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沖縄から見た安保関連3文書と「台湾有事」騒動の脅威について――衆院予算委公聴会での陳述より 沖縄国際大学教授・前泊博盛

 衆議院予算委員会で2月16日、令和5年度総予算をめぐる公聴会に沖縄国際大学の前泊博盛教授が公述人として招かれ、意見陳述と質疑応答をおこなった。来年度予算をめぐって岸田政府は、防衛力を5年以内に抜本的に強化するとし、防衛費を今年度よりも約1兆4000億円増額し、過去最大の約6兆8000億円とした。また来年度からの5年間の防衛費も43兆円となり、前期5年間の総額27兆円から1・6倍も増額した。さらに政府は安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛整備計画)の改定により、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有やそのための軍備増強を急ぐ構えを見せている。こうした問題について前泊氏は、台湾有事の最前線に立たされようとしている沖縄から見た軍事緊張の脅威を訴えるとともに、日本全体の危機として捉え、戦争を阻止し国民の生命を守るための安全保障の実現に向けた議論の必要性を訴えた。発言と質疑応答の要旨を紹介する。

 

◇       ◇

 

前泊博盛氏

 今公聴会のなかでも「捨てられる恐怖と巻き込まれる恐怖」という指摘があったが、日本は今まさに捨てられる恐怖から、(戦争に)巻き込まれる危険な水域に入っていこうとしていると感じる。そうならないために、沖縄では「ノーモア沖縄戦」というとりくみに続き、「対話プロジェクト」として台湾や中国のみなさんをお招きして沖縄で議論していくとりくみを進めている。さらに「ハブ・プロジェクト」として、沖縄を戦争に巻き込まないために、施設や投資あるいは国連機関の誘致なども含めて鬼気迫る感じでとりくみが始まっている。

 

 さらに“国会だけに任せていたら沖縄は戦場にされかねない”ということで、(沖縄県による)自治体外交のとりくみも含めてこれから展開せざるを得ないだろうという議論も始まっている。ぜひ(国会も)傍観者ではなく、当事者としてとりくんでいただきたい。

 

 現在、国会審議もなく閣議決定によって軍拡や敵基地攻撃能力の保持が決められている。そして「異次元の軍拡」といわれる防衛省の予算書を見ると愕然とするものがある。防衛費歳出予算【図①】をみると、「もう戦争が始まったのか?」と思ってしまうほど、一気に1兆4000億円もの予算が増額されている。兵器購入等のための資金も含め2倍、3倍に膨らんだ予算が通されようとしている。「有事即応体制」どころか「戦時体制」のための予算編成が第一歩を踏み出している。

 

 防衛省による国家防衛戦略の全体像【図②】を見ると、下段に「①我が国自身の防衛体制の強化」とある。これを見て私は「捨てられたときに困らないような体制強化か」という印象を受ける。さらに、「防衛力の抜本的な強化」や「国全体の防衛体制の強化」が強調されている。

 

 そして「②日米同盟の抑止力と対処力」につづき、「③同志国等との連携」という言葉がある。これまでの「同盟関係」をさらに強める形として「同志国」と表現されている。このなかには豪州、インド、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア等、さらに韓国、カナダ、ニュージーランド等、東南アジア諸国がある。岸田政府の外交力の発揮について注目していたが、岸田首相が先日おこなった外交では、これらの同志国への訪問をくり返しており、並べてみると明らかに中国包囲網を作ろうとしているかのような印象だ。中国からすれば心穏やかではなく、この包囲網への対抗策を講じさせる。まさに戦争を惹起(じゃっき)するような外交ではないかという印象を受ける。

 

 そして、何のための「安保関連3文書」なのかについて、国民に十分な説明をおこなっていない。文書のなかには「航空宇宙自衛隊」という言葉が出ており、これから軍事衛星をどんどん打ち上げていく方向性すら示している。さらに「海上自衛隊と海上保安庁の融合」とある。尖閣問題を抱えている沖縄からすると、今までは海上自衛隊が出てきておらず、海上保安庁による対話のおかげで戦争に至っていないという視点で見ていたが、ここに海上自衛隊が出てくることになれば、一触即発の危機すら招きかねないという懸念がある。

 

