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長時間労働野放しの働き方改革 時代を100年前に逆戻りさせる

 「働く時間を自分で選べる」「私生活や子育てと仕事の両立がしやすくなる」と宣伝し、安倍政府が推し進める「働き方改革」。今国会に「働き方改革関連法案」を提出し、専門・企画職に限定していた裁量労働制を一般営業職などへ拡大することが狙いだ。国会では、安倍政府が裁量労働制拡大に有利な労働時間データを用いて世論誘導を図っていた事実も発覚した。安倍政府は派遣労働全面解禁の次なるターゲットとして、「残業代ゼロ」を盛り込む「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)とセットで労働時間規制の全面緩和に乗り出している。

 

 今回の「働き方改革」で適用範囲拡大を目論む「裁量労働制」は、実際に働いた時間に応じて賃金を支払う制度ではない。企業側があらかじめ決めた「みなし賃金」(残業代込み)に基づいて仕事をし、仕事終了までに何時間かかっても追加の残業代は出ない制度である。「高プロ」のように「年収○○円以上」という規制がないため、適用対象を拡大した場合、影響は広範囲に及ぶと見られている。


 同制度は1987年の労働基準法改定で導入したとき、システムエンジニアや大学教授、デザイナーなど専門職に限っていた(専門業務型裁量労働制)。だが98年に法改定を実施し、企業の中枢部門で企画・立案・調査・分析業務を担う一定範囲のホワイトカラー労働者も適用対象に加えた(企画業務型裁量労働制)。


 安倍政府はこのうち「企画業務型裁量労働制」の適用対象に「課題解決型提案営業」(顧客の意見を聞きその要望にそって商品を開発・営業する職種)と「裁量的にPDCA(計画、実行、評価、改善をくり返す生産・品質管理)を回す業務」(工場などの管理職)の追加を目指している。国民にわかりにくい文面を用いながら、要するに営業職や品質管理に携わる幅広い職種をいつのまにか「裁量労働適用職種」に変貌させる意図をあらわにしている。


 問題はそれによって実際の職場がどのように変化するのかである。


 福岡県下で在宅介護にかかわるケアマネージャーの女性(40代、2人子育て中)は「顧客の要望にそってケアプランを立て、介護事業所や病院と交渉してそれぞれのサービスをおこなうのがケアマネ。裁量労働が拡大されれば当然、適用対象になるだろう」と予測する。


 約50件の在宅介護を担当し、毎朝9時に出社した後、午前中は書類整理に追われ、午後からそれぞれの家庭を訪問するのが日課だ。しかし難聴や物忘れのひどい高齢者もいる。訪問時間を告げても忘れていたり、呼び鈴を押しても出てこない人もいる。長時間待つこともしばしばだ。訪問して様子を聞きケアプランの調整をするが、そのまま病院へ連れて行くこともある。細かい仕事が多いため、1日の訪問件数は4件程度だ。勤務終了時間に規定された夕方6時に帰ることはほとんどないうえ、昼休み(1時間)をとる時間もない。夜遅くまで電話相談が絶えず、休日の土日に集中して家事や買い物に走るが「徘徊で行方不明になった」との連絡が入ればすぐ飛んでいく。賃金体系は毎月約20数万円(基本給と資格手当)と冬と夏の手当(約1・5カ月分)と固定しており残業代はない。「近くに住む母が加勢してくれるから続けられるが、子育てをしながら仕事の両立は難しい。裁量労働制でどうなるのだろうか」とのべた。


 こうした職種に裁量労働制が導入されると、まずは基本給への影響が避けられない。「残業代込みの見なし賃金適用」となれば、「正規に決まった仕事」しか賃金対象にはならないからだ。緊急のトラブル、待ち時間など不測のロスはすべて「自己責任」扱いとなる。訪問先から訪問先への移動時間も賃金対象から除外される可能性もある。すでに「変形労働」が導入されている路線バスなどでは、次の路線まで営業所で待つ「拘束時間」に一切手当がつかなくなっている。現在の収入を維持するには、担当件数を増やして自分で自分を酷使しなければならず、同僚との競争も熾烈にならざるを得ない。


