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『遺伝子組み換えルーレット』(DVD) ジェフリー・M・スミス 原作

 種子法の廃止、種苗法の改正論議、遺伝子組み換え(GM)食品の氾濫など、食の安全が揺らいでいる。輸入に依存する日本は、大豆や小麦をはじめとした穀物の多くをアメリカからの輸入に依存してきた。そのアメリカでは、この20年でアレルギー、糖尿病、自閉症、不妊、出生障害をはじめとする慢性疾患が激増し、その大きな要因がGM作物によるものであることが、さまざまな研究から明らかとなりGM食品の表示義務を求める世論が広がっている。

 

 本作品はGM食品が引き起こす健康被害の問題を、アメリカの医学・医療関係者、政府の食品安全審査にかかわる研究者、自閉症やアレルギーに苦しむ子どもの親たち、家畜の健康障害を扱った獣医など、多数の証言と科学的根拠から浮かび上がらせる。遺伝子組み換え問題の専門家として国際的に名をはせるジェフリー・M・スミス氏が制作しており、アメリカで注目を集め、GM食品の安全性を問う論議を活性化し、アメリカ社会に大きな影響を与えた。

 

 遺伝子組み換えとは何なのか。実際におこなわれている遺伝子組み換えのわかりやすい具体例として「ヤギの乳からクモの糸のたんぱく質を抽出して防弾チョッキをつくる」「牛の遺伝子を豚に組み込み牛皮を持つ豚をつくる」などをあげる。遺伝子組み換えによって生まれるのは自然界には存在しない異物だ。それが人間の体内に入ると、人間の健康や生命に危険をもたらす。アメリカでは1996年にGM食品が導入されて以後、国内でアレルギーや心臓病、自己免疫疾患が急増してきた。

 

 GM穀物の特徴は、食物そのものに殺虫効果を持たせ、さらに除草剤ラウンドアップの耐性を持つ。アメリカでは当初「GM食品は人間や動物には無害で昆虫を殺すだけ」といわれてきたが、2009年にアメリカの環境医学会が過去の動物実験を分析したところ、三つの問題点が明らかとなった。一つは免疫システムに悪影響を及ぼすこと、二つ目は生殖系や出産に関して孫、ひ孫の代になると数の減少や健康に問題が出ること、三つ目は解毒臓器(肝臓や腎臓)を傷つけていることがわかり、GM食品の流通を止めるべきだと訴えている。

 

 またGM食品を食べた場合、大人よりも子どもへの影響が大きいこともわかっている。子どもは新陳代謝が活発で呼吸数も多く栄養もたくさん必要だ。また大人よりも毒素に敏感だが、耐性がない。アメリカではリーキーガット(腸の損傷)を抱えた子どもが増えており、腸が損傷していることにより食べ物が血液に漏れ出し、食物過敏やアレルギーになるということもわかってきている。

 

 また除草剤ラウンドアップをまいた食品は栄養価が低く、それを飼料にして育った牛や鳥、豚などの動物の体内には成分が蓄積し病気になりやすい。そしてそれを食べる人間の病気も誘因している。その他、出生異常や不妊なども増加している。

 

私たちは実験道具ではない 地道な運動が食品業界動かす

 

 この作品に登場する母親たちは、わが子がアレルギーや自閉症といった症状に悩み改善をめざすなかで、GM食品の危険性に気づき子どもを守るために行動を始めている。農業者は育てていた牛や豚たちが、GM飼料で病気になったり死んでしまう経験をするなかでGM食品に疑問を持ち声を上げ始めている。そういった母親や農業者たちと一緒に声を上げ、科学的根拠を示しながらたたかっているのが科学者や研究者たち。彼らはモンサント社という企業が、世界の食糧生産を支配するためにつくり出したGM食品が自然や人間にとっていかに有害であり必要ないものであるかを、具体的事例や科学的根拠を持って示しアメリカ社会だけでなく世界に向けて危険性を訴えている。

 

 登場する科学者たちは、GM食品の危険性を示す研究結果を発表すれば、所属する大学から圧力がかかったり、研究資金を絶たれたりもしており、「金儲けか科学者の真意を貫くかの二択を迫られた」と語っている。モンサント社はアメリカ政府中枢に要人を配置し、企業の利益が損なわれないように食品安全基準を緩く設定し、危険性を隠蔽し、不利になる動きは徹底的に潰してきた構造も暴露している。

 

 アメリカでは「私は実験道具ではない」と訴え、多くの母親たち、消費者たちがGM食品の表示義務を求めて動き始めている。ドキュメンタリーでは、真実を知り共有することでGM食品を買わない、選ばないことが、食品業界を動かすのだという具体的な行動も示している。

 

 アメリカでは2015年に右肩上がりに増え続けていたGM作物の生産量が減少した。これはアメリカのバーモンド州でGM食品の表示が始まったことが要因だ。世論の広がりのなかで消費者はGM表示のあるものは買わなくなり、食品業界もGM作物を原料に使わなくなり、生産量が減少したといわれている。

 

 多くの穀物を海外からの輸入に依存する日本。輸入先の国を考えれば日本人が知らず知らずのうちに一番GM食品を食べている可能性がある。このドキュメンタリーはアメリカの話ではなく、日本の問題であると痛感させられる。2012年にアメリカで上映され衝撃を与えたドキュメンタリー。日本語版制作プロジェクトの中心にはアジア太平洋資料センターがかかわっている。 
        
 (アジア太平洋資料センター出版、87分、本体4000円+税

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