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インフルエンザの猛威で働く母親に負担集中 社会的体制づくりが急務

個人責任ではなく どの家庭の子も予防接種受けられる体制を

 

 インフルエンザが猛威をふるっている。1月26日の厚生労働省の発表によると、推定患者数は、統計をとり始めた1999年以降で過去最高を記録し、今季(2017年第36週以降)累積の推計受診者数は約837万人となった。もっとも多いのは5~9歳、次いで10代とやはり子どもの患者が多い。下関市でもここ1、2週間でピークを迎えており、連日学級閉鎖や学年閉鎖が発表されている。インフルエンザウイルスは感染力が強く、「子どもから始まって一家全滅」という家庭もあり、働く母親たちは「うちにいつ来るか」と冷や冷やする毎日だ。共働き家庭やひとり親家庭が増えているなかで、インフルエンザが家庭にもたらす混乱は以前にも増して大きなものとなっている。


 下関市内の小児科医たちに聞くと、市内では昨年9月頃から中学生などのなかでB型が出始め、12月になって一気に拡大した。現在はA・Bともに流行しているが、B型が優勢だ。1月後半には1週間の患者数が15歳未満だけで1000人をこえる週が連続し、休日の小児科当番医に120人が列をなした日もあるなど、ピークの真っ只中だ。冷えと乾燥のためウイルスの勢いはなかなか衰えないという。


 通常は12月頃からA型が流行して1月末にピークを迎え、それが収束した2月~3月頃にB型が流行する場合がほとんどだが、今年はB型が早い時期から流行し始めたため、A型・B型両方が混在する「珍しい年」となっている。


 学級閉鎖や学年閉鎖も続いている。昨年12月中旬頃から2月1日までで、小学校では49校のうち21校がいずれかの対応をとっており、うち学級閉鎖は14校28学級、学年閉鎖は8校11学年にのぼっている。中学校では22校のうち3校7学級で学級閉鎖、3校5学年で学年閉鎖をおこない、幼稚園も学年閉鎖や休園の対応をとるなどしている。子どもだけでなく、教師が十数人倒れ、学校そのものが回らなくなる学校も出るなど、たいへんな感染力を発揮している。ただ、「約300人中インフルエンザは10人以下」という学校もある模様だ。

 

どこも大変な子育て世帯

 

 突然の高熱や、下痢・嘔吐などの症状に始まり、インフルエンザと診断されれば最低でも5日間、菌が消えるまで仕事や保育園・学校を休まなければならない。インフルエンザになった当人が苦しいのはもちろんだが、とりわけ大変なのは働く母親たちだ。


 共働きの30代後半の母親は、小4の子どもが日曜日に急に高熱を出した。当番医に電話したところ、子ども用の薬がないので40分ほどかかる場所にある病院に行くよう説明を受けた。出かける支度をしながら、明日からの仕事がどうなるだろうかと、人手がぎりぎりの職場の様子が目に浮かぶ。検査の結果はやはりインフルエンザだった。幼い子ではないが、タミフルを飲むためには、だれかが付き添わないといけないため、職場に連絡して休みをもらうことができた。年末から自身の体調も悪く、ようやく峠を越えたところだった。


 旧4町に住む30代前半の女性は、母子家庭で働きながら小学生の子どもを育てている。最初に自身がインフルエンザにかかり、回復したかと思ったら子どもが発症した。母親が寝込んでいるあいだ、子どもが頑張ってできることをしてくれた。連続して10日以上仕事を休んだが、子どもの病気のときは有給休暇を使い、収入減を最低限に抑えたという。


 小学校の子どもを持つ男性の家は、共働きだ。最初に一番下の子のクラスが学級閉鎖になり、子どもは元気いっぱいなのに休みのため、母親が仕事を休むことにした。ところが、ようやく学級閉鎖が終わるころになって子どもがインフルエンザに感染。妻も倒れたため、看病するのは男性しかいなくなった。子どもを病院に連れて行き、帰って来たかと思うと新しい布団に嘔吐して、その掃除から家事から、父親は慣れない看病に追われた。タミフルを飲んだせいか、子どもが「枕元に誰かが立っている」などといい始めるから、ますます心配で離れられなかったという。男性は、「自分は今のところかかっていないが、職場も人手不足で休むと他の人が大変。もしなったとしても隠し通すのではないかと思う」と話す。妻も倒れている状態で、子どもをみる人がいないことを心配しながらも出勤せざるを得ない。


 コンビニで働く30代の母親は、保育園に通う2人の子どもがいつインフルエンザになるかと冷や冷やしていると話す。予防接種をしていないのでなおさらだ。一度かかると5日間は保育園を休ませないといけないが、夫は仕事を休めない。「私も5日間休めるかどうか…」と心配している。職場も人手はぎりぎりなので、「できるだけうつらないでほしい」と願うばかりだ。