 実際に2013年7月には、裁量労働制を適用されていた証券アナリストの男性(当時47歳)が心疾患で死亡(2015年に労災認定)している。業務は債券市場の動向を顧客にレポート発信するものだった。遺族が調査すると、毎日午前3時頃に起床して海外市場の動向を分析し、午前6時頃に出社して第1回のレポートを午前6時40分頃に発信。その後、午後5時半までに毎日30以上の顧客向けレポートを送り続け、退社は午後6時半。死亡する1カ月前の時間外労働は133時間に及んでいた。


 こうした事例を見ても「働く時間を自分で選べる」という裁量労働制が「長時間労働是正」につながる根拠はない。実際は携帯電話の「定額かけ放題プラン」と同じような「定額働かせ放題プラン」を社会に蔓延させる制度にほかならない。


 また一人一人の勤務時間や業務がバラバラになるため、企業側が「仕事ができないのはお前だけだ」と圧力をかければ、同僚と相談することもできず自分で自分を追い込むことになる。同僚との横の関係が希薄になる一方、上司との関係だけは強まり、企業内の管理強化にも直結する。

 

「高プロ」導入の狙い  全職場でオール歩合給

 

 こうした裁量労働制とセットで導入を狙うのが「高プロ」である。こちらは専門職で年収1075万円以上の働き手を、あらゆる労働時間の規制から外す内容だ。現在の労働時間は労基法で「1日8時間以内、1週間40時間以内、それ以上働かせたら残業代を払う」と決まり、違反すれば処罰対象となる。「裁量労働制」でも「見なし賃金に残業代を含む」と規定している。だが高プロは残業代、休日手当、深夜手当などを支払うという規制をみなとり払う。安倍政府は「成果をあげれば数時間で帰れる」とメリットを主張しているが、そうした宣伝文句は今後、成果のみで評価する「脱時間給」を拡大する意図を示している。それは全職場で基本給も諸手当もないオール歩合制や能力給を適用していくことに直結する。


 そのような給与体系が蔓延すれば、タクシー運転手なら「運賃収入」、ケアマネや訪問介護職員なら「担当件数」、保険の外交員なら「契約件数」、弁当やヤクルト販売などの訪問販売員なら「売上」のみが、給料の基準になっていくことを意味する。企業が課した「課題」やノルマを達成したかどうかが給料や評価の規準になり、その実現のために8時間以上かかれば「能力がない」として一切残業手当は出さないし、今後の契約自体が危うくなる。


 「働き方改革関連法」の要綱では残業時間の上限を原則として「月45時間、年360時間」とし「年間104日間の休日確保」も盛り込んだ。だがこれも「1日8時間以内」の規定を崩すことに変わりはない。「年間104日間の休日確保」も、残りの261日間は労働時間の制約を受けず酷使することが狙いだ。「高収入の労働者が対象だから、過労死は増えない」として導入し、その後一気に適用対象を拡大していくのは労働者派遣法を見ても証明済みだ。
 「働き方改革関連法案」では「同一労働同一賃金」を掲げて正社員給与を非正規並みに引き下げる動きも加速している。

 

労働法制の規制緩和  アメリカの要求が発端

 

   

 労働法制の規制緩和は1989年の日米構造協議が直接の発端となった。2000年の「アーミテージ・レポート」は日本に「市場開放をしてグローバル化し、たゆまぬ規制緩和と貿易障壁を削減せよ」と要求し、その下で歴代政府が規制緩和を推し進めた。それから約30年で、雇用形態、労働時間をはじめとする就労形態、職場の安全、外国人労働者の受け入れに至るまで労働法制は無惨な崩壊状態になった。


 雇用形態では1985年に導入した派遣労働の対象業務を拡大した。2004年に製造現場への派遣まで解禁したことで非正規雇用が急増した。大企業が派遣労働を雇用の調整弁として積極的に活用した結果、非正規雇用が2036万人(17年)に達し、雇用者全体(5460万人)の37・2%に達した。