 沖縄には、自衛隊西部方面隊(熊本市)の隷下にある陸上自衛隊第15旅団がある。安保関連3文書による防衛体制の強化では、この15旅団を師団へと格上げし、現状2500人を、5000、6000あるいは7000人にまで増員することになる。師団は、単独で戦争が遂行できる規模といわれるが、師団化することによって沖縄での局地戦を展開する準備を進めているかのような印象を受ける。こうした問題に対しても沖縄では非常に危機感が広がっている。

 

 そして、国是であったはずの「専守防衛」が、いつの間に「敵基地攻撃能力」に転換されてしまったのか。ここに踏み出してしまうと軍事力はいくらあっても足りないという状況になってくる。大量の燃料が必要なトマホークを果たしてどれだけ運用可能な状況で維持できるのかという議論もあったが、そもそもトマホーク500発が、本当にこの国を守るのに十分な量なのか? 現在、ロシアのウクライナ侵攻では、3000発~1万発のミサイルを撃ったがまだ劣勢にあり、「今後の勝利を得るには10万発が必要」という話も出ている。そうすると、もしも日本が中国に立ち向かうときにどれほどのミサイルを準備しなければならないのかという問題も出てくる。

 

 先日、沖縄での「対話プロジェクト」で中国(台湾)の国民党と民進党の2人を招いて話をした。懇談の場で「核武装について議論したことがあるか」とストレートに質問したところ、「とりくんだことはあったが、完成間際でアメリカに止められた」と聞いた。沖縄には本土復帰以前、約1300発の核ミサイルが配備されていた。そのミサイルがどこにいったのかについては何度も確認をしているが、これはアメリカの「曖昧戦略」のなかで明らかにされないまま現在に至る。その核が台湾に行っていないという保証はあるのか? という疑問が残る。偶発的な戦争勃発の危険性が、専守防衛の国是を撤回することによって出てくる可能性がある。

 

 さらに戦時体制の構築という観点で今回の予算書を見てみると、世界第3位の軍事大国化という指摘もある。日本は本当に軍事大国を目指していくのかどうか、この予算委員会のなかでしっかりと議論すべきだ。予算書では、後年度負担も4兆7000億円増額され、7兆6000億円規模まで膨らんでいる。つまりローンでさらに武器を買うということだ。表に出ている防衛予算の裏側で、後年度負担が激増しているという部分についても予算委員会のなかで議論すべきだろう。

 

 防衛費のGDP比1%も撤回して2%に設定したが、その算出根拠はどこにあるのか? 国会答弁を聞く限り釈然としない。

 

台湾有事という“危機”演出

 

 台湾有事の危機が演出されようとしている。危機を煽れば煽るほど有効需要が創出され、軍需産業がもうかる。43兆円という莫大な防衛投資がおこなわれようとしているのだが、なぜこのような額になるのか? その試算の根拠は何か。今回の予算書では、4兆とか5兆という数字が出てくる。

 

 新たな戦闘機の購入費用についても4000億円とか5000億円というざっくりした額が出てくるが、この予算委員会では防衛予算に関わる「お買い物リスト」までしっかりと示し、今その買い物が本当に必要なのかしっかりと議論いただきたい。

 

 以前、私が衆議院の公聴会で発言したときの予算には、オスプレイ購入予算があったが、実際の予算書にはオスプレイとは一言も書かれておらず「ティルトローター機」と書かれていた。これがオスプレイのことで、最初の年に5機、次に5機、最後に2機という形で分散して記されており、トータルの費用としては出てくるが1機あたりの価格はわからない。私がワシントンで聞いたときには1機当り98億円ほどだといわれていたが、予算書ではオスプレイ17機に対し約3700~3600億円、1機当り約200億円にもなっている。なぜ日本が買うとそんなに値段に跳ね上がるのか。そのような予算に対するつっこみがあっていいのではないか。

 

 沖縄を戦場にする方向が示されるなかで、学生からも「もう沖縄ガチャから抜けたい」「なぜ沖縄に生まれたばかりに戦争の話ばかりされるんだ」「基地問題を聞かれ続けるのか」という発言が出て、それが復帰50年のNHK特集番組でとりあげられたことから、SNSで随分バッシングを受けたという話を聞いている。

 

