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下関北バイパスが開通 軍港化見据えた巨大道路

すべての道路は人工島へ

 下関市で3月28日、平成2年から着手してきた一般国道191号下関北バイパスが開通した。産業の衰退とかかわって深刻な人口減少と少子高齢化に見舞われている下関で、まるで大都市かと見まがうような立派な片側2車線のバイパス道路が完成したものだから、いったい何事だろうかとみなが驚愕の声を上げている。この間、垢田の沖合人工島を中心にして巨大な道路群があらわれ、響灘側の都市改造が急ピッチで進められてきた。過剰なまでに頑丈な道路や橋梁、日頃の交通量よりも過大な見積もりでつくられた道路群など、どれも市民の日常生活とかけ離れた想定で、米軍が重要港湾に指定した下関が遠くない将来に軍港として利用される道への懸念が高まっている。目下、佐世保や岩国といった軍事都市でくり広げられている道路整備とそっくりな様相を呈しているのが特徴だ。

 米軍は下関を重要港湾に指定

  「交通渋滞解消」として建設された北バイパスは、筋川町から安岡駅前までを一直線に結ぶ道路で、このたび汐入交差点~安岡駅前までを含め6・8㌔が全線開通した。国土交通省が主催した開通式典には工事関係者や地権者、国、県、市の関係者が参加。林芳正農水相や江島参議院議員(元市長)が来賓として訪れたほか、国土交通省からは道路局長が訪れるなど、いかに国家プロジェクトとして国が力をいれてとりくんできたのかを人人の目に焼き付けた。
 北バイパスの開通により、安岡から下関駅方面、市街地方面へアクセスするのにかかっていた時間は、これまでの半分以下になるなど格段に早くなった。朝夕のラッシュ時や、常態化した山の田、垢田、綾羅木、梶栗、安岡の混雑状況に困っていた人人からは喜ばれてもいる。
 しかし一方で、安岡、綾羅木、川中地域では北バイパスの開通により様様な問題も生じている。
 綾羅木では、バイパスの出入り口が川中西小学校へ通う子どもたちの通学路と交差するつくりになった。バイパスに出入りする車がスピードがついた状態のまま出てきたり、加速して上がっていく危険箇所となった。バイパス建設当初から住民のなかで心配され、「子どもたちの安全のためにせめて高架にしてほしい」といわれてきたものだ。しかし、行政が現場に足を運んでその場所を検証することもなく、子どもたちの安全のために信号機や横断歩道の設置など対策を講じることもないまま工事は進行。3月28日の開通式の直前になって、警察が学校に「通学路とバイパスが交差する場所は横断歩道も信号機もないので、迂回して通学するよう」に通告した。「迂回通学」のために当該地域の子どもたちは安岡方面に向かって800㍍ほど遠回りして通学しなければならないことになった。
 「便利になったというけれど、子どもたちには逆に大変なことになっている」と母親の一人は疑問をのべていた。自治会関係者の一人は、「住民のことを考えていない。一番の問題は警察だ」と怒っていた。直前になって「通学路として使えない」といってきたうえに、それでは困るという住民に対して「横断歩道や信号機をつくることは認められない」と突っぱねたことが関係する人人のなかで大話題になっている。子どもから高齢者まで、住民にとって大事な生活道路だったのに、それよりも北バイパスが最優先で、「そこのけ、そこのけ、北バイパスが通る」の本末転倒をやっている。住民が通るための道路ではなく、北バイパスが住民生活を押しのけて通ったのだった。
 その他にも接続道路がわかりにくく、北バイパスから出入りする車が利用する一方通行道路に逆走して侵入する車が続出しており、「進入禁止の表示をきちんとしてほしい」「いつか事故が起こる」と心配する声が上がっている。また、開通にともなって国道191号線は交通量が目に見えて減った。既存の地域では、とりわけ商業が疲弊していくことが心配されている。2号線のバイパス化によって一気に衰退した旧山陽町のように、ストロー現象によって入口から出口までの沿線が疲弊しかねないことも懸念されている。

