いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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物価高騰打破へ行動機運充満 農漁業者や運送業界

 アベノミクスによる円安で、トヨタなど輸出大企業がもうけを拡大する一方で、庶民生活をさまざまな生活物資の高騰が直撃している。燃料も小麦粉もツナも、食用油も、次次に値上げが発表された。サラリーマンの給料も、商店主や農漁業者、中小企業者の収入も、高齢者の年金も下がるなかでの値上げラッシュ。農漁業者や運送業者、製造業者のなかでは、燃料の高騰が経営を圧迫していることが問題になっている。このなかで全漁連所属の「全国いか釣り漁業協議会」の小型いか釣り漁船約1000隻が、政府対応を要求して26、27日の2日間一斉休漁する動きとなっている。物価高騰を打破するためには、農漁民や労働者、中小企業が団結して、アメリカと大企業ならびにその代弁者の役割をはたしている安倍政府と実力でたたかわねばならず、その機運は高まっている。
 漁師が船を動かすのに油は必需品。いか釣り漁船は夜間に照明を灯すため、経費の4割近くを油代が占めるといわれる。政府が対応しない場合は、全漁連は5月にも全国20万隻の一斉休漁を検討している。5年前、投機資金が流れ込んで油代が暴騰したさいに、全国20万隻の一斉休漁をおこなって以来だ。
 下関市内の各浜でも、いか釣り漁船をはじめどの魚種でも、長期にわたる魚価の低迷で漁業経営が厳しくなっているところに油代が高騰して、出漁しない日が増えていると語られている。このままでは日本の漁業が壊滅しかねないこと、目前の対策を求めるだけでなく、漁業振興の抜本的な対策を政府は打ち出すべきだと論議されている。
 下関市北浦地区のいか釣り漁業者は、「いかの場合は片道25、6マイル走って漁場に行き、着いたらタンポ流しといわれる方法で走りながら縄を流す。それだけで6マイルくらい走り、また帰りが25、6マイル。1回の漁で使う油は220~230㍑になる。油代が10円上がるだけで、1回の漁で2000円の上乗せ。年間で1万3000㍑使うから13万円の負担増だ」と話す。今年もいか釣りのシーズンを迎えているが、いかがとれないため、みな魚に切り替えている。だが魚が安すぎて1本、2本とったところで油代や氷代、箱代も出ないから、沖に出ていないという。
 この浜では免税軽油で1㍑30円台のときもあったので、今の80円台でも約3倍だ。一方で魚価は半値になっており、天然のタイが一本釣りで㌔800円という。かつては4、5000円していたのに比べると5分の1以下だ。「油代が上がって、魚価が下がった分を全部漁師がかぶっている。5月になると棒受けのイワシ網が始まるが、棒受けは灯をたくし、船も大きいので陸から10マイルほどの近場で漁をするようになっている。魚を追いかけて遠くまで行かないので、厳しくなるという悪循環だ」と話した。

 5年前の燃油高騰より深刻 年間通して高止まり

 下関市内のある浜で昨年からの免税軽油の価格を聞いてみると、昨年4月は1㍑96円で始まり、しばらく下がって7月に81円になったが、9月からまた上がり始め、12月には89円に、今年に入って毎月のように2円、3円と上がって、3月初めには97円になったという。
 2008年に急騰したさいには一時1㍑128円までになったが、油業界に携わる関係者は、「5年前は異常に上がったが、一時的なものだった。だが去年からはずっと高止まりしたままで、年間通して平均してみると、今の方が高くなっている」と指摘する。原油は昨年11月頃から若干値下がり傾向だが、それを上回る円安で、下がる見通しがないという。「沿岸漁業者も沖合底引き船も、トラック業界も厳しくなっている。アベノミクスで景気が上向いたといわれているが、この辺りで実感することはない」と話していた。
 燃料の値上がりにともなって発泡スチロールも昨年値上がりしており、ここ四4、5年で3割近く上がったといわれる。漁網も昨年5%上がった。少少魚をとってきても、経費の値上がりに追いつかないといわれる。
 漁師の一人は「油代はここのところずっと高いままだ。少し下がったりすることもあるが、根本的に高い。発泡スチロールや漁網などの油製品もだんだん値上がりしてくるし、4月からは市場の氷代も100円上がって580円になった」と話す。「昔だったら油代が上がれば魚の値段が上がっていたのに、今は輸送する方も燃料が上がるから仕入れを抑えようとして、燃料が上がると魚価が下がるようになっている。運送業者も仕入れを抑えるしか燃料代を吸収できないからだ。漁師だけが“助けてもらう”のではなく、陸の人たちも危機になっているのだから、全体が一緒になって声を上げていかないといけないと思う」と話していた。
 別の漁師も「今要求しているのは免税率を上げたりするなどの支援策。それだったらその場所だけはよくなるかもしれないが、大変なのは漁師だけではない。今農家のハウスにしても、黒煙を出したらいけないというので軽油にかわっている。漁師だけで解決できるのではなく、大本を変えなければ、率だけ変えてもダメだ」と話していた。

