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辺野古釘付けの裏で極東最大と化した岩国基地 120機体制で轟く爆音 

愛宕山の米軍住宅

 山口県岩国市の米軍岩国基地では、米軍厚木基地からの空母艦載機60機の移転が3月末に完了し、所属する航空機は120機へと倍増した。これにともなって年度末にかけて米兵や家族、軍属3800人も移転してきつつあり、愛宕山には米兵や家族が1000人規模で暮らす米軍住宅が完成した。そして艦載機移転後の1カ月、岩国基地での戦闘機訓練は激しさを増し、これまで以上に朝も昼も夜も市民は轟音が鳴り響くなかでの生活を強いられている。メディアが国民の目を沖縄・辺野古に釘付けにしている間に、岩国が嘉手納基地に匹敵する極東最大の軍事要塞に変貌している。最近の岩国の実情と市民の問題意識を取材した。

 

 米軍基地所属の戦闘機の訓練の頻度と規模に大きな変化があらわれている(グラフ参照)。4月に岩国市に寄せられた航空機騒音苦情は670件と、過去最多となった。過去数年は1カ月間に多くても300回をこえる程度だったのに対し、今年4月は急増している。

 

 また、市内5カ所でおこなっている騒音測定の値が急増している。この測定は、航空機の騒音70デシベル以上が5秒以上続いたさいにカウントされるもので、基地に近い場所に設置してある川口町1丁目では、4月の測定回数が1127回、尾津町5丁目では1311回を数えた。どちらの地域も昨年度は1カ月あたり200~400回台であったが、艦載機移転が本格化し始めた12月からは500~800回台と増え始め、4月はついに2010年5月の滑走路沖合移設後、初めて1000回をこえた。

 

      

 艦載機の移転が完了して以降、訓練をおこなう回数、機数、時間帯など規模が拡大しており、その変化を多くの市民が感じている。実際、基地ではどのような訓練がおこなわれているのか、岩国市の担当者ですら「把握するのは難しい」という。

 

 現在、岩国へ移転してきた艦載機は13日まで硫黄島での陸上空母離着陸訓練(FCLP)をおこなう。それが終われば、艦載機のパイロットが空母への着艦資格を得るための訓練(CQ)を九州沖でおこなう。このさい、夜間の離着陸が増えたり、訓練を終えた艦載機の帰還が午後11時を過ぎる可能性があるという。岩国基地の滑走路運用時間は朝6時30分から午後11時までと定められているため、岩国市はそれを過ぎて飛行する場合は事前の通告を求めているが、違反行為を制限するものではない。

 

 ある住民は「艦載機移転完了後からとくに音がひどい。とり決めの時間に関係なく飛ぶため苦情が出るが、議会で追及されてもいつも“運用上の問題”といって済ます。とり決めなどあってなきがごとしだ。沖縄でも米軍機が墜落したり部品を落としたりして、地元自治体が抗議しているのに平気で無視してすぐに訓練を再開する。沖縄のことを考えると、今後事件や事故が増えるのではないかと不安になる」と語っていた。

 

 周辺の住民は「朝の早い時間に目が覚めるほど騒音が増えた」という人もいれば、屋外で仕事をする人は「日中に訓練に飛び立つ機数が増えている」という。滑走路延長上の地域に住む住民は「夜9時くらいまで訓練することが最近は増えている」と話している。「ベトナム戦争やイラク戦争の時期の物物しい雰囲気と被るものがある」「着艦訓練がおこなわれていたときの、バリバリといった、雷のように空気を振るわせる轟音を思い出す」という住民も少なくない。

 

 岩国基地の滑走路では、戦闘機が10機以上連続して飛び立ったり、2機一緒に飛び立つ様子、何度もタッチアンドゴーをくり返す様子、最新鋭のF35Bが垂直離着陸をおこなう様子などが目撃されている。今後は海兵隊も加えて厚木ではおこなってこなかった内容の訓練が増える可能性もある。

 

市街地上空を飛ぶF35

基地の街のアメリカ・ファースト

 

