いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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米軍の下請軍隊として機能するための改憲 秋の臨時国会が焦点

 参議院選挙にともなって開かれた臨時国会の閉会を受けて、安倍政府が秋の臨時国会で「改憲」論議を本格化させる準備を急いでいる。参議院選挙で改憲勢力が3分の2議席を確保できなかったため野党との野合を模索し、次の国会では「改憲」を最大テーマにしようとしている。そこで大きな焦点となるのは自民党が早急な国会発議を目指す「改憲四項目(九条改正、緊急事態条項、参院選“合区”解消、教育の充実)」の素案と、何度も継続審議に追い込まれてきた「改定国民投票法案」の行方である。安倍政府を中心にした改憲勢力が主張する改憲原案は、戦後一貫して「戦争をしない国」として歩んできた日本の国是を根本から覆す内容をはらんでいる。

 

 「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇、または武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する」「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」--これが現在の日本国憲法九条である。憲法はまた「平和主義」とともに「国民主権」や「基本的人権の尊重」についても定めている。

 

 この憲法の内容は、かつての戦争で全国各地の空襲、原爆投下、沖縄戦によって何の罪もない無数の国民が焼き殺され、多くの若者が「お国のため」と称する勅令によって戦地にかり出されて戦死や餓死に追い込まれた痛恨の教訓に根ざしている。「戦争を二度としない」「他国と戦争をやるための軍隊を二度と持たない」というのは、凄惨な戦争をくぐり抜けてきた日本国民全体の意志であり、その思いは戦後74年にわたって引き継がれてきた。

 

 ところがこの憲法を「時代遅れ」と見なし「戦後レジーム(体制)の脱却」と叫んで、「改憲」策動を続けてきたのが安倍政府である。そして近年、強力におし進めてきたのは露骨な戦時国家づくりであり、しかもそれは米軍の下請軍隊と化した自衛隊が、米軍になりかわって最前線に飛び出していく体制の整備であった。

 

 日本を米本土防衛の盾として差し出す米軍再編計画(全土の米軍基地化)をごり押しし、国民の税金を使って米軍基地の新設・整備をおこない、大量に米国製の戦闘機やミサイルを買い込んできた。これとセットで戦争になれば土地接収を可能にする国民保護法、権力の秘密を覆い隠す秘密保護法、政府批判の会話をしただけで処罰できる共謀罪法、徴兵制に活用するための国民総背番号制法、米軍が攻撃されれば日本も自動参戦する(集団的自衛権の行使容認)方向を定めた安保関連法などを、与野党合作で強行成立させてきた。

 

 こうして憲法の三大原則である平和主義も国民主権も基本的人権の尊重もさんざん踏みにじった挙げ句、日本の対イラン有志連合参加を具体化し、いよいよ自衛隊を戦地の最前線に立たせる段階へ踏み込もうとしている。そのため安倍政府は戦後一貫して戦争発動の障害となってきた憲法の全面書き換えを意図して「改憲」を急いでいる。

 

 したがって安倍政府が進める「改憲」は「憲法で自衛隊を合憲と認めるか」(自衛隊明記)という部分的なテーマや「改憲四項目」だけにとどまらない。それは国民生活全体にかかわる国の在り方を根本から変化させる内容である。

 

改憲4項目がめざすもの

 

 こうした改憲論議に向け、自民党が昨年3月に決定したのが改憲優先四項目の「条文イメージ」(たたき台素案)【表参照】である。四項目は、①安全保障にかかわる「自衛隊」(九条改正)、②統治機構の在り方に関する「緊急事態」(緊急事態条項導入)、③1票の格差と地域の民意反映が問われる「合区解消・地方公共団体」、④国家百年の計たる「教育の充実」である。

 

 「九条改正」関連では「戦力不保持」と「交戦権の否認」など九条の条文自体は変更しない。そして現在の条文の後に「九条の二」をもうけ「前条の規定は、自衛の措置を妨げない。そのための実力組織として内閣総理大臣を最高指揮官とする自衛隊を保持する」という内容を盛り込む手法だ。だがこの「九条の二」の新設によって、現在の九条は「自衛の措置」を掲げれば全面否定されることになる。それは「戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認」をすべて骨抜きにし、「参戦、攻撃兵器保有、交戦権容認」を認めた憲法になることを意味する。これは自衛隊が明確な攻撃兵器の空母保有を具体化したり、ホルムズ海峡への自衛隊員派遣を検討する動きとも連動している。

