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原発終結か復活かの大分岐点 祝島の漁業補償金巡る攻防

 中国電力が進める上関原発建設計画は28年間の歳月を経て、いまや重大な分岐点を迎えている。一昨年末、二井知事は埋め立て許可を出し、中電は漁業補償金の残っていた半金を払い、7漁協はさっさと配分。「いよいよ工事開始」との空気で、県外の大手業者が町内外を動き始めた。しかし昨年2月、祝島の漁協総会で補償金の受け取りをはかったが否決された。工事は頓挫し、県外の工事業者は引き揚げてしまった。このなかで中国電力は原子炉設置許可申請を出し、二井県政、県漁協は再三にわたって祝島に「補償金受け取れ」の攻勢をかけている。それは祝島の漁業権放棄が最大の分岐点となっていることをあらわしている。祝島が補償金を受け取らなければ原発のメドはなくなる、という情勢をあらわしている。疑いなく上関原発28年の重大な転換点を迎えている。記者座談会をもって整理してみた。
 司会 祝島の様子から出してもらいたい。
  年が明けて祝島では、県農林水産部の幹部と一緒に県漁協が乗り込んで、1月19日に漁協の組合員集会を招集した。昨年11月につづくもので、前回同様に「補償金を受け取って分配したら税金はほとんどかからないが、受け取らなかったら今年3月決算で2600万円を県漁協が法人税として払わなければならず、それは祝島の組合員に一人当り40万円ほど出してもらう」という脅しがエスカレートしたものだった。加えて今年の祝島支店の決算で200万円ほど赤字があり、それも組合員個人に負担してもらうというおまけまでついている。さらに中電の側は、抗議行動による工事妨害の損害賠償金として4800万円ほどを請求する裁判を起こしており、補償金を受け取らなければ7000~8000万円という大変な負担をかぶるぞとの脅しだ。今週29日に組合員総会を招集して補償金問題についての議決を取るとして勝負をかけている。
  漁協集会には、前回と同じく、県漁協の前田宏総務部長をはじめ幹部職員数人、森友信常務理事(室津漁協出身)、上田稔・上関支店参事が参加、それに梅田孝夫・県農林水産部審議監、仲野武二・県柳井水産事務所長などが同席していた。漁民側は「受け取り反対」で頑としている漁民は出席拒否し、参加者は推進派と中間派などの40人ほどだったという。
 参加した漁民の話では、県漁協は「受け取りを拒否するなら、個人で税金を負担してもらう」という脅しをさんざんしたあげく、「補償金が国に没収されてからでは遅い」「これが最後のチャンス。今度の総会で否決されたら県漁協は手を引く」といって帰ったという。「県は相当に焦っている」という印象を与えるものとなった。
 C 22日には、二井知事が東京に飛んでいき、経済産業省の増子副大臣と面会して「新政権には原発反対の社民党も入っているが、上関原発についてどう取り組むのか」と態度を問いただした。増子副大臣は「地球温暖化防止の観点から従来通り原子力政策を進める」と答え、二井知事は国の推進の方向で動くという態度を表明した。これまでの「地元の意向を尊重する」といっていた体裁も投げ捨てて、上関原発推進の親玉として動く姿を表明した。中電からは「二井知事がダメだ」といわれているが、中電は原子炉設置許可申請を出しており、二井知事も必死だ。