 沖縄を戦場にしなければならない理由は何なのか。今ウクライナでは東部ドンバスが砲撃を受けているが、首都キーウでは普通の生活が続いている。日本に置き換えれば、沖縄は戦場になっても、東京では普通の生活が続くというイメージすら浮かんでくる。たとえば東京では「そろそろ出勤の時間よ。お弁当持った?」という会話がされている朝の時間、テレビでは「沖縄では今日〇発のミサイルが飛び、〇人が死んだ……」というニュースが流れる。そんな背筋がゾッとするような日常が想像できるような状態だ。

 

 現在、沖縄を含む南西諸島への陸上自衛隊配備計画が進められている。すでに馬毛島、奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島、与那国島と次々に自衛隊のミサイル基地等が建設され、あるいは建設が予定されている【図③】。このミサイル基地は誰から誰を守るためのものなのか? というところが非常に気になる。

 

 「トゥキュディデスの罠」という言葉がある。米ハーバード大の学者たちが古代ギリシャの歴史家にちなんでつくった造語で、従来の覇権国家が台頭する新興国を戦争が避けられない状態にまで追い込む現象を指している。まさにこのアジアでも、旧来の覇権国が新興国を潰すための戦争を仕掛けているのではないかという印象を受ける。では、このなかで国民はどう対応すればいいのか。日本がその罠にはまりかねないということを懸念している。アメリカの戦争に日本が巻き込まれないようにどうするのか。国を守るよりもまず国民を守る安全保障のための議論をしていただきたい。

 

 沖縄から見た安全保障には、「平時の安保」と「有事の安保」がある。最近、漫画家の平良隆久氏の力を借りて『まんがでわかる日米地位協定』という本を出したが、そこで強調したのはデフコン(戦争への準備態勢を5段階に分けた米国防総省の規定)だ。日本では、平時と有事における区分けがないまま地位協定が運用されている。そのために日本国民の権利を侵害し、安全すらも脅かす状況が続いている。たとえば、訓練のなかで米軍ヘリが小学校上空を飛行して窓枠を落下させる。そのため政府が学校上空での飛行をやめるように申し入れをしても米軍は飛行をやめない。米軍の訓練による子どもへの危険に対して日本政府ができることは、頭上を飛ばせないようにすることではなく、グラウンドに子どもたちが避難するシェルターをつくるだけだ。こうした状況が実際に沖縄で起きている。

 

普天間第二小学校のグラウンドに設置された避難シェルター(沖縄県宜野湾市)

 しかも普天間基地はいつ返還されるかも分からず、その代替施設(辺野古)はどれだけの費用がかかるかもわからないまま造られ続けている。私の大学の研究室からは、今も普天間基地内に新しい大きな施設が作られ続けているのが見える。こんな状況で「普天間が返還される」ということを誰が信じるのか? 25年間にわたる“普天間基地返還”の動きについては「フェイクだったのではないか?」とそろそろ気がついてもよいという話すら出ている。

 

 「軍は民を守らない」ということが、沖縄戦における最大の教訓だった。そして今、ウクライナ戦争を見ていると、民を守らないどころか「軍は民を盾にする」という新たな脅威が出現している。民間地域を戦場にすることにより、攻撃を受けて犠牲者が出る。その犠牲者数を外に向けて公表することによって国際世論を味方に付け、NATO軍からさらに武器供与を受ける。このように民を盾にするような戦争であるように映る。沖縄がこのような犠牲を受けないためにどうすれば良いのかということを考えている。

 

 私は、沖縄は日本における「カナリア」(毒に敏感なため炭鉱などで毒ガス検知の警報がわりに飼育された)だと思っている。この国のなかで沖縄が犠牲になるときは、日本全体が犠牲になるときだ。沖縄という地域は、日本という国が抱えている問題がすべて凝縮されている。沖縄の危機を共有することによって、日本の危機に対処することができると思う。ぜひ傍観者でなく当事者としてこの問題について注目してほしい。

 

■議員との質疑応答より

 

 質問 令和5年度予算のなかでの課題は?

