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大軍拡の流れから日鉄呉跡地問題を考える――日米軍事一体化が日本に何をもたらすか ジャーナリスト・布施祐仁氏が呉で講演

(2026年2月11日付掲載)

防衛省が「多機能な複合防衛拠点」づくりを構想している日鉄呉跡地(広島県呉市)

 防衛省が日本製鉄瀬戸内製鋼所呉地区(日鉄呉)跡地に「多機能な複合防衛拠点」の建設を計画している広島県呉市で7日、「改憲と戦争への流れを止める!」と題して市民でつくる平和団体による交流集会が開かれ、ジャーナリストの布施祐仁氏(外交・安全保障問題専門)が「大軍拡の流れから日鉄呉跡地問題を考える」と題して講演した。布施氏は政府が全国で進める軍拡がもたらす危険性を米国の戦略との関係から解説し、その「亡国の道」から脱却してアジアで新たな外交・安全保障の可能性を切り拓く重要性を説いた。以下、布施氏の講演要旨を紹介する(文責・編集部)。

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米国追随の大軍拡計画 高市政権がめざすもの

 

布施祐仁氏

 「高市早苗が首相としてふさわしいかを問う」――そう位置づけて解散総選挙を実施した高市首相は、1月19日の会見で「この後、政府が提出しようとしている法律案もかなり賛否の分かれる大きなものだ。だからこそ国会が始まる前に国民の皆様の信を問いたい」とのべ、「信任をいただけたらこれを力強く進める。信任をいただけなかったら私は責任をとる。それぐらいの強い思いで一歩でも政策を進めたい。非常に難しい政策もあるけれどもこれを進めたい。そのために信を問いたい」と続けた。信任を得た暁には「国論を二分するような政策」を力強く進めるというが、その中身は最後まで明かさなかった。

 

 高市首相が掲げているのが積極財政だ。選挙中も「自民党の政策の中に初めて積極財政という四文字を入れさせることに成功した」と盛んにアピールした。積極財政とは何か。「失われた30年」といわれる長期の経済不況にある日本では、民間が投資できないので、政府(国)が積極的に投資して景気浮揚や経済成長につなげるという政策だ。

 

 これをやるために一時的に赤字国債を発行する。国による借金だが、経済成長すれば税収が増えるのだから問題ないとしている。では何に投資するのか? 高市政権が重点投資先にしているのが「危機管理」分野だ。主に三つの柱がある。

 

 一つは、経済安全保障。エネルギー、重要鉱物、半導体、薬の確保やサイバーセキュリティなど。具体的には高市首相の「台湾有事は日本の存立危機事態」発言を受けて、中国がレアアースなどの輸出制限を日本にかけた。だから日本政府は南鳥島沖の海底開発(泥中にレアアースが含まれる)を「採算度外視」で進めるという。抗生物質など医薬品も中国に頼っているので、そのようなものの国内開発製造に投資していくという。

 

 二つ目は、防衛力の強化。後述するが、米国のトランプ政権は「防衛費をもっと上げろ」と要求しており、これに応えて防衛費をさらに増やす。
 三つ目は、防災・国土強靱化だ。

 

 高市政権はこれらを積極財政で進めるとしているが、日本の国債残高は1100兆円に達しており、GDP比200%。政府歳入の14倍だ。このため国債の長期金利は上がり、国家財政を圧迫している。「成長か、破綻か」という局面で、積極財政の重点的投資先を軍事分野に据えているのが高市政権の特徴だ。

 

 日本の防衛費は、従来GDP比1%で推移してきたが、2022年に岸田内閣が米国の要求に従い、2027年度までにGDP比2%へ倍増させることを決めた。昨年10月、高市政権が誕生すると補正予算で防衛費を上積みし、前倒しで2%を達成した。

 

