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東電の電力供給危機なぜ起きた? 初の「電力需給ひっ迫警報」 過度な火力休廃止が背景に

 東京電力管内の1都8県では、3月16日の福島県沖の大規模地震で約210万軒が停電したのに続き、同21日には経済産業省が初の電力需給ひっ迫警報を発令、大型発電所2基分に相当する200万㌔㍗分の節電を要請し、23日昼前に「警報」を解除した。政府や東京電力、メディアは目の前の「電力不足」を煽るだけで、このような事態に至った根本的な原因については明らかにしていない。そのもとで経団連などは「原発を速やかに稼働しないと大変なことになる」と色めきたっている。東京電力管内での電力不足はどこからきているのか。

 

 経済産業省は21日夜、16日の地震の影響で、東京電力管内に電力を送る火力発電所が緊急停止し、福島県の広野火力発電所六号機、相馬共同火力発電の新地火力発電所1号機などの運転停止状態が続くなかで、電力供給の余力が低く、大規模な停電につながる恐れがあるとして、初の「電力需給ひっ迫警報」を出した。

 

 だが節電の呼びかけにもかかわらず3月22日午後2時台でも電力需要が供給力を上回っていたため、萩生田経済産業大臣が再度22日午後3時前に緊急記者会見を開き、企業や家庭に対して午後3時から午後8時まで、「追加で5%、大型発電所2基分に相当する200万㌔㍗の削減が必要だ」として節電の強化を求めた。23日昼前に政府は「警報」を解除したが、東京電力管内の電力供給は綱渡り状態にあることが明るみに出た。

 

 経済産業省は今回の「電力需給ひっ迫警報」の発令を地震による火力発電所の停止のせいにしているが、実は昨年5月にはすでに「2022年1、2月に全国的に電力需給がひっ迫し、東京電力管内で電力不足になる恐れがある」ことが明らかになっていた。

 

 梶山経済産業相(当時)は昨年5月中旬の閣議後の記者会見で、「この冬(2022年の冬)については東京電力管内で安定供給に必要な供給力を確保できない見通しとなった。発電・小売事業者に対し、供給力の確保を働きかけたい」とのべていた。

 

 電力供給力の余裕度を示す供給予備率は最低3%を必要とする。昨年電力広域的運営推進会議が調べた電力需給見通しでは、北海道電力と沖縄電力管内を除く8電力管内の供給予備率は、夏の冷房で電力需要が増す2021年7月が3・7%、九州電力を除いた7電力管内は同8月が3・8%と推定され、ほとんど余裕がないぎりぎりの状態で、ここ数年ではもっとも深刻な状態にあることが明らかになった。

 

供給予備率マイナス0・3%

 

 冬の暖房需要がピークを迎える2022年1、2月はさらに状況が悪化し、東京電力管内の供給予備率は1月にマイナス0・2%、2月にマイナス0・3%になると予想されていた。数値がマイナスになるということは供給不足を意味する。

 

 ちなみに、関西、中部、北陸、中国、四国、九州の6電力管内の供給予備率も2月は安定供給に最低限必要な3%しかなく、寒波の襲来などがあれば、電力が不足しかねない瀬戸際の状況にあった。

 

 当時の梶山経産大臣は、電力供給力の低下の原因として、「火力発電の休廃止があいついでいる」ことをあげた。経産省の調べでも、2016年の電力小売全面自由化後、電力大手が持つ火力発電所が石油火力を中心に急激に減少している。

 

 具体的に見ると、東京電力と中部電力の火力発電部門を統合して発足したJERA(ジェラ)は、2020年までに茨城県神栖市の鹿島発電所5、6号機、福島県広野町の広野発電所2号機など東京電力管内13基、愛知県田原市の渥美発電所4号機など中部電力管内2基の石油火力をすべて休止した。

 

鹿島火力発電所(茨城県神栖市)

