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何をいまさら加計学園 千葉科学大学の公立化を要望 政治家が群がり行政歪める 清算できぬ安倍晋三の置き土産

経営難で市に公立化を要求している加計学園・千葉科学大学(千葉県銚子市)

 安倍元首相の“腹心の友”であった加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園(岡山市)は、同グループが経営する千葉科学大学(銚子市)を2025年4月から公立化(市立大学)するよう千葉県銚子市の越川信一市長に要望した。この問題を越川市長が15日の会見で明らかにし、全国的に波紋を呼んでいる。2004年に開学した同大学は現在、深刻な定員割れにより経営難に陥っており、過去に大学設置を誘致した銚子市に加計学園側が無責任に押しつける形で「損切り」しようとしている。同大学の開学に至るまでには、2017年に浮上した「加計学園問題」に先駆け、政治家や官僚を使って自治体からカネを吸い上げて大学を設立する「加計モデル」の原型ともいえる手法がとられた。そうして大学を商売の道具とし、落選した自民党代議士の宿り木にしたり好き放題にしたあげく、形勢が悪くなったら地方自治体に押しつけていく姿が浮き彫りとなっている。

 

 千葉県銚子市にある千葉科学大学は、2002年に大学誘致を選挙公約にして当選を果たした野平匡邦市長(当時)が誘致し、2004年に開学した。建設にあたり、市は9・8㌶の市有地を無償で提供し、さらに建設費用77億5000万円を市債の発行により助成している。利子を含めた返済額は84億円とされ、約240億円の年予算のなかから、毎年4億円を返済している。

 

 しかし現在、大学の入学者は減少しており、今年度の入学者は定員490人に対して46・5%の228人に留まっている。在学者も定員2281人に対して1528人と充足率は67%。同大学にある薬学部、危機管理学部、看護学部という三つの学部すべてが定員割れしており、大学院も定員割れだ。

 

 さらに薬学部(6年制)では、昨年度の卒業者数が41人で、103人いた入学者のうち6割以上が留年や中退等で卒業できていない(卒業率39・8%)。国家資格合格率もわずか27・2%だ。このような状況では大学として維持していくことが困難と見た加計学園が、過去に招致した銚子市に負担を押しつける格好で「公立化」を要望した。

 

 これを受け越川市長は「大学をとり巻く環境は大変厳しい。存続することを強く望むが、一方で市の厳しい財政状況を勘案すると新たな財政負担に耐えられるかという課題もある。公立化の可否を慎重に判断していきたい」とのべており、市としては年明けにも有識者による検討会議をもうけて公立化した場合の市の財政への影響などを検討するほか、市議会や市民の意見も踏まえて判断したいとしている。

 

 公立化すれば、「公立」というブランド力や、授業料の引き下げにより志願者が増加するとの見方もある。公立化にともない公立大学法人を設置した地方自治体には、国から多額の地方交付税が交付される。これによって授業料を国立大並みに下げ、志願者を増やしている大学も実際にある。

 

 昨年度までに私立から公立に移行した大学は11校あるが、そのうち8校は公立化前年まで在校生が定員を割っていた。しかし、公立化から現在までの間で8校すべてが定員割れを解消している。

 

 一方で、少子化や人口減少が進む銚子市やその周辺小規模自治体から定員を満たすほどの学生が集まるかどうか不安視する指摘も多い。また、千葉科学大の薬学部は退学者が多く卒業率が低い。日本国内に全部で74ある薬学部における昨年度の卒業率(2016年度入学)で同大学はワースト2位であり、六年間の退学率は最下位だった。

 

 交付金の交付額は定員数ではなく在学者数に応じて決まるため、公立化するには今のように中退・留年が続出するような教育内容の見直しも迫られることとなる。

 

加計学園グループ 政治との癒着が常態化

 

 今回、千葉科学大学の公立化を求めて銚子市に要請したのが、加計学園グループ理事長の加計孝太郎氏である。加計学園といえば、2017年にモリカケ問題の「カケ」の方であり、愛媛県今治市に新設した岡山理科大学獣医学部新設をめぐり「首相案件」「総理のご意向」という力が加わり、当時の安倍首相と関係が深い加計理事長への優遇疑惑が大きな問題となった。

 

 こうした問題が明るみになる以前から開学していた千葉科学大学もまた、大学誘致から設立に至るまで、政治家や官僚を使って自治体からカネを吸い上げて大学を設立する「加計モデル」の原型ともいえる手法がとられていた。

 