 米国は、同盟国に対して「GDP比2%では足りないからもっと上げろ」と要求している。NATOは昨年6月、国防費をGDP比3・5%に上げ、関連するインフラなどの経費を含めて5%にすることを決めた。米国はNATO以外の同盟国(日本、韓国、フィリピン、豪州など)にもNATO並みの防衛費引き上げを要求しており、高市政権はこれに従ってさらなる防衛費引き上げをやろうとしている。GDP比3・5%といえば21兆円(現在の2倍強)だ。選挙後、高市首相は「私は信任された」といって、これを「力強く進めていく」ことになる。

 

「台湾有事」想定した軍拡 日米軍事一体化

 

 これまでの軍拡の流れを振り返る。2022年12月に岸田内閣が「安保三文書」改定で打ち出した「防衛力の抜本的強化」に基づいて始めた大軍拡計画は、「台湾有事」を想定したものだ。高市首相以前の政権は常に「特定の事態を想定したものではない」といってきたが、実際には特定の事態想定もなく防衛力の強化などできない。

 

 これに先立つ2021年3月、米インド太平洋軍司令官が「2027年までに中国が台湾に侵攻する可能性がある」と米議会で証言し、これにより中国抑止のための特別予算措置を確保する。続く4月、菅首相とバイデン米大統領は首脳会談後、共同声明で52年ぶりに台湾問題に言及した。これまで台湾問題に言及しなかったのは、日本も米国も「台湾は中国の一部である」という中国政府の立場に異論を唱えないという約束で中国と国交を結んだからにほかならない。

 

 この日米共同声明では、「台湾海峡の平和と安定」の重要性に触れただけではあるが、そこには仮に台湾で有事が起きたさいは日米が共同で対処するという確認の意味が含まれている。その3カ月後、麻生太郎副総理兼財務相(当時)が講演会で「台湾で大きな問題が起きれば、存立危機事態に関係してもまったくおかしくない。そうなると日米で一緒に台湾の防衛をやらないといけない」と発言。これは麻生氏の思いつきではなく、前述の日米首脳会談を踏まえての発言だ。

 

 同年12月、米インド太平洋軍司令部と自衛隊統合幕僚監部が「台湾有事」を想定した日米共同作戦計画の原案を策定したと『共同通信』が報道。その翌年1月の日米「2プラス2」(日米外務・防衛大臣会合)では、あらゆる事態に日米が一体になって対応し、戦略も一致させることを確認した。

 

 それを踏まえた岸田内閣による安保三文書改定は、その数カ月前に米国が策定した「国家安全保障戦略」に整合させたものだ。それが防衛費拡大へと繋がり、その延長線上に高市首相の「台湾有事」発言がある。つまり自民党の防衛族は「台湾有事が起きたら日本は米国と一緒になって戦う」という前提に立っている。

 

攻撃受けながら戦う想定 危険な任務は同盟国に

 

 では、仮に台湾有事で米国はどんな戦略を想定しているのか? その前提として、米軍が中国との戦争を想定して作った図がある。図のタイトルには「中国は『介入阻止能力』を強化」とある。

 

 中国が軍拡をする目的の一つは介入阻止だ。中国が領土の一部とみなしている台湾への米軍の軍事的干渉を阻止する――その考えに基づき、中国は近年、米軍が介入できないようにするため、長射程ミサイルや空母など、中国本土から離れた場所でも作戦が実行できる能力を強化してきた。

 

米国防総省資料をもとに本紙作成

 濃い赤で塗られている部分は、中国のミサイル射程圏内だ【地図参照】。交戦中にそこに入れば、中国からミサイル攻撃を受けるリスクが高い。日本はまさにその圏内だ。だから米軍は台湾有事で中国と戦争になれば、日本には入っていけないと考えている。日本にある米軍基地も危ないので日本から出て行くことが米国の考え方のベースになっている。

 

 そして、軍事力の展開をインサイド(内側)とアウトサイド(外側)の二段構えで考えている。日本に駐留する米軍の主力は空軍と海軍だ。空軍と海軍の主力は、人ではなく、空母、イージス艦、戦闘機などの高価な装備にある。いざ戦争になると中国の射程圏内である日本にいたら狙われて、国民の税金で購入した数百億、数千億円もの高価な装備が破壊される恐れがある。だから彼らは有事が起きたら日本から離れたところに陣取る。これが外側の部隊だ。

