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帰還大行進を継続するガザの人々を孤立させないために BDS運動を日本でも拡げよう! 役重善洋

 やくしげ・よしひろ パレスチナの平和を考える会事務局長。BDS japan事務局長。大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。著書に『近代日本の植民地主義とジェンタイル・シオニズム』(インパクト出版会、2018年)など。

 

 

 

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イスラエル軍の銃撃にひるまず抗議するガザ地区のパレスチナ人(5月14日)

 今年3月からガザ地区では「帰還大行進」と呼ばれる大衆的デモが行われており、毎週金曜日には、数千から数万人の人びとが、現イスラエル領内にある彼らの故郷への帰還とガザ地区に対する封鎖政策の中止を要求している。これまでに200人以上のデモ参加者がイスラエル軍の狙撃等によって殺害され、2万4000人が負傷しているが、いまのところデモが止む気配はない。

 

 これだけの長期にわたるパレスチナ人の大規模な大衆運動は、2006年ごろまで続いた第2次インティファーダ以来のものである。しかし、この運動に関する日本の報道は極めて歪められたものとなっている。例えば、デモ隊とイスラエルの「衝突」という表現はその典型例である。デモは、ガザのフェンス近くで行われているが、フェンスから離れたところに設置された陣地で銃を構えるイスラエル軍と衝突することなどあり得ないし、デモ参加者の投石が兵士に届くことさえもまずない。この間の死者と負傷者は全てパレスチナ人側であり、非武装のデモの参加者が一方的に射殺され続けているというのが現実である。

 

 もう一つの典型的なメディアの歪曲は、デモがハマースによって扇動されているという報道である。こうした言説は、「ハマース=イスラーム原理主義=テロ」という西側世界特有のイスラーモフォビアに訴えかけるレトリックを通じて、パレスチナ人一人ひとりの主体性を否定しようとするイスラエルの政治宣伝に引きずられたものに他ならない。

 

 「帰還大行進」の背景には、トランプ政権が進めようとしている「世紀のディール」に対するパレスチナ人たちの危機感がある。「世紀のディール」は、トランプ政権が目指す「パレスチナ問題の最終解決」のための諸政策とされるが、正式に公開されてはいない。2017年4月ごろから少しずつメディアにリークされている内容は、以下の通りである。

 

①パレスチナ難民をアラブ諸国に吸収・定住化させ、難民の地位を抹消する。
②西岸地区内のパレスチナ自治区を非武装の「準国家」と認め、ヨルダンとの国家連合の下に置く。
③西岸地区内のC地区(入植地が集中している非自治区)をイスラエルに併合する。
④ガザ地区に接するシナイ半島の領域を同地区に提供し、発電所や工業団地を設置する。
⑤エルサレムをイスラエルの首都とする。パレスチナ「準国家」の首都はアブー・ディスとして、これを「新エルサレム」とする。

 

 ④については若干分かりにくいかもしれないが、イスラエルや米国内親イスラエル勢力が恐れているのはガザの危機的な人道状況がさらに深刻化し、封鎖政策を取り続けるイスラエルへの批判が高まることである。とりわけ封鎖による電力不足によって未処理のまま下水が垂れ流され、地下水や沿海を汚染している問題は深刻であり、すでにガザの地下水の97%が飲料に適さず、2020年までにガザは人が住める環境ではなくなるという衝撃的な国連の報告書が出されている。この状況を緩和し、ガザの持続的な封鎖・占領を可能とするために、イスラエルは、エジプトの領土の一部や湾岸産油諸国の資金を用いることを考えているのである。

 

 これらの項目からわかることは、これまでまがりなりにも「アラブの大義」として支持されてきたパレスチナ人の民族的権利の一切を取り下げるというのが「世紀のディール」の実態だということである。その急進的かつ包括的な性格は、イスラエル右派の主張が、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問ら親イスラエルの側近を通じて直接反映されたものと考えられる。

 

 したがって、帰還大行進の射程もまた、難民の帰還権やガザ封鎖の解除といった個別イシューに留まるものではない。それは大行進が3月30日の「土地の日」を開始日に選び、5月14日の米国大使館のエルサレム移転、そして5月15日の「ナクバの日」を当初の終了予定日にしていたということにもあらわれている。「土地の日」は1976年のガリラヤ地方(現イスラエル領内)における土地収用への抗議行動とその犠牲者を記念する日であり、イスラエル領内のパレスチナ市民との連帯が含意される。エルサレム問題は、西岸およびエルサレムのパレスチナ人にとどまらず、世界中のムスリムとの連帯につながる。そして「ナクバの日」は、ガザを含めた世界中のパレスチナ難民の権利回復を想起させる日である。この5月14日と15日の2日間で62名のパレスチナ人がイスラエル軍に殺害されるという事態の中、デモの無期限続行が決められた。

 

ヨルダン川西岸のラマラでも数千人のパレスチナ人がパレスチナの旗を掲げて抗議行動をおこなった(5月15日)

政治党派こえた運動 市民社会が政治動かす

 

