いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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独法化の全国典型・下関市大 学問の場蹂躙した利益集団  

 独立行政法人化して以後、市役所の退職幹部が理事長ポスト(年間報酬1600万円、退職金は1期4年で400万円)や事務局長ポスト(同1200万円)に天下って私物化してきたことが問題視されてきた下関市立大学で、講義棟のトイレ改修工事の入札を巡って同大学の総務グループ長と受注した側のシモケン社長が、山口地検に書類送検されたことが明らかになった。同大学では独法化を契機にして外部から入り込んだ元役人や政治家、銀行関係者らによっておぞましい利権あさりの場にされ、真理真実を尊ぶ学問の場がじゅうりんされてきた。下関市大の問題は、全国的な独法化がいかなるものかを典型的に暴露するものとなっている。市大をめぐる真相を究明し、大学として立て直すことが急務となっている。
 
 トカゲの尻尾切りで解決せず

 今回の書類送検の容疑は、2010年12月に同大学が発注したトイレ改修工事(3769万円)の指名競争入札の際、大学側が決める入札参加業者を総務グループ長のS氏がシモケン社長に選定させ、シモケンが好都合な同業者を選んで「指名競争入札」に挑み、みずから受注したというもの。大学と業者の癒着であれば「官」製談合であるが、S氏個人の罪にすることで「入札妨害容疑」といっている。
 市立大学で働いている事務局職員はじめ、大学関係者の多くは、今回の書類送検がS氏の“単独犯行”扱いになっていることについてみなが違和感を口にし、「これではトカゲの尻尾切りだ」「本丸が逃げ切ったまま事態を収拾しようとしている」「S氏も本当のことをしゃべったらいいのに。すべてを一人で被って良いことがあるのだろうか。身代わりになる代議士の秘書みたいだ」と指摘している。
 シモケンといえば江島前市長の選挙母体として知られ、社員が立候補説明会に代理出席したり、選挙事務所を提供したり密接な関係だったことから、近年は海響館前の立体駐車場を運営させてもらったり、公共事業にも旺盛に食い込んでいた。また、社長は市立大学の大学評価委員も務めていた。大学を評価する立場にある者が、できレースの入札によって仕事を得た格好である。
 独法化以後、同大学の理事には地元金融機関の幹部も加わっている。問題になっている職員S氏ももともと西中国信用金庫の職員で、独法化に移行する際、植田前事務局長のツテで引っ張ってこられたという。「前事務局長の右腕がSさんで左腕が東亜大から連れてきたKさんだった」といわれ、経営企画に携わっていたK氏は昨年、トイレ問題その他の調査が進む過程で、心労やプレッシャーのなかで急逝した。
 大学関係者の一人は、「トイレ改修に限ったことではない。事務局長(前)が高校時代の同級生に発注したグラウンド工事問題(4500万円)など不可解な工事が連続して、大学内で徹底解明を求める機運が高まっていた。昨年、植田氏が事務局長を追われた後に調査委員会を立ち上げると学長が明言して、後任の藤田事務局長が調査していた。それについて植田氏は頻繁にS氏に電話して様子を確認していた。彼は植田氏の忠実な部下だったし運命共同体だったから。そうこうするうちに、“植田グループ”の職員が酒の席の出来事を録画までして、半年で藤田事務局長を辞職に追い込む異常事態になっていった。“オレたちのことを調べるな!”というクーデターだった。通常では考えられないようなドロドロした抗争があって、早く正常化されないものかと思っていた」と心情を吐露していた。
 別の大学関係者は、「書類送検まできたが、対応が遅すぎるの一言に尽きる。2年前から問題にされていたのに、内部で隠蔽して何ら解決に向かわなかった。すべて公開の場で是非や経緯をはっきりさせることが必要だと思う。今後の大学運営にもかかわる重大問題だ。独法化で大学が大学でなくなったことの象徴ではないだろうか」といった。そして、「Sが個人的にやったというが、そんな決定権など彼にはなかったし、決裁責任者はその上にいるはずだ。事務局職員みんなに事情聴取して、どんな職場で命令系統だったのかを聞いてみたらいい。なぜ本丸が逃げ切っていけるのか不思議でならない。これで収拾するなら県警が笑いものになるだけだと思う」と語った。
 