 

 すべての米軍部隊が日本からいなくなるわけではない。残るのは陸上部隊(陸軍と海兵隊)だ。これらの部隊が地上から発射するミサイルを中国と至近距離にある日本、フィリピンなどに置いて戦う作戦を構想している。これが内側の部隊だ。

 

 戦闘機や艦船は非常に高価であり、海や空で活動するため隠すことができない。それに比べると地上発射型のミサイルは安価で、陸上で使うので地形などを利用して隠すことができる。だから日本列島には地上発射型ミサイルを配備する。

 

 だが、中国の射程圏内の日本国内にミサイルを置いて作戦をおこなえば、当然相手からも狙われる。撃てば撃ち返される。だから米軍内部でも「そんな危険な任務を米軍兵士にやらせるわけにはいかない」という声が当然上がる。だからこのような危険な役割は米軍以外の部隊――つまり自衛隊にやらせる方向になっている。最前線の危険な任務は、同盟国になるべく担わせるというのが米国の考え方だ。

 

自衛隊は米軍指揮下に 「日米一体化」の内実とは

 

 この米国の考え方に基づいて日米が一体になった軍拡が急速に進められてきた。それが如実にあらわれた昨年の例を二つ紹介する。

 

 一つは、近年私が主な取材のフィールドにしている南西諸島。鹿児島の種子島から沖縄の与那国島にかけての島々だ。石垣島では2023年に自衛隊駐屯地が開設された。そこで昨年9月、日米共同訓練がおこなわれ、海兵隊が開発した最新鋭の地対艦ミサイルが初めて展開した。海兵隊と自衛隊のミサイル部隊が一緒になって中国軍の船を陸上から攻撃するという想定の訓練だ。

 

 また昨年9月、山口県の岩国基地でおこなわれた日米共同訓練では、米陸軍が開発した新型中距離ミサイルシステム「タイフォン」が日本に初めて持ち込まれた。タイフォンは射程1600㌔㍍超の巡航ミサイル「トマホーク」を地上から発射できるもので、日本に置けば中国沿岸部を射程圏内に収める。

 

 このように米国は、台湾有事が起きて中国と戦争になったときには、米領土のグアムなどではなく、日本やフィリピンにミサイルを持ってきて、そこから中国軍を攻撃することを考えている。だが、日本列島は中国の射程圏内のレッドゾーンであるため、その攻撃作戦はなるべく日本にやらせたい――そのような米国の考えに日本政府は追随している。

 

 そして3月に予定されているのが、熊本市の陸上自衛隊建軍駐屯地への長射程ミサイルの配備だ。これまでの自衛隊の地対艦ミサイルは射程200㌔ほどなので南西諸島に配備しても中国本土までは届かない。だから射程を1000㌔(推定)まで伸ばした「能力向上型」を開発し、熊本に配備することで中国の上海まで届く。これを静岡など全国各地に順次配備しようとしている。

 

12式地対艦誘導弾能力向上型の発射車両

 日本政府はこの長射程ミサイルを米軍と一体となって運用すると明言している。防衛省の内部資料をみると、情報収集、目標設定、ミサイル発射、成果の分析に至る一連のサイクルを日米一体でやることを考えていることがわかる。

 

 すでに南西諸島に配備されている自衛隊の地対艦ミサイルに加え、米軍も地対艦ミサイルをこれらの島々に持ち込み、自衛隊と一緒になって使用する訓練をやっている。同じような訓練をハワイのミサイル訓練所でもやっており、実際にミサイルを撃っている。

 

 この訓練内容を図示した自衛隊の資料を見ると、目標情報の獲得、日米の火力調整(攻撃目標の分担)から射撃までを日米一体でやっている。ミサイル発射地点は日米それぞれ違うが、地上には「日米共同指揮所」を設けている。共同指揮といえば自衛隊の司令官と米軍の司令官が互いに話し合いながらやっているとイメージしがちだが、実際はそうではない。

 