 千葉科学大を誘致した野平匡邦・銚子市長(当時)は、もともと1997年から99年まで、加計学園が本拠を置く岡山県の副知事をしていた。さらに2002年に銚子市長になる直前まで、加計学園グループの岡山理科大で客員教授をしており、いわば加計学園の代理人ともいえる人物だった。この野平氏が、大学誘致を選挙公約にして2002年に銚子市長に当選すると、誘致の条件として加計学園側は、完全整備済みの学校建設用地15㌶の無償譲渡を求め、上物(校舎)の建設費にも93億~120億円の補助金を銚子市に要求している。

 

 この要望をうけて市が92億円の補助金を提供し、市有地9・8㌶の無償貸与を約束した。その後、補助金は77億5000万円に下がったものの、大半が借金(市債)だったことから市民の批判が噴出。2003年には住民投票請求(市議会が否決)も起き、市民の批判をかわすために加計学園が14億6000万円を返還することが決まった。しかし市側はそのうち8億円は受けとりを辞退している。

 

 野平氏は、市長になった最大の理由を「銚子市に大学をつくりたいという相談を加計学園から受けたことだ」と市議会で答弁しているという。また野平氏は市長当選翌日に加計孝太郎理事長とともに記者会見を開き、大学誘致の構想を表明。その2年後の2004年に異例の早さで千葉科学大学が開学した。

 

 開学式には当時自民党幹事長代理だった安倍晋三も出席した。また、2009年の総選挙で落選した自民党の萩生田光一政調会長は、翌年千葉科学大の客員教授に就任。このことについて萩生田氏は「浪人中でも“客員教授”なら、心理的な落ち着きを感じる。当時の落選組のトレンドだった」「(10万円の給与は)浪人中の足しになった。助かった」などと振り返っている。その他、モリカケ問題が浮上した2017年当時、千葉科学大の学長は木曽功元内閣官房参与(文部官僚出身)で、元安倍首相秘書官で統一教会との関係性の深さも指摘されている井上義行(参院議員)も客員教授をしていた。

 

 さらに2014年5月に同大学でおこなわれた開学10周年の記念式典には、異例にも安倍元首相本人が当時外相であった岸田文雄を率いて来賓として列席し、両氏とも祝辞を送っている。このとき安倍元首相は「どんなときも心の奥でつながっている友人、私と加計さんもまさに“腹心の友”だ」とのべている。その他の来賓を見ても、三井住友銀行副頭取高橋精一郎、林幹雄元経産大臣、遠藤利明元五輪大臣、文科省・藤原誠初等中等教育局長など、蒼々たる顔ぶれであり(肩書きは当時)、一私立大学の行事にしては異例だ。

 

 こうした「政治の力」をバックに市から多額のカネを吸い上げた加計学園だが、大学運営における定員割れは年々深刻化し、ついにその「負の遺産」が銚子市に押しつけられようとしている。

 

 一方、銚子市はというと、77億円の大学設置補助金をはじめとする、財源手当ての乏しい大規模事業(大学建設費助成、市立高校整備、給食センター整備)を短期間に集中して実施したことによる市債・公債費の増加、市立病院への繰出金の増加、社会保障関係経費の増加などにより財政状況が急激に悪化した。

 

 このため2013年5月には、「財政危機宣言」を発し、三度にわたる事業仕分け、使用料・手数料の見直し、未収金対策、市立病院の指定管理者変更と経営改善、職員数・人件費の削減など、大規模な「財政健全化」を強行。その結果、市の貯金にあたる財政調整基金は2016年度末に4億2500万円まで回復したものの、2018年度には市税の落ち込みなどにより、財政調整基金を全額とり崩しても赤字決算が見込まれる状況に陥るなど、財政状況がひっ迫した。

 

 2018年時点で、市は「今後は年間7億円から8億円の単年度赤字が蓄積し、平成33年度に財政健全化団体、34年度に財政再生団体に転落する恐れがあります。財政再生団体になれば、国のコントロール下に置かれ、厳しい事業制限と大きな市民負担が強いられることになります」と訴え、「緊急財政対策」をとりまとめ、さらなる緊縮財政へと舵を切らざるを得なくなった。

 

獣医学部新設問題 森友上回る破格の待遇

 

河口湖畔の別荘でバーベキューを楽しむ安倍首相、加計理事長(中央)、萩生田副官房長官(2013年5月、萩生田氏のブログ「永田町見聞録」より)

 安倍政権の下で、千葉科学大と同じような「癒着型ビジネス」の横行はさらに加速し、その結果2017年の加計学園問題も浮き彫りとなった。

 

 加計学園グループは、岡山市を本拠とし「加計学園」「順正学園」「英数学館」「吉備高原学園」「ゆうき学園」「広島加計学園」の6つの学校法人に加え、社会福祉法人、医療法人を包括する大規模グループだ。岡山理科大、倉敷芸術科学大、千葉科学大など6つの大学、6つの専門学校のほかに、小中高、幼稚園・保育園、特別養護老人ホーム、美術館まで幅広い分野で事業を展開している。

