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下関 子供達の給食を考える有志の会が会合 8000食の調理場巡り市長への給食署名提出を報告

 下関市では小・中学校の学校給食調理場を民設民営方式で、1日8000食の大型センターとして建設する計画が進んでいる。このことに疑問や不安を抱いた保護者や教育関係者が「子どもたちの給食を考える有志の会」を立ち上げて「子どもたちのよりよい給食を求める署名」をとりくみ、約4300筆の署名が寄せられた。前田晋太郎市長に署名を提出した有志の会は10日、勝山公民館で署名の報告とともに、署名のなかで出会った人々とつながり、地域の食と農を考える次の一歩を踏み出す機会として会合を開催した。母親や食に関心のある人、自然栽培や有機農業、無農薬栽培をとりくんでいたり、関心を持つ農家などが参加。彦島地区の保育園・聖母園園長より食育のとりくみの紹介もあり、活発な議論がおこなわれた。

 

 まず署名をとりくんだ有志の会代表の中村氏と岡住氏が報告をおこなった。

 

 中村氏はまず、輸入食品やオーガニック食品を商社で扱うなかで、大量生産・大量消費が栄養や食べる人のことを考えていないことを痛感し、互いの顔が見えるところで地産地消などを大事にしていきたいと下関でカフェを開業した経緯にふれた。このたび寄せられた約4300筆の署名の後押しを受けて市長に直接会うことができ、市民の声を届けたと報告した。

 

 前田市長は大型センターの方針を変更することはないとしているが、そのなかで可能な限り地場産野菜を使用すること、民間企業に大量調理を委託することで食材の質が落ちることがないよう、食材を市民に公開することなどを求めたことを報告した。旬の食材を使い、地域内の循環をつくっていくことが、市民の健康だけでなく、環境の改善にもつながること、有機農業の前に、まずは地元の一次産業を盛り立て、子どもたちが農業に魅力を感じ、担い手が増えていくような食育のとりくみをすることの大切さを提案したことをのべた。

 

 学校給食を下関の食と農を考える教育の場にすることが、市民の選択を変化させ、食文化や伝統の継承、第一次産業の活性化にもつながることを強調し、「日々の小さな食への関心と選択、実践という一人一人ができることを積み重ねることが市を変える第一歩になるのではないか」とのべた。下関ならではの豊かな食材を生かして、食が豊かな町、学校給食がいい町を地道につくりあげていくことが、「子育てをしたい町」という魅力につながるのではないかと提案したことを語った。
 薬膳コーディネーターの資格を持つ中村氏は、小学生の子どもの親として、「おいしくて安全な給食を食べてほしい」という思いから署名を始めたことをのべた。「薬膳では食で病気を防ぐことを学ぶが、そのときに食材の選び方には非常に気を付ける。身土不二という言葉があるが、地産地消は大事で、食べ物の力が一番発揮されるのが無農薬、化学肥料を使わない野菜だ。そうした食材を選びたいと思って調べると、90年代以降、日本の食べ物は添加物の表示が義務化されなくなってきたり、添加物の量が増えたり、加工品や冷凍食品になると何を使っているかわからなくなったり、遺伝子組み換え、ゲノム食品という今までなかった手法での食べ物が出てきていることがわかった。給食センターが大型化すると、やはり加工食品を使うのではないか、カット野菜を使うのではないか、工場でつくられた野菜になるのではないかなどの心配があった」とのべた。また、保護者にも食の大切さを少しでも知ってもらう機会になればと思って署名をとりくんだとのべた。

 

 塾を開いている岡住氏は、署名活動をして大変だったこととして、「うちは小・中学校には関係ない」「うちはリストに入っていない」「子どもはもう大学生だから」といった反応も少なからずあったことをあげた。

 

 「自分も20代のときは仕事でいっぱいで、どれだけお金を稼ぐかしか考えていなかったが、10年、20年たってそれだけでは足りない、社会のために何かしないといけないと思うようになった。今、子どもたちに距離的に遠いところを見てみようということ、時間的に長く考えることなどを伝えている。子どもは大学生だから関係ないかもしれないが、その子どもはゆくゆく給食を食べるかもしれない。私たちは父母や祖父母の代からいい物を食べて育ってきているが、短期的に考えることでそれらを途絶えさせてしまっている。種子も同じで、1年の収量だけを考えると都合がいいが、長い目で見ると土や環境を破壊することもある。環境問題にしても、短期的に見るとCO2を抑えればいいと思うかもしれないが、そのために太陽光発電をつくり山を切り開くと環境にもよくないし、先日土砂災害も起こった。長期的な視点で見ることができていないことが多いと思う」とのべ、自身の経営する学習塾でも映画上映などを通じて子どもたちや地域の人たちと一緒に環境問題や貧困、都市の食事についてなど考えるとりくみをおこなっていることを紹介。「長い目で見たとき、どうしたら子どもたちが一番可能性を発揮でき、地域が豊かになるかを考える仲間が増えたらいいと思う」とのべた。

