いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

「メルヘンを現代にいかす 実は深い『白雪姫』の世界」 児童文学作家・村中李衣氏が講演

 下関市の読み聞かせグループ「あかね会」の50周年記念行事として1月下旬に村中李衣氏(児童文学作家)が『メルヘンを現代に生かす』と題して講演した。「メルヘン」の語源は中世のドイツ語で、メーレとフェンを組み合わせた「小さな口で伝えるお話」というもので中世ヨーロッパで伝えられたものだ。「メルヘン」と聞くと、夢物語や華やかなものをイメージするのは、ウォルト・ディズニーの創作による影響が大きいという。グリム童話には実は深い内容があり、今回は『白雪姫』について掘りさげた。

 

 グリム兄弟がドイツの森の中で再話した『白雪姫』は次のように始まる。「冬のさなかのことでした。雪が空から羽のように舞い降りていました。黒炭の枠のある窓べで1人のお妃が縫い物をしていました……。お妃はチクリと指を針で指してしまいました。血が3滴雪の上に落ちました。白い雪の上で赤色がたいそう美しく見えましたので、お妃はこう思いました。“肌は雪のように白く、ほっぺたは血のように赤く、髪の毛はこの窓枠の木のように黒い子どもが産まれたら”……」。

 

 白雪姫を生んだお妃はすぐに亡くなり、継母に育てられる。何年かたって自分より美しい白雪姫に怒った継母は、森のなかで暗殺しようとするが、白雪姫は狩人に助けられる。白雪姫は森の中で小人の家に滞在するが、再び継母の策略によって毒入りリンゴを食べさせられて倒れるが、王子がやってきて目を覚ますという物語だ。

 

 村中氏は、メルヘンの特徴を色、数字、エネルギーの移動の側面から紹介した。「物語の冒頭は木のように黒い髪と雪のように白い肌、血のように赤いほっぺ、という黒、白、赤の3色が出てくる。黒が象徴しているのは死とか男性性、力。白は純粋無垢、赤は女性性だ。この3色はメルヘンの3原色といわれている。昔話に出てくるのはカラスや白鳥、赤ずきんなどの黒白赤がほとんどでパステルカラーは出てこない」と説明。

 

 物語が動くのは白雪姫が7歳のとき。自分より美しい白雪姫に怒った継母は、狩人に依頼して暗殺しようとする。だが継母に暗殺を命じられた狩人は「白雪姫があまりにも美しい」ため、代わりにイノシシの肝と肺=獣の内臓を持っていく。

 

 そして白雪姫が森の中で出会うのは7人の小人たちだ。「メルヘンの世界では7という数字にもポイントがある。メルヘンでは4、8は安定した数字として使われ、3や7は不安定で何かが動き出す感じの場合に用いられている。白雪姫が少女から女性へ変わるのが7歳だ。また白雪姫では“鏡”が登場するが、昔話には鏡と同じように水、池、泉などがたびたび登場する。これは自分自身を映し出すものとして用いられる」「小人は中世のドイツで鉱山を掘っていた男たちのことで、山の奥深くに住んでおり当時のヨーロッパ社会から排除されていた人たち。7人の小人に白雪姫が加わって8人になり、非常に安定した世界であり、外から左右されない動かない世界という意味がある」と説明した。

 

 さらに物語が進むのは白雪姫がタブーを破ったときだ。白雪姫は小人にいわれた「何があっても決して誰も家の中に入れてはいけない」といういいつけを破って、物売りに化けた継母を3回とも家に入れてしまう。一番最初は飾り紐、2回目は櫛、3回目が毒入りリンゴだ。「白雪姫は約束を破った。昔話のなかでタブーを破らなかった人は誰一人いない。タブーは古い、安定したところに押しとどめようとする力ということだ。主人公が自分を生きようとするとき、危険をともなうけどそれは破らずにはおれない。そういうエネルギーを描いていると見ることができる」と説明した。

 

 1810年のグリム兄弟が再話したとき、毒リンゴを食べた白雪姫を助けるのは、戦の帰りに通りかかった父親によると描かれているが、多くの人が知る物語は王子が通りかかって目覚めさせるという内容だ。村中氏は、「白雪姫の目覚めの描き方もとても重要だ。白雪姫の目覚めのきっかけは接吻、揺らして起こす、家来が木の切り株につまずくの3つのパターンがある。ディズニーは白馬に乗った王子の接吻、つまり愛の力による目覚めと描く。だがグリムが伝えたのは、運んでいる途中で家来が木の切り株につまずいた拍子にリンゴがこぼれ落ちたという内容だ。グリム童話では、男性の力によって女性が目覚めるのではなく、女性が自分の内なるエネルギーの推移のなかで目覚めていくという設定で、愛の物語ではない。このメッセージは大事だし、実は今に生かされる内容だと思う」とのべた。物語全体を通して、「母親から白雪姫にエネルギーが移り、白雪姫から継母にエネルギーが移行するが、白雪姫と継母が森のなかでエネルギーの拮抗をくり返す。けれども最終的には古いエネルギーから新しいエネルギーへの移行をくり返すリズムや仕掛けがある。メルヘンの世界には現代に通じるエネルギーの流れがある」と説明した。

 

 今回の講演会には、下関市内で子どもへの読み聞かせ活動に携わる人たちが多く参加していた。村中氏は、「白雪姫もメディアによって内容や表現が微妙に違う。本を忠実に読むのではなく、読む人が内容を理解し、自分の声で物語を自分の内側で育てて、それを次の人に伝えていくことが大事だと思う」とのべた。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。