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祝島の魚価は半値以下 あり得ないピンハネの構図

 祝島の漁師たちが汗水流してとってくる魚の値段が、同じ海域の漁師たちの魚と比較しても異常なまでに買いたたかれ、安すぎることが問題になっている。全県の漁協関係者や隣接海域の漁業者に祝島漁師の1カ月間の仕切り(価格表)を見せたところ、ぶったまげている。平均価格の半値にちかいものだからだ。なぜそれほど安いのか、かつてはトップブランドとまでいわれた祝島の魚は、いつから「死んだ魚」同等にあつかわれるようになったのか、数々の疑問が浮上している。魚価がとびきり安いのに加えて、祝島漁師が利用する船の油は1㍑あたり20円ほど全県漁協の平均値よりも高額。漁業に依存する祝島島民の暮らしへの弊害は大きすぎるものだ。原発を推進する“吸血鬼”がとりついて、意図的に祝島漁業をつぶし、祝島の暮らしを壊滅に追いこむ“兵糧攻め”を敢行しているシカケが黒い霧のなかに見え隠れしている。「瀬戸内海心臓部の良質な魚」は、市場関係者や水産界関係者にたずねても、決して評価は悪くない。だれがこのような酷いことをやっているのか、事態の早期解明が必至となっている。

   月収3万円で油代5万円 水揚げ量76キロの1本釣り漁師の例
 祝島の一本釣り漁師Aさんの10月の水揚げ量は、10回の出漁で76・3㌔。収入は3万3770円だった。それにたいして諸経費・油代は約5万円かかった。一本釣りのエサとなる前段のエビ漕ぎ(生きたエビをまきながらタイを釣る)の油代費用を入れたら完全な赤字だった。
 仲間漁師Bさんは「こんな状態だから、沖に出るのを控えてしまうんだ。母ちゃんからも怒られる。以前は“祝島”というだけで広島市場の最高価格を張っていたのに、最近は四代や上関の漁師にもいえないくらい安い……」といって、しばらく言葉がなかった。悔しさが表情ににじんでいた。
 Aさんの仕切りを見てみると、チダイが圧倒的に多い。近年、海水温が上昇したのにともなってふえはじめた魚種だ。その価格は1㌔当りの単価が290円から、よくても350円どまり。タイ(250㌘前後)になると620~650円。中ダイ(1㌔㌘未満)は620~650円。大ダイ(2㌔㌘前後)は960~1150円といった値幅で推移している。安い状態から変化があまりないのが特徴である。祝島ではもっとも水揚げ量が多いのがタイだ。

 しかもAさんの魚は、活魚(生きたままの状態)として出荷される。トロ箱に氷づめにしてしめた鮮魚よりも、生きたままのより身の柔らかい状態の方が市場では断然高値で取引されることから、あつかいに細心の注意を払っている。だが、懐に入ってくる金はわずかで、漁協が発行する仕切りを見ては苦虫をかみつぶすような心境に襲われるのだった。祝島では1カ月に5万円の収入があれば、夫婦2人ぐらいは暮らしていけるという。魚を釣ってその「5万円」の収入を手に入れるのがたいへんなのだ。


  驚く隣接海域漁師 「あり得ない」と絶句

 祝島の価格を聞いてビックリたまげるのは、町内はもとより、同じ海域や近隣海域で魚をとっている漁師たちだ。一様に「ありえない……」と絶句している。
 大畠漁協の関係者は、「10月ごろの中ダイが平均して800~1000円。シケで1500円ぐらいにはなる。大ダイになると1000~1300円。いいもので2000円はする。シケになると2000~2500円ぐらいに上がる。チダイは平均すると500円ぐらいだ」という。漁協が1割、市場手数料として7分がとられたあとの数字だ。
 一本釣りの有名所でもある大畠漁協では、組合員の荷を集荷して、広島市草津の市場に一元出荷している。あつかう魚は、基本的に浜でしめてトロ箱につめてから、トラックにまとめて市場に送り出す。「広島水産はタイは安い」の“漁師の定説”もあるが、それでも祝島よりははるかに高値であることがわかる。
 広島水産株式会社から同漁協に届いた10月時期の「販売価格報告書」を見てみると、天然物のタイの平均単価(中値)は、もっとも安いときで1049円(27日)。高いときで1870円(20日)。タイといっても大、中、小さまざまあり、高値で取引される天然物活魚になると、最高で㌔5250円(20日)を記録した日もある。2㌔前後の活きのいい大ダイで、2600~5250円というように、すばらしい値をつける。一方、死んで状態の悪い250㌘前後のタイが最安値で210~315円当りで取引されている。
 前述の漁協関係者は、「常識的に市場の平均単価を前後するのが普通。祝島はほとんど最低ランクの価格しかついていないじゃないか。76㌔水揚げすれば、最低でも5万~6万円ないとおかしいぞ」と驚きをかくさない。
 周防大島町のゴチ網漁師の男性は可能なかぎり活魚として生かす工夫をして出荷している。こちらは同じ広島市場でも、広島魚市場(卸)が運営するセリ場に出荷。「10月の平均が突っこみ(死んだものや中ダイなどふくめて)で㌔1300円ぐらい。大ダイは平均して2000円。チダイはいいときで600円くらいで、死んだら200円。網の魚(一本釣りであがる身の傷ついていない魚に比べて、網でウロコがはげたり傷がついて弱った魚は値が落ちる)でこの値段だから、釣りのタイはもっと高いはず。祝島がまともにやれば最高の値がつくはずだ。これは10月の値段じゃなくて、1年でもっとも値が低い5~6月と同じ価格だ」と、仕切りをながめながらいった。
 最近では12月3日に出荷した大ダイが㌔3000円だった。2日後の5日には4000円で取引されたという。中ダイは平均して1000~1300円。タイの値を平均すると2000円ぐらいだ。
 同氏の説明では、「10月18日~21日にかけてはシケもあって、もっと値が高騰していたはずだ」という。広島市場では確かに平均単価が1500~1800円と上昇している。同時期の祝島のタイは相変わらず480~620円だ。
 四代の漁師が釣った一本釣りの大ダイは1500円。中ダイが平均的に800~1000円で、1300円をつけた日もある。なお、建網でとれた祝島の大ダイが10月期は活魚で㌔500~600円だった。ヒラメは1100~2000円、大ハゲが480~550円で、いずれも網ものだが活魚にしては安すぎる。四代の建網漁師がとった大ハゲは㌔800円前後で取引されている。

