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国は米価暴落対策を急げ 農家の所得補償と在庫買い上げが必須 コメ主要産地の地方議会の意見書あいつぐ

 新型コロナの影響で飲食店や観光業など多方面の事業者が重大な影響を受けており、国や県、市などによる経営維持のための支援事業がおこなわれている。農業分野も同じく苦境に見舞われ、外食産業でのコメ消費量の激減を受け、過大な流通在庫が生まれ米価暴落の危機に直面している。このままでは小規模農家はもちろん大規模農家まで経営維持が困難で、離農をよぎなくされかねない深刻な状況にある。コメは日本人の主食であり、生産者が経営を維持できなくなることは、日本人の主食の安定供給の危機につながっている。この緊急事態に国が主食であるコメの生産・供給に全面的に責任を持ち、生産を維持するための米価の保障、過剰在庫の国庫買い上げ、輸入米の削減といった対応を求める声が全国で高まっている。

 

稲刈りをする農家

 コメどころをはじめとする地方議会からはコロナ禍での米価下落という緊急事態に対し、国としての対策を求める意見書が続々と上がっている。その一部を紹介する。

 

 岩手県花巻市議会は9月に「新型コロナ禍による米価下落に対し政府による緊急対策を求める意見書」を提出している。要旨は「新型コロナ禍にともなう外食産業の米消費量の減少等により、さらに米の大幅な過剰が生じ、米価下落を招いている。これにより全国的に米価が下落し、岩手県での2021年産米の概算価格は県の主力品種である“ひとめぼれ”は一等米60㌔㌘(1俵)当り前年比2300円減の1万円で、2年連続の値下がりとなり、米農家に衝撃を与えている」「試算では来年6月末の在庫は50万㌧増の250万㌧超になり、このままでは在庫はさらに増え、今後も米価の暴落が危惧される現状において、多くの米農家が米づくりから撤退することにもなりかねず、安定的な食料供給も守ることができなくなる恐れもある」としている。

 

 そのうえで「コロナ禍による過剰在庫分は政府が責任をもって市場から隔離すべきであり、その責任を生産者、流通業者に押しつけることは許されない」「コロナ禍というかつて経験したことのない危機的状況のなかで、農業者の経営と地域経済を守るため、政府の責任において、市場隔離した米を買い入れるなど速やかに緊急対策をとるよう求める」としている。

 

 三重県議会も「コロナ禍における米価下落対策を求める意見書」を6月に提出している。「新型コロナ感染拡大に伴う国の緊急事態宣言の発令等により、国産米の需要は減少に歯止めがかからず過大な在庫が生じ、販売不振と米価下落で生産農家は苦境に立たされている。長期間にわたる米価の下落が続けば、小規模農家だけでなく、大規模経営の生産農家も米づくりから撤退することにつながりかねない。従来の政策的枠組みにとらわれることなく、備蓄米を有効活用することによって在庫を圧縮し、生産農家を支援することが緊急に求められている」とし、「国がコロナ禍で危惧される米価下落に歯止めをかけるようあらゆる手段を講じるよう強く要請する」としている。

 

 茨城県議会も10月、「コロナ禍における米価下落対策を求める意見書」を提出した。「令和三年産米の米価は全国的に下落し、生産現場に動揺が広がっている。今回の米価下落幅は想定を上回るものであり、米農家が営農意欲を喪失し、離農が進むことが懸念される」「国は我が国の食料安全保障の観点からも、安定的な米価のもとで米農家の所得確保が図られるよう、あらゆる政策を講じる必要がある」としている。

 

国産米の供給先奪う 輸入米の削減・停止を

 

 北海道根室市議会は3月に「米の需給改善と米価下落の歯止め策を求める意見書」を提出している。

 

 「コロナ禍での需要の“消失”で米の過大在庫が生じ、2020年産米の市場価格は全国的大暴落し、2021年産米のさらなる下落が危惧されている。このままでは多くの米農業者の経営悪化を招くことになり、流通業者、販売店など地域経済に深刻な影響を与える」として、「コロナ禍による“過剰在庫”は、政府の緊急買い入れなど特別な隔離対策で市場隔離すべきだ」「同時にミニマムアクセス米が毎年77万㌧輸入され、40万~60万㌧が飼料用に販売され、国産飼料米需要を奪っている。国は在庫が増えたバター、脱脂粉乳の輸入量を大幅削減し、バター、脱脂粉乳の過剰在庫対策をとっている。バター、脱脂粉乳同様に、ミニマムアクセス米の輸入量を減らすことが最も有効な対策といえる」とし、以下の対策を要望している。

 

 ①過剰米を国が緊急に買い入れし、過大な生産調整を回避すること、②ミニマムアクセス米の輸入量を大幅に削減すること、③過剰米を生活困窮者などへの食料支援に活用すること。

 

