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嘘八百だった岸田政権2年 「新しい資本主義」はどこへ? 所得倍増のはずが増税ラッシュ 来年にはさらなる負担増

 岸田政府の支持率低迷が止まらない。強権政治が目立った安倍カラーからソフト路線にイメチェンを図るように「新しい資本主義」「聞く力」「所得倍増」などと謳って発足してから2年が経つが、これらのトピックは完全に消滅し、国内ではコロナの打撃や物価高に加えて、インボイス制度や社会保険料値上げなどで国民負担は増すばかりだ。アメリカの要求に応えて防衛費を5年間で43兆円(従来の約1・6倍)確保するための増税スケジュールを示し、「増税メガネ」と批判を浴びると「税収の伸びを国民に還元」「所得税減税」などと詐欺師的なアナウンスで目先を誤魔化そうとするものだから、その異名も最近では「減税ウソメガネ」に進化した。解散時期をめぐる憶測も流れるなかで、自民党政治のなれの果てともいえる岸田2年の現在地と次期総選挙の展望について記者座談会で論議した。

 

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 A 「こいつは何がしたくて首相になったのか?」と、いまや右からも左からもいわれる始末の岸田文雄だが、マスコミの世論調査でも岸田内閣の支持率は28%台に落ち込み、2009年に民主党(当時)に大敗した麻生内閣末期の水準に迫っている。レームダック(死に体)もいいところだ。最近では、「所得税減税」「次元の異なる少子化対策」「低所得世帯向けに10万円給付」などのアドバルーンをあげつつ解散総選挙への色気を見せていたが、あまりの支持率の低さに怖じ気づいたのか、「年内解散はなし」とアナウンスするなど、首を出したりひっこめたりする亀みたいなことを繰り返している。

 

 街頭演説に出ると「増税メガネ!」と罵声が飛び、それがツボにはまったのかSNSでトレンド入りして、今ではすっかり定着した。メガネ以外にさしたる特徴も見られないという薄っぺらさがそう呼ばせるのだろうが、「増税クソメガネ」「ポンコツクソメガネ」「減税嘘メガネ」…こんなにメガネが悪口になるなんて小学生以来だな…と思わなくもないが、メガネやメガネを掛けている人みんなを巻き込んでいる意味でも、とことん迷惑な総理大臣だと思う。

 

 首相になってからというもの、首相官邸に一族郎党を呼び寄せて羽目を外してみたり、外遊先で秘書官だった息子にお土産買い付けツアーに行かせたり、国会でも批判だろうがなんだろうが「総理! 総理!」と呼ばれるたびに抑えきれない至福の感情が顔にあらわれているし、肩を左右に大きく振って歩く素振りを見ていても「自民党総裁の俺」「総理大臣の俺」に酔っている風がにじみ出ていて、やることなすことに閉口する。空っぽの国会答弁を聞いていても、総理大臣になって何がしたいかというよりも、夢に見続けてめぐってきた総理大臣という地位に浸り、味わい、一日でも長くポストに居座りたい、ただそれだけの男――という以外に感想がない。

 

 B そもそも「首相が岸田文雄」ということ自体、たるみきった自民党なり、国会の弛緩ぶりを象徴している。

 

 デフレ不況が30年も続き、コロナ禍とウクライナ戦争からこっち庶民は空前の物価高で値札やレシートとにらめっこしながら食費や日用品を削って生活を切り詰めているというのに、一国の首相が選挙を意識する時期になって、やおら下界をのぞき込むように酪農家やスーパーの視察を始め「農家の厳しさを実感した」「確かに高くなっている…」などとのたまう。この政治センスたるや末端の自民党関係者ですらずっこけるレベルだろう。「今まで何を見てきたんだよ!」と突っ込みが入るのも当然だし、山本太郎ではないが「まずメガネのピントから直してこい!」と、みんなが怒っている。

 

分配もなく成長もなし ただ増税あるのみ 

 

  当初は「新しい資本主義」「格差是正と分配」とか、宏池会(岸田派)の先達であるところの池田勇人(広島県出身)にあやかって「令和版所得倍増計画」とかいっていたが、一年もしないうちにすべて雲散霧消した。

 

 打ち上げては消えていった花火の中身を一つ一つみると枚挙に暇がないが、「新しい資本主義」の看板で打ち出していたこととしては、まず就任後の所信表明で「分配なくして次の成長なし。働く人への分配機能強化」などといっていたが、これが翌年の所信表明では「まずは成長」に変わり、「分配」の文言がさっぱり消えた。

