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自衛隊を中東に独自派遣 アラビア海全域を対象に米軍と連携

国会審議もせぬ仕組みを適用

 

 米トランプ政府の進める対イラン有志連合結成が事実上行き詰まるなか、安倍政府が自衛隊を中東海域に「独自派遣」する検討を開始した。米国が主導する有志連合は日本のタンカーがホルムズ海峡で攻撃された事件を機に、米国が「イランの犯行」と主張して結成を呼びかけたが、参加を拒絶する国があいつぎ、機能不全状態にある。そのため安倍政府は「有志連合への参加」を見送り「独自派遣」という装いで、より積極的に米国の軍事戦略に加担する動きを強めている。すでに日本はアジア・中東地域での本格的な軍事連携をにらみ、日印物品役務相互提供協定(ACSA=アクサ)を12月下旬に締結する準備を進めている。しかも今回の派遣は国会承認が不要な防衛省設置法の規定を適用する方向だ。安倍政府は国会審議も経ず、問答無用で自衛隊を戦地派遣する準備に乗り出している。

 

 安倍首相は18日の国家安全保障会議(NSC)の会合で、自衛隊の中東派遣を早急に具体化するよう指示した。そのNSCを受けて記者会見を開いた菅義偉官房長官は「米国が提案する“海洋安全保障イニシアティブ”には参加せず、日本独自の取組を適切におこなっていく」とのべ「引き続き米国とは緊密に連携していく」と強調した。さらに自衛隊の艦艇派遣にも言及し「新規アセット(装備)としての艦艇派遣や既存の海賊対処部隊の活用の可能性について今後、検討をしていく」と明言した。

 

 この「新規装備としての艦艇派遣」という場合、交戦能力を備えた最新式イージス艦、ヘリ空母、空母化が予定される「いずも」などが含まれる可能性は否定できない。また自衛隊艦船はどれも米軍の軍事技術や軍事情報に依存しており、米軍との連携抜きでの単独行動は不可能だ。つまり「対イラン有志連合への参加は見送る」という実態は、中東への自衛隊派遣を「独自派遣」と称して強行し、そこで米軍と「緊密に連携」し共同軍事作戦を実行するという意志表示にほかならない。

 

 加えて菅官房長官は派遣地域について「オマーン湾・アラビア海の北部の公海および、バブルマンデブ海峡の東側の公海を中心に検討する」と明言した。「日本のタンカーが攻撃を受けた」という海域であればホルムズ海峡だが、米国が「有志連合」結成にむけて明らかにした活動範囲は「ホルムズ海峡とバブルマンデブ海峡を航行する船の安全確保」であり、イエメン沖も範囲に加えていた。そして今回、安倍政府が明らかにした自衛隊派遣地域はさらにオマーン湾も加え、アラビア海全域に活動範囲を拡大している。これを大手メディアは一斉に「イランに配慮してホルムズ海峡やペルシャ湾を派遣先と明言するのは避けた」といい、いつのまにか派遣地域を拡大し続けていることは不問に付している。

 

 そして注目すべきはこのたび、わざわざ危険な中東地域に自衛隊を派遣しようとする目的である。菅官房長官は「派遣の目的は情報収集態勢の強化」であり「現在、直ちに自衛隊アセット(装備)による我が国に関係する船舶の防護の実施を要する状況にはない」と明言した。「ホルムズ海峡沖を航行する日本船舶を護衛するために自衛隊を派遣する」のではなく、今後の活動を見込んだ調査・研究が派遣の目的だというのである。それは今回の自衛隊派遣が一回だけで終わりではなく、今後の本格的な自衛隊海外派遣をにらんだ地ならしが狙いであることが露わになっている。

 

 しかもこのような内容を国会審議なしで強行しようとしているのが安倍政府である。菅官房長官は今回の自衛隊派遣について「防衛省設置法上の“所掌事務の遂行に必要な調査及び研究”として実施する」と表明した。防衛省設置法に定めた「調査・研究」を今回の自衛隊派遣に適用すれば国会承認が不要になる。

 

 自衛隊を海外派遣する問題は本来、国会で派遣計画を明らかにし、全国民的な論議を通じて承認を得るべき重要テーマである。だが今回は防衛相の判断のみで「派遣する」と決定できる制度を適用する姿勢を見せている。一般国民があまり知らない法律上の裏技を使って国会での論議もさせず、年内にも自衛隊派遣の強行を図る姑息な姿も露呈している。

 

アメリカの戦略 同盟国を前面に押出す

 

 もともと今回の有志連合結成の動きは、6月にイラン沖で起きた「日本のタンカーを含む2隻への攻撃」が直接のきっかけとなった。だが米国側が「イラン革命防衛隊がタンカーに機雷を仕掛けて爆破させた」と主張した動画や写真は不鮮明なものばかりで、信憑性のある証拠にはなり得ていない。そのためイラン側は「事実と違う」と全面否定し続けており、いまだにどの事件も真相は明らかになっていない。

 

 そのなかで米国は「イランは以前からホルムズ海峡の原油輸送を阻害すると示唆していた」と敵愾心を煽り続け、「有志連合」の結成へと突き進んだ。そしてホルムズ海峡の安全確保で恩恵を受けている国として日本と韓国を名指しし「すべての国国は自国の船を自分で守るべきだ」「アジアの国が役割を果たすことが重要」とハッパをかけた。しかし7月25日に開催した第2回目の有志連合関連会合は、米国が60カ国以上に招集をかけたにもかかわらず、参加国は30数カ国にとどまった。そして現在、有志連合参加を表明しているのは英国、バーレーン、豪州、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)のわずか5カ国にとどまっている。

 

