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「とどまることを知らない暴力―私たちが今ガザで目にしていること」明治学院大学国際平和研究所と赤十字国際委員会駐日代表部が緊急シンポ

イスラエルによる爆撃が1カ月以上続いているパレスチナ自治区ガザ地区(5日)

 ハマスによる攻撃を契機に始まったイスラエルのパレスチナ・ガザ地区への侵攻は、1カ月が経ち、イスラエルが連日の大規模な空爆と軍事包囲に加えて地上戦を開始したことで、ガザ地区の犠牲者は1万人をこえ、その4割が子どもだといわれる。また、イスラエルから連れ去られた人質は、その大多数がいまだ解放されないままだ。こうした事態を受けて7 日、明治学院大学国際平和研究所と赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表部は共同で緊急シンポジウム「とどまることを知らない暴力~私たちが今ガザで目にしていること~」を開催した。シンポジウムは東京都港区の同大白金キャンパスとZoomで同時開催され、会場・オンライン含めて約500人が参加した。

 

 初めに主催者を代表して、明治学院大学国際平和研究所所長の阿部浩己氏(同大教授)が、「パレスチナのガザ地区で現在進行中の事態に対し、世界の多くの人たちが心を痛め、声を上げている。私たち国際平和研究所も即時停戦を求める声明を発表した。そして今日、今回の事態について法的、政治的、歴史的な観点から考察を加え、私たちになにができるのか、なにをすべきなのかを考える機会をもうけた」と挨拶した。

 

 次に3人の報告者が登壇した。以下、報告と質疑応答の要旨を紹介する。

 

緊急シンポジウムの登壇者。左から阿部浩己、東澤靖、早尾貴紀、榛澤祥子の各氏(7日、明治学院大学白金キャンパス)

■「国際人道法の守護者」の立場から


赤十字国際委員会駐日代表  榛澤 祥子  

 

 まず、非常に厳しい状況のなか、イスラエルとガザで人々に寄り沿いながら力を尽くしている赤十字国際委員会(ICRC)の同僚、パレスチナ赤新月社をはじめイスラエル、エジプトの赤十字パートナーの同僚たち、他の人道支援団体のスタッフのみなさんに心から敬意を表する。

 

 ガザからの退避を決めた組織もあり、それは苦渋の決断だったと思うが、そのなかでICRCは残る決断をした。それは中立・公平・独立を堅守し、160年以上紛争地で活動を継続してきた人道支援組織であるからこそできる決断だと思っている。

 

 私は2015~17年、外交官としてヨルダン川西岸のラマッラにある対パレスチナ日本政府代表事務所に勤務していた。国連パレスチナ難民救済事業機関の担当でもあったので、西岸の難民キャンプを訪問したり、ガザもときどき訪れていた。

 

 ガザの北端にエレズ検問所があり、南端にラファ検問所がある。ガザの北から南までは41㌔、車で約1時間かかる。ガザの横幅は6~12㌔だ。ガザの総面積は365平方㌔㍍で、東京の地図に重ねると、南の大田区から東京湾と都心を横切って北の葛飾区までとなる。そこに220万人が住んでおり、中東でもっとも小さく密集した都市といわれている。

 

 ガザが16年以上もイスラエルによる封鎖下にあったということは、触れておかねばならない。今回の紛争以前から、ガザは世界からほぼ完全に遮断されていた。国境は注意深く管理されており、物資や人の移動は厳しく制限されていた。それはガザの生活環境に大きな影響を与えている。失業率が高く46・4%。貧困率も高く59・8%。220万人のうち130万人が生活困窮者だ。紛争以前から電力は非常に限られていた。

 

 しかし、ガザは活気のある場所だった。人々は絶望の中に生きてはいなかった。非常に限られた生活のなかで、お客さんが来るとどうやって歓待するかを真剣に考えてくれる人たちで、明るくジョークやポエムが好きで、本当にすてきな人々だ。

 