 ガントリークレーン 20億の修理渋る一方で

 北バイパス(国道191号、延長6・8㌔)には720億円が投じられた。幡生交差点と北バイパスをつなぐ武久椋野線には163億円、北バイパスの武久交差点から沖合人工島入り口までの武久新垢田西線に32億円、国道191号線からゆめシティ側に向かう長府綾羅木線(新下関稗田線)は国道191号から旧川中中学校までの区間(延長0・6㌔)で84億円と巨額の資金が注ぎ込まれてきた。しかし、まだまだ完成ではなく、道路整備は今後も進んでいく。
 一昨年秋に開通した長府綾羅木線(川中中学校跡、国道191号線に接続)と北バイパスを結ぶ幡生綾羅木線(幅25㍍、4・9㌔)も建設される予定で、北バイパスと接続したあとは沖合人工島入り口につながる外周道路も建設される計画となっている。また、長府綾羅木線は西側が開通したが東側は工事中または計画段階にある。現在勝山小学校付近まで工事は進んでおり最終的には長府印内交差点まで延びる計画だ。着工、完成時期はいつになるのかは未定のようだが、小月の航空自衛隊前のバイパスが片側2車線化で巨大化しているのともセットで、小月、長府から一気に沖合人工島まで抜ける道路(延長約7・2㌔)ができあがろうとしている。また、中央工業高校付近から幡生ヤードをこえる武久幡生本町線も建設中だ。
 これほどの道路群をいったい何のために整備しているのか? 予算を投じているのは国である。道路は本来、目的に応じた規模や予算がつけられる。国は目的のないものにカネなど突っ込まない。バイパスといっても、必要性からすればせいぜい旧小月バイパス並の片側1車線でも十分に威力を発揮すると思われたところ、目の前に現れたのは大都市かと見まがうほど過剰なつくりの道路だった。山陰側、響灘側でいったい何をやろうとしているのか見ないことには説明がつかない。
 この道路群の心臓部に位置しているのが沖合人工島である。下関駅、高速道路の下関インター、新幹線が停車する新下関駅、鉄道輸送の中心となる幡生ヤードなど、要衝から瞬時にアクセスできる道路が次から次へとつながっている。すべては人工島のためにつくられているといっても過言ではないほど、至れり尽くせりの位置にある。しかし、現状では人工島に移転させられた岬之町コンテナターミナルの業者たちは行政から乱暴極まりない扱いを受けて追いやられており、コンテナターミナルやそこで企業活動をしている企業のために、国が何千億円と投じてきたわけではない。移転させた岬之町コンテナターミナルの必要性からしても、あの道路群や都市改造は過剰である。ガントリークレーン一基(新規設置なら20億円)の修理や設置を渋る行政が、何千億円もかけて人工島をどのように使おうとしているのか?誰のためにつくったのか? である。
 2012年、米軍は水面下で朝鮮有事のさいに利用する重要港(全国に6港)の一つとして下関港を指定した。秘密暴露を得意技にするウィキリークスが発表して、この事実は発覚した。北バイパス、人工島は90年代に安倍晋三、林芳正、江島潔といった世襲政治家たちが代替わりで登場したなかで、歩調を合わせて進展してきた。人工島は使い道がないのではなく、有事のさいに重要港湾すなわち軍港として下関を利用するという米軍の明確な目的と切り離して見ることなどできない。偶然、使いやすそうな港があったのではなく、戦前からあった計画が復活し90年代から20年近くにわたって手がけてきたものである。軍港として利用しようとしている以外に、あの巨大な道路群や都市改造の異様さは説明がつかない。

 朝鮮半島有事にらむ 岩国基地は極東最大化

 山口県選出の国会議員たちが首相や防衛相といった政府要職に取り立てられるのと引き替えに、山口県は原発や米軍基地に郷土が差し出され、米軍岩国基地は極東最大の出撃基地へと変貌してきた。いまや沖縄辺野古をしのぐほどの拠点になろうとしている。「朝鮮有事の重要港湾」である下関は、朝鮮半島にもっとも近い港で、舞鶴、佐世保と連動した出撃拠点になる。最前線の出撃拠点に軍需物資が集積され、佐世保の強襲揚陸艦をはじめ米艦船が物資や兵隊を積み込んで出ていくこと、吉見の海上自衛隊だけでは艦船の集積拠点としては手狭で、関門海峡側の第一突堤をはじめとした米軍御用達の岸壁、さらに対岸の北九州の港湾とも連動した軍事拠点になることが十分に想定される。
 小月航空自衛隊や内陸側で軍需物資を製造するであろう瀬戸内コンビナートなどから人やモノを移送するにも持ってこいの道路群が連なり、トラック輸送がダメなら鉄道輸送で幡生ヤードに荷物は到着し、そこから一直線で運び込むこともできる。さらに岩国基地から自衛隊員や米兵を移送させようと思えば新幹線で30分もかからない。新幹線口から人工島に向かって走る巨大道路を飛ばせば、ものの五分もかからずに移動完了である。対岸の北九州との連動という面では、今後、彦島経由ではなく筋川なり北バイパスの出口付近から第二関門橋改め、関門道路(海底トンネル構想)をつくる計画も浮上しており、響コンテナターミナルや新日鉄などの鉄鋼製造拠点にも数分でたどりつくことができる。
 有事で一般車両を排除するなら北バイパスやこれらの道路群は100㌔で飛ばすことも可能なつくりで、開通早早に警察がネズミ盗りの穴場にしているくらいである。歩道も過剰で、いざというときには縁石をとり除いて片側2車線から3車線に拡幅することも可能だ。電源としては火力発電や原発が爆撃されても洋上風力の集積拠点になり、独立電源を確保する動きとなっている。戦時には最前線への物資補給が命綱で、なかでも食料と同時に水の確保が欠かせない。これも長府浄水場は過大設計で、人口減少のさなかに現在よりも大規模な浄水設備を設置する計画が動いており、対応可能である。
 下関は戦前、戦中から軍事的要衝として利用されてきた。マリコン関係者のなかでは、早くから下関が軍港にされることは周知の事実で、安倍代議士の側近企業として知られる関門港湾建設などは一番よく知っているはずである。戦争の出撃拠点として相手国から真っ先に叩かれ、郷土にミサイルが飛んでくることが現実味を帯びている。「気付いたら戦争になっていた…」ではなく、軍港化の企みに対抗する強烈な市民の運動と世論を束ねていくことが待ったなしとなっている。

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