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トンガの海底火山の噴火と阿蘇山について  福岡大学理学部教授・三好雅也氏に聞く

 太平洋の島国・トンガ王国付近にある海底火山「フンガトンガ・フンガハアパイ」で1月15日、大規模な噴火が発生した。約8000㌔離れた日本でも津波警報が発令されて人々を驚かせ、あらためて「地球は生きている」という事実を再確認することとなった。今回、福岡大学理学部地球圏科学科教授で火山岩岩石学、地球化学、地学教育が専門の三好雅也氏に、この度のトンガの海底火山の噴火とその仕組みや特徴について、また研究のフィールドにしている阿蘇山の歴史や現状について語ってもらった。

 

  まずはトンガの海底火山の大規模噴火について。

 

三好雅也教授

 ――人工衛星で撮影されたトンガの海底火山の噴火の映像を見たとき、「これはすごい噴火だな」と思った。以前から活動は活発だったので噴火自体に驚きはなかったが、ものすごいスピードで巨大な噴煙ができており、これまでよりかなり大きな爆発だと思った。だが現地の情報が少しずつ伝えられるなかで、あの噴煙の大きさにしては火山灰などの噴出物の厚さが薄いというのが正直な印象だ。他の火山学研究者も指摘しているとおり、噴煙は大きく見えたがそこに含まれていた物が少なかったのではないかということだ。そのことから見てトンガの噴火は、大規模なマグマ水蒸気爆発ではないかと見られている。上昇してきたマグマと海水が触れて爆発を起こしたという見方だ。

 

 水は液体から気体になるときに体積が1700倍に膨らむ。急激に膨張すると爆発して、主に水蒸気を主体とした噴煙を出す。陸上の火山でもマグマ水蒸気爆発は起こるが、その場合は地下水などとマグマが触れて起こる。北海道の有珠山の噴火(2000年)などもマグマ水蒸気爆発だった。

 

 同じくらいの大きさの噴煙の例として1991年のフィリピンのピナトゥボの噴火がある。ピナトゥボの場合、最初はマグマが地下水を加熱して水蒸気を噴出していたが、やがて上昇したマグマ自体が激しく発泡して大規模な噴火を起こした。そのためたくさんの軽石や火山灰を周囲に降らせた。激しく発泡したマグマが噴出して急速に冷えて固まったものが軽石だ。

 

福徳岡ノ場海底火山の軽石

 昨年8月に起こった福徳岡ノ場の海底火山噴火で大量に出たと見られる軽石が沖縄の海などに影響を及ぼしている。たくさんの空気を含んでいるため、まるでフランスパンのようにスカスカで水に浮く。海洋研究開発機構の軽石の分析結果速報によると、この噴火を起こしたマグマには地球の深部に由来する「玄武岩」が含まれているらしい。マントルから上昇してきた玄武岩マグマが火山の直下にあるマグマだまりへ注入されたことで、マグマが激しく発泡して軽石を大量に噴出するような大規模な爆発的噴火を引き起こした可能性があるということだ。このように噴出物を分析することでいろいろなことがわかる。

 

 火山噴出物中に斑点状に入っている大きめの結晶を“斑晶”と呼ぶ。斑晶はマグマだまりでゆっくり成長した結晶で、それを電子顕微鏡で局所分析していくとマグマ溜まりで何が起こったか推定できる。今回噴火したトンガの海底火山の過去の噴出物の中にも、玄武岩マグマの注入が引き金となって噴火したと考えられるものがあるということが論文で報告されている。今回はどのような過程を経て噴火に至ったのか、非常に興味深い。まだまだわからないことばかりだが、これから明らかになってゆくと思う。

 

 今後は火山地質学の研究者が、トンガで噴出物の分布や、サイズ(どれだけ細かく砕かれているのか)、そして体積などを調べていくだろう。噴出物の総体積などの全容がわかってはじめて今回の噴火の規模が評価できる。同じように海底火山であっても、もっと水深が深いところにあれば水圧がかかっているので海面上に煙があらわれることはない。トンガの噴煙が人間に見える形であらわれたのは、絶妙な深さだったということだろう。

 

 Q 火山が形成されるメカニズムとは?