 この訓練を視察した米太平洋陸軍司令官は「自衛隊の兵器システムが、米国の火力統制下に置かれるのは史上初だ」(2018年)とのべている。つまり自衛隊と米軍は対等ではなく、自衛隊は米軍の指揮下に組み込まれる形でミサイルを発射している。これが日米一体化の実態だ。

 

 米国では、退役した米艦船を海上に浮かべ、それを標的にして米軍と自衛隊がミサイルをそれぞれ発射して撃沈するという非常に実践的な訓練をすでにおこなっている。

 

 米軍指揮下に自衛隊が組み込まれる――実はこれが自衛隊の本質であり、今に始まった話ではない。自衛隊は発足当時から米軍指揮下で作戦をおこなうという前提で組織を作ってきた。

 

 自衛隊制服組トップの統合幕僚会議議長だった栗栖弘臣氏は退官後、月刊誌上で次のようにのべている。「日本の現在置かれているポジションと自衛力形成の過程を見ますと、陸上自衛隊は米陸軍、海上自衛隊は米海軍、航空自衛隊は米空軍が、それぞれ自分の手足として使う目的で育ててきた」(1985年10月)。これが自衛隊の最大の特徴だ。

 

 しかし、この当時と現在はまるで状況が異なる。この発言がされたときの前提は、あくまでも日本有事だ。日本がどこかの国に攻撃された場合、自衛隊と米軍が日本を防衛するために共同作戦をおこなう。憲法9条の存在を意識して、自衛隊の武力行使はあくまでも個別的自衛権に限るという縛りがあった。

 

 だが現在、日米が前提としているのは、米国が日本の外で戦争したときにも日本は集団的自衛権を行使して米軍と一緒に戦うということだ。台湾有事がまさにそれだ。しかし、日本から攻撃をすれば日本も攻撃を受ける。そのため自衛隊はそれを想定した「抗堪(こうたん)化」(攻撃を受けながら戦い続けることができる体制整備)を進めている。

 

 その一つが、主要な司令部の地下化だ。地上の司令部はミサイル攻撃を受けたら全滅するリスクがあるため、自衛隊の頭脳となる司令部を地下に移設するための工事を全国各地で進めている。優先的にやっているのは、最初に狙われる可能性がある航空基地だ。

 

 陸上自衛隊では、九州・沖縄の自衛隊を統括する西部方面隊司令部がある熊本の建軍駐屯地、そして南西方面の自衛隊司令部がある那覇駐屯地など主要司令部の地下移設計画が進められている。航空基地では、駐機場が1カ所だけであればミサイル攻撃を受けたさいに戦闘機が全滅する可能性がある。それを避けるため、駐機場をいくつかに分ける「分散パッド」の整備を進めている。日本が攻撃を受けることを前提にした体制づくりが、岸田政権下で改定した安保三文書に基づいて進めてきたミサイルを中心とした軍拡の中身だ。

 

軍事ビジネスに傾斜 呉・防衛拠点構想の背景

 

 では、高市政権が進めようとしている軍拡はどのようなものか。その一つが、無人機(ドローン)だ。米軍は、台湾有事の戦い方において日本やフィリピンなど「第一列島線」に地上発射式ミサイルを置き、そこから攻撃する作戦を構想していたが、ウクライナ戦争の教訓を得て、もっと安価で効果的な兵器としてドローンの活用を重視する考え方へシフトしている。

 

 昨年、米インド太平洋軍司令官は「ヘル・スケープ(地獄絵図)作戦」を発表した。台湾有事のさいにはミサイルだけでなく、大量の攻撃型無人機を投じて中国軍が渡ろうとする台湾海峡を「地獄絵図」にするというものだ。

 

 この計画に呼応して、高市政権が来年度の防衛予算に盛り込んだのが、自衛隊も大量の無人機を取得する計画だ。ドローンで空を埋め尽くす「多層的沿岸防衛体制(SHIELD)」という構想を立てた。すべて米国の戦略に従って国防計画を立てている。

 