 生きている祝島漁業権 放置できず焦る県

  こういう事態をどう見るかだが、この間の動きから見てみよう。大きく動いたのは一昨年末だ。10月に二井知事が「条件が整った」として公有水面埋め立て許可を出し、それを受けて中電が関係漁協に残る補償金の半金を支払った。七漁協はさっそく組合員に配分し、「原発はできるできる」の騒ぎとなった。都会の大手工事業者が町内外を動き回り、中電も町内推進派に「民宿をつくれ」など誘いかけていた。だが祝島では2月の総会で受けとりを否決してしまった。夏頃には工事業者は引き揚げていき、できた民宿は客がいない。
 A 昨年11月から今年1月と2回も説明会を開き、29日には県漁協招集の補償金の議決を求める総会をやるという。これらが証明することは、祝島が漁業権裁判で敗訴したと騒いだが、祝島の漁業権はしっかり生きているし、祝島がそれを放棄しなければ原発はできないということを証明している。祝島の漁業権が裁判に負けて消滅したというのなら県も県漁協も放っておけばよいことだ。しかしそうはできない。二井知事は祝島の漁業権放棄のために騒がないわけにはいかないのだ。「原発はできるから祝島は補償金を受け取った方がよい」というのはウソであり、「祝島が補償金を受け取らず、漁業権を放棄しないから原発はできない」というのが現実なのだ。主導権は祝島の島民の側にあり、中電、二井知事の側が追いつめられているのだ。
  県の農林水産部も県漁協も、祝島の漁業権は消滅したようなことをいう。その根拠となっているのが、最高裁が一昨年末に『漁業補償契約無効確認訴訟』で「確定」扱いとした、広島高裁の「(祝島の)組合員は管理委員会の決議に基づく契約に拘束される」という判決だ。それは、祝島は7漁協の契約が無効ということはできず、有効と認めなければならないという意味ではある。だが祝島の漁業権も多数決で消滅したという判決ではない。最高裁といっても、祝島は漁業権を放棄せよと命令することはできない。
 7漁協の漁業権放棄の契約が有効というのは、それぞれ漁協総会で3分の2の議決をとって契約しているからであり、祝島の漁業権を変更できるのも祝島の組合員総会だけだ。それが漁業法の規定であり、最高裁はその法律に違反することはできない。
 D だから旧107共同漁業権は、7漁協が漁業権を変更させているので、いまや祝島の単独の漁業権となっている。7漁協の漁業権放棄なら二十数年前にできたことで、この間祝島を崩すことができなかったことは、何一つ中電にとって前進はしなかったということになる。これ以上やろうというのなら、祝島との単独の交渉しかないが、中電は28年間祝島には挨拶にも行ってない、テーブルにもついてない。ふりだしに戻るより以前に戻ることになる。
  祝島の漁業権が生きていることは、二井知事の埋め立て許可が条件を満たしておらず、無効ということになる。知事の埋め立て許可と同時に残る半金を支払うという約束だったことから、中電は7漁協に支払う羽目となった。中電が二井知事を「役立たず」となじる根拠だ。県の農林水産部幹部が、漁業法を超えてまでウソ八百で祝島を脅すほど、水産行政の役人としては懲罰ものの行為に及ぶのは、ドジをやって窮地に追い込まれている二井知事から尻を叩かれていると見る方が当たっていると思う。
  二井知事が焦っているのはもう一つ祝島の漁業権問題の期限をつくってしまったことだ。供託金の国による没収期限が今年の5月15日、県漁協が勝手に口座に収めている残る半金の課税が来年10月末までだ。これまでに祝島が補償金を受け取らなかったら、中電と祝島の漁業交渉は最後的に決裂したということになる。上関原発の終わりだ。ここから中電も二井県政も上関原発の態勢を立て直すのは不可能だろう。28年かかってやってきた仕かけが破産したわけであり、それを立て直すのにまた30年かけるのだろうか。その間に中電の経営が持つかどうかを心配する羽目になるのではないか。

 法人税支払い承認企む 祝島にペテンの説明

  もうひとつ、祝島への説明のインチキだ。「受け取っても、受け取らなくても税金がかかる」といっている。漁業権は漁協に与えられたものではなく、漁協組合員に与えられているというのが漁業法だ。県漁協や祝島支店のカネではない。それはただの通過機関に過ぎない。
  広島国税に取材したら、「契約が成立し、受領されて初めて課税が発生するのが原則だ」と説明している。預かっているだけの漁協に課税されるというのはインチキだ。課税されるのは、祝島の組合員が受け取るという意志表示をしなければ可能性はない。県漁協は「受け取らなければ法人税が取られる」といっているが、逆の話であり、祝島が法人税を納めることを承認したら税金を取られ、関係ないとして意志表示をしなかったら税金を取ることはできないというのが本当のことだ。
 二井県政は、祝島が供託金もあとの半金も受け取ることを拒否するなら、法人税を支払うことを承認させること、それは補償金が祝島のカネと見なしたことになるし、受け取る意志表示だと言い張る理由付けとなり、二井知事許可の合法性を言い張る理由付けになるというものだ。
  工事妨害の損害賠償の問題もペテンだ。祝島が補償金を受け取る意志を示さなかったら祝島の漁業権が生きており、祝島の漁場に影響がある埋め立て工事をするのに、祝島の合意なくやることは違法行為となって、逆に祝島側が損害賠償を請求する側になる。祝島が補償金を受け取る意志表示をしたら、逆に祝島の抗議行動が違法行為とされ、損害賠償請求を正当とされる羽目になりかねない。県農林水産部同席で大ペテンをやっているのだ。「漁師はバカだから税金の話でチンプンカンプンにさせ、だましてやればよい」という態度丸出しだ。