 

 ――火山が形成される場所は主に三つある【図・火山ができやすい3つの場所】。一つ目は「沈み込み帯」。移動してきたプレートが他のプレートに衝突すると、密度の大きい(重い)方が密度の小さい(軽い)方の下に沈み込む。このプレートの境界部に海溝ができる。沈み込む側のプレートが約110㌔㍍まで潜るとマントル内で水を吐き出し、その水が作用してマントルの岩石を融かし、マグマが発生する。そのマグマが上昇し、その上の沈み込まれる側のプレートを貫いて地表に噴火することで火山ができる。日本列島とトンガの状況が似ているといわれるのは、どちらも沈み込み帯にあり、海溝に沿って火山列島を形成しているためだ。

 

 

 二つ目は「中央海嶺」。中央海嶺とはプレートが形成される場所のことだ。中央海嶺を軸にして両側へプレートが引き裂かれている。その裂け目を補うように地下のマントルから新しいマグマがつぎつぎに供給されており、冷えて固まるとプレートになる。太平洋の東側や大西洋などには火山でできた海底の大山脈がある。深いところにあるので火山活動を直接見ることはできないが、ほぼ毎日のように火山噴火は起きていると考えられる。今、世界の活火山の数は1500といわれているが、その数に海底火山はほとんど含まれていない。

 

 三つ目は「ホットスポット」。これはプレートの運動とは無関係の火山だ。地球の深部から熱いマントルが上昇してくる場所のことで、ハワイなどはホットスポットだ。

 

 Q 阿蘇山の歴史と現状について。

 

 ――火山研究者の多くは自分のフィールドを持っており、私は阿蘇山を研究対象にしている。学生のときに熊本行きの飛行機から初めて阿蘇山を見たときには圧倒された。スカッと晴れ渡った日で火口がよく見えた。今からここで研究するのだと思ってワクワクしたのを覚えている。

 

 阿蘇山とは東西約18㌔㍍、南北約25㌔㍍の巨大カルデラ(阿蘇カルデラ)とその内側に存在する中岳などの中央火口丘群のことをいう。阿蘇山という独立した山はなくそれら全体をさしている。カルデラの中で地質調査をしているときに観光客の方から「阿蘇山はどこですか?」と聞かれたことがあるが、おそらく中岳のことをいっていたのだろう。現在活動中の中岳は阿蘇山のほんの一部なのだ。

 

 阿蘇山は、約27万年前から約9万年前までに4回起きた大規模な火砕流噴火によって形成された。過去4回の噴火を古い順から、阿蘇1(約27万年前)、阿蘇2(約14万年前)、阿蘇3(約12万年前)、阿蘇4(約9万年前)という。なかでも阿蘇4はとんでもない大爆発だったといわれる。周囲を覆い尽くすように流れた火砕流の分厚い堆積物が島原や天草、さらに山口県で確認されている【図・九万年前の阿蘇山の巨大噴火】。高温の火砕流が海を渡ったということだ。そして上空に吹き上がった火山灰は北海道に一五㌢も積もったことが確認されている。今回のトンガの噴火どころではない。九州本島の大部分が焼き尽くされ、埋め尽くされたとみられている。

 

 阿蘇1から4の噴火で、マグマだまりにたまっていた膨大な量のマグマが噴出してマグマだまりが空洞になった。そのことによって地表が陥没し、巨大な窪みが形成されてカルデラの原形ができた。その後、9万年前以降にもマグマの供給が続き、小規模な噴火をくり返して中央火口丘群ができた。中央火口丘群の火山活動の中で一番大きな噴火は草千里ヶ浜の噴火(約3万年前)だ。草千里ヶ浜や最近の中岳の噴火の規模はピナトゥボ噴火よりも小さい。今後、阿蘇4ほどの噴火が再び起こりうるかどうかというのは大きな課題だ。

 

 少しマニアックな話になるが、主な活火山には噴出物の分布や岩質などを地形図上で塗り分けて示した火山地質図がある。火山地質図も火山ごとに違いがあって面白い。たとえば富士山の場合は玄武岩が多く、桜島は安山岩やデイサイトが多い。阿蘇山の場合は玄武岩から流紋岩までいろんな種類のマグマが活動した痕跡が残っている。

 

 一般的に、玄武岩質のマグマは粘り気が小さく、流紋岩質マグマは粘り気が大きい。マグマの粘り気が大きいほど、大きな爆発的噴火が起こりやすくなる傾向がある。なぜか。例えば水を泡立てても泡はすぐになくなるが、粘り気のある水飴や蜂蜜などに入った泡はなかなか抜けない。このことからわかるように、粘り気が低いマグマは発泡したガスが外に抜けやすく、噴火のときに大きな爆発が起こりにくい。逆に粘り気が多いマグマほど泡を多く保持できるので泡立ってやがて爆発が起きやすくなる。

 

 火山地質図は、過去にその火山でどのようなマグマが活動したのかを教えてくれる。そして、今後どのようなマグマが活動する可能性があるのか、そのヒントを与えてくれる。

 

 Q 阿蘇山の魅力は?