 それが呉市で計画されている日鉄呉跡地での「複合防衛拠点」構想と繋がっている。防衛省が示した配置図【図参照】を見ると岸壁の建設が計画されている。

 

 呉では最近、台湾有事のさいに陸上自衛隊の装備や物資を運ぶ部隊「自衛隊海上輸送群」が発足した。南西諸島に展開している部隊が攻撃でダメージを受けたとき、日本本土から武器や物資を送り込むために設立したもので、陸上自衛隊が初めて運用する船の部隊だ。これは昨年3月に兵庫県の海上自衛隊阪神基地にも設置された。

 

 そのため現在の呉基地の岸壁では手狭なので、新たな岸壁が必要になる。しかも呉で計画されている岸壁は、かなり大きな岸壁なので巨大艦船の接岸も可能になる。

 

 そして、無人機製造整備エリアが設けられている。米国が重視し、日本もそれに従って進めようとしている無人機の開発製造拠点にしようとしている。

 

 さらに注目すべきは民間企業の誘致だ。これは高市政権が積極財政による成長戦略の中核に位置づけている危機管理(軍事)投資の一端だ。軍事分野に積極的に投資し、自衛隊だけでなく米軍が使う装備品も製造し、それを世界中に輸出して経済成長に繋げるという構想の拠点を呉に作ろうとしている。重工業部門と違ってドローン開発には新興企業も参入しており、国も一体となってこれをおし進める。

 

 同じように神奈川県の横須賀市では、日産自動車が経営不振で2027年度に閉鎖する予定の追浜工場(従業員2400人)の跡地売却を検討している。この広大な土地を防衛省に売るのではないかという話が浮上しており、日鉄呉跡地と同じく軍事投資の拠点になることが危惧されている。

 

 神奈川県には川崎市にも東芝の防衛装備品製造拠点がある。近年、国による防衛需要増大の恩恵を受けて生産が拡大し、その施設が手狭になっている。今新たな工場を建設しており、この建設費を国が出している。

 

 全国各地で兵器製造ビジネスを拡大するために国がその拠点づくりを始めているが、そのような拠点は火薬庫やヘリポート、補給施設などあらゆる軍事機能が集中するため、有事になれば真っ先に攻撃目標となる。

 

 だから、たとえば三菱重工のミサイル製造工場が名古屋にあるが、これもミサイル攻撃を想定して工場ごと地下に移設する構想が出てくると予想される。その巨額な予算を国が出したり、弾薬工場の国有化、戦時中の工廠のような国有工場を作って民間企業に兵器を製造させる案も政府内で議論されていることだ。

 

 日本が戦場になることを前提とした準備だが、世界の戦争を見ても軍事施設だけが被害を受けるわけではない。熊本でも呉でもその周辺には市街地が広がっている。攻撃を受ければ市民も極めて大きな被害が出ることは避けられない。だからこそ台湾有事は絶対に避けなければならない。

 

米国のため日本が戦場に 思考停止の日本政府

 

布施祐仁氏の近著『従属の代償:日米軍事一体化の真実』(講談社現代新書)

 では、日本は台湾問題にどう関わるべきか。私なりの考えをいえば、日本は1972年の日中共同声明での約束を守り、台湾問題に関する中国政府の立場(台湾は中国の領土の一部)を尊重する立場を堅持することを基本にしなければならない。だからといって中国が武力で台湾を統一することはあってはならないし、もしそれが起きれば日本はあらゆる面で重大な影響を受ける。だからこそあくまでも平和的解決を求めるべきだ。

 

 しかし、そのことと日本を戦場にしてでも台湾に軍事介入するというのはまったく別の問題だ。しかも安倍元首相や高市首相がいうような「台湾防衛のために日米が一緒になって中国と戦う」という国民的な合意は存在しない。一昨年8月の世論調査(『時事通信』等)でも、台湾有事への対応について「米国との集団的自衛権を発動し、日本も武力行使に加わる」は9%、「外交など非軍事の手段で対応する」が54%という結果だった。今政府が進めている台湾有事を想定した行動計画は主権者の合意を得たものではなく、政府だけで進めていくことは民主主義の点から見ても極めて問題がある。だからこそ戦争の予防も、戦争が起きてしまった場合の対応も、日本はあくまで「非軍事」に限定すべきだと私は思う。

