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失速する日本の科学力 ー英科学誌『NATURE』の指摘ー

 イギリスの科学誌『ネイチャー』が今年3月、日本の科学力がこの10年間で失速していることを浮き彫りにする特集を組んだ。『ネイチャー』は、各国の研究者の論文の発表数や引用数を引きあいに出して、「政府の研究投資の停滞」に原因を求めている。そこから、北海道大学が経費削減のために教授クラス205人のリストラ計画を発表したり、若手研究者が非正規雇用で将来が不安定であることから安心して研究できない環境もとりあげている。

 

 最近、民放の報道番組で、ニュートリノ振動の発見で2015年にノーベル物理学賞を受けた梶田隆章・東京大学宇宙線研究所所長が、「『ネイチャー』の指摘は正しい。(日本の)基礎的な研究力はどんどん落ちている。もう崖っぷちに近いところにきている」と危機意識を露わに語っていた。

 

 梶田教授は、「近年のノーベル賞に結びついた仕事というのは、1980年代とか90年代になされた仕事が非常に多い。日本が元気な頃にしっかりした仕事が出て、それが世界に認められたということだ。2000年以降、そうした仕事が出ているかというと、少なくとも研究環境に関していえば急激に厳しい状況になってきている」と指摘する。そのうえで、政府が「国家予算が限られているというが、長い目でみた日本の姿が見えない。きちんと考えて方向転換を真剣に議論する時だ」と切迫した状況を訴えていた。

 

 問題は日本社会の発展について長期の見通しを持たぬまま、基礎的科学への研究予算を削減したり、若手研究者の自由な研究を足蹴にするような為政者の反知性的な短絡思考にある。

 

 安倍首相は2014年5月、OECD閣僚理事会での講演で、得意げに次のようにのべた。「日本では、みんな横並び、単線型の教育ばかりを行ってきました。……そうしたモノカルチャー型の高等教育では、斬新な発想は生まれません。だからこそ、私は、教育改革を進めています。学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています」

 

 高等教育において、学術研究を深めることに対抗して職業教育をおこなうという国際舞台での宣言は、日本と世界の科学者・大学人から「このようなフレーズを首相の演説に盛り込む、科学について無知な官僚が科学政策を担っていることも大きな問題だ」など、大学の科学力の失速を日本の政治の劣化と一体のものとして批判する発言が失笑を交えて高まった。

 

 だがその後、文科省はこの演説の方向で、大学の文系学部の縮小・削減、地方大学を 「職業訓練校」に改編するという方針を打ち出した。これは、大学のカリキュラムから、学術専門領域の教育研究だけでなく教養教育をも駆逐し、理系学部について実用的な研究にさらにいちだんと傾斜するものであった。『ネイチャー』が特筆した日本の科学力のこの10年の失速は、そうした大学改革の帰結でもある。

 

 科学研究の論文にまんえんするウソやデータのねつ造と、政治の世界でまかり通るウソと詭弁、文書・データの隠蔽は、その根底でつながっている。求められるのは、そうした土壌を掘り崩し、真理真実を探求する学問の営みを取り戻すことだろう。

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