 艦載機移転に向けてここ10年余り、岩国では一気に都市改造が進んできた。基地内の軍事施設や兵舎など7割をリニューアルする工事が終了し、基地に接続する道路も次次に新しくつくっている。現在、基地の正門では、門を基地側に引き込んだ場所へ移す工事が来年3月までの予定で進行中だ。北門に続く道路の拡張工事もおこなわれており、これまでの道路を11㍍拡張するために民家の立ち退きが進められ、すでに承諾したところから次次に解体して、整地が進められている。

 

 愛宕山では、1戸につき約100坪もある将校用の住宅270戸が完成し、住宅の周囲をフェンスで囲っている。1000人規模で米兵と家族が暮らす一つの街が生まれ、入り口には基地並みのゲートができて、日本人は入れない。「岩国市のなかに米軍基地が増えた」といわれている。

 

愛宕山にできた米軍住宅入り口のゲート

 すでに入居が始まっているが、一方で最近は米軍や家族が基地内や米軍住宅ではなく、街中の一般家屋に住みたがる傾向があるという。川下地区の商店主は「街中に軍関係者が増えているのは、スーパーの客層を見れば明らかだ。愛宕山の米軍住宅は米兵や家族にとっては上下関係もあり、社宅のような場所で暮らすことを嫌がっている。そのため市街地には米軍専用の住宅が建てられ、家賃は日本人の倍以上の20万円ほど。積水ハウスなど大手住宅メーカーが1坪80万円などで土地を買いとって家を建て、ぼろもうけしている。あまりにも米軍住宅に関係者の入居が進まないため、借り上げ住宅の補助を打ち切る方針のようだ」と話していた。一種の不動産ビジネスがたけなわとなり、一部の富裕層が土地を買って米軍用の住宅を建てたり、土地を売ったりする動きも出ている。

 

 米軍基地に近いある地区の幼稚園では、今年度から金髪のアメリカ人の子どもが一挙に増え、園長は父兄向けの入園式の挨拶を、最初は英語で、その次に日本語で話したという。別の幼稚園では、子どもが転んでけがをしたことなどを親に電話で報告するさい、保育士が英語で話していたと変化が驚かれていた。

 

 それだけでなく、街そのものが「アメリカ・ファースト」になっているというのが市民の実感だ。愛宕山にあったゴミ焼却施設は、米軍住宅にとって邪魔になるため、築20年にも満たないのに「老朽化」説が持ち上がり、市街地により近い海辺の日の出町へ移転させた。煙突から煙が出るため、本来なら住環境から離れた山間地域に建設されるものだが、旧施設は愛宕山の米軍住宅に近かったことから移転を迫られた。新施設は米軍基地からも近いため、廃棄物の処理場として将来的に共用することも考えられる。さらに基地周辺では30㍍以上の建造物は規制されて高い煙突も建てられず、帝人が愛媛県に移転するなど経済活動の障害になってきた。

 

 消防署も一昨年2月、旧市内の市街地にあった中央消防署と西消防署を閉鎖して、愛宕山に集約・拠点化し、そばに国立医療センター、その前には防災広場やヘリポートをつくった。国立医療センターは、県東部では唯一の第3次救急(複数科にわたる重篤患者に対応する救急)の指定病院で、米兵の事故想定なのかと話されている。医療・救急・消防といった重要施設は愛宕山の米軍住宅周辺にみな集中させた。

 

経済効果の実感は乏しく

 

 しかし、米軍・軍属・家族が1万人にふくれあがることで岩国市の経済が活性化するという期待は市民のなかでは乏しい。

 

 岩国駅前商店街のある商店主は「商店街の疲弊状況は見れば分かるだろう。新規出店すると市が3年間家賃補助を出すが、補助が切れたらやっていけない。よその人から見れば“米軍が増えてビジネスチャンス”と思うかもしれないが、そういう訳ではない。商店街を通行する外国人は増えたが、基地の中で生活に必要なものはほとんど揃うため、飲食はいいが物販はほとんど経済効果はない。かわりに商店街に全国チェーンの居酒屋がいくつも増え、結局もうけは外の企業が吸い上げていく」と話していた。

 

 基地周辺の市街地では、北門近くのパチンコ屋跡地にコスモス(ドラッグストア)が建設予定で、周辺にはこれで3件目となる。ダイレックスなど大型ディスカウントストアも進出しており、「外」から露骨に吸い上げていく構図が浮き彫りになっている。

 

朝鮮半島非核化 殴り込み部隊は何のために駐留?