 

 だが私たちが直視しなければいけない問題がある。たとえ日本が台湾有事を「存立危機事態」と認定しなくても、日本は戦場になる可能性は極めて高いという事実だ。

 

 現在は自民党内穏健派のような扱いになっている石破元首相だが、著書の中で「中国が台湾に武力攻撃を行い、米国がこれに反撃する状況となれば、アジア有数の戦略拠点である在日米軍基地はフル稼働となるでしょう。基地使用についての事前協議が明示的にあるかどうかはわかりませんが、日本としてこれに応じないという選択肢はほぼありません。そうなれば、日本は中国からの直接の脅迫、あるいは武力行使を受けることになる可能性が高まります」(2024年8月)とのべている。

 

 在日米軍基地がフル稼働する以上、基地がある日本が攻撃を受ける可能性は高いというのは当然だろう。これを防ぐ手段が一つだけある。そのとき米軍に日本の基地を使わせないことだ。

 

 日米安保条約に関する取り決めには事前協議制がある。日本がまだ攻撃を受けていないのに米国が日本の外で戦争をし、在日米軍基地から攻撃をおこなうときには日本政府と事前協議をしなければならないという日米間のルールだ。そこで日本が許可しない限り、米国は日本の基地を使って他国を攻撃できない。

 

 これは世界の常識だ。2003年に米国がイラクを攻撃するとき、隣国トルコにある米軍基地から攻撃しようとしたが、トルコ政府がそれを拒否したため、米軍はトルコ国内の基地を使って軍事攻撃はできなかった。同じくリビアを攻撃するときも米軍はイタリアの基地を使おうとしたが、イタリア政府はこれを拒否した。

 

 だが日本は、石破元首相も例外なく、「仮に事前協議があったとしても日本に拒否する選択肢はない」と明言してしまっている。その理由を自民党の小野寺五典前政調会長(元防衛相)がのべている。「米国から日本に支援要請が来た時、日本は同盟国として断れない。断れば同盟が決定的に毀損する」(2022年12月)と。それを拒否すれば日米同盟が壊れてしまうから拒否できないというのだ。

 

 果たして本当にそうなのか? たとえば昨年、米国がイランの核施設を攻撃したさい、中東最大の米空軍基地を抱えるカタールはいち早く国内の米軍基地を使わせないと宣言した。それを使えば、イランの報復攻撃は米本土ではなく攻撃した基地があるカタールに向くからだ。その後、カタールと米国の関係は壊れたのか? そんな話は一切ない。お互いに主権を持つ独立国同士なのだから当たり前だ。

 

 ところが日本政府は、なぜか米国に「ノー」といえば日米関係が壊れると考えている。そうであれば日本が存立危機事態と認定しようがしまいが関係なく、日本は米国の戦争に巻き込まれる。それなら最初から戦争に参加して早く終わらせた方がいいと本気で考えている人が政府や自衛隊の中にもいるのだ。こういう政府のまま本当に台湾有事が起きてしまうと日本は戦場になり、多くの犠牲を強いられる。そういう危険な状態に私たちは置かれている。

 

変わる米国の対中政策 抑止の役割を同盟国に

 

首脳会談後に握手を交わす米国のトランプ大統領と習近平国家主席(昨年10月30日、韓国・釜山)

 ところが最近、日本政府の頭の中にある「米国がやるなら日本もやらざるを得ない」という前提が大きく崩れている。

 

 トランプ大統領は昨年10月、中国の習近平主席と釜山で会談したさいも、台湾問題には一切触れず、議題を貿易問題に限定した。貿易戦争の休戦で合意し、その後、米中二極体制を意味する「G2」という言葉をSNSに投稿。直後のインタビューでは「中国を叩きのめすのではなく、むしろ協力することによって、米国はより大きく、より良く、より強くなれる」と発言した。

 