 

 国内は30年もの不況が続き、実質経済はコロナと物価高でさらに冷え込んでいるが、大企業だけは過去10年間は毎年最高益をたたき出しており、ため込んだ内部留保は2022年には522兆円に達した。25年前と比べて約4倍だ。かれらの現預金も10年で127兆円増えて、昨年には295兆円という過去最高水準になり、これも25年前の2・2倍に膨らんでいる。従業員給与を削り、減税の恩恵を受けたためだ。

 

 反比例して低迷しているのが従業員給与だ。非正規雇用が労働者全体の4割にも増えて、労働者の実質賃金は下がり続けている。法人税は減税され、その穴埋めとして消費税が上がっても大企業には輸出戻し税がある。タックスヘイブンに富を逃がして納税回避もできる。負担はより貧困層にのしかかり、株主や資本家など一部の富めるものだけが富んでいく構図をさらに今後も継続するということだ。経団連がそれを求めているというだけの話だ。

 

 同じく、総裁選のときには「金融所得課税」を宣言し、分離課税によって税率が低く抑えられている富裕層の金融所得(株や為替取引による所得)に対しての税金のとり方を変えていくようなポーズをとったが、これもわずか1カ月で「金融所得課税は強化しない」に180度方向転換した。

 

 B 目玉だった「所得倍増計画」も、2022年11月の新しい資本主義実現会議では「資産所得倍増プラン」に変わり、「貯蓄から投資へ」というスローガンに変わった。金融庁の資料では「わが国の家計金融資産の半分以上を占める現預金を投資に繋げることで…“成長と資産所得の好循環”を実現させる」となっている。要するに、眠っている預貯金を株や為替などの金融投資に注いでハゲタカ外資の食い物にするということだ。

 

 消費税についても、総裁選時には「消費税を10年程度は上げることは考えていない」といっていたが、わずか8カ月後に「“当面”消費税について触れることは考えておりません」にトーンダウン。これも経団連が政策評価で消費税増税を求めており、連合もそれに同調するなかで、さらなる増税に踏み切るのも時間の問題だ。要は、岸田の「新しい資本主義」とは、弱肉強食を徹底する新自由主義をただ言い換えただけのものだった。

 

  そのくせアメリカにいわれたらすぐにトマホークを買い、あれだけ「財源」「財源」といいながら防衛費増額43兆円をポンと決めるなど、ちょっと普通の人間の想像が追いつかないような方針を次々に決める。前述のように経団連に命令されたら、社会保険料値上げも防衛増税、消費税増税だって厭わない。こういう「聞く耳」はいくらでもあるようだが、インボイス中止を求める56万筆(オンライン署名では国内過去最多)の声にはまったく聞く耳はなく、食料をはじめとする物価高、産業を圧迫する燃料高騰もどこ吹く風だ。

 

 B 来年以降の増税スケジュール【下表参照】を見ても、お先真っ暗としかいいようのない増税・負担増のオンパレードとなっている。物価高は止まる気配がなく、モノの値段が上がるごとに10%の消費税負担も倍々ゲームで増していく関係だ。これのどこが「所得倍増」「分配と成長の好循環」なのか、「景気は確実に浮揚」などといっている経済アナリストたちにぜひ聞いてみたい。

 

庶民は年4万円減税? 首相や閣僚の報酬大幅増

 

  これだけ見ても国民を小馬鹿にした大嘘つきということになるが、「増税メガネ」の汚名挽回を期してドヤ顔で提示しているのが、所得税4万円の定額減税と低所得者世帯への定額給付(7万円)だ。減税はしないくせに、過去最高額となった税収の増加分を「国民にわかりやすく還元する」というアピールにこだわり、所得税と住民税を1人当り4万円程度減額し、住民税非課税世帯に7万円を給付するというものだ。

 

 しかし、その後の検討内容を見てみると、所得税3万円、住民税1万円のあわせて4万円の減額で、それも月額ではなく「年額」という微々たるもので、所得が少なくて納税額が4万円に満たない人や、住民税非課税世帯でも所得税課税世帯でもない人たち(約900万人)にはなんの恩恵もない。

 