 宮城県大崎市議会も10月に「コロナ禍における米価下落対策を求める意見書」を提出した。意見書は、「JA全中の試算では、令和四年六月末の民間在庫量は220万~253万㌧と見込まれ、国の見通しよりも大幅に増える見通しだ。販売不振と米価下落で生産農家は大変な苦境に立たされる。長期間にわたって米価下落が続けば、小規模農家だけでなく、大規模経営の生産農家も米づくりから撤退せざるをえなくなるほか、農家の担い手不足にさらに拍車がかかる」とし、「子ども食堂はじめ生活困窮者や学生などへの食料支援の強化など従来の政策的な枠組みにとらわれず備蓄米の有効活用等によって在庫を圧縮し、生産農家を支援することが緊急に求められる。国が大幅な米価下落に歯止めをかけるようあらゆる手段を講じる」ことを強く要望している。

 

 山形県寒河江市議会も6月に「新型コロナ禍による米の需給改善と米価下落の対策を求める意見書」を提出した。

 

「政府が有効な手立てをとらなかったため2020年産米の市場価格は大暴落した。2021年産米の昨年以上の米価下落が危惧されている。1月末に2021年産備蓄米の入札がおこなわれ、わずか30社が1万1000円台という安値で99%近くを落札し、米市場に新たな混乱を招いている。このままでは、多くの米農家が米づくりから撤退することにつながりかねない」とし、「コロナ禍の需要減少による“過剰在庫”分は、国が責任をもって市場隔離すべきであり、政府の責任による緊急買い入れなどの特別な隔離対策が絶対に必要だ」と要請している。

 

 同時に「国内需給には必要がないミニマムアクセス輸入米は毎年七七万㌧も輸入されている。国内消費量は30年間で4分の3に減少したにもかかわらず、一切見直されていない。せめてバター・脱脂粉乳並みに不要なミニマムアクセス米の輸入数量を調整するなど、国内産米優先の米政策に転換することが必要だ」と国の対策を求めている。

 

 福井県大野市議会も9月、「コロナ禍における米価下落対策を求める意見書」を提出し、「長期間にわたる米価下落が続けば、生産農家が経営圧迫により米づくりから撤退することにもつながりかねず、農業農村の将来も危ういものとなる」とし、国の責任で米価下落に歯止めをかけることを強く要望している。

 

 同じく福井県の勝山市議会は6月に「新型コロナ禍による米の需給悪化の改善と米価下落の歯止め策を求める意見書」を提出し、「コロナ禍で米価下落が危惧されていることは、多くの米農家が米づくりから撤退することに繋がりかねない。コロナ禍というかつて経験したことのない危機的事態のなかで、日本の基幹産業である農業の衰退が加速される。農業者の経営と地域経済を守るためには、従来の政策的枠組みにとらわれない対策が求められる。国が米の過剰在庫を緊急的に買い入れるなど、特別な対策を講じるよう強く要望する」としている。

 

大規模化推進した政府  作れば作るほど赤字に

 

 北海道の長沼町議会は3月に「コロナ禍における地域経済の活性化と米価暴落対策を求める意見書」を提出した。「TPP11や日米貿易協定など大型貿易協定が相次いで発効されるなか、通常国会にRCEPの承認案も提出し、米国との追加交渉が懸念されるなど、農産物の一層の市場開放を求めてくる可能性が高く、重要品目を抱える本道農業への甚大な影響が危惧されている」としたうえで、コロナ禍での米価暴落の危機を訴えている。さらに毎年77万㌧輸入されているミニマムアクセス米の輸入量を減らし過剰在庫対策をとることを要望している。

 

 最後に「第一次産業を主としている北海道にとって、今後も農畜産物への影響が続くと関連企業の縮小・倒産など、地域経済にも大きな損失を与えかねず、かつて経験したことのない危機的事態のなかで、農業者の経営と地域経済を守るためには、従来の政策的枠組みにとらわれない対策が必要だ」と訴えている。

 

 埼玉県吉川市議会も9月、「米価暴落に対する緊急対策を求める意見書」を提出した。「農林水産省が公表した六月末の民間在庫量は219万㌧と適正在庫とされる180万㌧を大幅に上回っている。米生産者はこの二十数年、米価の下落・低迷に苦しめられてきた。市場まかせの政府の米政策のもとで、かつて1俵(60㌔㌘)平均で2万2000円を超えていたのが、今や1万円前後だ。他方、農水省の調査では、米1俵を生産するのにかかる直近(令和元年産米)の経費は平均で1万5000円をこえている。米農家の大多数は赤字生産を強いられ、生産費が平均より高い中小規模や中山間地域の農家は、米代金では家族労働費どころか農機具、肥料などの物財費さえ償えない事態だ」とし、以下の対策を要望している。

 

 ①過剰在庫を政府が買い取り、市場から隔離すること、②買い取った米を生活困窮者、学生、子ども食堂などへ大規模に供給すること、③ミニマムアクセス米の輸入を中止すること、③農業者戸別補償制度を復活すること。

 