 ICRC総裁のミリアナ・スポリアリッチが10月28日に次の声明を発表した。「私は耐えがたいレベルの人的被害に衝撃を受けており、紛争当事者双方に今すぐ軍事行動の相互縮小を強く求める。多くの民間人の命が失われたことは嘆かわしいことだ。大規模な砲撃のなか、ガザには安全な場所がなく、軍事包囲が敷かれている現在、適切な人道的対応ができない状況は受け入れられない。これは世界が容認してはならない破滅的な失敗だ」。ICRCとしては、これは非常に強い言葉だと思っている。

 

 紛争の激化は続き、まるでトンネルの先にまったく光が見えていない状況だ。人々はわずかな食料と清潔ではない水で生き延びている。得られる水の質が悪いため、下痢やコレラ、腸チフスなどの蔓延も懸念される。多くの家族は屋根もなく、路上で生活している。私の友人と家族も国内避難民になった。

 

 そうした生活上の不安のうえに、常に暴力や死の恐怖に怯えながら、次の爆弾を待っているような状況だ。爆撃がおこなわれるのは夜が多いため、夜眠れない状況が続いている。非常に多くの民間人が命を落としており、民間のインフラが攻撃されている。ICRCはイスラエル占領地域で1967年から活動しているが、今まで見たこともないレベルの破壊と損失を目の当たりにしている。

 

病院からの避難は不可能

 

 ICRCは紛争当事者双方に対し、国際人道法上の義務を尊重し、民間人を危害から守るよう求めている。

 

 国際人道法の現在の枠組みは、1949年のジュネーブ諸条約、その他の条約、慣習国際法からなっている。それは武力紛争の影響を制限すること、武力紛争の犠牲者を保護することなどを目的とした一連の規則だ。ICRCは国際人道法の守護者の役割を果たしている。

 

 国際人道法はイスラエルのような国家だけでなく、ハマスなど非国家武装集団にも適用される。紛争のすべての当事者は国際人道法を遵守しなければならない。紛争における国際人道法の基本的なルールは、すべての当事者は常に戦闘員と民間人を区別しなければならないということだ。民間人や民用物が攻撃の標的になってはならない。また国際人道法は、紛争当事者は民間人および民用物への被害を最少化するため実行可能なあらゆる予防措置を講じなければならないとしている。軍事的利益に比べて民間人への被害が釣り合わない、すなわち民間人の被害が大きすぎると予想される攻撃も禁止されている。現在おこなわれている病院や難民キャンプへの攻撃を考えてもらいたい。

 

ガザ市のアル・シファ病院付近では救急車がイスラエル軍の爆撃を受けた(3日)

 そしてICRCは現地で、戦闘行為が引き起こす事態に対する懸念を、守秘義務のもとで当局に伝えている。

 

 次に紹介するのは、ICRCの戦傷外科チーム責任者、トム・ポトカーの報告だ。彼は10月27日にガザに入っている。

 

 「ベッド数以上の膨大な数の患者がおり、外傷、とくに火傷が多くなっている。残念なことに子どもたちの負傷も多く見られる。病院内、階段の吹き抜け、廊下だけでなく、様々な建物と建物との間の屋外エリアでも膨大な数の人々が動き回っている。困難なのは必要な物資が不足しているときに、適切な物資を確保することだ」

 

 「兵器の種類によって負傷の種類も異なる。現時点では爆発物による負傷が圧倒的に多く、身体に大きなダメージを与え、回復には複雑な手術が必要となる。この治療を絶対的に必要としている人々がおり、私は自分の組織を信頼している。ガザの人々はリスクに耐えなければならない。であるからこそ、私たちがリスクに耐えなくてもよい理由にはならない」

 

 病院は国際人道法上、特別に保護された施設だ。傷病者はいかなる状況においても保護されなければならない。人々の医療へのアクセスを妨げる暴力は国際人道法に反する。病院が避難を要請されるさい、避難勧告が出されてもすべての人が避難できるわけではない。負傷者や病人、高齢者など病院のベッドから動けない人は簡単に移動することができない。国際人道法では、警告が発せられるだけでなく、それが適当な時でありかつ明確であること、そして人々が安全に避難できる方法が整備されていることが求められる。