 

 

聖母園保育園(彦島)の食育の取組み

 

 続いて彦島地区にある幼保連携型認定こども園・聖母園の肥塚園長が、同園での食育のとりくみについて紹介した。

 

 同園の園児は136人で職員は30人ほど。その日仕入れた物をその日に使い、フードロスをなくすと同時に、新鮮でいい食材を使うこと、野菜・魚・豆を中心にした献立を立案し、育ち盛りの子どもたちが、しっかり歯が生え、舌がしっかりして飲み込む力が発達するような食材、ミネラル豊富な食材、旬の食材を使用していることを紹介した。もっとも大切なのは栄養士、調理師、保育教員の連携だといい、1カ月に1回必ず三者の連携会議を持ち、いい給食が子どもたちに提供できるよう、見直しやふり返りをしていること、保護者への情報発信と、食べ物について園児に話すことを大切にしていることを話した。

 

 園長みずから給食室の1日を改めて取材し、朝7時に始まる食材の受け入れから調理、子どもたちに食べさせるまでを、写真をまじえて紹介。成長段階に応じて、調理方法に工夫を凝らしていることや、アレルギーを持つ子どものための除去食の工夫などを紹介した。同園では、朝、当番の子どもたちがクラスの人数を栄養士の先生に伝えたり、ランチルームの外に設置してある献立の絵を見て、クラスの子どもたちに伝える仕事をしている。また、食育ボードにはその日使っている食材の原型の絵を書き、どれが丈夫な体をつくる食材なのか、病気から守る食材はなにかなどを先生が子どもたちに話しているという。

 

 ミネラルにこだわり始めたのは、発達障害に薬は必要ないことなどを提唱している国光医師の研修会だったという。「五大栄養素のうち、今日本人に不足しているのがミネラル。ミネラルは骨など体の組織を構成したり、神経の働きを円滑にするなど、心と体の健康を維持し、調整するのに重要な栄養素だ。肝心かなめの働きをすることから、体をオーケストラに例えるとミネラルは指揮者、サッカーや野球チームに例えると監督の役割をするといわれている」とのべた。

 

 食べ物から栄養をとり入れると、酵素が働いて食べ物からとり込んだ栄養素を分解し、血液や筋肉、骨、ホルモンなどをつくったり、エネルギーにしていく。「私たちの心の状態に関係の深い神経伝達物質をつくり出すためにも酵素が必要だ。酵素を働かせるためにはミネラルをとらなければ、円滑に働いてくれない。ミネラルをとり、酵素がうまく働いて神経伝達ホルモンがしっかりつくられて体の各組織や神経の働きが円滑になる。体の調子が整い、心も安定する。ミネラルは心と体の健康、幸福感にかかわりの深い栄養素だということだ」と紹介した。研修会を受けて、とろろのふりかけをご飯にかけるところから始め、昆布茶や鰹節といりごまをブレンドした手作りのふりかけをご飯にかけるなどの実践を始めたという。

 

 年長児になるとおやつ作りもときどきおこない、保護者向けにつくったおやつの材料や作り方を掲示したり、レシピ表も用意する。そうした工夫をして、子どもの声を通じて保護者にいい物を呼びかけている。

 

 肥塚園長は、改めて給食について取材した感想として、「給食を実施するためには、さまざまな人の信頼関係と理解があってできることを改めて感じた。制度や施設設備の充実、よい食材があっても、給食で子どもたちにかかわる人がなにを伝え、提供するかで、日本のよき食文化が継承でき、食育の質を左右する重要な役割があると思った」とのべ、「“子どもたちのために”を“私たちのため、地域のために”という言葉に置き換えるともっと大切な未来が見えてくるのではないか」とのべた。

 

肥塚園長による講演

 

 

 質疑応答のなかでは、食育を重視するきっかけとして子どもにアレルギーが増加していることや、落ち着きがなく突然奇声を上げる子どももいる背景に、食事や睡眠が大きく影響していることにも論議が及んだ。

 

 肥塚園長は、そうした状況を食を通じて変えていこうと職員全体や保護者も一緒に少しずつとりくみを進めるなかで、全体の意識が変化してきたこと、一人ではなくみんなと一緒にとりくむことの大切さを強調した。また、仕事が休めないために一時的な効果と知りながら座薬で子どもの熱を下げて保育園に預けてしまう家庭も少なくないこともあげ、「薬はあくまで症状を抑えたり治療するためのもので、日本人はもともと人間の体が持っている力を生かすためにどういう食材があるのか、調理の仕方を工夫して熱があるときにはどういう物を食べさせたらいいのかなどの知恵を持っている。それを伝承していくうえで学校給食や保育園・幼稚園で保護者に伝えていくことが大切なのではないか」とのべた。

 

 意見交換のなかでは、下関の学校給食をどのようにしていくのか、食を変えていくとりくみをどう広げていくのかなど、自然栽培や無農薬栽培農家、食育にとりくんでいる参加者、発達障害の支援をしている参加者など、それぞれの立場から、感想や意見、呼びかけなどが活発になされた。

