いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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破綻が深刻化する米国経済  公金135兆円投入しても効果なし  ビッグ3も倒産の危機 

 金融恐慌の引き金を引いたアメリカでは、政府がいくら公的資金を投入しても、世界最大級の金融機関や製造業企業の倒産や破たんに歯止めがかからず、パニック状態に陥っている。11月1カ月間だけで53万人以上が職を失い、これまでのリストラ・首切りは100万人を突破した。サブプライムローンなど債権を証券化した各種金融商品を売りつけて、詐欺的商法で架空の消費を煽ってきた「カジノ資本主義」が大破たんをきたし、1930年代の世界恐慌に匹敵する大恐慌に資本主義世界をたたき込んでいる。
 GM(ゼネラル・モーターズ)をはじめとするビッグ3(米自動車大手3社)、とくに世界最大のGMが倒産の崖っぷちに立たされていることは、恐慌の深刻さを象徴している。
 アメリカの就業者の10人に1人が自動車関連産業に従事しており、全土で約500万人の雇用が支えられている。そのGMの破たんは「アメリカ連邦そのものの破産に等しい」といわれるほどだ。
 アメリカでは、1971年のニクソンによる金・ドル交換停止以降、金交換の制約を逃れたドルをだれはばかることなく世界中にばらまき始めた。独占財団は多国籍企業化に拍車をかけ、海外権益を膨張させる一方で、国内の製造業を衰退させた。すでに鉄鋼産業は衰退し、電気製品の製造業はアメリカ本国からほぼ姿を消した。アメリカに残るめぼしい産業は、金融・サービス業だけとなった。製造業の中心となっていた自動車産業の危機は、アメリカの没落を示すものだが、とりわけ得体の知れないさまざまな金融派生商品で煽られてきた過剰消費の破産を意味するものだった。07年のアメリカの個人消費は、GDP(国内総生産)の71%を占めていた。
 ビッグ3に140億㌦の緊急融資をするという救済法は12月11日米議会上院で否決された。その背景にあるのは2009年の自動車販売台数が08年見込みの1300万台からさらに1200万台前後に落ち込むという厳しい予測だった。
 ビッグ3が新車販売台数の急減と銀行融資の規制で深刻な現金不足となり、当面の運転資金にも事欠くと訴えたことも通らなかった。
 GMは法案の否決を受けて、国内20カ所の工場を08年以内に一時休業すると発表。09年第1四半期の生産目標を60万台から42万5000台に落としたが、これは前年同期の生産台数の半分以下の水準だ。アメリカ第二の自動車メーカーであるフォードの生産予定台数は43万台。GMがフォードを下回るのは1998年以来、11年ぶりである。
 GMは10月初め、スポーツ用多目的車生産工場の閉鎖による1200人の解雇、組立工場や部品工場閉鎖で2780人の解雇を発表した。クライスラーも2つの工場労働者1825人、さらに給与労働者、契約労働者5000人の早期退職による人員削減をうち出している。ビッグ3救済法案は否決されたが、ホワイトハウスは「金融安定化法の活用を含めて救済策を検討する」と表明、法案にあった「労働者の賃金の外国企業並みへの引き下げ」を条件にしている。

 11月には53万人が失業 失業は全米に波及 
 自動車メーカーでのリストラは、とくにデトロイト一帯の高い失業率の引き金となってきたが、失業の波は今や全国的な広がりを見せている。08年11月の新たな失業者数は53万3000人で、月間では34年ぶりの高い水準だ。失業率は6・7%で、これも15年ぶりの高水準だ。失業者の多数は、金融機関の22万人に次いで、自動車産業の12万人が占めている。
 11月には、アメリカ最大の銀行シティグループが破たん寸前の危機に立った。住宅バブルの崩壊で巨額の損失を被り、資金繰りに窮した。ゴールドマンサックスからは「救済合併」を拒否され、政府が新たな資金注入と不良債権買いとりによる実質上の国有化をおこなった。
 政府の救済策は、①シティの不良債権3060億㌦に今後損失が出れば、九割を政府が肩代わりする、②先の250億㌦の資本注入に加え200億円を追加注入するというもの。最高経営責任者(CEO)パンディットらは留任、経営責任は問われないが、労働者5万人は解雇され、住宅ローンの金利は引き上げられた。
 シティグループは2000年代、大量の資金を住宅ローン担保証券の購入など住宅バブルにつぎ込み、05年、06年に2兆数千億円の純利益を上げた。だが、住宅バブルの崩壊とともに、住宅ローン担保証券などの価格が暴落し、ばく大な損失を負った。株価は今年に入って80%以上下落し、3㌦割れ寸前と事実上の倒産価格まで落ち込んだ。
 投機によって総資産2兆㌦、世界最大の金融機関にのし上がったシティグループがいったん破産するとなれば、「影響が大きい」としてブッシュ政府はあわてて救済策を決めた。国家管理を決めた以上、政府は国民の税金である国家資金を果てしなくつぎ込まざるをえなくなる。
 他方、シティグループは35万人の労働者のうち5万人を解雇すると発表。日本でも、傘下の日興コーディアル証券で40歳以上の従業員を対象にした希望退職募集を始めた。また「住宅ローンの問題債権については、ローンの条件を変更する」として、住宅ローン金利の引き上げや強制回収などを表明した。破産してもなお労働者や勤労人民を犠牲にするあこぎさを示した。
 こうしてサブプライムローンの破たんによる金融危機が発生したことで、過剰生産の実態があばかれ、全面的な恐慌に突入、労働者、勤労人民の購買力が激減し、ものが売れなくなってしまった。金融機関では住宅だけでなくクレジットカード、自動車などあらゆる債権を証券化して売りつけたものが回収できなくなり、不良債権処理が最大の問題となった。
 他方、産業や流通資本のところでは、自動車、住宅をはじめあらゆる商品が売れなくなり、当座の運転資金すら欠いて倒産の危機に直面することになった。すでに11月には、家電販売大手のサーキットシティが経営破たん。ホームデポ、シアーズ、アン・テイラーなどの大手小売も次次に店舗数を縮小している。ニューヨーク、カリフォルニア、フロリダなどを中心に商業物件の倒産危機が切迫している。これがさらなる失業の増加や個人消費の減退につながり、景気後退の悪循環に拍車をかけることは必至である。

