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寄生する五輪マフィアたち コロナ禍で中止しない理由 IOC貴族とスポンサー企業の荒稼ぎ

 東京オリンピック開幕まで50日を切ったが、日本は三度目の緊急事態宣言再延長の真っ只中である。英国型に続きより感染力の強いインド型という変異株が広がり始め、一方で高齢者のワクチン接種率(2回目の接種を終えた人)はわずか2%(4日段階)と世界のなかでも突出して低い。そのなかで東京オリンピック・パラリンピックを開催すれば今以上の医療の逼迫と感染爆発を招くとして、中止を求める世論が沸騰している。オーストラリアのソフトボールチームが海外チームとして初来日したものの、感染リスクを恐れて相手国から事前合宿辞退の申し入れを受けた自治体は122にのぼり、野球の台湾代表は最終予選の出場辞退を表明した。それでも菅内閣は「中止はない」「再延期はできない」と五輪開催に突っ走っている。そうまでして無理矢理開催して、いったい誰が得をするのか--について見てみた。

 

 新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は2日、「このパンデミックで(五輪を)やるというのは普通はない」とのべたが、医療関係者は早くから五輪開催がいかに無謀かを指摘してきた。橋本聖子大会組織委員会会長が先月21日、「東京オリンピック(7月23日~8月8日)とパラリンピック(8月24日~9月5日)の運営には大会期間を通じて7000人の医師や看護師が必要」とのべて世間を憤慨させたように、それでは医療現場がもたないからだ。

 

 東京都立川市の立川相互病院が先月初め、病院の窓に「医療は限界 五輪やめて!」と貼り紙を掲げて抗議したことが話題になった。同病院は五つある一般病棟(各47床)のうち一つをコロナ対策に改修したことで、コロナ以外の患者に対応できる病床が大幅に減り、救急搬送の受け入れも困難になっている。各病棟ともギリギリの人員配置であるところに、突然の看護師や医師の派遣要請があり、病院としてメッセージを表明せざるをえなかったという。

 

 東京都内の医師6000人で組織する東京保険医協会は先月14日、医療機関はコロナ対応ですでに手一杯であるとし、感染者や死亡者が増加する可能性のあるオリ・パラの開催は困難であることを政府と東京都はIOCに打診し、IOCの中止決定を引き出すよう求める要望書を提出した。

 

 要望書は、7月は熱中症患者が急増することは必至で、医療機関はその患者とコロナ感染者との鑑別がつくまで一人一人を隔離する必要があるが、そのための施設も人材もまったく余裕がないと現状を明らかにしている。

 

 また、組織委員会は選手や大会関係者が優先的に入院できるコロナ指定病院を合計30カ所確保せよと指示しているが、国民の命よりも選手や関係者を優先するというのは「友情、連帯、フェアプレーの精神」を謳うオリンピック憲章に反するものだと批判している。

 

 この指定病院については、東京以外で競技開催を予定している神奈川・茨城・千葉・埼玉など八つの自治体が「県民よりも五輪選手を優先することはできない」とのべ、承諾していない。

 

 また、東京大学大学院経済学研究科の教員グループが感染者数のシミュレーションをおこなった【グラフ参照】。それによると、緊急事態宣言が6月中旬まで延長され、国内のワクチン接種が1日60万本のペースで進むと仮定し、五輪開催中に海外から10万5000人が来日し、うち半数がワクチン接種完了と想定した場合、東京五輪開催で人流が6%上昇すると、東京都内の1日当りの感染者は400人台から2カ月後には1600人以上に増える。

 

 これについては海外メディアも、東京五輪が日本と世界にとって「一大感染イベント」になると警鐘を鳴らしている。

 

 なお橋本会長は、大会期間中、各国選手団1万5000人と、それとは別にIOC関係者やスポンサー、海外メディア関係者ら合計7万8000人が来日することを明らかにしている。

 

IOC幹部には至れり尽せりの厚待遇

 

 ところが、医療の逼迫と感染爆発を心配する国民感情を逆なでするような発言が、IOC(国際オリンピック委員会)幹部からあいついでいる。

 

 IOCのトーマス・バッハ会長は、「日本人の粘り強い精神力、逆境に耐え抜く能力があるから五輪開催は可能」と持ち上げたうえ、五輪開催で「犠牲を払わねばならない」と、自分たちを棚に上げて日本人に犠牲を強いる発言をおこなってひんしゅくを買った。IOCのジョン・コーツ副会長は「緊急事態宣言下でも五輪を開催するのか」との質問に答え、「絶対にイエスだ」と断言した。IOC最古参のディック・パウンド委員に至っては「アルマゲドン(最終戦争、人類滅亡の意味)が起きない限り大会は進む」「中止の選択肢は事実上ない」といいきった。

 

 しかし菅政府は、主権国家と国民を見下すようなこうした横柄な発言に対し、国民の命を守る側からの真っ当な反論を一切していない。それどころかIOCを下にも置かぬ扱いに終始している。

 

