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歯科技工士がいない 診療報酬抑制で志願者減少 17年で3分の1に

 

 国民の健康と生命を維持していくうえで歯は決定的な役割を担っている。ところが日本では低医療・低福祉のもとで入れ歯・差し歯・被せ物などをつくる歯科技工士の不足が危機的状況に直面しており、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年頃には歯科技工物の安定供給が難しくなり、質と安全性が低下することが危惧(ぐ)されている。下関市、防府市の複数の歯科診療所での取材・資料提供、下関市内の介護事業関係者への取材を通して、直面する課題を見てみた。

 

 複数の歯科診療所が語る実情は、毎年、歯科医師が2000人社会に出るが、それに対し歯科技工士は1000人を切っている。望ましいのは1人の歯科医師に2人の歯科技工士であるが、最低でも1人の歯科医師に1人の歯科技工士が必要である。しかし、これが維持できない現実が差し迫っている。

 

 歯科技工専門学校などで構成する全国歯科技工士教育協議会によると、歯科技工士養成学校への入学者数は2000年の2922人から2017年には927人と、小泉改革以来の「規制緩和・構造改革」のもとで激減している。この入学者数の減少により歯科技工士養成施設数も2000年の77校から2017年の52校と25校(32%)も減り、あわせて残る養成施設の募集定員も減っている(グラフ参照)。

 

 医科の新薬・新技術を使う自由診療と入院費などを保険診療でまかなう「混合診療」実質解禁と同様、歯科でもインプラントなどの自由診療が比較的富裕層の多い大都市で広がっている。こうして比較的収入の良い歯科自由診療に歯科技工士が流れている。さらに注目すべきはアメリカや欧州の大規模歯科技工ラボが腕の良い日本人歯科技工士を引き抜いていることだという。

 

 国民皆保険制度のもとで日本の健康寿命は世界のトップクラスにあるが、歯科医師、歯科技工士の入れ歯・差し歯・歯冠修復・欠損補てん治療など、ミクロン単位の調整をおこなう歯科医療が国際的にトップクラスの低い無歯顎率を実現していることが、その一翼を担っている。これが歯科技工士のなり手不足によって、音を立てて崩れようとしている。

 

 下関市内の特別養護老人ホームで組織する下関市老人福祉施設協議会の関係者は、「歯科治療、口腔機能の維持は、高齢者が自立した生活を維持し改善していくうえで決定的に重要だ」という。「在宅で歯の本数が少なくなり、やわらかい食事をサジでとり、車イスで動いていた高齢者が、施設に来て歯科治療で入れ歯をつくり、口腔衛生を受けた結果、3カ月で普通の食事がとれるようになった。そして車イスから離れてリハビリした結果、数カ月で杖をついて歩けるようになる。口腔機能をはじめ身体の各機能はそれぞれ関連し働きかけあって正常な身体の働きを形成している。口腔機能とかかわって、あごの機能の働きは脳の活性化とつながっている。初期の認知症の改善にこの機能の正常化が重要となっている」と説明した。

 

 ついで、「超高齢化社会を迎え、政府が入院ベッド数を削減し、介護用療養病床を廃止し、“在宅ケア”“在宅介護”に進むなかで、歯科医師、歯科技工士の役割は段階を画して重要になっている。小泉改革以来の介護報酬の引き下げが、介護職の決定的不足を招いており、“介護離職ゼロ”は遠のくばかりだが、歯科技工士不足も同じ歯科診療報酬の抑制に原因があることは目に見えている。報酬の適正化によって歯科技工士のなり手不足を早期に解決しなければ“歯科治療難民”をあふれさせることになる」と警鐘を鳴らした。

 

 下関市歯科医師会・藤井信会長は、「高齢者にとどまらない。現役世代も歯の本数が少なくなると体のバランスがとれなくなる。たとえばトラック運送業界では“歯が悪くなると車の運転はできても重い荷物は持てなくなる”といわれている。重い物を持つとき、腰を入れて歯をくいしばり力を出すが、歯が悪かったり少なくなったりすると力が入らない」という。

 

 続けて「口腔機能の重要さは医学の進歩、人間の身体研究の発展によって明らかになっている。脳がすべて指令を出して終わりではなく、それぞれの臓器の機能が働きかけあって身体の健全なバランスをとっていることが解明されている。ここから医科と歯科の連携が広がっている。たとえば、急性期病院で手術をおこなう前に口腔ケアをまず先にやる。すると、手術後の在院日数が減ってくる。口腔ケアによって手術後の快復力が強まる。ところが政府の歯科診療報酬体系は旧態依然とした“削減ありき”でこの20年増えておらず、現実からかけ離れており、歯科技工士の経済的・社会的な地位向上をはじめ歯科診療報酬の抜本的改善は待ったなしだ」と指摘した。