 

 今ガザでは、患者、病院のベッド、生命の維持に必要な装置などすべてを病院から避難させることは事実上不可能だ。医療施設と医療従事者をいかなる危害からも守るために、あらゆる手段を講じる必要がある。

 

 ICRCはガザでのオペレーションを止めていない。現在ガザには、国際職員を含む約130人の職員ができるかぎりの支援を人々に届けている。銃創の手術、身体障害者の支援、病院への物資の提供、ガザシティでの給水トラックを使った水の配給などをおこなっている。現在までICRCの21台のトラックがラファ検問所をこえてガザに入ったが、これは「大海の一滴」に過ぎない。物資とともに、国際人道法にのっとって迅速かつ妨げのない人道的アクセスを可能にするよう求める。

 

 ICRCは西岸における暴力の増加にも、くり返し懸念を表明してきた。西岸では昨年が過去10年間でもっとも死者が多かったが、今年がそれを上回った。私たちが西岸で目の当たりにする暴力は、そこで生活するコミュニティにとってとり返しのつかない結果をもたらすかもしれない。

 

今、私はガザの友人たちにメッセージを送るのをためらってしまう。どの家族も愛する人を失っている。全員が亡くなった家族もある。ガザの人たちは死が日常生活の一部になっているという。

 

 最後に、テルアビブで待機しているICRCの同僚の言葉を紹介したい。「私たちは任務を遂行し、まだ残っている少しの人間性を維持しようと日々、努めています」

 

■イスラエルによるガザ占領の本質を問う

 


 東京経済大学教授  早尾 貴紀    

 

 まず、今ガザで起きていることは「パレスチナの民族浄化」100年の一段階である、ということについて話したい。

 

 イスラエルに住んでいたユダヤ人歴史家イラン・パペ氏は、イスラエルという国が建国される前後に起きたプロセスは民族浄化だ、という内容の著書を記した。

 

 今から100年前、ヨーロッパ諸国がアジアやアフリカとともに中東地域に植民地主義的な介入をする。そのプロセスにおいて、自国内のユダヤ人迫害という問題に同時に対処するために、自国内のユダヤ教徒の入植運動に手を貸す形で、つまりヨーロッパから外に送り出す形で(アメリカも門戸を制限した)、中東のど真ん中に欧米の利害を代弁する政体をつくろうとした。それが欧米の植民地主義的な利害にかなっていた。

 

 事態は第一次世界大戦後から急速に動き出す。オスマン帝国が敗北し、その領土をイギリスとフランスが分割した。イギリスがパレスチナ地域を委任統治しており、ヨーロッパのユダヤ人のロビー活動を受けて、バルフォア宣言でここにユダヤ人の民族的郷土をつくることを確約した。ところがそこには先住のアラブ・パレスチナ人がいた。それで彼らを排除するという思惑が働く。

 

 国連のパレスチナ分割決議は1947年だが、すでに1930年代には、後にイスラエルの首相となるシオニズムの指導者ダヴィッド・ベングリオンが、「パレスチナの8割の土地を獲得してユダヤ人国家にする」と宣言していた。そこにはアラブ人が住んでいたが、「アラブ人はトランスファー(移転)させるしかない」と書簡などで明記していた。

 

 1947年の国連総会は、パレスチナの土地の56%をユダヤ国家にするという、パレスチナ分割決議を採択した。しかし、イスラエルはこれまで一度も国連の分割決議を受け入れたことはなく、最初から八割はとるという立場に立っていた。

 

 シオニズムのイデオロギーは、1920年代から現在まで、「最大限の土地に最小限のアラブ人を」というものだ。ベングリオンは「ユダヤ人国家はユダヤ人が少なくとも80%を占めるべき」(1947年)といい、そこでおこなわれたのが民族浄化としてのパレスチナの村の破壊だ(1948年のナクバ)。このとき追放された80~90万人の人々がパレスチナ難民となって、ガザ地区、西岸地区、ヨルダンやレバノンやシリアに追い出された。イスラエルは一部のパレスチナ人を虐殺し、それを脅しとしながら、緊急避難を強いて追放した。そして故郷を出たら最後、戻れなくなった。

