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風力発電の低周波問題を提起 日本科学者会議が独立分科会を初設置 国に科学的疫学調査求める

秋田市の秋田湾沿いに林立する巨大風車

 日本科学者会議は11月19日から今月11日まで、第24回総合学術研究集会を開催している。今次研究集会のテーマは「新型コロナウイルス・気候危機下の科学と社会――脱炭素・脱原発・脱貧困を求めて――」であり、初日の開会式と全体会は大阪大学豊中キャンパスで、のべ115人の科学者、技術者、学生、市民が発表する32の分科会はオンラインでおこなわれた。そのなかで、自然との共生をめざすはずの再エネが、事業者のもうけ本位の場となって人にも自然にも被害をもたらしているという側面に注目し、今回初めて「再生可能エネルギーと健康・環境影響」が独立した分科会になった(11月27日に開催)。本紙はこの分科会で報告された、風力発電の健康被害や環境破壊にかかわる5つの発言要旨を紹介する。報告後の分科会の討論では、諸外国では実施されている風力発電周辺の大規模な疫学調査が日本ではいまだにやられておらず、早急に国に対してそれを求めていく必要があること、それまでは風力発電建設を中断すべきであること、こうした声を全国であげていくべきであることが強調された。

 

・低周波音被害の歴史

         京都支部 小林芳正

 

 低周波音被害が初めて問題になったのは、西名阪自動車道路の低周波公害裁判だろう。これは奈良県香芝町にある同自動車道路高架橋の発する低周波音が沿道の住民に健康被害を及ぼし、1980年に日本道路公団を被告とする公害裁判になったものだ。沿道住民は多大な迷惑を被っていたが、当時、低周波音被害は世にほとんど知られておらず、よき理解者は元和歌山赤十字病院内科部長の汐見文隆だけだった。

 

 低周波音被害の原因となっている周波数は、場合ごとに大幅に異なるし(100ヘルツ以下の低周波音から20ヘルツ以下の超低周波音まで)、被害の種類も、耳詰まり、痛み、息苦しさ、めまいなど多種多様で、その程度も不快感から失神まである。だが、どの被害者も共通して訴えるのは不眠の症状だ。

 

 特徴的なのは、同じ場所にいてもなにも感じない人の方が多いことで、被害を感じるのは同一家族内でも被害者一人だけで、他の家族はなにも感じない場合も多い。

 

 国外で知られる低周波音被害の理解者は、米国のニナ・ピアポントである。彼女は2008年、『風車症候群』を出版して問題を世に問うた。多くないとはいえ、医学論文も皆無ではない。ワシントン大学耳鼻咽喉科のSalt and Lichtenhanや、日本では武田真太郎が超低周波音の人体影響について論じている。より新しくは、松井利仁が、内耳の障害である「上半規管裂隙症候群」の人が低周波音に敏感で、めまいや眼振があらわれると報告した。

 

 その他、カナダにおける風力発電所付近でおこなわれた疫学的手法に近いアンケート調査や、オーストラリアのブリッジウォーター岬風力発電所付近の詳しいアンケート調査なども、この被害の実在を示している。

 

 2017年12月、オーストラリアの裁判所が低周波音被害について画期的な裁定を下した。オーストラリアの行政不服申し立て裁判所(AAT)の裁定は、次の二項を骨子としている。

 

 ①高血圧症、心臓血管病を含む一部の病気を風車ノイズに(低周波音による睡眠障害、心理的ストレス、苦痛に仲介され)関係づけられる。
 ②風力発電ノイズの計測に現在用いられている(A)=A特性は、風力タービンから発生する音の顕著な部分が低周波音域であるため、それらの発生、周波数、山や谷を正確に識別できず、適切な方法ではない。

 

 第一の裁定は、WHO(世界保健機構)の立場、「大規模な疫学的研究により、人々を環境ノイズに曝露することは、健康に悪影響を及ぼす」と同見解である。第二の裁定は、英国の音響学者Leventhallや、日本の山田伸志らによる「A特性のレベルは、低周波ノイズの影響を過小評価する」との説に合致している。

 

規制値ない日本の異常

 

 以上に対して、日本の環境省の見解は特異なものだ。

 