 

 そしてこの「自衛措置」発動の引き金になるのが「緊急事態条項」である。これについて自民党は巨大地震や津波の対処を前面に押し出し「選挙実施が困難な場合における国会議員の任期延長」を規定した。同時に「国会による法律制定をまつ暇(いとま)がない特別の事情があるとき内閣が国民の生命、身体及び財産を保護するため政令を制定することができる」と規定した。確かに大規模災害の対処は必要である。だが今回自民党が狙っているのは、一旦内閣が緊急事態を宣言すれば、国会審議もへず内閣が自由に法律(政令)を制定できる体制である。

 

 また2012年に自民党がまとめた改憲草案は、今回の条文イメージより突っ込んだ方向性を示している。草案の「緊急事態」の項では、九八条一項で内閣総理大臣に閣議のみで緊急事態宣言を発する権限を持たせ、同条二項で事前の国会承認がなくても発動できることを明記している。さらに九九条一項では内閣に法律と同じ効力を持つ政令を制定する権限を持たせ、内閣総理大臣が「財政上必要な支出その他の処分」をおこなうことを認めている。内閣総理大臣が緊急事態宣言を発すれば内閣が自由に法律をつくることもできるし、内閣総理大臣が国家予算を意のままにできる体制である。

 

 憲法はもともと内閣(行政)、国会(立法)、裁判所(司法)の3つの独立した機関が相互に抑制しあってバランスを保つ「三権分立」を基本原則としてきた。国会と内閣の関係でいえば、内閣が国会召集や衆院解散の権限を持つが、国会側は行政に必要な法案整備の権限を持ち、内閣不信任決議を上げたり、内閣総理大臣を任命するなど、内閣がおかしな方向へ進むことを牽制する役割がある。とくに国会は国民が直接政治に参加する場であるという性質から「国権の最高機関」と位置づけている。ところが緊急事態宣言を発すればこの三権分立を否定し内閣に法律をつくる権限が移る。それは国会を何の権限もない飾り物にする意味合いを持っている。

 

 そして問題はどのような事態を「緊急事態」と規定するかである。九八条では、①外部からの武力攻撃、②内乱等による社会秩序の混乱、③地震などによる大規模な自然災害、の三点を例示した。しかし自民党は「ここに掲げられている事例は例示であり、どのような事態が生じたときにどのような要件で緊急事態の宣言を発することができるかは、具体的には法律で規定される」(自民党改憲草案Q&A)とのべ、さまざまな事件を「緊急事態」と規定できる余地を残した。条文にも「その他の法律で定める緊急事態」を適用項目に潜り込ませた。

 

 こうして総理大臣が「緊急事態に指定する必要がある」と認めればテロ、全国的なストライキや大規模デモをともなう抗議行動、死者を多数出すような交通事故や事件、大規模停電によるインフラ機能の停止、周辺諸国との軍事緊張…などあらゆる事象が適用対象にできる。それはワイマール憲法や大日本帝国憲法で規定した国家緊急権の焼き直しであり、国民的な論議も承認もないまま内閣が勝手に戦時立法を制定して戦争動員や大量虐殺に駆り立てていく危険性を持っている。

 

 「合区解消・地方公共団体」は一票の格差是正が表向きの理由だが、ここに「地方自治」の性格にかかわる条文を盛り込んだ。もともと「地方公共団体は」としていた規定を「基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本…」と変えた。これは民意が反映しにくい広域自治体や道州制を基本的な単位にしていくという内容である。

 

 「教育の充実」では「教育を受ける権利」や「義務教育無償」の条文の後に「国は、教育が…国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み…教育環境の整備に努めなければならない」と追加した。九条改定や緊急事態条項導入を盛り込んだ国の利益に尽くす国民育成に国が強力に関与する姿勢を示した。国が「教育の充実」や「教育無償化」を掲げて学問・研究分野への統制へ乗り出す方向が露呈している。

 

自民党の改憲草案 国家権力が国民を規制

 