 過去の有志連合を見ると、アフガニスタン戦争のとき米国は安保理で武力行使容認決議を得られず、米仏独など30カ国で有志連合を結成し軍事侵攻している。イラク戦争時も安保理常任理事国の同意が得られず、米英軍が約30カ国と武力行使に踏み切った。だが現在の有志連合参加国はわずか5カ国にとどまっており、これらの国だけで武力行使に踏み切ればさらに米国側が孤立を深めるのは歴然としている。このなかで従来の「有志連合」とは違う枠組みで自衛隊の中東派遣を強行する動きとなった。しかし米国側が自衛隊に担わせようとする役割が変化したわけではない。

 

 米国が要求した自衛隊派遣の動向を振り返ると、2001年のアフガニスタン戦争のときは「ショウ・ザ・フラッグ(旗を見せろ)」と迫って海上自衛隊を有志連合軍の給油活動に動員した。2003年のイラク戦争時は「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(地上部隊を出せ)」と圧力をかけ、陸上自衛隊の戦地派遣を強要した。今回は米軍の派遣部隊や戦費を減らし、できる限り同盟国を前面に押し出すという軍事戦略に則り、中東派遣部隊の主力として自衛隊が役割を果たすよう陰に陽に迫った。

 

 そのなかで安倍政府は「有志連合には参加しないが米国とは緊密に協力する」という道を選んだ。そして「有志連合には参加しない」といいつつ、事実上、中東派遣部隊の主力として、米軍の肩代わりで自衛隊を軍事作戦の前面に立たせる準備に着手している。米国側はそうした事情を知っているため、米国防省の報道官が「別別の行動も歓迎する」との声明を出す動きを見せている。

 

日印ACSA締結へ 中東の軍事作戦視野に

 

 こうしたホルムズ海峡近辺への自衛隊派遣と連動しているのが、日印ACSA締結の動きである。日印ACSAは自衛隊がインドやその周辺で活動するとき、食料や燃料、弾薬、輸送・医療サービスなどを融通しあうことを定めた協定で、昨年8月頃から「大規模災害に対応するため」と主張し日印政府間で交渉が進んでいた。そして安倍首相は12月下旬にもインドへ飛び、年末のどさくさに紛れてモディ印首相と合意する準備を進めている。

 

 ACSA自体はもともと1996年の日米安保再定義で、自衛隊と米軍が相互に提供しあう日米ACSAを結んだのが始まりである。このとき「物品」とは、食料、水、燃料、被服、部品などであり、「役務」は、宿泊、輸送、通信、衛生業務、基地支援、訓練業務、修理・整備、空港・港湾業務、と定めていた。そして協定の適応対象は、国連平和維持活動(PKO)などに限定していた。ところが集団的自衛権の行使を容認する安保関連法成立(2015年9月)の段階まできて、ACSAの内容が大幅に変化している。物品提供の中身に「弾薬」を加え、適応対象は国連が統括していない「国際連携平和安全活動」も含めている。

 

 そしてこの新ACSAを2017年4月に日米間で発効させたのを皮切りに、日英(2017年8月発効)、日豪(2017年9月発効)、日・カナダ(2018年4月署名)、日仏(2018年7月署名)の5カ国間で締結した。これは自衛隊を北米、中南米、欧州、オセアニア地域へ派遣するとき、ACSA締結国から弾薬や物資提供を受け、長期間の軍事作戦を可能にする体制だった。

 

 ところが中東近辺にはそのような弾薬・物資供給拠点がない。この穴を埋めるため、日印ACSAの締結を急いでいる。

 

 ACSA締結国にインドが加われば、太平洋からインド洋、大西洋にかけて各国軍と連携する枠組み、中東近辺で自衛隊が本格展開するときの物資補給体制が整うことになる。それは中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗し、日米が進める「自由で開かれたインド太平洋構想」を軍事面からバックアップしていく体制でもある。

 

 中東地域をめぐってトランプ政府は、昨年4月のシリアへの空爆、一方的な核合意離脱に続くイランへの経済制裁発動、イスラエルの主張にそったエルサレムの首都認定、ゴラン高原をめぐって「イスラエルに主権がある」という宣言への署名など、中東諸国への攻撃・干渉・挑発をエスカレートさせてきた。5月には原子力空母を派遣しイランに恫喝を加えている。こうして軍事緊張を煽るだけ煽り、一触即発の事態を引き寄せておいて「ホルムズ海峡の安全確保で恩恵を受けているのは日本だ」「自国の船は自国で守るべきだ」と主張して自衛隊派遣を執拗に迫り、日本を戦争に引きずり込んでいくのが米国の一貫した軍事戦略である。

 

 そしてこの軍事戦略を日本国内で忠実に実行しているのが安倍政府である。2015年に成立させた安全保障関連法は、対テロ特別措置法(特措法)やイラク特措法などの内容を恒久化し、特措法を制定しなくても海外に自衛隊を派遣できるようにした。さらに日本や自衛隊が攻撃を受けてなくても米軍が攻撃を受ければ即座に参戦する集団的自衛権の行使も容認した。このとき自衛隊の新任務として「国際連携平和安全活動」を追加したが、それは国際社会が認めていない米軍主導の「多国籍軍」や「有志連合」の行動にもこれからは積極的に自衛隊派遣をしていくという宣言だった。

 

 こうした体制を作ったうえで安倍政府は今年4月、国連が統括しない多国籍軍監視団(MFO)に初めて陸自隊員を2人派遣し前例をつくった。そして今回は、有志連合としての体もなさないような米軍主導の対イラン有志連合を支えるため、国会審議もさせない仕組みを用いて自衛隊独自の中東派遣を強行しようとしている。こうした事態は日本を戦争に引きずり込み、日本全土を報復攻撃の戦火にさらしかねない極めて危険な内容をはらんでいる。

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