 環境省は2004年、風力発電による低周波音に対する「苦情」の多発にさいして「参照値」を発表した。「参照値」は、環境省が「低周波音についての対策目標値…ガイドラインなどとして策定したものではない」と断っており、諸外国の規制値とは異なっている。つまり、「苦情の申し立てが発生したさいに、低周波音によるものかを判断するための目安として示したものである」という。だから、被害者にとって「参照値」はなんの役にも立たないどころか、もし測定値が「参照値」以下であれば、たんなる「苦情」として切り捨てられる口実に利用されるだけである。だが実際は、「参照値」以下で多くの被害が発生している。

 

 環境省は最近でも次のような見解をのべている(2017年5月26日)。

 

 ・20ヘルツ以下の超低周波音は、人間の知覚閾値を下回り…人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低い。
 ・超低周波音、低周波音の健康影響については、明らかな関連を示す知見が確認できない。
 ・超低周波数領域も含めて…A特性音圧レベルが音の大きさ(ラウドネス)の評価に適する。
 これらの見解は、AATの裁定、Leventhallや山田伸志の説に照らすと、誤っているだろう。

 

 現在ではドイツやカナダをはじめ諸外国で低周波音に対する規制値がもうけられている。オーストラリアでは裁判所が、低周波音は病気の原因となると裁定している。そのことをみても、日本に規制値がなく、諸外国の規制値と比べてさらに緩い「参照値」があるだけというのは、非常に遅れていると思う。

 

・風力低周波音の高次倍音構造と健康被害

 

北海道支部・大規模風力発電問題研究会 山田大邦 

 

 風車からはどんな音が出ているのか。風車から出ている音を加工しないで、つまりA特性(耳に聞こえるかどうか)ではなく、実際に出てくるものがどんなものであるかを調べるために平坦特性で調べた。また、どういう周波数の音が出てくるかを正確につかむためにFFT(フーリエ変換法)を基本とした。そのために測定器と分析ソフトを購入した。

 

 結論的にいえば、風車音の中のエネルギー的に大きな音は翼(ブレード)の回転を基本とした風切り音だが、その高調波成分のほとんどが100ヘルツ以下の低周波領域にある。とくに20ヘルツ以下の超低周波音の領域にある。それを再確認したい。

 

 風車からは周波数の固定された機械的な音も出る。ナセル内のギア・発電機系・冷却系の音などだが、それは音源が固有で、対処可能だ。しかし翼の回転に対応した音の減衰は困難で、最近のように出力が増大した風車の場合、人家から離さないと被害が甚大になる。

 

 国際的にも、風車騒音は自動車・鉄道・航空機の騒音に比べて非常に不快だと回答する率が高まっている。それは風車の特徴だといえる。風車は発電のためには止めることができず、夜間、周辺が静かになったなかでも音を発している。すでに1984年の環境庁(当時)の調査でも「騒音・振動以外による心理的・生理的迷惑がある」との訴えがあり、この体が圧迫される感じとは、聴覚とは別の感覚器官が働いていることを意味する。ただし訴え率は10%と相対的に低い。

 

 静岡県東伊豆の熱川団地自治会が2009年、風力発電の健康被害をめぐって居住者の調査をおこなった。ここは山の尾根沿いに1500㌔㍗の風車が10基建っており、二つの尾根にはさまれた盆地にこの団地があるが、風車が稼働し始めた直後に事故が起こり、一部が停止して、定格運転の6割に回転数が下がった。

 

 居住者121人中、風車から900㍍より近い地点に住んでいる人が111人、そのなかの74人が回答した(回答率67%)。それによると、風車の稼働で不眠を訴えていた人のうち、500㍍より近い地点に住んでいた人の71%の症状が改善した。同じく「血圧」「リンパ腺」「胸・腹・歯・鼻・耳の痛み」「煩い・イライラ」「頭痛・肩こり」などの症状も高い割合で改善していた。距離が近いほど症状が改善していることがわかる。

 

 この1500㌔㍗級の風車の回転数は1分間に19回転で、6割というのは12回転に落としたことになり、そうすると被害が大きく減少した。他方で発電規模が大きくなると、回転数は低下するが、翼先端の速度は増大して発生する低周波領域の音圧が大きくなり、被害は遠方まで及ぶことになる。

 

 日本弁護士連合会は2013年末、風力発電では低周波音の長期曝露による被害実態があることから、医師を含む機関をつくって疫学調査をおこなうよう、環境省に意見書を提出した。意見書は、環境省の「参照値」を撤回し、基準ができるまでは国際先進例を暫定の指標にすること、低周波音の被害を防止できる法的基準を決め、風車やヒートポンプなどの設置場所の基準も策定することも訴えた。

