いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

祝島一歩も譲らず阻止行動 埋立工事巡り睨み合い

  来年10月に公有水面埋め立て免許の失効が迫るなかで、上関原発計画をすすめる中国電力が400人近い作業員・警備員を動員して「工事再開」を試みた。これに対して祝島の島民らが駆けつけ、田ノ浦現地や予定地海域で連日阻止行動をくり広げている。上関原発建設計画をめぐっては近年、祝島の漁業補償金問題をめぐる攻防戦がもっとも激化してきた。埋め立てといっても漁業補償が未解決のままでは手をつけられないのが中電で、「着工」パフォーマンスを何度も試みながら、1昨年から二井県政と中電は「もう原発はできるのだからあきらめろ」「補償金を受け取れ」と恫喝を加えてきた。ところが、祝島は断固受け取りを拒否してきた。今回、これまで以上に大がかりな「工事再開」作業がやられるのと同時に、山口地裁は陸域での工事妨害を禁じる仮処分決定を出すなど、裁判所や商業マスメディア、金力、権力を動員して祝島陥落に躍起になっている姿が暴露されている。
 2008年10月に二井知事が公有水面埋め立てを許可してから、2年以上が経過した。中電は1年以内に「着手」しなければ免許が失効することから、ちょうど1年を迎えた2009年10月にブイを設置して「着手」とし、免許の無効化を免れて体裁をとり繕った。あれから1年3カ月ぶりの「工事再開」には、かつてない規模の動員を見せた。「着手」から3年、つまり来年10月に次なる免許失効が迫るなかで、埋め立ては完成するどころか、工事にはなんの進展もない。ブイを浮かべ、石ころを放り込んだ程度で実質的にストップしているのが現状だ。そのなかで「中電は本気なんだ」の姿勢だけを強く印象付けるものとなった。
 二井知事が公有水面埋め立てを許可したものの、中電は埋め立てに乗り出せない。この最大のネックになってきたのが祝島の漁業補償金問題で、1昨年からの二井県政、中電、山口県漁協による攻勢は気狂いじみたものがあった。祝島は補償金を受け取っておらず、漁業権放棄ができる唯一の機関である漁協総会で3分の2の議決を取っておらず、祝島の旧107漁業権は生きているからである。この海区は中電が漁業権を買収した四代、上関の地先単独漁業権海区に隣接しており、海域を埋め立てするには、影響を受ける祝島の同意を不可欠とする。したがって二井知事の埋め立て許可は「関係漁協すべての同意」という条件を満たしておらず無効であり、先走って工事を強行する方が違法という関係である。
 1昨年から二井県政や山口県漁協が大騒動して「受け取れ!」と恫喝してきたのはそのためで、合法的に進めるためには必要不可欠であるからこそムキになった。祝島があきらめて補償金受け取りに同意し、組合員に配分しなければ解決にならないからである。ところが祝島は屈服せず、2度も「受け取らない」と議決して拒否した。
 昨年5月には供託金没収の期限となり、祝島との漁業権交渉は最終的に決裂というなかで、没収になれば漁業補償交渉は振り出しに戻ることから、県漁協本店が「配分してほしいという要望もあり、紛争になってはいけないから」などといって祝島支店の議決を無視し、供託金を引き出すという超法規行為に及んだ。埋め立て許可無効が決定づけられる二井知事と中電が、なりふりかまわず県漁協を使って引き出す格好となった。
 祝島支店では正組合員六八人のうち、原発に反対する組合員四七人が「県漁協としても供託金を受け取らず、そのままにしておくこと(五月一五日で国による没収)を求める」と連判状を提出。さらに「仮に税金分の負担名目で祝島支店組合員に支払いを求めることがあっても、いっさい応じないし、場合によっては法的措置も考える」と県漁協に突きつけていたが、いっさい無視して強行したものだった。
 祝島の補償金受け取り拒否が圧倒的多数であることが明らかなのに、その議決を無視して県漁協が勝手に「保管」名目で補償金を受け取り、勝手に法人税として3億7800万円を納め、しかも受け取っていない祝島に税金を負担させるという脅し。3億7800万円を祝島の68人の組合員に払わせようとすると、一人当たり500万円超。「それより配分した方がまし」という誘導で、「一定期日までに個人配分をすれば修正して応分を還付できる」と受け取りを促してきた。税金の修正可能な期間が1年、減免措置を適用されるのも1年以内で、この年度末の3月末までにその期限が迫っている。
 3月末までに祝島が受け取らず、配分しなければ、困るのは勝手に補償金を引き出して法外な金額を法人税として納めた県漁協、二井県政の側で、無理を押したツケが噴き出すことになる。祝島は国に没収させ、中電に返還せよと要求しているのに、勝手に受け取って勝手に法人税を払った責任はすべて県漁協にあるのは明らかで、祝島が受け取ってもいない金の税金を払う理由などない。脅したつもりが、供託金横取りという1年延長戦に持ち込んだ側の責任が問われる形でタイムリミットが迫っているのである。
 祝島の組合員に対して支払われた補償金を県漁協が受領し、その所得として法人税を納めたとなると、それ自体が前代未聞であるだけでなく、もはや組合員1人1人にたいする漁業補償などといえる代物ではなくなる。税金還付の期限である3月の攻防を乗り切ったら破綻するのは中電、二井県政の側で、一方では田ノ浦での工事阻止行動にたいして1日500万円の損害賠償といった脅しをやり、裁判所も国策の推進者として「陸域の工事妨害を禁じる」などと、いっせいに祝島への攻勢を仕掛ける動きになっている。権力が必死になればなるほど、30年間の原発反対斗争が勝利目前であり、祝島が頑張るなら原発はできない関係を浮き彫りにしている。