 ガザを取り囲むフェンス周辺での大衆的デモというアイディアは、2017年秋ごろから若手活動家の主導によって数か月にわたる議論を通じて練り上げられていった。そうして、政治党派を超えた、ガザの学生組織、女性団体、労働組合、文化連盟などの市民社会組織を巻き込み、14の組織委員会が結成され、最終的にハマース、ファタハ、イスラーム聖戦、PFLP等の主要党派を横断するかたちで「帰還大行進とガザ封鎖終結のための最高民族評議会」が組織されたのである。

 

 動員や様々なロジスティックスにおいてガザを統治するハマースが大きな役割を担っているのは間違いない。しかし、これまでハマースは、西岸におけるファタハと同様に、ガザ地区における超党派/無党派的な草の根のイニシアチブを自身のヘゲモニーを脅かすものとしてむしろ抑圧してきた経緯がある。そのことを踏まえれば、武装闘争を掲げ、ファタハとは厳しい対立関係にあるハマースが、非暴力主義にのっとり、武器や軍服は禁止、掲げられる旗はパレスチナの民族旗のみで党派の旗は禁止、といった原則を掲げる超党派の運動に全面協力することになったことは、様々な政治的計算もあろうが、ガザの市民社会が権威主義的政治を動かした画期的な出来事としてみるべきである。

 

 この帰還大行進は準備段階では、西岸地区やイスラエル領内、そして離散パレスチナ社会へと運動が拡がっていくことが期待されていた。しかしながら、そうした地理的・政治的障壁を越えた活動家のネットワークはSNS等を通じて拡がりつつあるものの、民衆の立ち上がりを恐れる各国・地域の権威主義体制によって徹底的に監視され、弾圧されている。西岸地区では、パレスチナ自治政府の治安部隊によってガザに連帯しようとする活動家150人以上が予防拘禁されるなど徹底した対策が取られた。また、「世紀のディール」の要であるヨルダンの首都アンマンでは、ガザに連帯するデモが出発後まもなく、治安部隊によって解散させられた。レバノンでは、多くの町で連帯デモが行われたものの既成の政治勢力による「官製デモ」の色合いが強かったと聞く。

 

ガザ地区のパレスチナ人殺害に抗議して座り込むイスラエルの人人(5月15日、テルアビブ)

 こうしたパレスチナの人びとをめぐる厳しい国際環境という点で、日本は紛れもなく抑圧者の側に立っている。とりわけ安倍政権はイスラエルとの関係強化にまい進してきた。2017年、ガザの人びとを虐殺してきた無人爆撃機を製造するエルビットシステムズ社はNiサイバーセキュリティ社とともに東京に「サイバートレーニングセンター」を開設した。八月には川崎でイスラエル武器見本市ISDEFが開催され、ガザを封鎖するフェンスを製造するマガル・セキュリティ社も出展した。また、イスラエルは入植地ビジネスの拡大も目指しており、入植地産ワインの販売イベントを各地で開催している。

 

 さらに、ネタニヤフ政権を強力に支援し、トランプ政権に対してはイラン核合意破棄やエルサレム首都認定に向けて強い政治的圧力をかけてきた極右シオニストのカジノ資本家シェルドン・アデルソンが経営するラスベガス・サンズは、カジノ法成立で本格的に日本進出に向けて動き出している。

 

国際的な草の根運動で自決権の抑圧に圧力を

 

 このような中で私たちは、イスラエルに対するボイコット運動を拡げるための市民ネットワークとして、BDS japanを立ち上げた。BDSとは、ボイコット(Boycott)、資本引き揚げ(Divestment)、制裁(Sanctions)の略である。BDS運動は、2005年7月、超党派のパレスチナの市民社会組織170以上が連名で出した呼びかけに応えるかたちで国際的に拡がりつつある草の根の市民運動である。①占領の終結、②アパルトヘイト政策の廃絶、③パレスチナ難民の帰還権承認、という三つの目標が達成されるまでイスラエルに対するボイコットを継続するとしている。

 

 これまでに英国のG4S社やフランスのヴェオリア社など多国籍企業に対する入植地関連プロジェクトからの撤退要請や、シャキーラやラナ・デル・レイ等、著名アーティスト・文化人に対するイスラエル公演のキャンセル要請等で多くの具体的成果を出している。日本でも、無印良品のイスラエル出店中止やホンダ・イスラエルによる入植地レースイベントの中止、三越や大丸でのイスラエル入植地ワイン販売中止、上述のISDEFのスポンサーからのソフトバンク社撤退といった成果を積み重ねつつある。

 

 これらの取り組みは、パレスチナ人を直接援助するというよりは、むしろ日本を含めた「国際社会」が、彼らの人権と自決権を踏みにじるのをやめさせるためのものである。パレスチナにおける自由・平等・人権の実現は、パレスチナ人およびパレスチナに暮らし続けることを望むイスラエル人たちの課題であるが、その実現を阻もうとするグローバルなシオニズム運動の諸形態に対抗することは、日本を含めた国際社会における脱植民地主義の課題と不可分のものであると考える。

 

 12月には大阪と東京で発足集会を開催した。ぜひこの動きを全国に広げていきたいと考えているので、ご支援とご注目をいただきたい。

 

BDS japan連絡先:bdsmovement.japan@gmail.com
ブログ:https://bdsjapan.wordpress.com/
フェイスブック/ツイッター:@BDSjapan

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