 

 前泊 国会で提示された国家予算の推移をみると、すさまじい勢いで異次元の軍拡が進められていることがわかる。これだけ大きな予算が付けられるのであれば、もっと物価高に苦しむ国民の生活保障をしてほしいという声も多く聞く。

 

 これだけ予算が増やされているなかで、沖縄は昨年、本土復帰50年を迎える節目の年となった。これまで3000億円台を維持していた沖縄振興予算が2600億円台に減らされた。復帰50年のご祝儀相場かと思っていたら、逆に減らされた。その理由には県知事選挙などを含む政治的な問題が絡んでおり、県民の選択如何によって予算を増減させるという非常に残念な国だと感じる。

 

 沖縄の所得水準は、50年間全国最低のままだ。13兆5000億円が投入されてきたにもかかわらず最低水準が変わらない。その理由について調べると、国から落とされてくる予算のうちの48%が本土ゼネコンに還流しているという実態がある。ケインズのいう乗数効果がほとんど期待できない。予算を付けるだけではなく、そのお金がどのように地域に落ちているのか、政策のなかでどれだけの金額が予算に反映されているのかという具体的な検証が必要だ。

 

 質問 軍隊が国民を守らないという沖縄戦の教訓があるという話があった。こうした問題について補足があるか。

 

 前泊 自衛隊を沖縄に配備するときに、もともとは離島で災害が起きたときに救助する、あるいは救急医療、急患輸送について自衛隊は優れているから、その監視部隊を置くことで、日常的な災害救助部隊として活躍するという説明を受け、受け入れた島々も多いと思う。ところが、いつの間にかそれがミサイル部隊に変わっている。「受け入れたらそういうことになる」と警鐘を鳴らす研究者も多かったが、結果そうなっている。住民を守るという災害救助隊「サンダーバード」が、いつの間にか軍隊としての化けの皮が剥がれてしまうということになってしまう。そして「倉庫」といっていたものが弾薬庫に変わり、「弾薬庫」といっていたものがミサイル庫に変わる。そう見ていくと、日本の防衛政策は最初から表で議論をさせない形で入り込み、地元からすれば“だまし討ち”のようにも受け止められかねない。

 

 自衛隊将官クラスのOBたちがたくさんの本を出しているが、台湾有事問題をめぐる本では「国民保護については自衛隊の仕事ではない」といっている。私も沖縄戦を戦った当時の航空参謀・神直道氏を取材したときに、「軍は民を守らないというのは本当か?」と問うと、「その通りだ。軍の任務は敵の殲滅だ」と語っていた。同じように自衛隊OBたちも「国民保護は地方自治体の仕事だ」といっている。

 

 そして今、与那国島や石垣島、宮古島では、万が一のさいには住民避難のため100隻あまりの大型艦船が必要になるが、それを用意するのは事実上困難だ。しかも避難には1週間から10日もかかるという議論になっている。「避難は無理だからシェルター」という話だが、まさにウクライナのドンバスと同じようなシェルター生活が何日続くのか? いつ戦争は終わるのか? 今ウクライナ戦争1年にスポットがあたっているが、沖縄はどうなのか? という話だ。

 

 国民を守るための戦争なのか、それとも国民を犠牲にして、何から何を守ろうとしているのか。国体護持のために戦わされた過去を思い起こさせるような戦争を再びやりかねないという懸念がある。

 

石垣島に建設中の陸上自衛隊ミサイル部隊基地(一昨年12月)

 質問 安保関連3文書の防衛力整備計画において、島嶼防衛用高速滑空弾の配備や南西地域における補給拠点の整備が明記されたが、これは沖縄が戦場として想定されていると考えるか?

 

 前泊 まさにそういう風に受け止められる文書になっている。補給基地の強化や兵站基地化という話も入っており、離島防衛という名目で離島におけるミサイルの配備、その滑空弾の配備、長距離弾もこれまで射程が500~600㌔だったものを1500~2000㌔ぐらいまで延ばす話までされている。ということは、敵基地攻撃までできるような拠点に南西諸島を位置づけようとしているとみられる文書になっている。

 

 質問 日本の外交力の可能性について聞きたい。

 

 前泊 外交については、まずマンパワーの問題も指摘される。日本の外交官の数が、私が抑えている古いデータでは5000人ほどだが、中国は8000人、フランスだと1万人、アメリカは2万4000人だと聞いている。これを外務省の勉強会で指摘すると、「数ではなく質ですよ」と話をされたが、もちろん質を伴う数が必要であるが、やはり圧倒的にマンパワーが足りない。在外公館の数も中国に圧倒的に凌駕されている。数的なものが情報収集力にも繋がってくるし、その現地の情報をしっかり取れるか否かは、企業や外交も含めて日本は弱い。

 

 質問 台湾有事を回避するために鍵となるとりくみは何か?

