いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『種子』(アジア太平洋資料センター製作のDVD)

 国会でまともな審議もなされないまま、今年4月1日に種子法が廃止された。日本人の主食であるコメやムギ、大豆など公的に保障してきた主要作物の種子供給に民間参入を促すものであり、その危険性について専門家や農業地域の地方自治体をはじめ多くの関係者が警鐘を鳴らしている。本作は2010年以降、通称「モンサント法案」がかけめぐったラテンアメリカの国国(エクアドル、ブラジル、コスタリカ、メキシコ、ホンジュラス、アルゼンチン、コロンビア、グアテマラの8カ国)でのタネをめぐる動きを描いたドキュメンタリーだ。原作(2017年6月公開)は8カ国のNGOや農民組織8団体の共同製作。日本国内で種子を守ることを問いかけたいと、NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表の内田聖子氏が日本語吹き替え版の製作を企画し、クラウドファンディングで資金調達した。

 

 本作を構成しているのは先祖代代受け継いできたタネを守り発展させながら農業を営んできた各国の農民や先住民族、少数民族の人人だ。トウモロコシの原種であるテオシントや多様なトウモロコシ、インゲン豆など、1万年前にたった1粒から始まったタネは、これらの人人に受け継がれるなかで多様化し、共有され、世界を旅して食の基礎となった。豊かなコミュニティや食文化、伝統をも生み出した。

 

 しかし、「緑の革命」以降、アメリカが工業的農業の推進に踏み出すなかで、タネは知的所有権の対象となり、多国籍企業による支配が進められた。モノカルチャーと大型機械の使用、農薬の大量使用、土地の一極集中にもとづく工業的農業モデルが押しつけられ、クレオール(伝統的な固定種)のタネは企業に握られ、生産性が低いとされた。「生産性が高い」とされる均質化された改良種が宣伝され、20世紀のあいだに1万年かけて育まれたタネのうち4分の3の品種が失われたという。

 

 ラテンアメリカでは2010年以降、農民による種子の保存を禁じ、認証されたもの以外の種子を交換・販売することを犯罪とする通称「モンサント法案」を制定する動きが各国で始まる。アメリカなどとの自由貿易協定締結にともなって、新品種の育成者に権利を与える「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UPOV・ユポフ条約)への加盟が強制されたためだ。登録されたタネの多くは外国企業のものであり、種子市場を独占する遺伝子組み換え企業・モンサント社を利するものとして、各国で「タネの私有化反対」を掲げ農民たちのたたかいが巻き起こっていく。

 

 メキシコ、チリでは廃案となるが、ホンジュラス、コロンビア、グアテマラでは法案が成立する。コロンビアでは2010~2013年のあいだに400万㌔以上ものタネが強制的に押収されるということまでやられた。

 

 しかし、グアテマラでは2014年6月10日の法成立以後、大きな反対運動が起こり、憲法裁判所がモンサント法の無効を宣言、廃止に追い込んだ。映画では同年9月4日、先住民族と農民組織がおこなったタネの私有化に反対するデモの様子などをとりあげ、その息吹を伝えている。コロンビア、ホンジュラス、ブラジル、アルゼンチンなどでも遺伝子組み換え作物の侵略に反対するたたかいは続いている。

 

 農業ストライキやデモ、違憲訴訟など政治的な運動とともに、後半で紹介されているのが、クレオールのタネを守り引き継ぐとりくみだ。多国籍企業が世界中のフードチェーンを掌中に収めようとしているなかで、「タネを守るための最初の行動は、タネを播き、生産し、食べることだ」として地域のタネを保存し、回復する実践が各地で広がっているという。一人一人の農民がタネを播いて家族や仲間を養うことで抵抗し、タネの市や民衆の市、農民の集まりでタネを交換することで抵抗している。

 

 グアテマラのカチュ・アローム連盟はタネの守り手である女性のグループ。祖先の「タネの家」を運営し、ネイティブとクレオールのタネをコミュニティで集めている。みなが持ち寄り150種集まっているという。ネイティブとクレオールのタネの保存は、改良種と遺伝子組み換え種子の侵略からタネを守り、救い出す戦略だ。

 

 マム地方では女性がタネの採り手と守り手となり、ネイティブとクレオール種のタネの家と畑、木のタネを育てる苗床を持っている。女性たちは森でタネを集め、家で乾かしたあと連盟に持参する。そこでタネを見分ける係がゴミが混じっていないかを調べ、種子バンクに保存する。

 

 映画はそうした農民のタネが、コミュニティを破壊する農業モデルにノーを突きつける抵抗の力、農民が土地をとり戻す時の抵抗の力、そしてよりよい生活への希望のタネとなっていることを伝えている。「タネが食料主権のたたかいと結びつき、世界中の人人を養い続けるとき、タネは人人の力となる」と。

 

 「タネはコミュニティや文化の中心だ。タネがなければ民主主義の構築は不可能だ」「コミュニティでタネ銀行をつくり、その後企業のタネは入って来ない。自治権をとり戻したのだ」と、語る人人の言葉には、「タネを守り食料主権を守る」意志が溢れている。

 

 本編のほか解説編として『日本の種子はどうなる?―種子法廃止、遺伝子組み換え(GMO)、貿易協定から考えよう』が収録されている。
 (NPO法人アジア太平洋資料センター製作、本編41分、解説編30分

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