基地再編にむけて、159億ドルを負担することも約束した」ことを明らかにしている。

 

 米海兵隊のグアム移転は、自衛隊に海兵隊の肩代わりをさせアジア人同士をたたかわせる米戦略の一環である。それは最近、米軍が南シナ海や東シナ海で中国と軍事衝突した場合、米領グアムまで撤退し、「沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ軍事戦略上の海上ライン“第一列島線”の防衛を“同盟国の日本”に委ねる」ことを検討していることが報じられたことからも明らかだ。

 

 在沖米軍の新兵研修でも暴露されたように、メアの思想はなんら特殊なものではない。問題は、在日米軍基地をめぐるこうした屈辱的な関係を直視し、日本の独立と平和を求める国民的な運動をさらに力強く形成していくことにある。 (一)

 

 (原書房、B6判・494ページ、2800円+税)

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