 それは貧困化も促進した。2016年の民間給与実態調査によれば、1年を通じて勤務した1人当りの平均給与は正社員が487万円だが、非正規雇用は172万円だった。正社員も含めた子育て世帯の年間平均所得金額の推移を見ると、ピーク時の781・6万円(1996年)から、約20年で年間73・8万円(2015年は707・8万円)も所得が減っている。さらにその後の労働契約法改定では、派遣期間の制限をとり払った。派遣法の大原則だった「常用雇用の代替防止」もなし崩しにし、全産業の正社員をみな派遣労働者に置き換えることを合法化した。


 労働時間も1日に働くのは8時間で週48時間(週に一日休み)だったのを、1987年に労基法を改悪して1週間(週5日)40時間労働制を導入した。「週間合計が40時間以内であれば1日8時間をこえてもいい」というもので、これが長時間勤務を拡大する布石となった。この時期に裁量労働制も「専門職に限って」との条件付で導入した。18歳以上の女性はもともと、残業が1日2時間、週6時間で深夜勤務を禁じていたが、これも1999年の「男女雇用機会均等法改定」で全廃した。


 長時間労働が野放しになり、労災や職業病が増え始めると過労死を防ぐために制定した労働安全衛生法も改悪した。月100時間残業した労働者を医者が診断し、指導するよう企業に義務付けていたのを「労働者の申し出があった場合」と変更した。いくら長時間勤務をしても「申し出」がない限り、会社側は放置しておいて良い制度に変えたため、過労を原因とする事故は増加した。


 そして日本人の雇用を守るために規制していた外国人労働者の受け入れも「開発途上国の人材育成に貢献する」として90年から受け入れを開始した。外国人労働者の数は1993年は9・7万人だったが15年後の2008年には48・6万人に達し、現在は127・9万人(2017年)に達している。以前は中国人が圧倒的に多かったが、日本語学校を装う斡旋業者もあらわれ、近年はフィリピン、ベトナム、ネパール、ブラジル、ペルーなど入国者は多様化している。人件費の安い国から若者を入国させ、日本人が敬遠する劣悪な職場へ送り込み、日本国内全体の低賃金を加速している。


 こうして「国際競争に勝つためだ」と叫んで労働法制の規制を崩壊させてきた結果、国内の貧困化や人口減少に歯止めがかからなくなっている。さまざまな職場が人手不足で技術継承も困難になり、労働力の再生産すらできない。この現実は大資本の利益にたった目先のもうけ優先の労働法制改悪が、いかに日本社会全体を後退させているかを示している。

 もともと労働基準法や労働法は、労働者が人間として生活する社会的規制として堅持されてきた。労働者から労働力を買い、働かせて利潤を得るのが資本であり、一方的な解雇を認めず、勤務時間が長引けば残業代を支払うルールも定めてきた。労働者は24時間束縛される奴隷や資本の所有物ではないからである。8時間労働制も資本主義登場から、全世界の労働者がたたかいで勝ち得た人間としての権利である。産業革命後の生成期には児童労働まで押しつけ、死ぬまで働かせる強欲資本とストライキなどの実力行使でたたかい、人間的な生活、人間としての尊厳を認めさせてきた歴史がある。これを覆し、100年以上も前に時代を逆戻りさせようというのが安倍政府の「働き方改革」である。


 実際に労働者が家庭を持ち、わが子を次代の担い手に育てたり、親の介護をしようにも極めて困難な状況が蔓延しているのは、労働環境の悪化に加え、教育も保育も医療も介護もすべて企業が営利追求の道具にし、国民に高負担を強いているからである。

 歴代政府が大企業や財界の道具となって、社会に不可欠な規制を廃止した結果、ごく一握りの大資本のみ「好景気」を謳歌し、中小零細企業も含め大多数の国民生活の貧困化が進んでいる。こうした非人間的な労働環境や社会状況を抜本的に転換しないことには、結婚も安心して子どもを産むこともできない。それは個人の生活はおろか国や民族まで消滅してしまいかねない危機である。

 

 このような現状は、たたかわなければ打開することはできない。遠慮を知らない大資本がみずから引き下がることはなく、労働者として勝ちとってきた歴史的な権利を含め、国民生活を守る全国的な政治闘争を強力にすることが待ったなしになっている。企業内のわずかな賃上げや待遇改善にとどまらず、全国民の利益を代表した労働運動の再建が不可欠になっている。

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