 

 その結果、イスラエルはパレスチナの8割の土地を手に入れ、その国のユダヤ人人口は80%になった。その結果できたのがガザ地区で、人口の8割近くがこのときの難民およびその子孫だといわれる。ガザ地区自体が難民キャンプ的な存在だ。

 

パレスチナ国家消滅を意図

 

 次に、ガザ地区の切り離しと封鎖・攻撃は、オスロ和平体制30年の構造が生みだしたものだ、ということについて。

 

 両親がナチズムのホロコーストを生き延びたサラ・ロイ氏は、在米のユダヤ人だが、ガザ地区の専門的研究者だ。以下の論点は、主に彼女の研究にもとづくものだ。

 

空爆下で生きるガザの子どもたち(9日)

 ガザ地区は、1967年の第三次中東戦争でイスラエルの軍事占領下におかれた。西岸地区もそうだ。軍事占領下におき、徐々に蝕んでいって、最終的には領土化していこうというのがシオニスト右派で、占領地でユダヤ人の入植活動を強化し、ユダヤ人のニュータウンをつくる。それに附随するインフラを整備していく。もちろんこれは国際法違反なのだが、それにお構いなしに工場をつくり、学校をつくり、ハイウェイをつくり、農業プランテーション、軍事基地や軍事演習場と、どんどん蝕んでいく。

 

 パレスチナ人は独自の産業や経済活動は制限され、出稼ぎ労働者としてイスラエルの産業地帯に出て行くほかなくなる。そこで低賃金労働者として搾取され差別される20年を経て、ついに1987年に第1次インティファーダという抵抗運動が起こる。

 

 そして1993年のオスロ合意となる。建前は「パレスチナを独立させて二国家解決」だったが、独立国家の内実はゼロだった。入植活動は止まらず、東エルサレムは併合されたまま。イスラエルは国境管理も手放さず、西岸の水利権の9割をとり、難民の帰還権も進展なし。ところがパレスチナ解放機構(PLO)はこれを承認し、和平を結んでイスラエルの下請け行政をおこなうようになる。一方、入植活動はどんどん進み、これまで以上に土地は奪われていった。

 

 このオスロ体制に抵抗したのが2000年の第二次インティファーダだ。このとき私は現地にいたが、これに対してイスラエルは「和平を破壊した」といってパレスチナ人に集団懲罰を加えた。自治政府のPLOはいっそう従属化した。だから2006年の議会選挙で、ハマスが民衆の支持を得てガザでも西岸でも勝利した。

 

 しかし、ハマスがオスロ合意を認めないからといって、イスラエルとアメリカは選挙に負けたPLO主流派ファタハに武器・弾薬を提供し、ハマスとの内戦を煽動。イスラエルはハマスの議員や活動家を逮捕してガザ送りにし、ガザ地区の徹底封鎖と集中的な攻撃を始め、それが現在まで続いている。パレスチナの死者が急激に増えるのは2008年からだ。

 

 サラ・ロイ氏は、「オスロ体制はガザ地区を封鎖と管理の実験場にした」「反開発の状態から生存不可能な状況が意図的につくり出されている」という。その知見を利用して西岸地区を細分化・無力化するためだ。

 

 イスラエル国防省諜報局の10月13日付文書には、「ガザ地区住民を北部から南部へ追いやり、南部ラファ検問所からエジプトへ出国させ、エジプトやアラブ諸国に再定住させる」とある。今後、西岸でもそれをやるだろう。それがイスラエルの望む事実上の「パレスチナ問題の最終解決」である。9月にはネタニヤフ首相が国連で演説し、パレスチナが地図上に存在しない「新しい中東構想」を発表した。

 

■憎しみと恐怖の戦争にどう立ち向かうか

 


明治学院大学教授   東澤 靖   

 