 トラック運転手 規制緩和・コスト競争のうえに燃油高騰

 円安による燃料高騰が全国の陸上輸送を支える運送業界に甚大な影響を及ぼし「燃料高騰は漁業者だけの問題ではない」とトラック運転手のなかで切実に語られている。ここ数年間にわたる規制緩和で参入規制や料金規制が取り払われ、人命も安全輸送も無視したコスト削減競争に駆り立てられ大事故も頻発してきたが、そのうえに燃料高騰や運賃切り下げが追い打ちをかけることへの憤りは強い。「運送業はすべての国民生活に直結する。食料も雑貨も、いくら大型店が安売りをしようとしてもトラックが運ばなければ届かない。国民生活全体にかかわる問題だ」と論議されている。
 新門司(北九州市)から関東や関西へ向かうフェリー発着場付近にあるコンビニや飲食店の駐車場では、大型トラックが入れ替わりながら停車していく。おにぎりやカップラーメン、パンやお茶を買ってトイレにも行き、車内で食事をして数時間休めば、駐車料も宿泊料も浮かせられる利点があるからだ。昼間の工場稼働前に資材を運ぶため、人が寝ている夜中に車を走らせ荷下ろしするため、日中は遮光カーテンを閉めて睡眠をとる運転手の姿も目立つ。
 20㌧トレーラーで冷凍食品を九州から東京まで運んでいる男性運転手(40代)は「軽油が昔とくらべて2倍に上がった。自分が入社した20年前は1㍑70円だったのに今は140円前後だ。九州から東京までの往復で約2㌔㍑使う。これに高速代が7万円かかる。一往復21万円だった経費が今は35万円。数年前は燃料が安かったから、下を通って高速代を浮かすこともできたが、今は90㌔規制のリミッターがついて追い越しもできない。下をトロトロ走っていたら燃料費が増えるから、下を走って経費を減らすことも難しい。アベノミクスで景気が回復したというがまったく回復していない」といった。
 しかも円安で冷凍食品の輸入量が減り荷の量が少ない。以前は大きな拠点に大量に運び、リフトでおろす人員もいたため休憩することもできたが今は違う。拠点自体がなくなりリフトでおろす人員もいない。トラック運転手がトレーラーでそれぞれの工場へ運んで自分で荷をおろす。夜中に長距離走ったうえに、こまごました荷おろしも自分でやるため過労は限界に達している。「遠方へ長く出る勤務が増え、10日に1回ぐらいしか家に帰れず小学生になる子どもともほとんど会えない。食生活は不規則で子どもが高校生や大学生の運転手は1日2食にして切りつめる人もいる。そのうえにデジタコでアイドリングストップをチェックし減給したり、冷暖房を節約させたりする。十分に休みがとれないから過労による事故が増えている」と話した。
 熊本から大阪まで雑貨や資材類を運ぶ大型トラックの男性運転手(40代)は「燃料費が上がった分、高速ではなく下を半分通って節約している」と話す。「大阪まで往復すると燃料が1㌔以上。昔は7万円前後だったが今は14万円もかかる。だから夜間割引もふくめて6万円かかっていた高速代を3万円節約した。それでも以前より経費がかかる」と話す。しかも下を通る分だけ睡眠時間が減る。「高速を使っていた頃は八時間寝ていたが、今は3時間しか寝られない。だから空き時間を見つけては仮眠をとる」と話す。
 給与面での変化も大きい。トラック運転手はだいたい粗利の30%ぐらいが給料といわれ、1カ月でみると粗利が150万円で給与は約45万円程度が相場だった。だが今は粗利自体が100万円程度に下がり、給与割合も27%ぐらいに引き下げられており、手取りは二十数万円前後だという。「大手企業に賃上げを要請したとか賃金が上がったというが、実際は違う。数年前はイラクやアフガンへの戦争についていって燃料が高騰し、次は外国の投機資本が入りこんできてまた値上がりし、今度はアベノミクスの円安でもっと値上がり。アメリカにくっついていく政治ばかりやるから燃料が上がったり外資から食い荒らされてろくなことになっていない。運送業界の倒産も続いているが、運送業がなくなったらいくらコンビニがたくさんあっても物が届かないし国民は生活できなくなる」といった。
 福岡から千葉まで製鉄資材を運ぶ大型トラックの男性運転手(50代)は「宿泊費と燃料費を浮かすため最近はフェリーを使っている。でもフェリー自体も重油を使っているから料金がどうなるかわからない。燃料だけではなく物価全体が上がっているのが大きな問題。今も燃料は上がっているのに、鉄鋼大手などは“鉄鋼の仕入れ値が上がったから運輸コストを下げろ”などといってくる。こんなことにまともにつきあっていたら、安全輸送は守れない。小泉改革のときから“お客様のニーズだ”といってコスト削減競争ばかりが煽られたけれど、規制緩和もアベノミクスも根は同じで国民のためにならなかった。自分たちからみれば荷が減り、みんなが苦しくなっているときに競争ばかりさせること自体が今の時代にあっていないし時代遅れだと思う。欧州で大規模なストがよく起きるが、日本でもなんらかの意志表示をしていくときに来ていると思う」と語った。