 

5年間で7割が離職も

 

 歯科医療費は、バブル経済崩壊後の20年間にわたり、2兆5000億円~2兆6000億円台に抑えられている。国民のニーズ、高齢化の進行や医療技術の進歩で当然にも医療費は増えるが、逆に20年間も増えていない。歯科診療報酬の多くは据え置かれたままであり、安全性が何十年にわたって確保されている歯科医療技術も保険適用していない。このもとで競争原理による競争だけが野放しにされ、歯科技工士の低収入、長時間労働を招き、なり手不足の危機を生み出している(グラフ参照)。

 

 歯科診療所では「在宅ケアというが、何一つ体制は整備しない」と指摘する。在宅患者の口腔ケアを月2回おこなうと健康維持の効果は大きいが1回までしか認めていない。在宅患者の口腔衛生を歯科衛生士が訪問しておこなうと、3000円の報酬がつくが、運転免許証を持たない歯科衛生士を車で送ると赤字である。また、歯科技工士が在宅患者の入れ歯をつくり持って行って調整する医療行為は歯科診療報酬の項目にすらない。

 

 歯科診療報酬では、入れ歯の調整や清掃などの保険請求(歯科口腔リハビリテーション料)は月1回しか認めず、2回目以降は再診料450円のみしか請求できない。また「クラウン・ブリッジ維持管理料」により、保険で製作した補てつ物を外傷や破損、紛失などの理由でつくり直しても、2年間は保険請求できない。

 

 歯科診療所では、歯科技工で使う代表的な材料である金パラジウムの価格は4~5倍にはね上がっているが、今年4月の診療報酬改定の材料価格は0・09%のマイナスとなったことを指摘する。政府が決める歯科技工の保険点数は、市場価格である技工料を基準として公定価格(保険点数)を決める特殊な仕組みだ。競争野放しで値下げが激しい市場価格が保険点数決定のおもな根拠とされ、労働実態や技術料、技工物の質・安全性が評価されていない。歯科診療報酬制度の抜本的な改善が急がれている。

 

 この歯科診療報酬のもとで、歯科技工士はどのような状況におかれているのか。全国保険医団体連合会の2016年「歯科技工所アンケート」によると、多くの歯科技工士が長時間労働を強いられ、収入も少ない実情にある。1週間当りの労働時間を見ると、101時間以上が10・2%、91~100時間が9・3%、81~90時間が12・6%で、合わせて32・1%。3人に1人が週81時間以上働き、過労死ラインを上回っている。

 

 歯科技工士は国家資格であるにもかかわらず、経済的地位は低い。年間可処分所得を見ると、100万円以下が11・4%、200万円以下が19・2%、300万円以下が22・7%、合計で300万円以下が53・3%にのぼっている。

 

 以上の状況から、歯科技工士養成学校を卒業して5年足らずで、若い技工士の約7割が離職する事態となっている。歯科診療報酬制度の抜本的改善によって、歯科技工士の減少に歯止めをかけ、2025年に向けて必要な人材確保に転ずることは、国民の健康と生命を守るうえで喫緊の課題となっている。

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この記事へのコメント

  1. 関門技工士 says:

    歯科技工士が7割以上も離職しているのは、超長時間労働、超低賃金によるものです。

    これは、「政府がきめる歯科技工の保険点数は、市場価格である技工料を基準として公定価格(保険点数)を決める特殊な仕組みだ」

    実際に入れ歯や差し歯を作る歯科技工士には、厚生労働大臣告示で歯科技工の保険点数の7割を、歯科医師から歯科技工士へ支払う事が義務付けられています。

    しかし、歯科医師には政府から「公定価格」が支払われます。
    しかし歯科医師から歯科技工士に支払われる技工料金は市場競争によるダンピングや、歯科医による値下げ圧力により、現在は形骸化され、
    歯科医師から歯科技工士へ支払われる報酬は歯科技工の保険点数のうちの3割程度です。

    歯科技工士が製作する入れ歯や差し歯は全てがオーダーメイドでほとんどがハンドメイドです。
    たとえば代表的な銀の被せ物…製作には大変な手間も、何時間もかかりますが、製作料金は材料費含め、一個2000円以下です。

    これではとても生活できません。

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