 紛争が始まって1カ月が経ち、犠牲者が1万人をこえている。私たちはこれに対してなにかできないのだろうか。ここで大きな疑問は、世界には国際人道法があるのに、なぜそれが守られないのかということだ。

 

 国際人道法は、民間人に犠牲を与えてはならないという大きな原則のもとに成り立っている。その原則が目の前で崩れている。

 

 戦争のやり方は無制限ではないという考え方は、19世紀終わりには確立していた。その対極にあるのは戦時無法主義だ。19世紀半ばまでは、戦争は国家が主権にもとづいておこなう権利だという考え方が支配していた。それが1864年のジュネーブ条約(戦時傷病者の保護)に始まり、さまざまな条約ができていく。1899年にハーグ陸戦条約ができて、戦争の手段は無制限ではないと定められた。1977年にはジュネーブ追加議定書が採択され、そこでも確認されている。

 

 では、なぜ今のような事態が起こるのか。


 一つは国際人道法そのものが、軍事的利益と人道的考慮のバランスのもとにつくられていることがある。国際法は国家が集まってつくっており、各国とも自分たちの軍隊、自分たちの安全保障を譲り渡したくないからだ。
 もう一つの問題は、国際人道法を守らせるための特別の国際機関が存在しないことだ。

 

 1977年の追加議定書は、武力紛争があった場合、国際事実調査委員会の設置を決めているが、それは紛争の当事者双方の同意がなければできず、これまで一度も実際に活動したことはない。

 

 また、制度だけでなく、戦争に巻き込まれたときの人間の心の問題もある。国際人道法は、人道の精神、敵であっても人間として思いやる共感のうえに成り立っている法だ。しかしそれは、戦場ではしばしば無力になる。

 

 ただし、国際人道法は発展していく側面がある。それは、国際人道法の個別化であり、個々人を対象とするようになっているということだ。もともとは国際法の一部だから国家と国家の間の法だったが、21世紀を前後する時期から、戦争にかかわった個人の戦争犯罪を追及すると考えられるようになった。それをやるのが国際刑事裁判所(ICC)だ。ただこの条約は、アメリカもロシアもイスラエルも批准していない。

 

 しかし、パレスチナがICCの正式加盟国となっている以上、イスラエルがこの領域でおこなったことについてはICCは捜査権を持つと決定している。だがICCの動きは非常ににぶい。アメリカやヨーロッパ諸国の圧力のなかで活動しているからだ。

 

 もう一つは、国際人道法は被害者の権利についても役割をはたすべきだ。国際法のなかで、唯一個人に権利を与えている法律として国際人権法がある。国際人権法の下では、国家はその管轄権を及ぼした地域の人々に対して人権を保障しなければならない。それはたんに自国の領域だけでなく、海外で軍事活動をし占領するときにもその義務を負う。国際人道法と国際人権法は相互補完的なもので、常に適用されるというのが一般的理解だ。そうした理解は、国際司法裁判所(ICJ)の「パレスティナの壁事件」勧告的意見(2004年)で確立した。

 

 人権を保障するとは、生命の権利を守ること、犯した者の刑事捜査、被害者への補償である。

 

質疑応答より

 

 Q イスラエル政府はパレスチナ人を「ヒューマンアニマル」、人間ではないと表現したり、極右の閣僚が「原爆を使うことも考える」とまでいっている。皆殺しにしてもいいんだと。それをアメリカが容認している。多くの子どもたちが殺されているだけでなく、水も電気もなく伝染病の蔓延も危惧されているのに、国際社会はなにもせず指をくわえて見ていることしかできないのか。ヨルダンが援助物資を空輸して配ったというニュースがあったが、国連などがそれをできないのか?