 さらに2021年度はLNG火力の千葉県市原市の姉崎発電所5、6号機を廃止。三重県四日市市の四日市発電所4号機など計3基を休止した。

 

 関西電力も老朽化した火力発電所を廃止している。石油火力で2019年に和歌山県海南市の海南発電所1~4号機、2020年に大阪府岬町の多奈川第二発電所1、2号機、LNG火力では2021年2~3月に兵庫県姫路市の姫路第二発電所の既設5、6号機を廃止した。海南と多奈川第二は発電所自体を廃止している。石油火力でも和歌山県御坊発電所2号機を2019年に休止した。

 

 東北電力は新潟県聖籠町にあるLNG火力の東新潟発電所港1、2号機、九州電力は福岡県苅田町にある石炭火力苅田発電所新1号機を運転休止している。

 

 このほか、東北電力と東京電力が設立した福島県新池町の相馬共同火力発電新地発電所1、2号機、徳島県阿南市の電源開発橘湾発電所1号機の石炭火力3基が停止している。

 

休廃止火力は原発10基分にも

 

 経産省の調べでは2021年までの5年間で休廃止された石油火力は原発10基分に相当する出力約1000万㌔㍗にのぼる。とくに2020年夏に稼働していた火力発電のうち、休廃止や運転停止で2021年度に供給を見込めない施設は電力大手だけで約830万㌔㍗に達する。

 

 電力大手は電力自由化のなかで顧客を新電力などに奪われ、経営に厳しさが増している。経営に余裕があった電力自由化前なら、利用率が低下して利益が出せなくなった設備もいざというときに備えて維持することができたが、現状ではそんな余裕もなくなっている。

 

 電力大手は燃料費にコストがかかる石油火力を廃止し、コストが安い石炭火力を増強する方針だったが、政府が「2050年にカーボンニュートラル」をうち出したことで、石炭火力増強の見直しを迫られている。

 

 また、電力供給が綱渡り的な危機に陥っている要因には再エネ発電設備の増加もある。

 

 2012年に導入されたFITで太陽光発電設備の導入量が大きくのびた。日本では冷房需要が高まる夏場に電力需要がピークになる。このため電力大手は夏場の電力供給を乗り切るためにピーク対応設備を用意している。大量に貯め込むことが難しい電力は、需要量に合わせて必要な設備を準備し供給をおこなうしかない。そのため電力大手は火力発電設備のなかでは設備投資額が相対的に低い石油火力発電所を主としてピーク対応として活用している。

 

 太陽光発電量は夏場に大きく増える。その結果、ピーク対応の火力発電設備の利用率は低下し、火力設備の休廃止の動きを早めている。

 

 他方で冬場の電力需要は太陽光からの発電量が落ちる時間帯にピークがくると、供給を補うための火力発電設備が必要だが、採算がとれない火力設備の休廃止により設備が不足し、電力供給不足となる。

 

 電力市場の自由化と、太陽光を中心とした再エネ設備の導入増加のもとで、電力大手がそろってコスト削減のために、ピーク対応の火力発電設備の大量の休廃止をおこなっていることが、電力不足の原因となっている。

 

 なかでも東京電力は2011年の福島第一原発事故への対応を抱え、設備投資への費用を大幅に削減しており、10電力のなかでも火力休廃止は突出している。

 

 昨年5月末に開かれた経産省の有識者会議では、委員から東京電力管内の電力供給不足に対し「早急に対策をうち出すべきだ」との厳しい意見が出て、経産省は東京電力に休止中の火力発電所の再稼働を求める方針を出した。また、電力大手に火力発電の休廃止を事前に届け出させ、経産省で確認する仕組みづくりを検討する方向を出した。

 

 その矢先に起きたのが今回の「電力需給ひっ迫警報」の初発令だ。電力大手が安定した電力供給の社会的責任を放棄し、自社の利益追求のために火力発電を過度に休廃止することに電力供給危機の原因がある。

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