 共働き家庭やひとり親家庭が増え、働く母親が大半を占めるようになっているが、昔のように子どもを預けられる祖父母が近くにいない家庭も多い。子どもが病気になっても、母親が病気になっても家庭は大混乱だ。自分がインフルエンザにかかり、「子どもを預かってもらえないだろうか」と保育園に駆け込んで来る母親もいる。


 また、人手不足だったり、ギリギリの人員しかいないため、簡単に休めるほど余裕がない職場も多い。高熱が出てもインフルエンザの診断を受けず、マスクを二重にして出勤する人がいたり、パートやアルバイト、派遣などの場合は、休みが長引くと収入にもかかわるなど、子育て世帯の苦労が口口に語られている。


 下関市では、「子育て支援」として旧市内4カ所の小児科で病児保育を実施している。0歳~小学校6年生までの希望者をあらかじめ登録(急な場合は当日でも可)し、一日2000円+食費・おやつ代の実費500円程度で預かる制度で、年間のべ3600人ほどが利用している。ただ、事前の申し込みに応じて保育士を確保するため、殺到すると受け入れができなかったり、逆に保育士をそろえても親が休みをとれてキャンセルになるなど、運営上なかなか安定しない側面もあるという。親たちにとっても職場から離れた場所に預けに行くことができない事情があり、旧4町の親たちにとっては縁遠い制度だとも語られている。


 「女性が活躍する社会」を叫ばずとも、すでに働く女性が圧倒的多数になっている。しかしそれを社会的に支える体制は、まったく現実に追いついていないことが、インフルエンザの大流行で改めて浮き彫りになっている。
 病児保育に限らず、現実にあった体制の充実が求められている。

 

予防法を医師に聞くと

 

 ところで、医師たちは毎日のようにインフルエンザ菌に触れているはずなのに、感染しないのはなぜなのだろうか。


 医師たちに予防法を聞いたところ、完全に予防する方法はないが、飛沫感染を防ぐため、こまめに手洗いすることと、マスクの着用が有効だという。一般的に「うがい・手洗い」といわれるが、インフルエンザ菌は鼻の粘膜で増殖するため、うがいは「しないよりはまし」という程度。鼻うがいをすると効果はあるが、素人が鼻うがいをすると別の感染症をひき起こす可能性があるため、医師としては奨励しにくいという。もう一つは湿度を上げること。インフルエンザ菌は乾燥を好むため、湿度を上げることが大事だという。ちなみに、医師が感染しないのは常に菌にさらされて、免疫ができていることが大きいようだ。「予防法と同時に、自分の免疫力を高めることが大事だ」と話していた。


 インフルエンザに感染しない事例として味噌工場もあげられる。市内のある味噌工場ではここ数年、従業員のうち一人もインフルエンザに感染していないという。原因として考えられるのが、常に湿度があることと、工場に何十年にもわたって住み着いた麹菌だ。科学的根拠があるわけではないが、そこで働く人たちは、麹菌の不思議な力を感じているという。


 そして医師たちが共通して指摘するのは予防接種を受けることだ。現在インフルエンザの予防接種は任意となっており、各家庭の判断に任されている。医師たちの実感では、子どもたちはわりと受けているが、経済的に厳しい家庭は受けていないという。予防接種の発症予防効果は50%といわれているが、体のなかに抗体ができることで、仮にインフルエンザになっても重症化を防ぐことができるという。


 ただ、健康保険の対象外のため価格設定は病院によって違う。下関市の場合は小児科医師会の取り決めで、3000~3500円と他市より安めとなっている。それでも9歳までは2回必要なため、一人7000円かかる計算になる。子どもが2人、3人となると多額の出費だ。65歳以上については市の補助があり、窓口負担は1460円となっており、「感染を防ぐためにも高齢者だけでなく、子どもたちに予防接種をすべきだ」という声は強い。


 学校での集団接種は1987年までおこなっていたが、効果がないという議論と同時に注射針の使い回しの問題などが起こって中止された。新型インフルエンザが流行したさいに、医師のなかで再開を求める声が上がったが、厚生労働省は再開しない考えを示したという。医師らは「これだけ医療が発達して管理体制もしっかりしている。今こそ集団接種をした方がいい」と話していた。


 世界的にインフルエンザが猛威をふるうなか、アメリカでは報道されているだけで子どもが37人死亡、1万2000人が入院する事態となっている。日本では今のところ死亡者や重症化は少ないものの、せめて子どもぐらいは経済的格差が医療の格差につながるようなことにならぬよう、1987年までと同様に、どの家庭の子も予防接種が受けられる体制をとることが求められている。海外にばらまく何十兆円もの予算があれば簡単なことで、アフリカの子どもたちのワクチンと同じように国内の子どもたちのワクチンも心配したらどうかとの声が高まっている。

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