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新型コロナウイルスの起源めぐる科学者たちの見解に見る 否定される「武漢発生説」

 新型コロナウイルスの起源を解明するために中国・武漢を訪れていたWHO(世界保健機関)の国際調査団が記者会見で、アメリカ政府が主張していた武漢ウイルス研究所からの流出の可能性はきわめて乏しいとする一方で、輸入冷凍食品から人に感染した可能性があり、今後の調査研究で解明していく必要性を明らかにした。これに対し、マスコミは「中国側の主張を全面的に受け入れた調査結果」だとして、その疑わしさを問題にしている。

 

WHO国際調査団の記者会見

 だが、新型コロナウイルスの起源解明は政治ではなく科学の問題である。新型コロナウイルスの起源と出所を探ることは、どこかの国の責任を追及することではないのだ。ウイルスの中間宿主(ヒトに感染させた動物)を突き止めてヒトへの感染のメカニズムに迫る研究は、新型ウイルスから多くの人々の命を救ううえで要の位置を占めている。

 

 今回、WHOの国際調査団が公表した内容はこれまで世界の科学者が進めてきた新型コロナウイルスの発生と変異についての研究報告と一致しており、その延長戦上にあるといえる。新型コロナの起源に関する研究は2019年12月、武漢で最初にヒトへの感染が判明して以来、世界の科学者たちが進めてきた。それは多くの研究成果としてさまざまな論文で明らかにされている。

 

 昨年2月19日、欧米、アジア、豪州八カ国の公衆衛生(ウイルス学、微生物学、免疫学、新興感染症など)を専門とする科学者27人が国際的医学専門誌『ランセット』に公表した共同声明で次のように指摘していた。

 

 「世界各国の研究者はすでにこの疾病を引き起こす病原SARS―CoV2の全ゲノムを分析し、結果を公表した。こうした結果は、このコロナウイルスが他の新興病原体と同様に野生動物に由来するものであることを圧倒的に証明している」

 

 この声明はそこから、トランプ政府などが流布する新型ウイルスが「生物兵器研究所から漏えいした」とか、「人為的なもので自然界の起源を持っていない」などとする陰謀論が科学を冒とくするものであり、「新型肺炎との闘いにおけるわれわれの世界的な提携を危うくする恐怖心、うわさや偏見をもたらす以外の何物でもない」と強く批判するものとなった。

 

 それは、「科学的研究による証拠は、この疾病をもたらす新型コロナウイルスが研究所で合成されたものではなく、自然進化の産物であることをはっきりと示している」(英誌『ネイチャー メディシン』)、「このウイルスが研究室から漏えいした、あるいは研究室で製造されたと考える理由はない。このウイルスの遺伝子構造は自然のものだ」(ベルギーのエマニュエル・アンドレ博士、ウイルス学者)などの研究成果に見るように、科学界の一致した見地となってきた。山中伸弥・京都大学教授もみずからの情報発信サイトで「新型コロナウイルスは人工的に作られた」というのは、「証拠の乏しい情報」だと指摘してきた。

 

 さらに、新型コロナの発生と変異についての研究が進むなかで、このウイルスが中国の武漢で感染する以前から世界各地に存在していたことが明らかとなってきた。昨年2月、中国の『南方医科大学ジャーナル』に発表された査読論文は、新型コロナウイルスが発生した期間は2019年9月23日から2019年12月15日の間である可能性が高いこと、また当初、新型コロナウイルスの発生源と見られていた武漢市の海鮮市場以外の場所から感染が始まった可能性が高いことを報告していた。そこでは、新型コロナウイルスと遺伝子配列が最も似ているコウモリが持つコロナウイルスには時間的な進化関係が存在しないこと、つまり中間宿主の解明の必要性も指摘していた。

 

 その後の各国の研究により、2019年後半には世界各地で新型ウイルスの感染が始まっていたことがわかってきた。

 

 米国疾病対策センター(CDC)と米国赤十字による調査から、中国で最初の症例が発覚する1カ月前から、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの3州で新型コロナウイルスによる感染があった可能性が明らかとなった。また、2019年後半の全米の病院データ分析では、インフルエンザ患者が急増しその多くが「激しい咳」など重度の呼吸器症状を示していた。これについて、米疾病対策センターのロバート・レッドフィールド所長が米下院証言で、「インフルエンザウイルスによる死亡と診断された人のうち、実はコロナウイルス感染が原因だったケースがあった」と証言している。

 

 アメリカ以外でもこの間、イタリア、スペイン、フランス、ブラジルにおいて新型コロナウイルスが中国・武漢での感染発生より早い時期に発生したことを示す研究結果があいついだ。

 

 イタリアの研究者が実施した調査では、すでに9月に新型コロナの感染があった痕跡を示していた。さらに、イタリア北部のミラノとトリノの2019年12月の排水標本から、新型コロナウイルスの遺伝物質が検出されたことも報告されている。英オックスフォード大学CEBM(エビデンスに基づく医療センター)の研究でも、「ますます多くの証拠は、新型コロナウイルスがアジアで発見される前にその他の場所で存在していたことを証明した」「新型コロナウイルスは世界各地に潜んでいる。特定の環境条件によって活性化されるものであり、中国に由来するものではない可能性がある」との結論を提出している。

 

 喜田宏・北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター特別招聘教授は、1968年の香港かぜの伝播経路(カモ由来のウイルスがブタを中間宿主としてヒトに感染)を突き止めた研究者として世界的に知られている。同教授は今年に入って、「動物から人に感染を始めたばかりの新型コロナウイルスが、いきなりこれほど人に適合して中国・武漢で見られたような効率のいい感染爆発を起こすとは思えない。どこかで小規模の流行があって、インフルエンザと勘違いして見逃していた可能性もある。少なくとも、武漢の海鮮市場で人への感染が始まったという情報には疑問がある」「このウイルスの宿主と考えられるコウモリから直接、人に感染したとは思えない。必ず中間宿主がいるはず」(『東洋経済オンライン』1月27日)と語っている。

 

 ウイルス拡散は自然界で進展するもので、現在の科学では感染症が何年かかってどれほどの動物が関係して発生するのかは分かっていない。ウイルスは変異して強くなり、最終的に中間宿主からヒトに感染して、ヒトの間で伝播して初めて発見されることになる。2009年の新型インフルエンザウイルスもメキシコかアメリカ南部のブタから感染したことが突き止められている。

 

 新型コロナウイルスの起源に関する研究でも当初、変異が認められなかったが、最近になってイギリス、ブラジル、南アフリカなどで変異株がみつかり、さらに感染力を高めていることが明らかとなった。ちなみに、喜田教授はワクチン接種に当たっても、それで症状を抑えるが感染を防ぐことはできないこと、ウイルスはヒトに感染し変異を重ねて病原性を高めていくことを見極めることが重要だと指摘している。

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