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ベネズエラ沖に米軍艦派遣 石油不足救うイランの人道支援を妨害 

 南沙諸島近辺で原子力空母を2隻派遣し大規模な軍事演習や「航行の自由作戦」を展開している米軍が、ベネズエラ沖でも「航行の自由作戦」をくり返している。ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を誇るが、米国の執拗な経済制裁によって石油精製施設が稼働できず深刻な石油不足に陥った。コロナ禍に加えて食糧難、医療物資も不足し難民化する人々が急増した。このなかでガソリンを積んだ大型タンカーを派遣し人道支援活動を開始したのがイランだった。「航行の自由作戦」と称して、いいなりにならない国に軍事恫喝を加える米国の動きが中南米でも露骨になっている。

 

 アメリカ南方軍が15日、ベネズエラ沖のカリブ海で「航行の自由作戦」を実施したと発表した。米国側は「ベネズエラのマドゥロ大統領が、国際法で領海と認められている海岸線から12海里までの海域だけでなく、さらに3海里(5・4㌔㍍)沖合も領海だといっており、国際法違反だ」「マドゥロ政府が違法な麻薬の取引をしている」と主張し、ミサイル駆逐艦ピンクニー(排水量9648㌧)を派遣した。

 

 アメリカ南方軍司令官のクレイグ・ファーラー大将は「われわれは違法な主張に耳を貸すことなく、公海を自由に航行する権利を主張する。各国に保証された公海への進入、航行、通過の権利は、明確に国際法違反や制限対象にはならない」と表明した。

 

 米軍艦船がベネズエラ付近で「航行の自由作戦」をおこなうのはこれが初めてではない。1月には沿海域戦闘艦デトロイト(満載排水量約3300㌧)が「航行の自由作戦」をおこない、6月23日にもミサイル駆逐艦ニッツェ(排水量9648㌧)が「航行の自由作戦」を実施している。米国は中国や朝鮮半島近辺だけでなく、カリブ海周辺でも頻繁に軍艦を動員した「航行の自由作戦」を実施している。

 

 米国によるベネズエラ敵視策は2018年5月の大統領選からエスカレートした。大統領選挙は反米のマドゥロ大統領が勝利を宣言して再選を果たしたが、敗北した親米の野党指導者のグアイド国会議長は「不正選挙がおこなわれ、大統領は不在。自分が暫定大統領だ」と主張した。このときマドゥロ大統領の再選を認めず、グアイド暫定大統領を承認したのが米国だった。米国はそれ以後、大統領選やり直しを求めてベネズエラ政府に圧力をかけ続けている。

 

 こうしたなかトランプ米大統領は国営石油会社に制裁を科し、昨年8月にはべネズエラに全面経済制裁を科す大統領令を出した。ベネズエラ政府や関係者が米国内に保有する資産を凍結し、米政府との正式な取引や人道支援関連を除いた一切の取引を禁止した。

 

 こうした制裁がもたらす影響は甚大で、国連のバチェレ人権高等弁務官が「制裁はあまりに広範で、もっとも弱い人々への影響を和らげる措置が十分にとられていない」と懸念を示す動きとなった。バチェレ弁務官は「外国の企業や金融機関が米政府に罰せられるのを恐れ、ベネズエラ政府に関係する全取引を停止する恐れがある」「ベネズエラ経済は2013年から18年にかけて47・6%縮小しており、生活必需品不足にあえぐ一般の国民を一層追い込みかねない」と指摘した。

 

 こうしたなか、いち早く支援に動き出したのがイランで、今年5月、支援物資としてガソリンなどの石油製品を積んだ大型タンカーをベネズエラに出発させた。するとトランプは、イランのタンカーを軍事攻撃することに言及した。

 

 だがイランは「アメリカの違法で危険で挑発的な脅威は国際平和と安全保障を脅かす海賊行為だ。アメリカは世界で力を行使することをやめ、国際法の原則、特に公海上の輸送の自由を尊重する必要がある」(ザリーフ外相)と米国の不当性を訴える書簡を国連に提出した。ベネズエラのサミュエル・モンカダ国連大使は「米国の脅迫は、貿易と航行の自由に違反するものだ」と指摘し、同国のパドリーノ国防相は「イランのタンカーがわが国の経済水域に入域した時点で、ベネズエラ軍がイランのタンカーを護衛する」と発表した。イランは今年5月以後、タンカー5隻でベネズエラに約150万バレルのガソリンなどを供給している。
 

 

 こうしたなか、米国務省は6月下旬、ガソリンなど石油製品をベネズエラへ輸送したイランタンカー5隻の船長5人に制裁を科すと発表した。そして米国の領海内に入ると物資を没収する動きを見せている。だがイラン外務省は「不当な制裁に対抗するため両国は毅然として対応する」と取引継続の姿勢を示し、ベネズエラ側も「高慢さが行き過ぎている」(アレアサ外相)と屈服しない構えを見せている。中南米での「航行の自由作戦」は、南沙諸島周辺の「航行の自由作戦」がいかなるものかを考えさせる内容といえる。

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