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日弁連がGPS捜査の中止を求める意見書 秘密裏に進む国民監視に警鐘

 日本弁護士連合会(日弁連)は10月24日、警視庁と最高検察庁に対して、GPS捜査を中止し、これまで実施したGPS捜査に関して調査・公表するなどの対応を求める意見書を提出した。

 

 GPS捜査とは、人工衛星を利用して正確な位置情報を特定できるGPS(全地球測位システム)を利用し、捜査対象者の車両などに小型軽量のGPS端末(発信器)をとり付け、追跡する捜査のことである。警察はこれまで、「連続窃盗や組織的薬物・銃器犯罪、誘拐、産業廃棄物の不法投棄などの事件を対象に、速やかな摘発が求められ追跡が困難な場合に実施できる」として、秘密裏におこなってきた。

 

日本版GPS衛星「みちびき」

 しかし、日弁連など法曹界から「人間にできる範囲を超えて広範に常時監視することは許されない」との批判が高まり、アメリカ国家安全保障局(NSA)の元職員、エドワード・スノーデンが、「2017年1月31日、日本政府が10年以上にわたり捜査にGPS装置を利用しながら、捜査資料にはGPSに関する事実を一切記載しないよう日本中の警察に徹底させていた」(『スノーデン 日本への警告』)と暴露するなかで、最高裁が同年3月、窃盗事件の判決で「令状なしのGPS捜査」は違法であり、裁判所による令状があったとしても「実施するには新たな立法措置が望ましい」と、現行法上では事実上認めないとの判断を示すことになった。


 こうしたなかで、GPS捜査については、車など個人の所有物にGPS端末をとり付けるのではなく、個人が持つ携帯電話、スマートフォンのGPS位置情報をユーザーへの通報なしに遠隔操作で抜き出すというやり方が主流になっており、これには規制がかかっていないことを告発する論議が発展している。


 実際に、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなど携帯電話各社は2016年5月から、画面などに通知を表示せずGPS位置情報を取り出せる機能を一部のスマートフォンにとり入れている。いずれも捜査機関への位置情報の提供については、「現在法令等に基づき、今後も同様に対応する」と協力を明言しており、どの端末が対応しているかについては、「捜査にも影響がある」として公開していない。

 

アメリカFBI 位置情報をどう利用しているか

 

 アメリカのコンピューター・セキュリキィの専門家、ブルース・シュナイアー(ハーバード大学法科大学院フェロー)は『超監視社会 私たちのデータはどこまで見られているのか?』(草思社)で、FBIなどアメリカの警察が犯罪捜査のうえで、「携帯電話の位置情報」をどのように利用しているかを紹介。捜査対象者の移動の経路や特定のエリアに所在する携帯電話すべてのデータを集めて、いつだれがそこにいたかを証拠立てるために使っていることを明らかにしている。2010年、ミシガン州警察は、労働組合の抗議活動が予想される場所の近くで使用されているすべての携帯電話の情報を入手しようとしたが、そのさい令状をとろうとしなかった。


 スマートフォンに搭載されたGPSを利用する方法は、それらとはまったく別の仕組みで、もっと正確に位置を特定できるシステムである。GPSはさまざまなアプリに位置情報を提供している。地図アプリの「グーグル・マップ」や、タクシー配車サービスの「ウーバー」、レストランのレビューサイトの「イェルプ」などもそれを活用したものだ。


 「ハロー・スパイ」というGPS追跡アプリをだれかのスマートフォンに密かにインストールすれば、その居場所を追跡できる。一般には、母親が子どもを、また家族が徘徊する老人を見守るために活用できる便利さが売り物である。


 GPS追跡アプリは、いわばスマホを乗っとりできるアプリで、これをインストールすると居場所の特定はもちろん、通話内容を外部からリアルタイムで聞けたり録音もできる。さらに、フェイスブックやLINEも中身を覗いたり、パスコードが暴けるなど、150種もの操作が可能だとされる。しかも、このアプリがインストールされているのを知られないように、アプリ一覧から消すこともできる。


 アメリカの国家安全保障局(NSA)はこうした位置情報を監視の手段として用いている。NSAは、携帯電話が接続する基地局、ログインするWi―Fiネットワーク、GPSデータを用いるアプリなど、さまざまな経路から携帯電話の位置情報を取得している。携帯電話の電源が切られていても居場所を特定できるといわれている。そうして、人人のスマートフォンを遠隔操作してマイクをオンにして、周囲の声や音を盗み聞きしている。


 NSAの二つのデータベース(暗号名「HAPPYFOOT」と「FASCIA」)には、世界中の端末の位置情報がごっそり記録されている。NSAはこれらのデータベースを使って対象者の居場所を追跡したり、だれと接点があるかを調べたり、ドローン(無人航空機)で攻撃する場所を決めている。


 携帯電話会社は利用者の位置情報をデータブローカーに売り、そのブローカーは必要とする者にはだれにでもそのデータを転売する。センス・ネットワークス社は、そのデータにもとづいて一人一人のプロファイル(個人の性質や傾向)をまとめあげる専門企業である。アメリカのベリント社は、世界中の企業と政府に携帯電話追跡システムを販売している。


 2014年、家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」でフォード社の幹部が私たちは、誰が法を犯したかを知っています。いつ違反したかも判っている。私達は、みなさんの車にGPSを搭載しているので、みなさんの行動を把握しているのです」とのべ、参加者を驚かせた。アメリカ会計検査院(GAO)の報告書によれば、自動車メーカーとカーナビメーカーがユーザーの位置情報を大量に収集している。


 GPSシステムを使った捜査、監視はこのように、民間の携帯電話会社や自動車関連企業、各国政府・警察・情報機関、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンなどのIT企業が相互に連携、浸透し合い、膨大なデータの売買や恫喝、とり引きを通しておこなわれている。

 

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