 国内産業衰退が物流を直撃 規制緩和の犯罪性

 トラック業界では燃油高騰以前から、市場開放を求めるアメリカと荷主である大企業の要求で規制緩和が進行し大きな矛盾となってきた。1990年の規制緩和(物流2法=貨物自動車運送事業法、貨物運送取扱事業法)は、①参入規制の需給調整廃止、②免許制だったトラック事業を許可制に転換、③認可運賃を事前届出運賃に緩和、④営業区域の拡大、⑤最低車両保有台数規制の緩和(20台以上を5台に)、⑥元請け事業者による運賃料金のピンハネ合法化などが中味だ。これに消費税など諸諸の増税策、排ガス規制対応、スピードリミッター(大型トラックの速度を90㌔に制限する装置)の装着義務化など負担も増え、末端トラック会社が淘汰され、運転手の勤務状態はますます過密になった。
 そして物流2法は02年の小泉改革でさらに改悪している。事前届け出制だった運賃料金を事後届け出制にし、事実上運賃料金をいくらでも引き下げられるように自由化した。営業区域の規制も全廃し大手がどこにでも乗り込めるようにした。加えてトラック事業者は1回の運行が144時間(6日間)以内であれば全国どこへでも配送できるようにし、運転手の長時間勤務を可能にした。同時進行で製造業への派遣解禁など他産業も変化した。
 こうしたなかで仕事があるときは夜中も寝ずに運転し、朝は自分で荷物をおろし、自分で積みこんでまた夜中走るという殺人労働が蔓延した。ここに燃料高騰、仕事の減少が加わっており、家族も含めた生活を維持するため果てしもなく体を酷使し大事故につながっていく危険が増している。
 トラック運転手のなかでは今回の燃油高騰が決して一過性のものではなく、規制緩和以来続く国民生活切り捨て策の結果として問題意識が拡大している。「今回の燃油高騰は輸入物がすべて値上がりして、物流業界にも影響しているが、食料自給率をあげる方策を真剣に考えないといけない。そうすれば国内の運送業界も活発になる」「漁業も農業も迅速に消費者に運ぶ運輸業界がなくなれば売りさばくこともできない。国内の零細な運輸業を守ることは農漁業や国民生活を守ることにつながっている」と話されている。

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