 IOCは、国際競技連盟(IF)や各国のオリンピック委員会(NOC)の幹部を含めて「IOCファミリー」と呼ばれるが、東京大会にはIOCファミリー3000人が来日する。IOCと組織委員会は当初9万人といわれた大会関係者を7万8000人に減らしたが、IOCファミリーには手を付けていない。

 

 そして、組織委員会はこのIOCファミリー3000人に、「ホテルオークラ東京」「ANAインターコンチネンタルホテル東京」「ザ・プリンス パークタワー東京」「グランドハイアット東京」の五つ星ホテルの全室を提供することを確約している。しかもIOC側が支払うのは1人1泊400㌦(約4万4000円)までで、それをこえる差額は組織委員会が負担すると、東京五輪立候補段階で約束している。五つ星ホテルには1泊300万円の超高級スイートルームもあるというから、いかに「五輪貴族」たちに至れり尽くせりの贅沢三昧を保証しているかがわかる。

 

 こうしたことが可能なのは、宿泊するホテルについてもIOCの開催都市契約の付則のなかで「四つ星~五つ星のホテルで計1600室。33泊の確保」などを開催都市に義務づけているからだ。IOCが「ぼったくり男爵」といわれる所以(ゆえん)である。

 

 菅政府はそのほかにも、東京五輪で訪日する各国首脳を「おもてなし」するために43億6100万円を確保している。歓迎パーティーを開いたり、空港にVIPルームを確保したりする費用が含まれている。各国のオリンピック委員会が要人として誰を呼ぶかを決め、IOCが承認すれば、開会式への出席や競技の観戦ができるシステムになっているという。

 

スポンサー料急増20年間で収入3・4倍

 

 では、こんな特権的な振る舞いができるIOCとは、いったい何者なのか? その実態については、本間龍氏の著書『ブラックボランティア』、後藤逸郎氏の『オリンピック・マネー』に詳しい。

 

 IOCとは、国連の一機関のような公的な組織ではなく、スイスのローザンヌ市に本部を置く世界最大級の非政府組織(NGO)であり、非営利組織(NPO)である。NGOやNPOであることで、所得税や法人税の減免など優遇措置を受けている。またスイス民法はNPOへの規制が緩く、非営利組織であっても収益事業は可能で、財務や報酬の公開も義務ではない。

 

 IOCは会長、副会長(4人)、理事(10人)で構成され、国ごとに1~2人がIOC委員となり、約100人が集うIOC総会で五輪開催都市を決定する。IOCはフランス貴族のクーベルタン男爵が提唱して1894年に発足し、アイルランド貴族のキラニン男爵が1974年にオリンピック憲章からアマチュア条項を削除して、1984年のロサンゼルスから五輪商業化の道が開かれた。

 

 IOCの実態は、世界最大の民間スポーツ営利団体であり興行主である。IOCの収入は、テレビ放映権料(全体の73%)と、TOPといわれるワールドワイドパートナーからのスポンサー料(同18%)の二つが主で、その他に国内スポンサー料や入場券販売、開催国でのライセンス料などがある【表①参照】。公表されている最新資料によると、総収入は2013~2016年の4年間で57億㌦(6156億円)で、年間にして1500億円を上回る収益をあげている。

 

 その利益のなかから、IOC幹部は高額の報酬を得ている。バッハ会長の報酬は年間22万5000ユーロ(2947万円)であり、会長にはその他にローザンヌのパレスホテルが提供されているという。「2012年のロゲ会長のホテル代や生活費は20万4000㌦(約2240万円)」という報道もある。

 

 IOCは、非営利組織として収入の九割を各国のオリンピック委員会などに支援金として支出していると主張する。ところがIOCはさまざまな関連財団や子会社を設立しており、それを使って寄付金が各国を経由して環流するシステムをつくっている。たとえばIOCが出資する関連会社に「オリンピック・ブロードキャスティング・サービス(OBS)」という、大会競技を撮影・中継する企業があるが、IOCは開催都市との契約で競技の撮影はOBSに発注することを義務づけており、東京五輪でもこれについて東京都の負担額は数百億円になる。そしてバッハ会長ら理事たちはこうした関連会社の役員を務め、役員報酬も得ている(非公開)。

 

 問題は、収入の主な源泉であるテレビ放映権料とスポンサー料収入だ。ロス五輪を機にオリンピックの商業化に踏み切ったIOCは、それまでのアマチュアスポーツの祭典からプロ選手の参加容認に舵を切り、禁止していた企業スポンサーを解禁。世界スポンサー制の導入とテレビ放映権料の引き上げで巨万の富を得るようになった。

 

 そのうちテレビ放映権料について見ると、米三大ネットワークが五輪の放映権を得ようと競うなかで放映権料は年々引き上げられた。1995年には、IOCは米大手放送局NBCとアテネ大会(2004年)、トリノ大会(2006年)、北京大会(2008年、交渉時は開催地未決定)の三大会について23億㌦で一括契約した。

 

 こうして各国の組織委員会よりNBCの方が強い発言権を持つようになり、アメリカで人気の高い競技を自国のプライムタイム(午後8~11時)に生中継できるよう、競技開始時間の変更をIOCと各国組織委員会に要求するまでになった。それにより2018年平昌大会で、スキー競技が深夜におこなわれた。

