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パラジウム合金の高騰が歯科医療の現場を直撃 投機によって異常な価格に

 国際金属先物取引市場で白金属パラジウムの相場が投機資金の流入で高騰、金の1・5倍になる異常事態で、パラジウム合金が治療に欠かせない歯科医療界を直撃している。パラジウム合金の直近相場は1箱(30㌘)7万3800円、歯科診療所、歯科技工所が仕入れる価格は消費税込みで1箱約8万円。ところが保険診療報酬での材料費パラジウム合金は1箱約5万円。1箱3万円の格差が歯科医療現場の重い負担となっている。

 

 下関をはじめ山口県下の複数の歯科診療所で実情を聞いた。

 

 パラジウムは軽くて腐食に強く比較的安い金属として知られ、パラジウム合金は歯科治療のほか小型・軽量化する自動車など各種の部品、装飾用金属として使われている。だが生産地はロシアやアフリカなど少なく、投機資金の狙うところとなった。こうして国際的な金、銀など金属を扱う先物取引市場で、金の1・5倍の価格となる異常なギャンブル相場となっている。このためパラジウム合金が高騰し、以前は30㌘=2万7800円であったものが、直近では7万3800円となり、歯科診療所や歯科技工所が仕入れるときは消費税10%で約8万円となっている。

 

 歯科診療所によると、パラジウム合金30㌘入りを月に3~5箱使うので、月10万~15万円の重い負担となっている。このため「国際市場で相場が大きく動く材料は、国が一括購入して診療報酬で国民のために安く定めた価格で歯科診療所や歯科技工所に卸す制度にすべきだ」との強い要望の声が上がる。

 

 パラジウム合金は、歯科治療には不可欠で失われた口腔の形態・機能を回復させる「クラウン」と呼ばれる被せもの、正歯と義歯をつなぐブリッジ、インレーなどの技工物に使われる。このため異常な高騰は、歯科医療界を直撃している。

 

 ある歯科診療所では「歯科医療費は2000年から2011年までの10年間を見ても2兆5000億円から2兆6800億円の間を上がり下がりをくり返し、実質横ばいで歯科診療所は弱体化させられてきた。このもとでの月10万~15万円の負担増の打撃は大きい。私が開業した30年前、パラジウム合金は30㌘7500円だった。なんと10倍の値上がりだ。深刻な歯科技工士不足に拍車がかかるのはもとより、歯科診療所の廃院増加につながる」と語る。

 

 歯科技工士の成り手が少なく、2016年で3万4640人が就業しているが、10年後には6000人減少すると試算されている。このため「団塊の世代」がすべて75歳となる2025年ごろには歯科技工物の安定供給が厳しくなり、質と安全性の低下が危惧(ぐ)されている。こうしたなかで、下関市歯科医師会が設置・運営している下関歯科技士専門学校も、定員22人に対して入学者は半数だ。

 

 パラジウム合金高騰をめぐり、保険診療報酬の材料費公定価格との重い格差負担が、歯科医療現場に押しつけられている理不尽な仕組みの抜本的な改善が急がれる。このままでは歯科技工士の成り手がいなくなることは目に見えている。

 

 別の歯科診療所では「下関歯科技工専門学校は、山口県下で唯一の歯科技工士養成機関。歯科技工士不足の現状から存続が必要であるが、パラジウム合金高騰で浮き彫りとなった理不尽な仕組み。歯科診療所も、歯科技工所も仕事をすればするほど赤字になる。これでは歯科技工士養成の将来も見通せない」という。

 

 そして「市場原理で真の社会保障という概念すらない。歯科医療費はバブル経済崩壊後の20年間、高齢化の進行と医療技術の進歩で増えるはずであるが、逆に増えていない。このもとで競争原理による競争だけは野放しで、低収入・長時間労働を招き、歯科技工士の成り手不足を生み出している。今回のパラジウム合金高騰による歯科医療の窮状もギャンブル経済にゆだねる仕組みの結果だ」「昔のように歯のない人が世にあふれ、口腔機能の崩れから重症疾患が続出し、総医療費を押し上げることになる」と指摘していた。

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