 税金まき上げ企業救済 国民との矛盾は激化 
 アメリカを代表する金融機関と企業が軒並み経営破たんに追い込まれるなかで、ブッシュ政府は7000億㌦(63兆円)の公的資金注入を決め、連邦準備制度理事会(FRB、中央銀行に相当)は、11月末の8000億㌦(72兆円)の金融市場対策に続き、今月16日、政策金利の0~0・24%への引き下げ(現行1%)金融の量的緩和を決めた。あわせて1兆5000億㌦(135兆円)の資金を投入することになったが、恐慌の深化は急激である。
 政府自体が11兆㌦(1000兆円)近い借金を抱えている状態であり、実質的には倒産による処理と同じような手段しか残っていない。
 FRBのゼロ金利政策は、破たん処理に多額の融資を求められている金融機関や大企業に対して金利負担を軽くしてやること、また住宅をはじめとするローンの金利を低くして、消費の拡大をはかることである。量的緩和政策は破たん寸前の企業が資金集めのために発行するコマーシャルペーパー(CP、無担保の約束手形)や不良債権化した証券などを大量に買いとるためである。いずれも眼目は独占企業や金融資本の救済にある。
 同時にこの政策は、ドルの下落、ドルの信用低下をもたらさざるをえない。また、FRBが多額の不良債権を抱え込むことになる。さらに日本に対しては、円高ドル安をもたらし、輸出企業の大「合理化」や為替対策に巨額の国家資金投入などを強制する。
 FRBはゼロ金利政策の前段で8000億㌦の金融市場対策を発表している。それは、3つの柱からなっている。
 ①消費者ローン市場に2000億㌦を投入する。住宅、自動車、学生などあらゆるローンを証券化したものは高利回りだが、それより低い利回りで短期資金を集め、利ザヤを稼ぐ企業を救うためだ。シティやバンク・オブ・アメリカなどが出資しているその企業が、金融恐慌が始まって不良債権がたまり、破たん状態になっているからである。
 ②政府系住宅金融3社が保証している不動産担保証券(MBS)は、総額で5兆㌦を超えており、不良債権化が進むごとに資金が減っている。債務超過になるのを防ぐため、とりあえずMBSを5000億㌦を上限に買いとる。
 ③破たんして政府管理下に入っているファニーメイ、フレディマック、連邦住宅貸付銀行がこれから起債する社債を一般競争入札を通じて最大1000億㌦(9兆円)購入する。見ての通り、いずれも金融資本救済が狙いであり、住宅を差し押さえられた人民を救済するものではない。
 ところで、ブッシュ政府は7000億㌦(63兆円)の資金注入を決めており、そのうち3500億㌦分については使途をほぼ決定している。
 それは、銀行、証券、貯蓄貸付組合に2500億㌦、保険会社AIGに400億㌦、シティに200億㌦、FRBに200億㌦――というものだ。さらに今月19日GM、クライスラーに対して最大174億㌦(1兆5000億円)のつなぎ融資をすることを決めた。
 政府、FRBあわせて135兆円規模の資金を注入するわけだが、その原資は税金であり、あるいはドル紙幣の増刷によってまかなうものである。日本政府と独占資本も、アメリカの金融救済政策に追随し、日銀はアメリカに従って金利を引き下げ独占資本への資金注入の方針を決めている。
 独占資本と政府は、アメリカも日本も同じく労働者や人民には競争原理主義、自己責任などといって構造改革をやり、貧富の格差の拡大、派遣労働者らの有無をいわさぬ首切りをやってきている。企業が黒字で十分な利益を出す限りにおいては労働者を雇うが、企業が生き残るためには容赦なく首を切って、師走の路頭に平気で放り出すのである。社会の生産を担う労働者にまともな仕事や生活を保障できない支配者は、もはや失格であり、さっさと歴史の舞台から引き下がるべきである。

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