 

 東京五輪でも、熱中症が心配される酷暑の7~8月開催をIOCが譲らなかったのは、米NBCの都合でしかない。秋になるとアメリカンフットボールやサッカー、バスケットボールなどで放送スケジュールが満杯で、NBCを満足させられないからだ。

 

 もう一つのTOPだが、IOCと直接契約してワールドワイドパートナーになっているのは、世界で13社のグローバル企業だけである【表②参照】。TOPになれば、その企業は世界のどの国でも自社広告に五輪マークを使用してスポンサーであることをアピールできるし、そのことをビジネス拡大に最大限活用している。そのためのスポンサー費用も巨額で、4年契約で総額400億円程度と見られている。

 

 横柄な発言をくり返すIOC幹部は、こうしたグローバル企業に支えられている。そしてIOCは、この20年間で総収入を3・4倍に増やした。IOCが2019年に公表した数字によると、総資産は41億㌦(約4500億円)。それを100人余りの組織が保有している。

 

電通介在し膨張 総経費は3・5兆円に

 

 ところで、オリンピックで巨額の収益をあげるIOCは、開催費用の支払が免除されていることはあまり知られていない。オリンピック憲章に、IOCは競技施設やインフラの整備、運営費の財政負担をしなくていいと規定されているからだ。開催費用は開催都市と国内オリンピック委員会、国内オリンピック組織委員会、開催国が負うことになる。

 

 東京五輪の開催費用は、当初約7400億円といっていたのがどんどん膨張し、今では総計約3兆5000億円に膨れ上がっている。その内訳を見ると、公表されている開催費用1兆6400億円のうち、組織委員会が準備したのが約7000億円で、残りの約9000億円は国と東京都が出している。それとは別に国が1兆600億円を、東京都が約8000億円を五輪のために支出したことがわかっている。そのなかには、五輪に乗じた首都再開発事業なども含まれる。五輪を名目に国民・都民から税金を徴収し、それをゼネコンや大企業に注いでいる関係だ。

 

 そうしたうまみがあるために、大会招致をめぐってIOC委員を買収するための贈収賄事件が後を絶たない。東京五輪をめぐっても、招致委員長だった竹田恆和JOC会長(2019年当時)が贈賄容疑で仏司法当局の捜査を受け、JOC会長を辞任した。長野冬季五輪でも、ソルトレークシティ冬季五輪でも同様のことが起こっている。

 

 また、TOPとは別に、開催国の組織委員会が独自にオリンピックパートナーという名のスポンサーを集めることができる【表③参照】。東京五輪でこのスポンサー集めを一手に担ったのが、東京五輪の実質的作業のほとんどを請け負っている電通である。以下は調査した本間龍氏が推定値として発表しているものだが、組織委員会のスポンサー料収入は、

 

 1、国内最上級のゴールドパートナー15社からは1社当り150億円。
 2、その次に位置するオフィシャルパートナー32社からは1社当り60億円程度。
 3、その次に位置するオフィシャルサポーター20社からは1社当り10億~30億円程度。

 

 前回大会まではスポンサー企業は1業種1社と決められていたが、その縛りをなくすようIOCに頼み込んだのが電通で、こうしてスポンサー企業が急増し、スポンサー収入の総額は約4300億円になった。電通はそこからスポンサー管理料として800億円以上を抜いていると、本間氏は推測している。

 

 いずれにしろ組織委員会そのものが、国や地方から派遣された公務員と電通社員など民間企業からの出向組とが同居する半官半民の組織であり、公益財団法人でありながら民間企業の顔を持つため、国会などから契約書の開示請求がきても「民民契約なので守秘義務があり答えられない」といえばそれで終わり。実際のカネの流れは闇の中なのだ。

 

 オリンピック中止を求める国民の声が表に出ないなかには、次のような事情もある。2013年10月の国会で、政府に競技場の整備など総合的対策を求める決議がおこなわれたが、衆議院も参議院も与野党挙げて賛成に回り、反対したのは参議院議員(当時)の山本太郎一人だった。また、『朝日』『毎日』『読売』『日経』は五輪スポンサーになり、組織委員会のメディア委員会には新聞やテレビ、ラジオなどほとんどのメディアが名前を連ねている。政府が五輪開催に舵を切れば、その方向に国民世論を誘導する役割を果たすだけだ。

 

 オリンピックを観戦する側は、選手の活躍に拍手を送り、そこにあるドラマに涙を流す。だが主催者であるIOCとそれを支える名だたるグローバル企業、そして電通やパソナは、そうした国民感情をも利用して、オリンピックで莫大な利益をあげる--そうしたシステムができあがっている。世界平和のためでも、アスリートのためでもなく、カネのため。国民の命よりもマネー・ファーストなのが実態といえる。

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロ- says:

    こういう情報は世界各国が共有して五輪開催の意義と必要性を真摯に検討する
    資料として活用していただきたいです。

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