 

 前泊 1958年の第二次台湾海峡危機のさいにアメリカは中国を核威嚇している。中国が海峡封鎖した場合には中国の主要都市を核攻撃するぞという脅しだ。それに対して旧ソ連のフルシチョフが「その場合には我々もあらゆる手段で報復する」と応じた。そのときにアメリカが核攻撃を思いとどまるかと思ったら、なんと「その場合にはわれわれは台湾と沖縄を失うことになる」と想定しており、つまり核攻撃も辞さずという判断をしていたことが機密文書や関係者の証言で明らかになっている(朝日新聞が2021年5月に報道)。

 

 つまりアメリカだけに任せていては、沖縄も台湾も失われてしまう。日本独自の外交を展開することによって、アジアにおける有事を起こさせないために何が必要なのか。私は、大きな話であるが、アジアは一つのチームを作るべきだと思う。EU(欧州連合)があるように、「AU(アジア連合)」を形成し、アジア人の手によってアジア人の血は一滴たりとも流さないという決意が必要だ。

 

 そして、フェイクニュースに踊らされないように、アジアで共通のメディアを作ることも必要だと考える。ファクトとエビデンスに基づいた冷静な判断ができるようにしなければならない。

 

 台湾有事をめぐっては、中国の習近平国家主席が「独立の動きがあれば武力攻撃も辞さず」というスタンスである以上、独立について議論をさせないことが一つの回避策だ。また内乱や外部介入も武力攻撃を惹起する条件とされている。今はこの三つをまずは起こさないことが最重要だが、日本が今ミサイル防衛という形で外部から介入しており、日本が有事を招きかねないような環境を作っている印象を受ける。

 

 質問 岸田政府は軍事力を強化することで武力攻撃を受ける可能性を低下させるという考えだが、これに対しどのように考えるか。

 

 前泊 軍拡は、新たな軍拡を招く。日本がこれだけ大幅な軍事費増額をおこなえば、仮想敵とされる相手国は日本を上回る軍拡をしてくる可能性がある。この「チキンレース」を日本が仕掛けているかのような印象を受ける。どんどんアジアにおいて軍拡が進む危険性があり、今はむしろ軍縮に向けた動きを外交として進めていくべきだ。

 

経済を無視する愚かさ

 

 質問 日本の軍拡路線が、日中の経済関係に与える影響についてどのように考えるか。

 

 前泊 私は大学で経済を教えている。日本の貿易取引額の総額に占める割合は、1990年まで中国は6・7%で、アメリカは27・4%だった。だが2021年には中国は25%まで増え、アメリカは14%になっている。これだけ依存度が高まっている中国を相手に有事を構えることがどれだけ大変なことか。

 

 以前、私は福田元首相に対し、中国脅威論を強調するのはなぜかを聞いた。すると「日本の首相として中国脅威論をいわない人はいない」と話していた。首相を辞めた後、再度本人に今もそう思うかを問うと「首相を辞めた後になってまで中国脅威論をいうバカはいない」といっていた。中国に対して、政治的パフォーマンスのためにこのような付き合い方をするべきではないと思う。これだけ日中両国の経済的な結びつきが強まっているなかで、軍事的な問題だけを議論することの愚かさをおさえ、もっと経済的な議論をしっかりすべきだと国民的には思っている。

 

 質問 2020年3月に米軍のインド太平洋司令官が、「6年以内に中国が台湾に侵攻するかもしれない」という発言をしてから、日本でも「台湾有事は日本有事」といわれ議論されるようになった。この発言についてどう思うか。

 

 前泊 軍人は、軍事的利権にともなう発言をする。軍事的な分野からの発言が増えていくと、当然危機感は高まる。アメリカに行くと国防総省と国務省では見解が違う。そのように多面的にアメリカからの情報をヒアリングすべきだろう。軍人たちはリタイア後の就職先についても考えるため、軍事的な脅威を煽ることによって有効需要が創出されてそこに仕事が生まれるという関係だ。

 