 三月末が税金還付期限 漁業補償巡る攻防

 もともと中電は合法的に進めるためには祝島の同意が必要なのを知っているから、2000年に支払った漁業補償金は半額払いという不可解な支払い方をした。残りの半額は成功報酬で、二井知事が公有水面埋め立て許可を出した1カ月後までに支払うという約束だった。公有水面埋め立て許可というのは、「関係するすべての漁協の同意を得た状態」を前提としている。つまり祝島漁協が漁業権放棄に同意して、問題がすべて解決したら全額支払うという意味合いだった。
 長年未解決のまま残りの半額が支払われず、膠着状況が動きはじめたのが2008年秋口。2000年から争っていた『漁業補償契約無効確認訴訟』の最高裁判決で「(祝島の)組合員は管理委員会の決議に基づく契約に拘束される」という判決文をもって、祝島の敗訴と騒いで、まるで漁業権がなくなったかのように振る舞ったのが二井県政と中電だった。
 二井県政は「漁業権問題は解決済み」といい、「条件は整った」として先走って埋め立て許可を出した。それに伴って中電も残りの60数億円を払わないといけなくなった。そして海面に手を出せないとわかっていて「工事着手」と大がかりなパフォーマンスを展開。町内には工事業者が押し寄せ、田ノ浦では土を掘ったり森林伐採してみたりで、対岸の祝島に向かって「原発はもうできるからあきらめろ」とメッセージを送り続けた。そして同時進行で県水産部、県漁協幹部を通じて漁業補償金の受け取りを何度も総会で迫る動きを見せた。
 二井県政や県漁協は最高裁判決を盾にして、さも祝島の漁業権問題は解決済みという格好をしながら突っ走ってきた。ところが最高裁の判決は祝島の漁業権がなくなったとはいっていない。祝島の漁業権を放棄できるのは組合員の総会だけであり、総会による3分の2の議決、契約の印鑑、さらに補償金を受けとった事実があって初めて漁業権交渉成立となる。これが「解決している」のなら放置すればよいのに、ムキになって「受け取れ」と脅すから、「補償金を取らなければ漁業権は生きている」の姿があぶり出されることになった。祝島が補償金を受け取らず、漁業権放棄の議決をしなければ、最高裁であろうと県であろうと、祝島の漁業権を放棄させることはできないのだ。
 供託金を勝手に引き出すという超法規をやったツケが、3月末の税金還付の修正期限となって迫る。このなかで、抗議行動をすれば1日500万円支払えとやったり、「妨害禁止」判決の乱発で、中電と二井県政、県漁協、法務局や税務署、裁判所、商業マスコミなどがグルになって、力ずくで島民を絞め殺そうとしてきた。

 国益を守る全国的斗い 強硬姿勢の菅政府

 民主党政府のもとで、アジアへの原発輸出という必死のセールスを展開しているのが原子力メーカーで、国内最後の新規立地点とされる上関原発建設計画は、なにがなんでもやらなければならないという、国策としてのメンツと焦りを反映している。上関原発は日立製作所が受注企業であるが、とりわけ原子力メーカーのなかでも海外進出に出遅れているのに特徴がある。
 もう一方で、菅政府がすすめるTPPの具体的項目として漁業法の撤廃、公有水面埋立許可の自由化、漁業補償金の廃止といった規制撤廃が動き、長年の漁業ルールを取っ払ってしまう強硬姿勢があらわれている。まさに上関のような地域をにらんだかのような内容で、水協法をないものにし、超法規そのものを法制化する動きがあらわれている。
 原発建設という国策をめぐって、金力、権力をフル動員した圧力に屈せず、祝島の島民たちが頑強なたたかいを堅持し、瀬戸内海漁業を守り、郷土を廃墟にする原発建設に対して全身全霊をかけてたたかっていることが、瀬戸内海沿岸をはじめ、全県、全国で共感を呼んできた。国策にたいしてたたかう力は全県、全瀬戸内の漁民、岩国、広島など全国との団結が要であり、権力、金力がぐるになって原発を認めさせ、漁業をつぶす政治が、いまや原発輸出や企業の海外移転、国内空洞化など国をつぶすところまできて、真の国益を守るたたかいとして全国的な注目をあびている。
 瀬戸内海漁業を守り、海と山を守って国を立て直さなければならないこと、極東最大の米軍基地の目と鼻の先に原発を建設し国土を廃墟にさせてはならないことなど、祝島住民のなかでは思いが語られ、内海漁民や全県、全国との団結を求めてパワーアップしてきた。追いつめられているのは中電、国、県であり、「上関原発計画の終焉」まであと一歩のところにきている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。