 

 この加計学園が問題視されるようになったのが2017年3月、加計学園傘下の岡山理科大学の獣医学部新設をめぐり、今治市(愛媛県)が36億7800万円相当の公有地(16・8㌶)を無償で譲渡し、校舎建設費192億円のうち96億円を公金で助成すると決めたことが物議を醸した。これより前に8、9億円の値引きで問題となっていた森友学園問題どころではない破格の待遇であった。

 

 獣医学部の新設について、管轄する文科省は、1966年の北里大学への獣医学部設置以来、獣医師数は総体として足りているとする農林水産省の見解を踏まえ、獣医師の質の確保や獣医師養成課程の粗製乱造を防ぐなどの観点から、既存の16大学以外に新たに設置することを規制してきた。今治市の獣医学部設置申請も過去15年にわたって認められていなかった。

 

 ところが、2013年、第二次安倍政府のもとで「国家戦略特区」が制度化されてから急速に事態が動き出していった。国家戦略特区は、従来の特区と違い、総理大臣のトップダウンで指定した地域において大胆な規制緩和を進めることを可能とするもので、アベノミクスの「成長戦略」の目玉とされたものだ。

 

 2015年6月には、愛媛県と今治市が内閣府が主導する「国家戦略特区」での特区指定を提案。その2カ月も前に内閣府と今治市職員が面談しており、6月の会議にはすでに加計学園関係者が出席していたという。そして半年後の同年12月、安倍首相を議長とする国家戦略特区諮問会議は、広島県と今治市を国家戦略特区に指定。翌年1月には、「四国に獣医師学部がない」ことを理由に獣医学部新設の特例措置を認め、翌年に唯一の応募者であった加計学園を事業者として認定した。まさにとんとん拍子の「出来レース」だった。

 

 安倍政権下において、一学校法人である加計学園への優遇は明らかだった。2020年には、安倍首相はみずからが任命権を持つ最高裁判事に加計学園監事の木澤克之弁護士を任命。15人の最高裁判事のうち「弁護士枠」は長年の慣例として日弁連が推薦したリストから選ばれていたが、そうした慣例すら無視した「安倍人事」だった。

 

 さらに、文科省官僚であり、安倍内閣で内閣官房参与を務めた木曽功は、今治市を国家戦略特区に指定した直後、加計学園に天下り、千葉科学大の学長のポストを与えられた。


 安倍元首相本人も90年代に加計学園の監事をやっていたとされ、同系列の「こども園」では安倍昭恵が名誉園長だった。加計学園傘下の倉敷芸術科学大(倉敷市)では、下関市長を四期やって浪人になった江島潔が参院議員のポストが空くまで客員教授として拾われていた。

 

 また、加計学園本部は「自由民主党岡山県自治振興支部」になっており、下村元文科大臣の政治団体からパーティー券を購入したり、献金する関係だったことも明らかになっている【相関図参照】。こうしたズブズブの関係ができあがり、大学運営を名目に好き放題に公金を吸い上げ、大学をビジネスの道具として私物化していく構図ができあがっていた。

 

 このようないきさつを経て2018年に岡山理科大学獣医学部が定員140人で新設された。それまで既存の獣医学部で一番多かったのは日本大学などの120人だったが、これを上回る規模だ。また、獣医学部の「名門」といわれる北海道大学や帯広畜産大学の定員は40人程度。農水省も「獣医師を増やす環境ではない」としているにもかかわらず、52年ぶりに獣医学部を強引に新設し、大量に受験者を受け入れて獣医を養成するというハードルの高いスタートとなった。

 

 予備校などの偏差値調査では、岡山理科大獣医学部は全獣医学部の最低クラスとなっている。2018年の入学者が卒業するのが今年度末。「世界に冠たる獣医学部」といって特区指定し多額の補助金を受けて開学していながら、加計学園グループの千葉科学大薬学部で起きているような大量中退・留年や、国試不合格者続出を危惧する声もある。

 

 このたび、加計学園が銚子市に千葉科学大学の公立化を要請したおかげで、改めて加計学園グループの教育に対する思い入れなり価値観というものが浮き彫りになっている。公金に寄生して教育をビジネスの道具として利用していくこと、そんな経営者に安倍晋三をはじめとした自民党政治家たちが群がり「行政を歪めた」疑惑は今もって何も解決しないままだ。相関図の中心に位置する安倍晋三がいなくなったからといって、チャラにするわけにはいかない問題といえる。

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