 70兆~80兆円のお金を国防費に充てているアメリカでは今、アイゼンハワーが提唱した軍産複合体の概念がさらに広がり、軍・産・官・学に「報(メディア)」まで加わった複合体が、軍事的な風潮を煽っている印象すら受ける。

 

 質問 日本は自主的な平和外交が必要だと思うが、どう考えるか。

 

 前泊 日本の政治家でアメリカにものが言える政治家がどれだけいるのか? というのが気になるところだ。先述の普天間第二小学校のシェルター問題を見ても、日米の上下関係が抜けていない。敗戦国のままだ。地位協定の問題についても、アメリカにしっかりと伝えておけばコロナ感染も防げたという懸念がある。オミクロン株が広がったのは米軍基地からだったという経緯もある。出入国については、国内法を適用するということさえできていれば悲劇は減らせたかもしれない。アメリカと対等にものがいえる関係をつくっていただきたい。

 

 質問 政府は陸上自衛隊駐屯地などでも司令部の地下化に着手しようとしている。こうした動きについてどう思うか。

 

 前泊 那覇基地のなかでもすでに地下司令部があるのではないかという話もある。米軍普天間基地にも米兵が地下から湧いてくる穴があると聞かされたことがあるが、それは核シェルターだと聞いた。当然、嘉手納や普天間には地下シェルターがある。なぜ有事のさいに米軍だけが生き残るのか。基地の外では146万人の沖縄県民が暮らしている。県民を守れるように外交による安全保障政策を実現しなければならない。

 

 米ジョンホプキンス大学は朝鮮有事でどれだけの犠牲者が出るかという数字を出しているが、なぜ日本の防衛政策のなかでは出てこないのか。台湾有事で想定される犠牲者についても俎上に載せて議論しなければいけない。

 

 質問 防衛力整備では、FMS(対外有償軍事援助)によってアメリカから武器を買うことで負担が増し、国内の防衛産業にお金が回らなくなっているのではないか?

 

 前泊 以前、神戸の三菱重工や川崎重工に視察に行ったさい、本来商船を造るはずのドックに並んでいたのは潜水艦だけだった。日本の財閥も国の予算に頼らざるを得ない状況となっており、ある意味「生活保護企業」になりつつあるという印象を受けた。そこを支えるために防衛費を使うことに意味があるのかどうか。

 

 日本の債務状況でみると、債務残高はギリシャを超えてワーストだ。それを考えると、アメリカを支えるために日本が軍事費を支出するというのは本末転倒ではないか。おもいやり予算は、アメリカの双子の赤字を埋めるために始まったのに、いつの間にか「おもいやりすぎ予算」と化し、今それをごまかすために「同盟強靱化予算」と名前まで変えて支出を続けている。そのようなやり方ではなく、本当に必要な防衛費はいくらなのか、アメリカからしか買えないものなのかどうか。43兆円のうちアメリカからの兵器購入分はいくらなのかも含めて予算委員会でチェックしてほしい。

 

 質問 軍備強化は必然的に民生部門への配分を損なうのではないか。国の安全保障の前提となる人々の安全な暮らしが脅かされているのではないか。

 

 前泊 安全保障というのは、この国の国体を守るのか、国民を守るのかという問題を提起していると思う。アメリカの歴史学者ジョージ・H・カーは、「日本にとって琉球は単に軍事的な前線基地として、あるいは中国と争ってわがものとしたために19世紀日本の“顔”が立ったことになった一種の植民地としてのみ重要性があった」(『沖縄の歴史』1953年)とし、日本にとっての沖縄は「expendable」=「消耗品」という言葉で指摘している。この言葉は、アメリカにとっての日本の立ち位置をそのままいいあらわしているのではないだろうか。

 

 今、軍事費のことを議論しているが、やはり経済に目を向けなければならない。経済がこれだけ衰退している。日本の世界に占めるGDPの割合は、2000年時点で14%あった。それが今や6%まで落ち、さらに2030年には4%になると想定されている。その縮小をどう解決するかについてもっと論議すべきだ。日本という国は国防というよりも、経済が豊かだったからこそ平和だった。周辺国に対して援助をし、ODAも出し、技術も惜しみなく提供する国として、周囲からは宝島のように見えていたはずだ。だからこそ大切にされてきた。世界から大切にされる国を作っていくことこそが安全保障の基本ではないかと思っている。

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