いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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上関 諦め頼りの工事着工芝居 祝島が補償金拒否すれば頓挫

 中国電力の上関原発計画は1982年の公表から27年目を迎え、国策との粘り強いたたかいが続いている。中国電力は二井県政が許認可を乱発するもとで、敷地造成工事にかかるなどし、原発ができるのは間違いなく人人はあきらめるよりほかはないかのように振りまいている。上関原発をめぐる本当の情勢はどうなっているのか、本紙ではこの間現地調査を繰り返し、記者座談会を持って分析してみた。
 司会 上関原発計画を巡って何がどう動いているのか、現状についてまず出してほしい。
  中電は4月8日に建設予定地の敷地造成工事を始めた。二井知事が保安林部分での用地造成許可を出したことから動きはじめた。商業マスメディアは「ついに着工!」「県との関係で必要な許認可は全部整った」と騒いでいる。どんな工事がはじまるのかというと、排水溝や調整池の準備工事を2カ月ほどで終わらせて、6月以降は、14万平方㍍の海面埋め立てにも取りかかるというものだ。国への原子炉設置許可申請は「今年度中のなるべく早い時期にやる」といっている。中電にとっては「念願の大きな1歩」だそうだ。
  今春から上関立地事務所の体制が変化した。「上関調査事務所」から「上関原子力発電所準備事務所」に格上げされて、人員も30人以上増やした。長年現地担当だった和森氏はどこかへ消えて、所長も交代した。工事が始まることへの対応だ。1号機は、2010年度に着工して15年度に運転開始、2号機は計画を2年ずらして、15年度着工、20年度に運転を開始するといっている。
  5月の連休明けには、護岸の埋め立て、取水口と排水口のトンネル工事、土砂採石など3件の入札が実施されるのだと業界では話題になっている。護岸は700㍍ほどいじるらしく、ケーソンをつなげたりで100億円以上の仕事になるようだ。「チャンピオン」は、井森工業、五洋建設、大林組のようで、このグループが受注するのだろうと話されている。トンネル工事は選挙プロだった上関立地事務所OB・小池氏が天下った奥村組とか東洋の名前が飛び交っている。
  神社地は岩場が多く、これを崩して埋め立てに利用するのだという。海面が濁らないように陸で洗浄するからクリーンなのだとか、伐採した木材を粉にして斜面に吹き付けるからエコなのだとか、それでも土砂が350万立法㍍ほど余るので「“島を太くする”と柏原町長がいっている」「そんなことしたら、また漁業補償が発生するではないか」とか水面下では話題持ちきりだ。下関辺りの業者まで「作業員の飯場をつくる」といって四代へ視察に来るという動きもある。色めき立っている。

 現地の権利関係動かず 王手かけられた中電
  二井知事がバンバン許可を出したり、進める範囲内で事を動かしているのは確かだろう。ただ実際の現地の権利関係は何も動いていないし、原発をとりまく社会状況は様変わりしているのが実態だ。
  海や山の権利関係を見てみると、新たな進展はない。地権者は「土地は売らない」といっているし、相変わらず虫食いだらけだ。中電や県の側が突っ走っているだけで、町民との関係での力関係には何の進展もないのが実情だ。
  1番焦点になっているのが祝島の漁業補償金受け取りを巡る騒動だ。祝島では今年2月に漁協の全体集会をやって、結果的には「補償金は一切受け取らずに原発反対を貫くんだ」ということになったが、推進勢力は切り崩しに躍起になっていた。集会には県漁協幹部がやって来て「来年5月までに受け取らなければ、2000年に支払われた5億4000万円は国庫に納められる」とハッパをかけた。「原発はできるのだから、もらわない方が損ですよ!」というわけだ。漁業権変更の議決ラインは3分の2だが、過半数だとインチキをやり、投票の方法も挙手から無記名投票に切り替えた状態で投票がやられたという。
  漁師だけあつめてコッソリやってしまう作戦だったようだが、危惧した島の婦人たちが次次に集会所に集まって「委任状があるじゃないか」と訴えたり必死でひっくり返した。結局は35対33の2票差で否決した。推進派は「賛成を40人集めるはずだったのに」といって元気をなくしていた。
  「来年5月までに受け取らなければ国庫に納められる」というのがポイントだ。つまりそれを別の角度からみると、来年五月まで受け取らなかったら、祝島の同意を得ることができなかったという結論になる。田ノ浦沖の漁業権変更は祝島問題の未解決により無効になったということだ。
  漁業補償交渉は祝島を抜きにして、関係7漁協が勝手に進めて合意したものだ。祝島では水協法で定められている「3分の2同意」など1度も得ていない。祝島は7漁協の漁業補償交渉は無効だといって裁判をしてきたが、しかし祝島が同意しなければ無効なのだ。何が何でもカネを取らせようと中電や県側はあせっている姿をあらわした。「原発はできるからカネをもらわなければ損」なのではなく「祝島がカネを受けとり漁業補償受け入れを認めなければ原発ができない」というのが真相なのだ。
  中電から残り半分の漁業補償金が配られたのは昨年の11月だが、関係する旧7漁協(現在は山口県漁協支店)はどこも支店止まりで組合員個人には配られていない。この辺も意味深で、祝島を崩すという意図が深く関わっている。早く配ったら、祝島はがんばれという力になる。祝島が崩れたら配分がはじまるのだろう。近年は上関の大西組合長あたりが、補償金・協力金をちらつかせて祝島崩しに躍起になっていた。柳井の飲み屋に祝島の推進部分を連れて行って飲ませたり、直接のパイプを持って周囲が工作活動に勤しんでいる。