 

 環境省の「参照値」とは「寝室で我慢できるレベル」のことだが、それは10人中1人には我慢を無理強いさせるレベルになる。また、「聴覚閾値」というのは健常な人の50%が聞こえるという平均値であり、20ヘルツ以下は聞こえないとしているが、残りの50%はもっと小さい音でも聞こえるわけで、ここで線を引くことは聞こえる人にとっては悲劇となる。また、「参照値」も「聴覚閾(いき)値」も非常に短い期間で判定しているが、風車の低周波音は夜間の何時間という単位で聞こえるものだ。こうしたフィルターのかかったものを基準にするのではなく、実際に風車からどんな音が出てくるかを正確に調べなければならない。

 

睡眠阻害する低周波音

 

 北海道石狩市では、2005年に石狩湾沿岸部に1500㌔㍗級風車3基(石狩市民風力。1650㌔㍗×2基と1500㌔㍗×1基)が設置されて以来、銭函風力(3400㌔㍗×10基)、エコパワー(3300㌔㍗×3基)、石狩市民風力(3200㌔㍗×七基)があいついで稼働し、現在、石狩新港2㌔沖に8000㌔㍗×14基の洋上風力が建設中だ。10㌔㍍の範囲内には石狩市や札幌市手稲区、北区の数万から数十万人が住んでいる。

 

 この1500㌔㍗級風車3基について、風車から100㍍地点を基準にしながら風車の音の測定をおこなった。

 

 【図①】は定格回転時に測定した1650㌔㍗の風車の音圧変動で、ほぼ1秒ごとに上向きにとんがったものが出ている。これが風車の風切り音だ。

 

 【図②】は、これをFFT分析したものだ。測定時間3分の間の入力信号を、縦軸=時間、横軸=周波数とし、各周波数での強度(基準圧に比較した割合の対数値・デシベル)を色の濃淡で示した。色が濃いほど音圧が高いことを示す。基本的には1ヘルツ近くの音を基本として、高調波成分が10ヘルツまで続いている。濃淡分析から、10ヘルツ以下の低周波音側が大きく、高周波音になるに従って小さくなる。1ヘルツ前後は風雑音が大きく、横に伸びる黒い帯は近くを走る車の走行音であり、特定ピークを持たない。

 

 【図③】は、図②の2分15秒付近の断面図であり、ピーク位置とその大きさを示している。1ヘルツあたりは風雑音に紛れているが、2ヘルツあたりからピークが明瞭となり、(0・96ヘルツ)―1・92ヘルツ―2・84ヘルツ―3・86ヘルツ―4・82ヘルツ―5・72ヘルツ―6・67ヘルツ―7・65ヘルツ―8・62ヘルツ―9・5ヘルツ―10・5ヘルツと、倍音の構造が並んでいる。断面図からも、風車音は低い周波数の音、とくに20ヘルツ以下の超低周波音域で50~70デシベルという大きな音が出ていることがわかる。

 

 また、石狩市民風力の西端風車(1分間に14・3回転)と中央風車(同19・2回転)を比較した。西端風車では、10ヘルツ以下のところで、日昼の暗騒音(対象とする音源からの音以外の騒音。この場合は40デシベル)を20デシベル上回っており、中央風車では同じく30デシベル上回っていた。夜間の暗騒音はそれより下がるわけだから、もし風車の音が聞こえたら眠ることができなくなる。両者を比較すると、回転数が上がると10ヘルツ以下の音圧が非常に大きくなっていることがわかる。

 

 別の1500㌔㍗風車の近くに住む人が、深夜に頭痛で目を覚ましたときに寝室で測定した結果も、翼回転に連動する基本音の高調波音で暗騒音を上回っていた。この人は、この風車から2㌔離れた所に行くと睡眠障害や頭痛などが改善されたといっており、その後転居した。日本科学者会議の会員には、石狩に多数の風車が建って以来、風車から2㌔以内に近づくと体調不良となり、数時間の滞在で帰宅後に多大な疲労感に襲われる人がいる。北西風が強い冬に体調を崩すことが多く、住宅が沿岸部に林立する風車の風下で、とくに減衰しがたい低周波音が遠方まで届くことがある。

 