 その一方で、今月10日の衆院内閣委員会で自民、公明、国民民主の3党による賛成多数で可決したのが、岸田文雄首相や閣僚らの給与引き上げなどを盛り込んだ特別職給与法改正法案だ。現行の首相の報酬は年間4049万円、閣僚は2953万円、副大臣は2833万円だが、これら首相や政務三役、内閣法制局長ら特別職の給与を一般公務員の給与改定に準じて引き上げるというもので、首相は年間46万円、大臣や副大臣は年間32万円上がることになる。これも総スカンを受けている。政府は「増額分は国庫に返納するつもり」(松野官房長官)などといってお茶を濁しているが、ではなぜ可決したのか? だ。

 

 国民生活になんの関心もなく、日本経済をここまで衰退させてきたくせに、自分たちの報酬の心配だけするという旧態依然の体質がもろに出ている。このKYぶりになんの疑問も感じず、ブレーキすらかからないのが現在の国会の姿だ。ふざけんな! とみなが思うのは当然だ。

 

 C そして10月からは、山田太郎文部科学兼復興政務官が20代女性との不倫で辞任。続いて柿沢未途法務副大臣が、応援する江東区長選の陣営のために動画投稿サイトで投票を呼びかける有料広告を出していた公選法違反の疑いで捜査を受け辞任。そして11月には、神田憲次財務副大臣(税理士)が、自身が代表取締役を務める会社の土地と建物が固定資産税の滞納で過去四回差し押さえられていたことが発覚するなど、立て続けに重要閣僚の不祥事が露呈している。岸田内閣への周辺からの風当たりの強さを感じさせるが、これが「一強」にあぐらをかき、ぬるま湯に浸った自民党のレベルだろう。安倍時代あたりから底が抜けている。

 

 B そもそも岸田のお膝元である自民党広島県連は、2019年の参院選で安倍晋三に手を突っ込まれ、安倍側近の河井元法相の妻・河井案里を通すために、政党交付金(税金)が原資と思われる1億5000万円の選挙資金を注いだ前代未聞の選挙買収事件まで起きた。足元の広島県連をさんざん掻き回され、カネを受けとった何十人もの地方議員が立件される事態にもなって、面目丸つぶれの岸田も当初は「自民党内の真相解明を」といっていたが、首相になったとたんに蓋をした。このケジメのなさをみても、つくづく度胸もなければ、節操もない人間というほかない。


 要するに、なんらかの実力で首相に這い上がったのではなく、あっちこっちの有力派閥と取り引きし、地元を売ることと引き換えに、ワンポイントリリーフとして登用されただけなのだ。

 

本気で闘う野党どうつくるか 目立つれいわ新選組

 

  こういう人騙(だま)しの類いが自民党のトップなのだが、こうも続くとその手口がすっかり見透かされてしまい、やれ「減税だ」「還元だ」といっても、「またメガネがなんかいってるね…」という程度で支持率はウンともスンとも上向く気配はない。今のところ「年内解散なし」といっているが、ではいつになったら好機が到来するのかといえば確かなものはなく、支持率の下降マインドは止まらない。来年九月の総裁選が近づけば近づくほど選挙は「次の自民党の顔」選びになってしまうため、傷口が浅いうちに破れかぶれでいきなり解散ということもあるかもしれない。なにせすべてが嘘くさいのだから。

 

  そこで問題は、野党がこの死に体の政権を脅かす存在になり得ているのか否かだ。

 

 最も目立っているのは、山本太郎率いるれいわ新選組だろう。この間の国会質疑や捨て身の抗議などの永田町での孤軍奮闘、街頭にくり出して市民を巻き込みながら消費税廃止・増税反対デモを全国各地で展開してきたことも共感を集め、メディアの世論調査でも支持率を以前の倍に伸ばしている。消費税廃止をはじめとする徹底した財政出動による生活の底上げ策、与党も野党にも群れることなく、あくまで有権者のなかに足場を置いて永田町に緊張感を与える、その行動力や気迫は抜きん出ているといっていい。

 

  菅義偉の選挙区神奈川2区では、元外務官僚で内調出身の若手新人の擁立を発表するなど、候補者予定者の顔ぶれでもインパクトを与えている。SNSでの拡散力やネットの世論調査では存在感が目立っているが、選挙はリアルの勝負であり、デモや街頭記者会見のような一般市民との直接対話や、ボランティアにとっても地域コミュニティのなかに根を張ったたたかいが求められる。すでに50人をこえる地方議員も生まれており、どれだけ地域に溶け込み、人々の生活要求を掴み、れいわの政策と結びつけて着実に足場を固めることができるかが鍵になるのではないか。