 祝島を崩すことに必死 全町諦めさせる意図
  明らかなのは祝島を崩すことをひじょうに重視していることだ。それによって、地権者を諦めさせ、全町の反対派を諦めさせようという意図を持っている。現地の反対派を崩さなければ原発はできないと見なしていることだ。そこで来年5月で国が補償金を取り上げてしまえば、祝島の同意はできなかったということが結論となる。中電と二井県政の埋め立て突っ走りは、空騒ぎで終わりになる。祝島が頑張っていれば、地権者も土地を売らないだろうし、全町の反対派も崩すことはできない。そういう意味では中電も国もムリを重ねて必死になっている。王手をかけられているのは向こうの方だ。
  補償金の額でいうと、祝島は総額で10億8000万円ある。単純に70人の正組合員で分けたとしても1人頭1500万円程度だ。「27年間で漁業に携わった人にも配分する」という話も出ているから1人の取り分はもっと少なくなる。1000万くらいだろう。しかも漁民の補償金だけで祝島全部を売り飛ばすことになる。はした金での売り飛ばしだ。“瀬戸内海の心臓部”ともいわれる漁場を失い、生活基盤がなくなれば島の生活もままならない。移住するといっても1000万円では家すら建てられない。額だけ比べるなら、旧上関漁協は地先権消滅補償だけで25億円もらっている。
  漁師以外の所は「ここまで頑張ってきて、今さら補償金ごときでひっくり返るのか!」と怒り心頭だ。
  だいたい、祝島の原発反対は農民がリードしてきていた。出稼ぎで原発に働きに行った人が多く、そういう経験からも原発は絶対建てさせるなというのが強かった。
  全体集会の席で山戸氏の言動にも注目が集まっていた。県漁協の幹部から「あなたは(補償金を)貰う資格がない、貰いませんよね」といわれても、ショボンとして何もいい返せなかったと参加した漁民がいっていた。完全に弱みを握られているということだろう。県漁協に合併する以前の祝島漁協では山戸氏が組合長をやっていたわけだが、山戸氏が組合長をやってから漁協は大赤字になった。そして合併で運営委員長にもしてもらえず、県漁協管理のようになった。ショボンとなるような問題が発覚したんではないか。
  合併時期には県水産部や県漁協幹部らが会計検査をやっていたものの、不問に付されるような形で何も表沙汰にはならなかった。権利が県漁協に吸収されるというのに、山戸氏は無抵抗であったし、その後は静かに三浦湾のログハウスにひきこもって、正組合員資格を保つためなのかアナゴを捕っていた。県漁協にたいしてものがいえない何があるのか? と話題になっている。
  他の島民からすれば、そんなことは知っていてもこれまで反対派をまとめるのは山戸氏しかいなかったという関係できている。