 富山県議会も9月、「コロナ禍における積極的な米価下落対策を求める意見書」を提出している。「本県における概算金についても、主力品種の“コシヒカリ”が一等60㌔当り昨年比2000円減の1万1000円、“富富富”は2700円減の1万1800円、“てんたかく”と“てんこもり”も2000円減の9500円となるなど、8銘柄すべてが引き下げられることになったのは実に7年ぶり」とし、「今後さらなる米価下落は、大規模経営農家ほど影響が大きくなる。コロナ禍で未曾有の危機下にあって、米生産者と地域経済、主食用米の安定供給を守るため、今こそより一層の米価下落対策のとりくみが求められている」と訴えている。

 

 そのうえで国会、政府が「コロナ禍の影響を精査し米生産者の経営安定に向けて支援することはもとより、米の需給バランスの安定化を図るため、過剰在庫の解消や備蓄米の運営改善などのほか、消費拡大のための積極的な対策」を強く要望している。

 

 千葉県匝瑳(そうさ)市議会は3月に「米価下落対策に関する意見書」を提出し、①再生産できる価格の保証と、農家手取り10㌃当り15万7000円以上の実現、②ミニマムアクセス米の輸入取りやめ、または輸入数量の見直しを国に働きかけるよう千葉県に要請している。

 

 栃木県高根沢町議会も9月、「コロナ禍における米価下落の対策を求める意見書」を提出した。

 

 「近年の経済のグローバル化とともに食料も海外に依存する割合が高くなるにつれ、国内の農業従事者の減少や主食の米麦等の価格は低下の一途を辿っており、農地を維持していくことさえ危ぶまれている。町面積の50%強が農地で、農業を基幹産業としている本町も例外ではない」「大嘗祭の供納米“とちぎの星”の令和3年産の概算金は60㌔㌘当り7000円と、前年比マイナス41%の下落。60㌔㌘の米を生産する費用は労働力を含めて1万4000円前後であり、このような実情では農業経営の収支の均衡がとれず、生産意欲が減退し、農業社会、地域社会の衰退に拍車をかけることは明白だ」と訴えている。

 

 そのうえで、「農業者および地域社会の生活を守る安定した米価となるよう早急な方策を講じることを強く要望する」として以下の点をあげている。①需要と供給の均衡の上に成立する市場主義を留保し、市場に滞る在庫を政府が買い取るなどして市場から隔離し、需給環境の改善を図るとともに早急に米価下落の歯止めをかけること、②命を育む食料の確保は国家安全保障の観点から重要なことであり、普段から主食の米政策については、戸別補償から価格保障へと舵を切り、米作農家のやる気を引き出すとともにナラシ対策や収入保険の加入促進など各種施策に資すること、③食生活の変化の中でごはんを柱にした日本型食生活の回復を啓蒙し、米の消費拡大に努めるとともに可能な限り販売力の強化に努めること。

 

米国の要求で撤廃 必要な農産物価格保障

 

 以上は提出された意見書のごく一部だが、コロナ禍における米価暴落が農家経営や地域経済に死活的な深刻な影響を与えていることを切々と訴え、農家の個々人の責任にするのではなく、国として国民の食料供給に責任をもった対策をとることを強く要望している。

 

 米価暴落の原因としてはコロナ禍による外食産業などでのコメの消費激減が指摘されている。コメの需要量に対して供給量が大幅に上回っているため、米価が下落しているという仕組みになっている。

 

 農家が販売するコメは、生産費を賄うことができないほど安く買いたたかれ、大幅な赤字になり、このままでは多くの農家が離農をよぎなくされることになる。

 

 米価が市場における需要と供給の関係によって決定されるという市場原理が導入されたのは1995年の食管法廃止以降で、そのもとで26年が経つ。それ以前は政府が農家が生産したコメを全量買い上げていた。それは政府が国民の食料供給に責任を持つという考え方にもとづくもので、政府の買い入れ価格の基準は生産費を賄う価格として、1俵=60㌔が2万円程度であった。

 

 1995年、WTO(世界貿易機関)のドーハラウンドでコメの輸入自由化を認め、77万㌧のミニマムアクセス米を輸入することを受諾した。おもにアメリカ産米の輸入が中心であり、そのために食管法を廃止し国内の販売も自由化し、米価決定に市場原理を導入した。
 米価は食管法の廃止直後に1俵2万円を割って以降、この26年間下がり続けており、コロナ禍でついに1俵1万円を割り、9000円台や7000円台といった米価暴落が起こっている。
 しかも、大規模農家経営ほど打撃は大きく、日本の主食であるコメ生産は危機的な状況にある。

 

 農家はこの緊急事態を国が責任をもって解決することを強く要望している。
 第一には「コメの供給過剰」状態を解決するために、在庫米を国が買い上げることを要求している。また、コメが国内市場で過剰であるにもかかわらず、77万㌧も輸入している外国米の輸入を停止することを要求している。さらに、米価が下落したために減った分の農家の収入を国が補償することを求めている。

 

 東京大学大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)は「かりにコメ1俵1・2万円と9000円との差額を主食米700万㌧に補填するとしたら3500億円かかる。米国からのF35戦闘機だけで6・6兆円(147機)の武器購入に比べれば、安い安全保障費ではないか」と指摘し、食料にこそ安全保障予算を配分すべきだと強調している。

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