 車の騒音に比べ、環境の暗騒音を上回る特定周波数の音を終日聞かされることに人は慣れていない。住宅周辺の音環境は、健康の基本である睡眠に影響を与えるので、非常に大事な問題だ。

 

・国有林保全と風車建設

           弁護士 市川守弘

 

 風車建設の場所が大きくは海洋部と山間部に分かれており、山間部では風車は山稜、つまり尾根筋に建設されるため、国有林にあたる場合が多い。国有林の山稜部ではさまざまな保安林指定がされているところが多いので、国有林の山林保全という角度から風車の問題をとりあげたい。

 

 林野庁の国有林は1998年まで、特別会計として独立採算制をとっていた。ところが98年時点で3兆8875億円という累積赤字をかかえて行き詰まり、2013年に国有林の特別会計を廃止し、すべて一般会計として処理する、つまり国民の税金でまかなうように変えた。その結果、木を伐って稼ぐことから、国民のための森林管理をおこなうことへ大転換がおこなわれた。

 

 そのとき、森林の持つ公益的機能を維持・管理していくように国有林のあり方が変わった。

 

 公益的機能とは、水源かん養、国土保全、自然環境の維持、生態系保全などの機能だが、それを管理するのが林野庁だと変わったわけだ。すると風車建設と国有林保全とはどういう関係になるのか。

 

 国有林は、国有財産法18、19条では「原則として貸借できない」となっている。ところが風力発電は国有林の場合、簡単に貸借契約が結ばれて貸し出されている。それは国有財産法に例外規定があって、「用途または目的を妨げないと認める限度において」山林を貸すことができるとなっているからだ。

 

 では、この「用途・目的」とはなにか。国有林の管理経営の目標は、管理経営法にもとづき「国有林野の管理経営に関する基本計画」「地域管理計画」などで細かく具体的に定められている。林野庁は国有林の用途や目的は森林の持つ公益的機能の維持増進のためだと明言している。

 

 そしてそのために必要な二つの指標として、①モントリオール・プロセスを遵守して森林管理をおこなう(林道をつくるにも、樹木を伐採するにも、地域の生態系について時間をかけてモニタリング調査をする必要がある)、②国民の意見を聞きながら進める、ということを明らかにしている。

 

 風車建設は山稜部を削り(切り土)、盛り土して平坦部をつくり、風車を設置する。しかもそのための作業用舗装道路をつくる。風車や舗装道路建設によって保水力のあった森林が伐採され、保安林指定も解除され、土石流をはじめ土砂災害の危険性が一気に高まる。このような風車建設が、森林の持つ公益的機能を害することは明らかだ。

 

 林野庁は自身が定めた国有林経営の決まりを守っていない。林野庁側に、国有林を風車建設に貸し出すことがどうして森林管理として認められるのか、突き詰めていく運動を構築していく必要がある。

 

・既存の風車による健康被害について

由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会

 佐々木憲雄、齋藤 浄

 

 2017年秋、ソフトバンクにより鳥海山の二合目に風力発電建設計画が発表されたのを契機に、翌年六月、「由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会」を設立した。会として講演会や学習会、署名活動などをおこなってきたが、そのなかで既存の風車による健康被害で苦しんでいる人たちがいることを知り、2018年11月から調査を継続してきた。

 

 由利本荘市やにかほ市周辺には現在、200~300基の陸上風車が稼働している。さらに国内最大級の洋上風力発電建設が国策として進行中で、事業者は三菱商事エナジーソリューションズに決定、1万4000㌔㍗の風車を65基建てる工事は2026年4月に着工予定だ。秋田県沖には他にも洋上風力計画が目白押しで、さらに健康被害が広がるとの不安が広がっている。

 

 そのなかでおこなってきた健康被害の調査だが、昨年7月までに21人(由利本荘市17人、にかほ市4人)の聞きとり調査をおこなった。その結果を表にまとめた【表参照】。

 

 調査結果に見る問題点として、すべて風力発電建設後に、主に自宅内であらわれた症状であり、とくに低周波音を含む騒音によると思われる耳鳴り、頭痛、睡眠障害などが多い。シャドーフリッカーの訴えや、なかには子どもが鼻血を出した(風車が止まると鼻血も止まった)例もある。

 

 自宅で症状が出る場合と、風力発電に近づく(概ね3㌔以内)と症状が出る場合がある。
 行政や事業者に訴えたり、医師の診断を受けたりしているが、個人の問題として扱われたり、診断書も書いてもらえない状況がある。
 全員が現在も症状を訴えている。