 未買収地等問題は山積 山戸氏の土地も注目
  ついでにクローズアップしておかなければならないのが、四代田ノ浦現地にある反対派の土地だ。虫食い用地の多さは、世界的に見ても前例がないほどなのだが、ここに山戸氏らの所有地がある。炉心予定地を見下ろす正面の小高い位置に反対派のログハウスや祝島住民などが分割登記して所有している用地もある。石を投げたら届くほどの距離だ。炉心位置として中電が強奪した神社地の隣も反対派地権者が所有しているほか、湾を囲む突き出た部分のほとんども未買収地だ。つまり、民有地が取り囲むように点在している。
  山戸氏の所有地は複数あって、炉心近くの石を投げたら届くような土地だ。原発問題が起きて、おばさんの所有地だったのを、そのおばさんを世話するといって引き取り、自分名義にしたものだ。「原発反対のため」が世間向けの大義名分だった。山戸氏名義の土地では、祝島のいわゆる山戸ブレーンといわれる反対派住民や県内外の「反原発」グループと称する部分、中電株主や広島市・秋葉忠利市長など約100人に分割した土地のほか、子分の清水町議ら数人と分けて所有している土地もある。名前を見てみると祝島に住んでいる人もたくさん含まれている。この山戸氏の土地についてあまり話題になっていないが、たいへんな注目点だ。
  青森県の大間原発では1%の土地を1人の老婦人が手放さなかったので、炉心位置をずらすなど計画そのものを変更せざるを得なくなった。国からの原子炉設置許可申請が下りて「着工」とはいうが、今でも炉心から300㍍離れたその土地は問題になっている。老婦人亡き後は家族が畑を耕したりログハウスを建てている。原子炉設置許可が下りても、電気事業法に基づいた原子炉格納容器などの「建設工事計画」は認可されていない状態で、港湾工事など周囲の準備工事から手をつけている。それぞれの設備建設に工事計画の認可が求められ、国が許可しながらあきらめを誘っている状態だ。上関では用地だけを見てみるならば、頑強な地権者は四代にたくさんおり、1人や2人ではない。残り3%の用地取得ができずに計画撤回になった巻原発(新潟県)の例もある。
  祝島問題は大きなネックになっているが、その先にも問題は山積している。国の安全審査や公開ヒアリングなど一連の手続きもある。避難道も絶対つくらなければならないものだ。今の上関大橋では古くて話にならない。瀬戸大橋レベルの大がかりなものが2本はないと原発道路にはならないし、緊急時に逃げる手段など絶対に必要になる。現実的には話題にもなっていない。送電線を立てるルート、土地の問題なども全く問題にもなっていない。手続き上の課題はまだまだ山積なのだ。町民側をだましてあきらめさせるしか、原発の見込みはない。逆にいえば町民側があきらめなければ心配はないのだ。
  地震やテロ対策もさっぱりだ。上関の目と鼻の先にある伊方原発は浜岡原発に次いで地震で危険な原発だといわれている。テロ対策では、原発は第1級の軍事施設として厳重な監視下におかれるのが常識だ。特にすぐ隣の岩国では現在の米軍基地を極東最大にするという巨大プロジェクトが進行していて、上関原発はかっこうの標的だ。

 国土破壊の象徴・原発 全町団結の機運高揚
  冷静に見れば、上関原発をめぐっては、町民とのあいだの力関係として中電側は全然優勢ではない。中電側が国や二井知事にハッパをかけられて勝手に暴走しているだけだ。それ以上に、力関係としてみたら、原発反対が圧倒的に有利になっている。
 隣接する岩国基地の大増強計画に反対する岩国市民のなかで、原発は原水爆戦争を引き寄せるものだということから、上関原発に反対する力は、数年前と比較したら様相を一変させている。大島も岩国基地反対の力が、漁協合併や町合併の問題とも結びついて、上関原発に反対する力として非常に大きくなっている。岩国基地増強に反対する広島の力は表面化してきたが、原爆投下への怒りが岩国基地や上関原発に反対する力として大きくなっている。大島、大畠や宇部などに至る瀬戸内海一円の漁民のなかで、漁協合併での打撃への怒りと共に上関原発に反対する力は大きくなっている。
 全般的に、小泉以来の自民党政治によって、散々アメリカに食いものにされ、国が潰されていく現状とあわせて、原発こそ後は野となれの国土破壊、日本破壊の亡国政治の象徴として全国民的な怒りを呼ぶ条件が強まっている。全町、全県、全国的な共同斗争になる条件は非常に大きい。
  27年たって町内の様子は様変わりだ。80年代のはじめごろ、「若い者は都会に出ていくからこのままで10年もしたら廃村になる」「だから地域振興で原発だ」と叫んでいた。しかし今では都会に出ていった人は、仕事がなくなり田舎に帰ってくる人が多い。都会で食っていけなくなった。
  上関町内では祝島が都会から帰ってくる人が多い。四代や他の地域でも関西方面から父ちゃんだけ帰ってくるパターンなど増えている。田舎なら儲けこそなくても、海や山はあるし人情もあるから餓死するような心配はいらない。だから敗戦後と同じで、何があっても海と山は守らなければいけないと語られている。
  町内の政治勢力を見ると推進派もインチキ「反対派」も崩壊状態だ。推進派でかつて最大勢力をなしていた商工業者のなかでは「だまされた!」というのが圧倒している。原発の工事に町内業者が入る余地は全くない。それに輪をかけているのが町内の工事で、町長と結託して特定の会社が全て独り占めすると不満が渦巻いている。商店は原発ができる前に疲弊しきっており、みんな腹を立てている。
  推進でいいことをしているのは漁協の大西運営委員長と、柏原町長一派つまり加納一族だけといわれている。そこに元町長の片山氏も立ち木伐採の会社などでかんでおこぼれを拾っている模様だ。
  祝島の補償金をもらおうという漁協の勢力では昔、推進派を「銭ボイト」といって攻撃していた反対派のリーダー的な部分が新興勢力として登場している。原発を引っ張ってきた加納元町長派勢力だ。柏原一族でもある。「推進派は人にあらず」という島民分裂をやってきた部分が推進をやるというのだから、島内では穏やかな話ではない。いずれにしても祝島では長年反対してきた人人の大多数は漁民ではない。推進派、反対派といわれて分断させられてきた人人が、そのようにさせてきたイカサマ勢力と一線を引いて、大同団結で共通の敵とたたかう条件が強まっているということでもある。