 発言だけではない。昨年12月初旬、ホワイトハウスが発表した「国家安全保障政略(NSS)」でも、中国と安定的な関係を築いて平和的に共存することは可能であり、それが米国の経済成長・繁栄につながると強調している。そこでは「モンロー主義」(西半球での絶対的覇権確立)への回帰を持ち出し、国家安全保障戦略の基本に据えた。米国の国力が低下し、グローバルな覇権が維持できなくなっているため西半球の地域覇権国にスケールダウンする過程の動きでもある。

 

 今年1月に米国防総省が発表した「国防戦略」でも、中国との安定的関係を築いていくことを強調し、バイデン政権下であれほどくり返し煽ってきた「台湾」という文字は一つも出てこない。今年4月に予定している米中首脳会談で貿易問題を解決するため、中国を刺激しないという意図もあるのだろう。ちなみに高市首相との電話会談でもトランプ大統領は「台湾問題で中国を刺激するな」と忠告したとの報道もあった。

 

 しかし、中国との安定的な共存関係を追求する一方で、米国のアジアへの軍事的・商業的アクセスを確保するために中国抑止は続けるとし、「そのために同盟国に対して国防費を増やすよう要求すべきだ」と記している。つまり米国は中国との経済的互恵関係を築くが、中国を牽制する抑止の役割は同盟国にやらせるという。米国にとって非常に都合の良い話だ。

 

非核三原則改定や原潜保有の検討も

 

 それに従っているのが高市政権だ。軍事費をGDP比2%以上(3・5%なら20兆円超)に増やす。そこでやろうとしていることの一つが原子力潜水艦の保有だ。原潜は1隻建造するのに数千億円かかる。1隻では運用できないため、数隻作って整備しながら運用するには数兆円規模の予算が必要になる。これまではそんなお金はなかったが防衛費増額でその資金が確保される。だから自民党と維新の連立合意書にこれを盛り込んでいる。

 

 それもミサイルを垂直に発射できる装置を搭載した原潜であることを明記している。垂直発射は対地(相手国の陸上)攻撃を可能にする。仮に中国と戦争になった場合、日本を含む射程圏内のレッドゾーンには入っていけないし、艦船では隠れることができない。海で隠れることができるのが潜水艦であり、原子力潜水艦ならほぼ無制限に水中に潜るこができ、そこからミサイルを発射できる。だから原潜の保有にこだわっている。それも国産ではなく、米国から買う、あるいは共同開発などの形になるだろう。

 

 ちなみに米軍のバージニア級原子力潜水艦は日本の米軍基地に頻繁に出入りしている。90年代から米国は原潜への核ミサイルの搭載をやめているが、トランプ政権は2032年ごろまでに原潜に戦略核を再搭載する計画を進めている。こうなると核ミサイルを搭載した原潜が日本に入ってくることになる。それを認めるのなら「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を変えなければならないというのが自民党の考えだ。主要野党も非核三原則を堅持するといいながら「日米同盟が基軸」ともいっており、この核搭載原潜の入港を拒否できるのかは甚だ疑問な状況だ。日本は「米国の核の傘」から出るスタンスをとらない限り、非核三原則も維持できない段階に来ていると私は思う。

 

覇権なきアジア実現へ 軍拡より外交に力を

 

11カ国が加盟するASEANの首脳会議(2025年10月26日、マレーシア・クアラルンプール)

 現在、高市首相の「台湾有事」発言で日中関係が悪化しているなかで、「中国抑止」を掲げてさらに軍備を増強すれば、中国も一層圧力を強めるのは明白だ。首相がそう明言しているのだから、自衛隊が「国防のため」として増強した装備は中国に向けられると想定しなければならなくなる。

 

 そうなるとレアアースや薬の輸出制限などによる経済的影響だけでなく、軍事的緊張が高まる。日本周辺の海域で中国軍が日米を牽制するための訓練をし、自衛隊もその付近で訓練をしたり警戒監視行動を強めていけば、非常に接近した距離で自衛隊と中国軍が対峙することになり、先日のレーダー照射のような偶発的な衝突が起きる危険が高まる。