 

 ――阿蘇山の大観峰はカルデラを一望できる場所として人気で、切り立った崖の下に平らなカルデラの底があり、向こうに中央火口丘群がみえる。阿蘇山の成り立ちを知ったうえで、そこからの景色を眺めてほしい。それらが約9万年前の大規模噴火でへこんでできた地形とその後の火山活動でできた山々だとわかると、自然の壮大な営みをより強く実感できると思う。

 

 あとはなんといっても中岳だ。活動が活発になって行けないときの方が多いが、火口まで車で行って見ることができるのは珍しい。中岳は火口が活動していないときには「湯だまり」と呼ばれる高温の火口湖となり、活動が活発になると湯だまりは消えて土砂を噴出し、やがて火山灰やスコリア、噴石を放出する噴火を起こす。まさに阿蘇が生きていることを実感する。

 

 そして日本離れした壮大な草原が保持された風景が見えるのは、阿蘇の大きな特徴だと思う。草千里ヶ浜のように古い火口の中で馬に乗れる場所まであるというのは阿蘇の魅力だと思う。多くの場合、カルデラの内側には湖がある。日本で一番大きいのは北海道の屈斜路カルデラだが、そこには大きな湖がある。阿蘇カルデラの内側にも過去に湖ができたことはあったが、断層にそってカルデラの縁に亀裂が入っており、降った雨がそこから有明海に流れていくため現在は湖がない。断層があるから地震が起こるが、断層があるからこそ、カルデラの内側に人が住むことができているのだ。

 

 また阿蘇4噴火の火砕流はさまざまな恵みをもたらした。阿蘇火砕流は有明海を渡っており、そこに厚く堆積したと考えられる。それが現在の干潟のもとになり、生態系をつくり海の幸が得られていると考えられる。また阿蘇カルデラ周辺には火砕流堆積物の割れ目から大量の湧水が出ており、「舟の口水源」「池山水源」などがある。大分県の原尻の滝、宮崎県の高千穂峡などをつくっているのも火砕流堆積物であり、阿蘇噴火がさまざまな恵みをもたらしている。

 

 Q 地震と火山との関係について。

 

 ――地震と火山噴火との関連性について騒がれることもあるが、実はまだよくわかっていない部分が多い。地震が起こるとマグマだまりのマグマが揺さぶられて、噴火が起こるということはよくいわれることだ。阿蘇でも、熊本地震で中岳の火山活動が活発化したということはないと当初いわれていたが、その後やはり影響があったとする論文も出てきている。今後の研究に注目したい。

 

 今、科学技術の発達で、噴火の映像が記録として残っていくことは火山研究にとって貴重なことだ。だがまだまだわからないことの方が多い。今回のトンガの噴火も火山学者の間では「えっ」と思うような予想外の現象だった。火山も一つ一つ特徴があり、たくさんの事例を詳しく調べなければ一般化はできない。また「活火山」という定義も、過去1万年間に噴火の記録のある火山、あるいは今、噴火活動をしている火山をさすが、たとえば2万年間眠りについていた火山が突如噴火した場合、定義を過去2万年間に変えなければならなくなる。そうすると111とされている日本の活火山は増えることになる。

 

 いずれもその定義は人間が決めたものだ。地球の歴史は約46億年といわれる。また火山の一生は10万年、長いもので数十万年といわれる。人間がわかるのは、ほんの一部であり、まだまだ未知な部分が多いからこそ謙虚な姿勢や見方が大事だと思う。

 

 過去をふり返ると、火山噴火は食糧生産にも大きな影響を及ぼし、歴史を動かす引き金になってきた。1783年のアイスランド南部のラキ火山が噴火したとき大量の火山噴出物が土壌に降りそそぎ、飢饉を引き起こす原因となった。噴火による気候変動が食糧価格の高騰を引き起こし、一説にはフランス革命の遠因になったともいわれる。また日本でも1783年の浅間山の噴火は、天明の大飢饉を誘発したといわれている。

 

 この度のトンガ噴火でも噴煙の高さが成層圏にまで達したことで、寒冷化が心配された。成層圏に噴出物が滞留すると太陽光を遮る日傘効果をもたらすためで、ピナトゥボ噴火のときは平均気温が0・5度下がった。今回は噴煙の大きさのわりに含有物が少なかったが、影響についてはまだわからない。

 

 日本は火山列島だ。地球ができて46億年間、火山は噴火し続けてきたし今後も噴火を繰り返すだろう。だからこそ火山を研究する人材を確保し次世代を育てていくことが大きな課題だと思う。観測機器が新しくなったとしてもそれを操作し、データを読みとる人材がいなければ意味をなさない。人材はとても貴重なのだから、もっと研究者人口を増やすことが大事だと思うし、教育・研究に携わる私たちの責任でもあると思う。また子どものときから火山への理解を深めていく教育の推進を根気よくやっていかないといけない。

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