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変化するフグの生態を考える 第22回水産大学校公開講座

第22回水産大学校公開講座(7日・下関市)

 下関市永田本町にある水産大学校で7日、第22回水産大学校公開講座が開かれた。この講座は7日と8日に同大学で開催されていた大学祭と同時におこなった。会場には水産大学校のOBや教員関係者、学生、市場関係者、地域の人人や来年入学を希望する各地の高校生など多くの人人が集まった。今回の講演のテーマは「生き物としてのフグ、食べ物としてのフグ」と題して、水産大学校生物生産学科の高橋洋准教授と吉川廣幸助教がそれぞれ講演した。

 

研究と現場・地域を繋ぐ 2氏が講演


 高橋准教授は「交雑する、進化するフグを安心して食べるには?」というテーマについて講演した。


 今年の春に東日本沿岸で交雑フグ(異なる種が交配して生まれたフグ)が増加していることが話題となった。交雑フグは毒のある部分が不明であるため捕獲しても全て廃棄しなければならないが、純粋な種との見分けがつきにくい。交雑フグがいることは稀で、その発生は1000匹に1匹の割合であった。しかし、このたび話題となった「ゴマフグ」と「ショウサイフグ」の交雑種は全体の1割を占め桁違いの規模で交雑が進んでおり、茨城県でのある日の水揚げでは38㌔のうち20㌔もとれるほどだった。


 高橋氏はこの原因について、世界的に見ても速いペースで温暖化が進む日本海において、温帯域にいるゴマフグが北上したこと、津軽海峡を抜け三陸沿岸を通る対馬暖流が2010年と2012年にこれまでになく強まったため、その流れに乗ってゴマフグがショウサイフグが産卵する海域まで分布を広げたことを要因にあげた。また、地球環境の変化が進むなかで、これから全海域で様様な種の交雑が進むことが予測されることに対し、敏感にならないといけないと訴えた。

 

     ◇     ◇

 

 吉川助教は「クサフグからトラフグが生まれる バイオテクノロジーの挑戦」というテーマで講演。養殖技術の観点からトラフグについて話した。


 下関市はトラフグが全国的に有名だが、南風泊市場で扱うトラフグ(2016年)のうち約9割が養殖によって成り立っている。養殖がトラフグの安定供給を支えているが、トラフグの養殖は出荷するまでに1年半かかり、寄生虫からの防御や採卵、受精、お互いを傷つけないために鋭い歯を人の手で1匹ずつ切るところから飼育まで含め、かなりの労力や人員が必要となる。時間も労力もかかるトラフグの養殖事業において、よりよい種を育て供給していくことに貢献していくために技術開発を進めている。


 吉川氏は優良品種をつくり出すことで生産者から消費者までに喜ばれる生産性のある事業をめざしている。トラフグのなかには、「W(ダブル)マッスル」と呼ばれる普通のトラフグに比べ遺伝的に筋肉量が多く肥満度も高い種がいる。これら同様の品種をかけ合わせて特定の高品質なトラフグを増やす研究をしている。また、本来なら出荷サイズの1㌔に成長するのに1年半かかるものを、1年で出荷サイズに到達する成長の早い品種のかけ合わせもおこなっている。


 養殖業における高品質化を目指すうえで、これらの研究を産業化に向け、交配や、品種の維持・管理技術の確立、飼育スペースやコストなどの課題を解決していくことが求められている。そこで、代理親技術の研究を進めている。卵や精子をつくる細胞を異なる種に移植することで、成熟までの期間が短い小型のクサフグにトラフグの精子や卵をつくらせることができる。これにより本来トラフグが成熟して卵を産むまでにかかっていた期間を短縮させることが狙いだ。吉川氏は最後に「なかなかこのような研究は産業レベルで活躍させるのは難しいが、われわれの研究室でさらに技術開発を進めていきたい」と抱負を述べた。

 

 水産業界では、養殖業の発展にともなって、漁業における天然資源の捕獲から「家畜化」が進み、大漁に捕獲する形態から、数量以上に質を確保していくとりくみが見直されつつある。このなかで、研究成果を漁業の現場で生かすための「つなぎ役」として、またその担い手の育成とあわせ、水産大学校が担う役割も重要なものになっている。


 公開講座は毎年おこなわれ、今年で22回目となった。一般の参加者との質疑応答や、アンケートなど、外部からの意見も広く収集して対応しているのも特徴だ。水産大学校の継続したとりくみは、水産業と地域社会がかかわりを深め、漁業活動の持つ役割や意味合いを一般にも広く、わかりやすく伝え、考えていくきっかけとして有益なものとなっている。

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