 

 私立保育園で給食を担当し、15年以上前から食材にこだわった給食に変えてきたという女性は、野菜を有機野菜にしたり、魚を唐戸市場から仕入れたり、調味料を変えるなどしてきたことを語り、「今日の話を聞いて、まだまだ保護者への発信が弱かったなと感じ、レシピを伝えることも大切だなと思った」と話した。また、20年前に自身が始めたころは関心が薄い時代だったが、会合に若手農家も含め多くの人が参加し、食や農法に関心を持っていることに喜びを語り、続けることの大切さを強調した。

 

 地場産食材を給食に供給するには、安定的に供給できる生産体制が不可欠であり、生産者を育て、増やしていくこと、生産者同士が連携すること、生産者と消費者が連携することなど、関係者のつながりが不可欠であることも論議された。

 

 無農薬栽培をしている農家は、給食に野菜を納入するには安定供給できる実績と青果市場を通すことが必要だといわれたことにふれ、「生産者が手を組んで、組合のようなものをつくって安定供給できる体制をつくるなどの形はどうだろうか」と提案した。

 

 別の女性は、「せっかくこれだけ下関で有機の農家や無添加や安全なものを扱う飲食店の方がいるなら、そういった情報共有や店舗検索サイトをつくって利用を呼びかけ、口コミで広げるなどの工夫をしてはどうだろうか。それが農家の応援になり、農家も売れる安心があると農地を増やすことができるのではないか」と提案した。

 

 12月に食のフォーラムを準備している女性は、給食食材の安定供給という面では千葉県いすみ市などが有機米100%で賄っているなど、すでに実績があることを紹介し、実現は可能であることを強調した。

 

 給食調理場の民設民営化をめぐっては、すでに業者が内定しており、9月に契約を締結する日程となっている。

 

 母親の一人は、「給食の民営化の動きに疑問を持っている。市の動きが思っているより早く、2024年の民営化をめざし、6月4日が企画提案書の提出期限、9月の契約締結ということだ。契約を締結してしまったら市民があとで反対といっても契約を破棄できない。残された時間は本当にないので、ゆっくり機運を高めましょうといっていたら間に合わないのではないか。どうやったら止められるのだろうか」と切実な思いを語った。

 

 80代の元教員の女性は、「下関が学校給食調理場を大型のセンターにすることを聞き、びっくりして参加した」とのべ、現職のころにアメリカ産小麦ではなく米飯給食にする運動や、カドミウム米を給食に使うことをやめるよう県にかけあうなどして下関の給食を変えてきた経験を語った。

 

 また、自身が生まれたのは国家総動員法ができた年で、衣食住、思想のすべてに統制がかかり、なかでも食の統制は厳しく、小学校4年まで卵の味を知らなかったことを語り、「今回、下関が大型のセンターにすることを聞き、統制のなかで育った自分の暮らしをつくづく思い出した。大型のところに安定供給できるのは一握りの農家で、小さな農家はできない。選択の余地がないということが統制社会だと思う。民営化は利潤追求に走るだけだ。財政でできないという市の話は嘘で、税金の使い方だと思う」と話した。

 

 こうした意見も踏まえ、署名を中心になってとりくんだメンバーの一人は、「署名を始めるとき、“給食センター反対”と大きく花火を上げるかどうか悩んだが、“大型化が変えられずダメだった”というので終わってしまうのではないかとも考えた。明日、明後日ではなく、100年後、200年後まで考えられるかどうかが問われているのが21世紀ではないかと思う。給食センターができて15年で100億円。では次の20年、30年をどうするか、ということを話せる人が増えていけば、絶対に未来は変わっていくと思う」と意見をのべた。

 

 また別のメンバーは「大型化については止まらないかもしれないが、シラっとできてしまうのではなく、市民の意見も給食課に見てもらうことができ、違う考えを持つ市の職員も出てきてくれたらいいと思う。今日農家の方もたくさんおられたので、大型化しても有機給食の日を実現できるのではないか」とのべた。

 

 参加していた市議の一人は、「聖母園のとりくみで、離乳食やアレルギー食の話を聞き、顔の見える関係や距離がすごく大事だと思った。自校式をなくし、センター化することで失われる部分がたくさんあるのではないかという疑問は今も持ち続けている。署名が提出され、市長も前向きに答えているが、“やる”といったことが、やられるかどうかしっかり見て、みんなが子どもの食に目を向ける下関市にしていきたい」とのべた。

 

 自然栽培の農家から、ゲノム編集のトマトの流通が始まろうとするなかで、「種苗への遺伝子操作の表示を求める署名」の呼びかけもあった。集まった農家や消費者がつながってネットワークをつくり、子どもたちが土や農業に触れられる機会をつくったり、オーガニックマーケットを開くなど、さまざまなとりくみを展開していくイメージを共有した。

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