 

 このような偶発的衝突から交戦状態に発展したとき、米国は日本を助けに来るかといえば絶対に来ない。トランプ大統領の姿勢は完全な高みの見物だ。これは日本にとって最悪のシナリオだ。

 

 米国自身は中国とうまくやり、同盟国には中国抑止のために軍事費を上げさせ、しかも「米国製兵器をもっと買え」というのだから、たとえ戦争にならなくても新たな財源確保のために膨大な税金がこれに注がれる。今回の選挙でも自民党候補者の多くが「国民負担を増やしてでも防衛費を増額すべきだ」とのべている。つまり増税だ。あるいは社会保障費を削減する方向へ進み、国民の暮らしが破壊される「亡国の道」にほかならない。

 

 こんなことをやって誰が得をするのか? 日本は「米国が戦うなら日本も一緒になって戦う」と考えていても当の米国は戦う気がまったくないのだから、何のためにやっているのか? という話になる。そこで得をするのは、米国の軍需企業とその恩恵を享受する日本の一部の大企業だけだ。

 

 トランプ米政府は国力が低下してグローバルな覇権を縮小するのに、世界の軍事費の四割を占めるほどに膨張した軍事費を減らすのではなく、もっと増やすといっている。これはグローバル化で衰退した国内産業の再生のために軍需輸出ビジネスを位置づけたというだけの話であり、日本にとっては何の得にもならないどころか戦争のリスクを高める方向でしかない。米国にそそのかされ、日本が単独で中国と交戦するリスクを高める政策はやめなければならない。中国と外交もできず、トランプの米国しか頼るところがないというほどの悪夢はないはずだ。

 

 米国に依存しない安全保障とは、日本の自主防衛力(軍事力)を高めたり、核武装するというような狭い選択肢しかないのか? そうではない。安全保障には、外交によって信頼を醸成し、戦争を予防するという大きな手段があることに目を向けるべきだろう。

 

 「米国が東アジアから退けば中国の覇権が拡張する」とか「中国に支配されるくらいなら米国に支配された方がまし」という人もいる。対米従属から脱却すべきといえば「お前は中国の属国を望むのか」という人もいるが、そんな二者択一で世界は成り立っていない。もう一つの道は、覇権のないアジアを作る道だ。

 

 中国の習近平主席は「中国はどこまで発展しても、永遠に覇権を求めず、拡張せず、勢力範囲を求めない」とくり返しのべている。言行一致しているのか? と疑う人も多いだろうし、そういう面は確かにあるが、トランプ大統領はこういうことすらいわず、いまや「国際秩序も国際法もいらない」と公言している。

 

 米中首脳会談でトランプが「G2」(米中二極体制)という構想を投げかけても中国はこれに同意せず、あくまで国連憲章に基づく国際秩序の重要性を強調している。重要なのは、だから中国を信じろということではなく、この言葉をしっかり中国に守らせるような外交を進めることだ。日本一国ではなく、「法の支配」に依拠するしかない中堅国・小国が団結することでそれは十分可能であり、そのために韓国やASEAN諸国と連携を進めることが重要だ。

 

 すでにASEAN(東南アジア諸国連合)は覇権のないアジアをつくるため、米国の側にも中国の側にも付かないスタンスをとりながら仲介外交を展開している。日本もこれと連携して中国への外交をやっていけば、「米国の支配か、中国の支配か」ではなく、覇権ではなく、協力し合う多国間秩序を作ることができると私は思っている。

 

 軍拡だけでなく憲法まで変えようとしている現在の日本の政治状況に対して、戦争の危機を感じている人は若い人のなかでも確実に増えている。戦争をさせず、憲法を変えさせないことを軸に、国会内だけでなく、市民社会のなかで多くの人を結集する運動を広げていくことが今年の最も重要な課題だと思う。

 

呉市で開かれた「改憲と戦争の流れを止める!」交流集会には115人が参加した(7日)

【関連記事】「いつか来た道」の軍事依存回帰 呉市への複合防衛拠点構想(2025年12月24日付)

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