 

 最後に、会としての今後の運動の展望についてのべる。
 ①「健康被害調査」結果をもとに、事業者や行政主体で幅広い「健康被害調査」の実施を強く求めていくとともに、会独自の調査も、できれば専門家の協力も得ながら継続する。

 

 ②秋田県内の「風車はいらないネットワーク@秋田」や「風力発電を地域から考える全国協議会」の構成員として、風力発電に関わる健康被害調査の拡大や問題解決に向けて全国的運動を展開する。

 

 ③由利本荘洋上風力発電事業に反対する署名活動を、「健康被害の実態」を訴えながら継続する。

 

 ④由利本荘市議会へ健康調査条例の制定を求めたが却下された。また、常置の住民投票条例を制定するための陳情書を提出したが、不採択となった。今後は直接請求の住民投票に向けた運動なども進める。

 

 ⑤今年に入り、「被害者の会」設立に向けて会合を重ね、8月27日の臨時総会で「健康被害者の会」を本会所属部会とし、名称を「風力だめーじサポートの会」とすることが承認された。9月に記者会見をおこなった。今後、「事業者や行政への健康被害の認可や風力発電の稼働停止要請」「マスコミなど広く一般への被害実態調査の広報」などの活動を進める。

 

風力発電と太陽光発電の電磁波問題

環境ジャーナリスト 加藤やすこ          

 

 送電線から発生する低周波磁場のリスクは1970年代から指摘されてきた。低周波磁場が強い地域で小児白血病の発症率が高いことが、各国で報告されるようになった。

 

 2002年には国際がん研究機関(IARC)が低周波磁場を「発がん性の可能性がある(グループ2B)」に認定した。

 

 最近の研究では、小児白血病の発症率は2mG(ミリガウス)の磁場にさらされる環境では1・26倍、4mGで1・72倍になることが報告されている。影響を受けやすい子どもを守るためにも考えていかねばならない問題だ。

 

 オーストリア医師会は2012年、電磁場に敏感な人を保護する診断治療ガイドラインを作成した。正常よりはるかに高いは4mG以上、正常より高いが1~4mG、正常よりやや高いが0・2~1mG、正常範囲内が0・2mG以下とした。

 

 再エネ周辺の磁場はどうなのか。カナダ・オンタリオ州のキングスブリッジ1ウィンドファームで測定がおこなわれた。1800㌔㍗の風車が15基設置されている。風車が停止しているときは2~3mGだったが、稼働中では架空送電線27・5kVの直下で16・5mG、500kVで46mGだった。磁場強度は距離とともに減衰し、風車から500㍍離れると0・4mG以下に減衰した。

 

 一方、日本では発電所から離れた場所でも高い磁場が発生している。北海道せたな町瀬棚のせたな大里風力発電は電源開発が2008年に建設したもので、3200㌔㍗の風車が16基建っている。事業者は、送電線が通る隣町の今金町中心部の磁場強度は、歩道で8・58mG、車道で0・86mGになると説明した。住民の反対で、市街地を迂回して郊外を通るルートに変更された。なお、国交省は建設コストを減らすため、これまでより浅い場所に送電線を設置できるようにしている。

 

 プリンスホテルは2013年、北海道札幌市に真駒内メガソーラー発電所(1090㌔㍗)を建設した。予定地周辺の送電線の磁場は2・4mGだが、稼働後は6・6mGに上がる、と事業者は住民に説明した。この送電線の下は通学路でもあり、住民は発電所建設に反対したが、プリンスホテルは「6・6mGは東京では普通。人体に影響はない」と主張し着工した。

 

 メガソーラーの近くで頭痛や耳鳴り、心臓への圧迫感などを訴える電磁波過敏症患者もいる。京都府の男性は、勤務先の社屋屋上に太陽光パネルが設置された後、頭痛や吐き気、心臓の痛み、不眠などの症状が出るようになり、早期退職をよぎなくされた。電磁波の影響を受けやすい電磁波過敏症患者や、乳幼児や子ども、妊婦、高齢者を守るために、環境アセスの項目に電磁場を加え、周辺住民や自治体に情報を公開するべきだ。

 

 カナダの人権委員会のレポートでは、電磁波や低周波音などに敏感な環境過敏症の人が人口の3%いると発表しており、少数であっても影響を受ける人がいるかぎり対策をとる必要がある。

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