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山中伸弥教授自ら寄付集めに奔走する背景 期限付き資金ばかりで9割非正規

潤沢なはずのiPS研究所も

 

 最近、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授が東京マラソンに出場したり、テレビの科学番組だけでなく、バラエティ番組にも登場する機会がめっきり増えた。また、研究室にテレビカメラの持ち込みを認めて、iPS細胞の製造過程についての取材に応じる場面にしばしば出くわすようになった。そこに、山中教授がみずからも認めているように、研究所への寄付を集めるための広告塔の役割を担っている現実がある。

 

 iPS細胞研究所は国からの潤沢な研究資金が投入されている数少ない研究機関である。にもかかわらず、所長みずから寄付を集めなければならないのはなぜか。同研究所の研究基金への山中伸弥所長による「ご支援のお願い」には、「iPS細胞実用化までの長い道のりを走る弊所の教職員は9割以上が非正規雇用です」という一文から始まっている。国の研究資金、つまり研究所の財源のほとんどが期限付きであるため、研究者の安定した雇用を確保することができないというのだ。

 

 日本テレビ系報道番組『ウェークアップ!ぷらす』(3月23日放送)に生出演した山中教授はiPS細胞を使った再生医療や新薬開発の現段階について説明したあと、難病のパーキンソン病や重症虚血性心筋症などへの臨床応用もそう遠くないこと、「将来的には、かなりの病気がiPSで治療できる」ことを明らかにした。

 

 同時に、臨床段階でさまざまなことが起こるので楽観視はできないことにふれ、難病に苦しむ患者らの切実な期待が日日寄せられており、それが研究のモチベーションになっているが、「研究しているなかで患者の病気が進む。時間とのたたかいだ」と語った。

 

短期で成果求める競争資金 腰を据えた研究阻害

 

 山中教授はさらに、「研究チームの力をどう維持するかが成否を決める。日本人の研究者が協力して、かなりオーバーラップなく、駅伝のように研究を進めている」と紹介した。そのうえで、「ほとんどの研究者が数年単位の契約で頑張っている。このことが腰を落ち着けてじっくり研究するうえでは、妨げになっている」ことを強調した。

 

 国立大学教員の場合、40歳未満の有期雇用が2007年には38・8%であったが、2017年には64・2%まで増えた。とくに、研究支援者は8、9割が有期雇用である。研究者になる学生の数も減少をたどっている。

 

 こうしたなかで、研究者の論文の本数も中国やインドが急増するなか、日本は急激に減っている。山中教授は、「本数だけを問題にするのではないが、質も低下していることはまちがいない」と語った。

 

 それは、昨年1月、iPS細胞研究所の教員がデータ改ざんやねつ造をおこなっていたことが発覚したことにも端的にあらわれた。こうした若手研究者の状況が、日本の科学技術、ひいては国力の喪失につながっていることは目に見えている。

 

 山中教授は「国の研究費の総額は増えている」のだが、それは期限付きで成果を求める競争資金であり、基礎研究に必要な「安定的なお金が減っている」と指摘。iPS細胞の発見も、NAT1という将来なにになるかわからない遺伝子の研究(基礎研究)のなかで生まれたものであること、「基礎研究がいつか花咲く。すぐのゴールはないが、必ず遠くにはなにかになるだろうという基礎研究がとっても大事だ」「研究は日本を支える大きな力になる。たくさんの若者に研究者になってほしいと切実に思う」と、力を入れて訴えていた。

 

 同研究所への寄付の実情については、大企業の巨額募金よりも1円分からのTポイント寄付や100円からの毎月寄付など1人1人の寄付がもっとも多いという。山中教授は「寄付者の切実な手紙には涙が出る」と感慨深げに話した。

 

将来憂え若手研究者育成へ

 国がもっとも力を入れて表面的には華華しい生命科学の分野でさえ、研究現場の実態はこのようなものである。昨年ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏もそうであったが、近年ノーベル賞学者が基礎研究を軽視する科学政策のもとで日本の将来を憂え、若い研究者を育成するためにみずからノーベル賞の賞金を充てて財団を設立したり、一般からの寄付を募るなどの活動を進めている。

 

 新自由主義「大学改革」のもとで国が進めてきた科学技術政策の破綻は明らかだ。それに対する科学者・研究者の批判とまっとうな研究を保証する政策への転換を求める声は圧倒している。それは、活力ある日本社会の創出のために日夜献身する名もなき多くの人人の熱い期待に支えられている。

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