 

 早尾 欧米諸国がイスラエルをバックアップしているかぎり、攻撃を止める手立てはない。物資についても、イスラエルと国連との合意で、イスラエルが認めたものしか入れないとなっている。

 

 榛澤 ガザには物資とともに人を送る必要があると考えている。ガザで勤務している人たちが大変疲弊している。課題があるのは承知しているが、あらゆる手段を使って支援が迅速にできるだけ多く入るように日々努力している。ケガ人をエジプトに送るさいも、ICRCの2台の車がエスコートする形で四台の救急車をラファまで送った。深刻な病気にかかっている方々を一人でも救うためにできるかぎりのことをしたいと思っている。

 

 Q イスラエルはいくら要求や声明を出してもまったく聞かない。最大の原因は、アメリカ、ヨーロッパ、日本を含めてG7の国々が「自衛権を支持する」という名の下になんら強制力をもった措置をとらない、むしろ軍事援助をしたりイスラエルを支援していることだ。しかし世界の動きを見ると、イスラエルと断交したり大使を召還したりと、実力行使をしている国がある。大規模なデモが各地でおこなわれているが、グローバルサウスといわれる国々、ヨーロッパのG7以外の国々でもっとそういう政府レベルの動きが広がってほしい。

 今回アメリカとヨーロッパが、ウクライナ問題とは二重基準で、国際法違反をくり返し侵略しているイスラエルを支持し、公正さを損ない説得力をなくしていることは、今後大きな影響を与えると思う。日本政府もイスラエルと経済的軍事的協力を強めてきた。投資協定や軍事協力の覚書、経済連携協定の準備もしているし、日本の商社はエルビット・システムズというイスラエルの主要な軍事企業の売り込みの提携をしている。パレスチナからBDS運動(イスラエルのボイコット運動)が呼びかけられているが、私たち日本の市民はこの動きにストップをかける行動をおこしていくべきだと思う。

 

 早尾 私たちが日々目にするのは、アメリカ・イギリス経由のニュース報道ばかりだ。それを「国際社会」といっている。そこを根本的に改める必要がある。今回の国連決議を見ても、世界全体では圧倒的にイスラエルを批判する国が多い。G7を世界の中心と見なす視点を改めることが、イスラエルを止めることにつながると思う。

 

 榛澤 国際人道法が守られないことがニュースでとりあげられることが多いが、国際人道法のない世界が考えられるだろうか。実際に現場では、ニュースにはならないが、国際人道法が守られることによって救われる命はたくさんある。

 

 Q 病院を空爆することは国際人道法違反だが、イスラエルは病院の地下にハマスのトンネル(軍事目標)があるといって爆撃している。

 

 早尾 2007年のガザ封鎖以降、イスラエルが意図的に狙っているのが医療機関、教育機関、通信施設、文化施設、発電所、浄水施設だ。「ハマスが隠れていた」というが、なんの実証もない。やっている効果は生活基盤を破壊することで、それが個々の命を奪うよりはるかに環境全体を非人間化することにつながり、ガザ全体の集団懲罰にとって効果的だからそうしている。この16年間、ガザ地区に対してはなにをやってもいいという論理が通用している。

 

 Q ハマスによる暴力とイスラエルの暴力を、国際人道法上、同じものとしてとらえていいのか?

 

 榛澤 ICRCとしては、人質をとる行為は国際人道法違反だと主張している。私たちは収容所への訪問や捕虜の面会もおこなっている。今回、5人の人質が解放・救出されたが、その搬送にもかかわった。

 

 早尾 10月7日に起きたハマスの暴力とイスラエルの報復を天秤にかけることはできない。それ以前からガザ地区にずっと行使され続けてきた構造的暴力は、まったく非対称だ。
 これまでパレスチナから、ガザの窮状を訴える多様な市民レベルの交流や文化的な交流があった。それは映画であったり絵画であったりもしたが、それを私たちが受け止めてこなかった。対話の回路はパレスチナから国際社会に向けてずっと発信されていた。ハマスが選挙で選ばれたとき、正式に対話の相手として交渉していれば今回のことはなかったと思う。
 今、人道的配慮からパレスチナ人をガザ地区から出すことを認める意見があるが、1948年のナクバも「自発的に避難した」といわれている。そうならないように、イスラエルをガザ地区に関与させないようにするという原則を忘れてはならないと思う。

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