 議決ラインもインチキ 手順も指導する県

  今回の議決ラインについても「補償金を個人に分配する議決なら3分の2だが、供託金を漁協支店が法人として取り戻すだけなら過半数でいい」、などというインチキを平気で言っている。補償金を受け取るかどうかは漁業権を変更するかどうかであり三分の二の議決がいるは当たり前だ。
 漁業権変更には順序がある。第一は組合員総会で3分の2の議決をすること、そののち契約の妥結があり、そして補償金の受け取りと各組合員への分配がある。課税はそのとき初めて生じる。祝島の場合、莫大な負担金があるぞと脅し、補償金を目の前において、まず過半数でカネの受け取りを決めさせ、カネを受け取ったのちに総会で3分の2の議決をとるという逆の手順を、県農林水産部が指導している。
 A 漁協合併の県水産部のやり方もヤクザ的だった。合併を承認しない組合には後出しジャンケンで2度も3度も総会をやり直させ、合併を無理矢理やらせた。二井ヤクザ県政なのかだ。
  祝島漁協の今期の赤字は200万円ということだが、祝島は役員不在状況で、県漁協の職員が兼務しているが、県漁協職員の報酬は県漁連からの引き継ぎで通常の組合の報酬よりも高い。高額報酬の県漁協職員を抱えたら赤字になるのは当たり前だ。

 補償金拒否で原発頓挫 全県運動で連帯へ

 B 町内推進派の間では「29日の総会で祝島はひっくり返る(受け取る)ことになっている」と期待する声もあるが、祝島島内にいくと「勝手に埋立許可を出した二井を懲らしめろ」という世論が大勢を占めている。1年前の総会では「祝島だけ反対しても原発はできる」「金を受け取らなければ損する」という諦めを誘う空気が強いなかだったが、2票差になったのを見て立ち上がったのが婦人を中心とする島民だった。それが田名の抗議行動への意気ごみとなった。島内外の力関係は1年前の比ではない。
 C 祝島の漁民の一人は、「もともと補償金の配分自体が、祝島は立地予定地の目の前にあるのに、平生や田布施と同じ最低水準。はじめからバカにされている。祝島島民にとって漁業権は生存権と同じだ。それを勝手に奪う権利は二井知事にも中電にもないのは当たり前だ。祝島島民の生存権を、たかだか10億円のはした金で売り飛ばすわけにはいかない」と意気込んでいた。
  島内ではまた「推進派が補償金の受けとりで鼻息が荒いが、あんなはした金で騒ぐのは情けない」「上関町の推進派のなかでは祝島の推進派が一番難儀してきたのだし、いまの補償金問題はいったん白紙に戻して、中電は出直して来いぐらいの姿勢もできないのは卑屈じゃないか」という意見もあった。
 D いずれにせよ、上関原発問題は28年目を迎えて大きな転換点を迎えている。ここで補償金受け取りを拒否したら上関原発は頓挫。ここで受け取ったら大敗北だ。祝島の人たちは28年よく頑張ってきている。しかし頑張っても頑張ってもいいところで後退してしまうという経験をしてきた。94年の田ノ浦地先にあった共同漁業権の放棄があったが、上関原発は80年代後半には終わりになっていたものが、あれで息を吹き返して20年近くの延長戦になった。今度は28年目の分かれ道となっている。祝島はたたかうと思う。
 それとこの間の上関原発の最大の推進者は二井知事だということがみんなの前に暴露されている。これは祝島だけではなく、全県の問題であり、二井知事を包囲する全県の世論と斗争を起こすことだ。上関原発を強行して瀬戸内海漁業をつぶす、岩国には空母艦載機を呼んで上関原発をミサイルの標的にする、「きらら博」とか国体の大型箱物の利権事業にうつつを抜かす一方で、市町村合併を強行するなど地方生活ができないようにし、山口県を全国有数の衰退県、「生活しにくい県」にした。こういうインチキ県政をたたきつぶす共同の斗争をそれぞれのところで強めることが必要だ。それが祝島のたたかいへの連帯だ。

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