 豊北型の力結集の好機 全国的な共同斗争へ
  現在つぶれてしまった山戸氏型の反対派勢力ではなく、団結できるあらゆるものが団結して国策とたたかって打ち負かした豊北型の指導勢力をつくるチャンスが訪れたということじゃないか。そうすれば勝利するということだ。
  1977~78年の豊北原発を阻止する斗争は、単に漁民の生活問題だけではなく、日本の漁業を守り、原発をてことした産業構造転換による人民生活の破壊に反対し、さらに原水爆戦争に反対するという日本全体の課題であり全人民的な課題だということから、議員や幹部だけに依存するのではなく大衆自身が主人公となり、海側も山側も団結し、全県、全国の団結できるすべての人たちと団結して国策とたたかうというものだった。
 そして当時は、原発阻止山口県共斗会議が全県的な運動をやり、山口市職が原発反対のストをやるなど全県が共同斗争をやった。上関斗争の27年は、中国の変質があり、ソ連、東欧の崩壊があって全県の労組、革新団体が雪崩を打って裏切りの道を進む過程となり、全県的な運動が衰退するなかで上関町民は困難を強いられた。そのなかで27年がんばってきた力は半端ではない。
  山戸氏の反対路線というのは、島内主義で全町と団結することを妨害してきた。島内でも推進派、反対派で色分けをして対立を煽ってきた。その一方で平井県政を味方とみなし、県から様様な事業をやってもらいながら94年に田ノ浦の地先にあった共同漁業権放棄をやり、環境調査と漁業補償に道を開いた。みんなが反対した県一漁協合併もやった。極端に高い油代やべらぼうに安い魚価で漁家経営と、漁協経営の危機を作り出して漁業権放棄、漁協解体へと誘導していったのが特徴だ。二極構造崩壊後の90年代はちょうど山戸氏のような裏切り潮流がはびこった時期だったが、20年経って一巡してインチキは暴露された。
  原発は国策だ。推進しているのは町内の推進派だけでも、中電だけでもなく、県が前面に立つ形で、国策として進められてきた。あらゆる金力、権力、マスコミ、政治勢力までフル動員だ。だから祝島だけの経済要求をいっていたのでは勝てない。上関原発が全町、全県、全国的な問題として、世のため、人のため、国のためという姿勢で、団結できるすべての人と団結するという方向でないと国策に勝てるわけがない。
 祝島にも町内にも広島原爆にあった被爆者がいる。そういう人人が原発問題で発言できるような運動が必要だ。上関は年よりの町だが、それは戦争体験者が多いということだ。ミサイルの標的になる原発にもっとも敏感である。
 そして戦争から戦後の体験をして、アメリカの植民地のようになって上関はもちろん、日本中がつぶれていくのにみんな危惧している。とくに農漁業をつぶして食料の自給ができない国にしたら大変なことだとみな考えている。
  一方ではアメリカの本土を守るためにミサイルを落とすのだと大騒ぎしながら、また柏崎では大地震で原発がぶっ壊れながら、国土を廃虚にしかねない原発を、アメリカがまた原発推進をはじめたからといって推進するバカげた自民党政府の暴走をやめさせる象徴的なたたかいとして上関原発を阻止するたたかいを全町、全県的に再結集する時期に来ている。
  山口県民が豊北につづいて、再び原発を推進しようという政府、およびアメリカの出鼻をくじいて上関原発を押しとどめるのは、全国、世界への大きな激励となる。明治維新にたくさん参加した上関町民だし、山口県民だ。

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