 

大阪市淀川区十三での増税反対デモ(10月6日)

 C 政治への不信感や憤りが鬱積するなかで、毎週のように全国各地でやっている減税デモは、どこでも予想以上に共感を集めている。駅前などの街宣では、そこを偶然通りかかる人たちが耳にする程度だが、デモは市街地を練り歩き、政策を広く訴えることができるし、れいわと直接繋がる機会のない人たちの反応も知ることができる。

 

 なにより「主権者が動かなければ政治は変わらない。みんなで声を上げよう!」と呼びかけて行動に移していることが、沈滞ムードのなかで悶々としている人々の心と響き合っているように思う。とくに中高生も含む若い人たちの反応がよく、「増税やめろ!」「税金下げろ!」と一緒に手を上げてコールする姿がどこでもみられる。新しい有権者の運動を作るという意味で一石を投じているように思う。

 

  他の野党をみると、立憲民主党は前回選挙で「消費税5%減税」に乗ったことを「反省」しているらしく、11日の会見でも泉代表が、コロナ禍で冷え込んだ消費が改善傾向にあるため「今の経済状況で、(消費税減税を)訴える状況にはない」といっている始末だ。自民・公明の消費税増税案に合意した旧民主党の末裔たちなのだが、その反省はないという時点でかなりの乖離がある。所属議員がみんな同じとは思わないが、もはや政権交代を目指す野党としては終わっている感が否めない。現状認識がずれすぎているし、対立軸が弱すぎる。

 

 共産党も立憲と一緒に「市民と野党の共闘」「野党の一本化」などといっているが、政権交代の実現に向けて無党派層をとり込むために野党再編を促すのではなく、新興勢力を牽制しつつ、先細りする現有議席を確保するという域を出ない。山本太郎などれいわ新選組の議員たちが「机の下でぬるっと手を握るな!」「本気でたたかえ!」と訴えている由縁だろう。こういう既存野党のインチキぶりが、れいわの登場によって可視化されている。

 

 現状では、たとえ自民党が議席を減らしたとしても、衛星政党の「維新」に票が流れるというのが大方の下馬評だが、それはあくまでの組織票の枠内であったり、従来の投票率40%選挙のなかでの話にすぎない。政治に失望している層、選挙にいかない4~5割の有権者の数%でも動かすことができたら、劇的な変化をもたらす可能性を秘めている。そのためにも彼らを動かす争点を明確にしていくことが必要だし、有権者としては弛緩した野党のケツもひっぱたく必要がある。

 

 B コロナ禍の「ゼロゼロ融資」の返済滞りが1兆円にのぼるという報道もあったが、今年1~9月の倒産件数は約500件にのぼり、前年同期比で70%の増加だ。それだけみんな崖っぷちに立たされている。インボイスによって中小零細企業や個人事業主からも悲鳴の声が聞かれるし、2024年問題では輸送業の運転手不足などが深刻化することが心配されているが、今後は後継者不足とあいまって「大廃業時代」に突入するとまでいわれている。中小企業の淘汰は、そのまま国力、生産力の低下を意味する。

 

 A コロナが来る前から、生活が「苦しい」と感じている世帯の割合は、全世帯の54・4%、母子世帯では86・7%だ。貯蓄なし世帯(2020年、日銀調べ)も20歳代で43・2%、30歳代で31・1%、そして「失われた30年(ロスジェネ)」世代である40歳代で35・5%、50歳代で41%、60歳台で29・4%だ。このまま推移すれば、本当に数年後の日本社会は、道端で人が倒れていても誰も助けられないような殺伐としたものになってしまいかねない。それは同時にこの世代が立ち上がれば、変えられる未来があるし、そういう有権者の政治的機運をどう作るかにかかっている。

 

 B 岸田批判については自民党内でも一定広がっているが、自民党の他の連中をみたところでさほどの大差はない。この衰退・縮小する国のなかで、誰が利権を握るかというだけの争いであり、まさに踊り子が変わっても振り付け師は同じだ。レームダックなのは自民党そのものだし、次期総選挙はそれにとってかわる新しい政治勢力を作り上げ、腐った政治に退場を迫るものにしなければならない。

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