   「買取販売」に秘密 超魚価安の最大原因

 祝島では、漁協が買取販売をやっている。ここに“超”魚価安の最大の秘密がかくされているとみられている。よその漁協がたいてい受託販売(手数料をとって市場までの出荷を漁協が担う。漁師からすると委託販売)をやっているのからすると、きわめて稀な形式だ。浜の漁師から漁協が魚を買いとって、それを市場に出荷するというもので、そのさい同漁協がとる手数料は、市場手数料もふくめて27%と目が飛び出すような数字。3%を維持している他漁協の関係者は「よく漁師が反乱を起こさないものだ。うちだったら1%上げたいと懇願しても大騒ぎになる」と首を傾げる。
 この漁師の手から魚が手放される瞬間の値が安すぎるのだ。数日後に、まとめてホッチキスで留められて回ってくる仕切には、山戸貞夫組合長兼参事の手書きで単価が書きこまれているのだと漁師たちは指摘する。「買取販売」は漁協が決めた値で取引されるものだからだ。これが「受託販売」であれば、市場での競り値を漁業者に報告しないわけにはいかない関係でもある。
 祝島では、ほとんどの漁師が自分のとってきた魚がどの市場に出荷されているのかすら知らない。市場でどのような魚価をつけ、どのような評価があるのかも知る由がない状態におかれている。よその浜ではちょっとありえない話だ。関係する人人のなかでは、祝島漁協が魚を出荷しているのは「福山」「大阪」「広島」といわれている。
 広島魚市場の鮮魚部担当者によると「うちには最近あまり入ってきません。以前はホゴ・メバル、カレイなんかがちょろっと入ってきてましたね。全般的に山口県の魚は評価が高いですよ」とのこと。広島水産株式会社も「うちには入ってきてない」。
 福山の卸売市場関係者に問い合わせてみると、多くがここに出荷されていることがわかった。祝島の魚を受けているという荷受けの島吉(しまきち)本店によると、はるばる四時間かけてトラックで運ばれてきた活魚は、同店が1匹ずつしめてあつかっているという。すでにトロ箱につめられたものもある。「市場での評価はいいです。35年間福山の市場に持ってきてもらっている。できることなら漁場を守ってもらいたいと思っています」とのことだった。
 別の同市場関係者は「祝島の魚をあつかっているのは島吉さん。活かしたまま持って来られているし、はたから見ていても評価はいい。でも、原発ができるまであと2年というじゃないですか。それで終わりになるんでしょうか。もったいない話です」と話す。

  なぜ遠方に出荷? 超魚価安の最大原因
 祝島漁師の手元には漁協が決めた「いい値」(いいなりの値段)でしか収入として入ってこない。最大の疑問点は、仕切りにあるような“超”がつくほど安い魚なら、柳井、岩国の市場でも、広島市場でも、近隣のスーパーにでも直販で荷さばきした方が、トラックの運送賃もかからず安上がりなことだ。実際に大畠や大島海域の漁師などは、そこで常識的な価格で取引している。
 わざわざ遠方の福山とか大阪までトラックで運んで“超安値”で商売するような経営者がいるというのが不思議である。というより、それに見合う以上の利益が出ていることの証明ともとれる。なぜ「評価は上上」なのに、祝島の漁師は泣くハメになっているのか、どれほどの値で売れているのか、あるいは何者かが激しく利益をぬいているのかどうなのか、真実は徹底的に解明されなければ容認できないところまできている。
 祝島で漁業ができなくなって島の暮らしが崩壊すれば、喜ぶのは中電や国、県である。県水産部・漁政課には経営指導班という会計監査のプロ集団がいる。漁協合併とかかわって、最近でも新宇部漁協や角島漁協にぬきうちの会計監査を実施して脅したが、祝島についてはその販売方法をどのように経営指導しているのか、大きな疑問点となっている。漁政課は「儲かる漁業」がキャッチフレーズだが、会計監査をしてきて知りぬいているくせに、黙認しているのである。祝島は「儲からない漁業」を指導しているのである。現状のような異常事態は、まさに原発推進に誘導する“兵糧攻め”というほかない。
 これが常識的な販売ルートで他漁協と同じような経営に努力するなら、2200万円の欠損金を解消することなど、1年間も必要ないことをものがたっている。敗北か、好転かの土壇場である。
 漁師は1カ月5万円の収入が得られずに泣いている一方で、組合長は報酬だけで月32万円である。

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