 この改憲四項目と自民党がまとめた改憲草案を合わせてみると改憲の狙いがより明確になる。

 

 自民党改憲草案の憲法前文は「政府の行為によって再び戦争の惨禍がないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」という現憲法の文面を削除した。そして「我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する」と追加した。「戦争をしない」という文面を削り「世界平和への貢献」の装いで、自衛隊の海外派兵、とくに米軍が主導する有志連合をはじめとする軍事行動へ積極的に参加していく意図をにじませている。

 

 また「天皇」の文字が一言もなかった前文に、日本は「国民統合の象徴である天皇を頂く国家」と加筆し、第一章「天皇」の項には「天皇は日本国の元首」と明記した。それは主権在民という基本原則を根本から覆す方向を示している。

 

 第二章では「戦争の放棄」の章題を「安全保障」に変え「戦力不保持」「交戦権の否認」を明記していた九条二項をまるごと削除している。さらに「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」との規定を新設した。この国防軍は「国際的な活動」や「公の秩序の維持」「国民の生命や自由を守るための活動」が任務で、時の政府の方向性に異議を唱える抗議行動が激化すれば、治安弾圧に出動することを認めている。これは「自衛隊明記」がどのような方向を目指しているかを示唆している。

 

 第三章では「国民の責務」を新設し、従来の「公共の福祉のために国民の権利を利用する責任を負う」という規定を「常に公益及び公の秩序に反してはならない」と変えた。それは米軍や自衛隊による土地接収や食料提供、大企業による風力発電建設など、国策に反発する住民がいたら「公益及び公の秩序」を掲げ強引に従わせる内容である。この項では集会結社の自由や表現の自由、公務員の団結権も含めすべて「公の秩序」によって制限できると明記している。国家権力の暴走を規制し国民の権利保障を基本としてきた憲法を、国家権力の思惑に沿って国民の側を規制する憲法に全面改定する内容を盛り込んでいる。

 

 第五章の「内閣」では、これまで内閣総理大臣とその他の国務大臣は「文民でなければならない」と規定していたが、改憲草案は「現役の軍人であってはならない」とした。軍人の大臣主導で戦争へ突き進んだ反省から規定された「文民統制(シビリアン・コントロール)」の否定である。

 

 「最高法規」の項では「憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」(第九七条)という条文を丸ごと削除している。

 

 このような改憲案を早急に実現するため、安倍政府は次期国会で改定国民投票法案を早急に成立させ、改憲に向けた四項目を衆参両院で審議することを目指している。改憲の手続きは衆院100人以上、または参院50人以上の賛成で改憲原案を国会に提出するのが始まりとなる。その後、衆参両院の憲法審査会での審査を経て、それぞれの本会議で総議員(欠席議員を含む)の3分の2以上の賛成で可決すると、素案が国民投票にかける改憲案となる仕組みになっている。

 

 現在、安倍政府は改憲内容の全貌を示して全国民的な論議をするのではなく、「憲法に自衛隊を明記するか否か」「改憲が必要か否か」「災害時に対応する緊急事態条項が必要か否か」など、ワンフレーズのみを切りとって二者択一を迫るような論議を煽っている。しかし改憲四項目と自民党改憲草案が目指す内容は、痛ましい戦争の反省から作られた憲法の規定を全面崩壊させ、最終的には日本を「戦争ができる国」にすることが狙いである。それは国民主権を冒涜した聞く耳のない政治の強行、基本的人権を否定した福祉切り捨てや経済的困難の拡大とも同根である。

 

 秋の本格論議を目指している安倍政府の改憲策動は、アメリカの盾となって「日本を再び戦争をする国にするのか」「国土を再び戦火にさらすことを許すのか」が最大の焦点である。それは日本の未来と命運がかかる問題になっている。

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この記事へのコメント

  1. 吉村直也 says:

    山口県にこんなまともなことを書く新聞があることに驚いている。正直に言って山口県にはあまり良いイメージがなかった。安倍首相の地元で良くここまで書けたと見直しています。もっと、山口県以外の地域にも知られるようになるといいですね。他の地方紙との連携などして、大手メディアに負けない発信力を得られると世の中も変わるかもしれませんね。

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