 独法化後疑惑覆う 特定企業や政治家に大盤振る舞い 公金使い散財

 市立大学では、独法化以後、江島前市長のブレーンである植田前事務局長や松藤前理事長のもとで、同大学が貴船町にある江島アパートを借り上げたり、JR西日本の旧社員寮を借り上げたり、特定の企業や政治家に対する大盤振舞が目立つようになった。それ以前は市から運営交付金など一銭も入らなかったのに、移行後は年間1億~2億円も支給されるようになり、こうした工事その他に散財されるようになった。公金が市立大学を迂回して特定の利害関係者に供与されていく仕組みになったといってもおかしくない。
 入札だけでなく人事にいたるまで、従来のように市が直接管理するのではなく、「独立行政法人」というあいまいな立場になることで自由になり、市職員が引きあげるかわりに民間採用がやられ、金使いについても何千万円という工事が自由に発注できる体制となった。その自由を謳歌した結末がデタラメな工事の乱発につながり、私物化を助長してきた。
 トイレ改修問題というのも、1昨年12月に倒産しかかっていたシモケンに大学が工事をあてがい、その際、契約書では前払い金は四割と記載されているのに、6割(2260万円)を支払っていたこと、しかも、保証もとっていないという信じがたい発注方法だったことから、工事進捗率35%(1300万円相当)でシモケンが事業停止すると、資金回収の見込みがないまま契約解除となった問題である。市立大学は1000万円近い損失をこうむり、その責任はだれにあるのかもあいまいなまま放置されている。
 トイレ工事の発注に至る前には、資金繰りで四苦八苦していた安倍派企業のシモケンが、海響館前の立体駐車場を市に無断で売り払っていたことが問題になり、落札していた豊北町道の駅の2億5000万円の工事から排除されるなどしていた。市議会ではシモケンの兄弟企業であるシモカネで働いていた長秀龍市議(公明党、市立大学後援会顧問)がムキになってシモケンを擁護していたが、認められなかった。そうこうしているうちに、市立大学が資金提供するかのようなタイミングで、「保証なし前払い金六割」という不可解な工事を発注した。一職員であるS氏個人が発注できるような代物ではないことは明らかである。
 このなかで議会で懸命に擁護し、市立大学問題を追及する本池議員の質問を妨害するのも長議員であるが、植田前事務局長との関係も密接で、頻繁に植田前事務局長のもとを訪れていたといわれる。「会長さんよりも熱心に足を運ばれていた」「トイレ工事の時期はとりわけ頻繁だった」といわれ、どんな関係だったのか? と大学関係者の多くが疑問を抱いている。「後援会顧問」というそれまでなかった役職が設けられ、市立大学にいつまでも関与しようとするのはなぜなのか? も疑問点となっている。
 大学関係者の一人は、「グラウンド整備に後援会が数百万円を負担している。植田事務局長が個人的にフルートを習っていた楽器店の講師を通じて、突然その楽器店から750万円かけてブラスバンドの楽器を一括購入したこともあった。その際にも、後援会が半額ほど負担している。後援会資金にしてもだれがどこで決めて大盤振舞をしているのか不思議だ」と語っていた。後援会費は入学式の際に約450人の新入生から5万数千円ずつ徴収するため、年間収入が2500万円と巨額であるが、みなが知らないうちに右から左へと大きな出費がやられていくことについて、不明瞭さをだれもが感じている。
 独法化以後の市立大をめぐる疑惑は、まったく解明されず、解決のめどもなく放置状態が続いてきた。学問の場が黒い疑惑におおわれている状態を解決し、大学の正常化をはかることが求められていると同時に、このような状態を作り出した者の責任が問われている。議会についても「長さんが怒るから問題にしなかった」ではすまない。

 真相を解明し立直しへ 大学は学びの場 

 大学運営を巡っては労基署が臨検に入るほど職員給与がまともに支給されていなかったり、非正規雇用が蔓延して大学業務が滞る問題など、体制的な問題もさまざま抱えている。また授業料を値上げしたために志願者が激減し、今春は鳴り物入りで立ち上げたはずの公共マネジメント学科が定員割れとなる事態にもなった。「人数を確保しようと思ったら点数がはるかに足りない生徒を引き上げれば可能だが、さすがに学業がついていけないからやめようとなった。地元の高校でも推薦入試すらすすめない高校が出てきている」と先行きが心配されている。学問の場ではなく利権のための大学の色彩を強めてきた結果、学生が寄りつかない大学になって、「効率化」どころではなくなっている。
 教授の一人は「大学は学びの場であって、利権の場ではない。教育についてわからない役人が横暴に振る舞ったり、主人公が逆転してきたことが一番大きな問題だ。われわれも痛い教訓にして、発言すべきは発言していくことが大切だし、下関市立大学が正常化するように知恵を出したり、できることをやっていきたい。この際、しっかり問題点を整理して解決に向かいたいと思う。市や事務局も隠蔽ではなく、どうなっていたのか赤裸裸に公表すべきだ」と話していた。
 市立大学を巡っては、大学トップが私物化して好き勝手している間に大学崩壊を招いてきた。独法化というものが、大学を特定集団のもうけの道具にする。市行政というものを独法化、民営化といって公共性とか公益性とかを切って捨て、利権の道具にする。下関市立大学は独法化による腐敗の先端を行き、そして立て直しの先端をやるべき位置を占めるに至っている。
 市立大の教職員のなかでは、書類送検という事態で、問題の一部だけだが、現状を変えていくことができるという確信も広がって明るい空気が広がっている。利権疑惑とその構造の真相解明と大学としての立て直しを求める力は大きくなっている。
 なお、市職員のなかでは、植田前事務局長がその後は関門汽船の特別顧問に天下って、今度はあるかぽーと開発利権に身を乗り出したり、港湾局にいるかつての部下たちをアゴで使おうとしている様子が語られ、「懲りない人だ…」と話題になっている。

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