 

 岩国基地の大増強は市民をだまして進めることの連続だった。

 

 1969年に九州大学構内に米軍のファントムが墜落し、市民の怒りが高まると、「騒音や事故の被害軽減のために基地を沖合に移設する」「跡地は返還する」といってだまし、数十年を経てできたのは2440㍍の新滑走路と空母も接岸できる水深13㍍の大型岸壁だった。そして跡地は返還せず、基地面積は1・4倍になって横田基地を上回った。騒音は軽減されるどころか、前述のように2倍、3倍にもひどくなった。

 

 愛宕山も「市民のためのニュータウン建設」と宣伝し、170人いた地権者には「岩国の将来のため」とだまして土地を売却させたが、当初から「大赤字必至の無謀な事業」と関係者は指摘していた。予想通り250億円の大赤字となると、2006年に山口県が唐突に事業廃止を発表し当時の二井県政が米軍住宅用地として売り飛ばした。そして、いつの間にか日本人が自由に出入りできない米軍基地の「飛び地」となった。はじめから米軍部隊の移転と基地の大拡張は決まっており、そのために市民をだまし続けたのだった。

 

 「北朝鮮の脅威から米軍が日本を守る」という装いで、岩国基地のF35Bは有事のさいには空母ロナルド・レーガンとともに侵攻作戦に加わり、普天間基地に配備されたオスプレイも岩国を作戦行動の拠点として佐世保の強襲揚陸艦に乗るという形で、岩国基地を北朝鮮や中国への核攻撃の拠点にする配置が進行してきた。

 

 しかしここにきて、朝鮮半島とアジアをめぐる情勢は激変している。11年ぶりとなる北朝鮮と韓国の南北首脳会談がおこなわれ、65年間停戦状態にある朝鮮戦争を終結させ、朝鮮半島の非核化と平和体制の構築に向けて関係を改善することを宣言した。6月には米朝首脳会談がおこなわれる。岩国市民のなかではそれをめぐって鋭い問題意識が語られている。

 

 「朝鮮の人たちは同じ民族であり、殺し合う必要はなかった。ミサイルそのものは怖いが、岩国はとくに米軍基地があるということでいつ攻撃されてもおかしくないし、それが私たちが一番恐れていることだ。だから平和に向けて進むことは岩国にいる私たちにとってもありがたい。それにしても、Jアラートで頭を抱えさせたあの訓練はいったい何だったのかと思う。米兵のなかにも、大学に進むお金がないために軍隊に入隊する青年もおり、ある意味かわいそうな面もある。一刻も早く平和になればいい」

 

 「金正恩と文在寅の2人が非核化の方向で一致した。トランプは在韓米軍の撤退もいい出している。在韓米軍がいらないのであれば、在日米軍も必要なくなるのではないか。安倍晋三はアメリカに国益を売り飛ばしてひたすら貢ぐだけだ。アジアがこれだけ変わりつつあるなかで、それに対応できる政治家が日本には何人いるか」

 

 「南北会談をやって朝鮮戦争を終わらせるという方向が進められている。これは当たり前のことだ。同じ民族が戦後、これほど長い間戦争状態に置かれていたこと自体が異常だ。朝鮮半島だけでなく、世界から核をなくすべきだ。朝鮮半島の非核化が進めば、極東最大の基地を置いておく必要性はあるのか? アメリカからはTPPの次は2国間交渉を迫られ、国益は奪われるばかり。いつまでこんな関係を続けるのか」と論議になっている。

 

 朝鮮半島で、同じ民族が、またアジア人同士が血を流しあう戦争の歴史に終止符を打ち、同じ民族としてみずからの力で平和な未来を切り開いていくという大きな動きが起こっている。そのなかで、米軍岩国基地はいったい誰を睨み、殴り込み部隊は何のために駐留しているのかが改めて問われている。新情勢を前にして、沖縄や岩国、日本国内に120カ所以上もある米軍関連施設の存在や日米安保を問題にしないわけにはいかない。アジアとの平和、友好、平等互恵の関係を発展させるものへ国の政治を抜本的に転換させることが求められている。

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