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大企業潤わせ国民生活は破綻  貧困促進するアベノミクス

 「アベノミクス」から3年を経て、日本経済の現実は景気が良くなるどころか、個人消費は落ち込み、一般勤労家庭の貧困化・生活破綻が急速に拡大している。この間、金融市場だけは活況を呈し、大企業の業績は上向き、富裕層や外国人投資家はおおいに潤った。しかし圧倒的多数の国民は増税、福祉切り捨てによる個人負担増加、物価高、給与削減に直面している。GDP(国内総生産)も消費税増税を受けた1昨年度の年率0・9%減に続き、昨年も年率換算で1・4%減と大幅に減退した。誰が潤って、誰がひどい目にあってきたのか見てみた。
 
 金融資本が暴利を貪る経済

 内閣府が発表した昨年10~12月期のGDP速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0・4%減となった。GDPの約6割を占める個人消費が大きく落ち込み、住宅投資もマイナスに転じた。設備投資はマイナンバー制度導入に必要なソフト関連整備で増加したが、消費落ち込みをカバーできるほどではなく、国内需要のGDP貢献度を示す「寄与度」は0・5%減となった。対中国貿易などアジア諸国との関係も冷え込み、輸出も0・9%減と縮小している。
 この間のGDP落ち込みは、とくに個人消費の低迷に大きな要因がある。1昨年4月の消費税増税を受けて家計消費支出は一気に落ち込んだが、円安政策で輸入食材が軒並み値上げとなった影響が深刻にあらわれている。2012年は平均0・1%減だった消費者物価指数は昨年平均で0・5%増となった。一方で実質賃金は13年度=1・3%減、14年度=3%減、15年度(4~6月期)=1・4%減と落ち続けている。物価が上がり賃金が増えないことから、みなが財布の紐を締めたことがわかる。消費を刺激しようとした「プレミアム商品券」の効果も乏しく、年間個人消費額は305兆円(昨年10~12月期)にとどまり、3年前と比べ4兆円落ち込んでいる。
 厚生労働省発表の毎月勤労統計調査を見ると、現金給与総額は低迷し続けている。「比較可能な1990年以降の最低を更新した」「東日本大震災や円高の影響」と問題になった2012年の現金給与総額(従業員1人当り月平均)でも31万4326円だった。それが2015年の現金給与総額は31万3856円(速報値)。横ばいであるし、ほとんど変化していないことを示している。
 ここ3年で非正規労働者は1775万人(13年4~6月期)から1953万人(15年)となり、178万人増加した。反対に正規労働者は3370万人(13年)が3314万人(15年)になり56万人減少している。労働者数と求人数が増えれば、有効求人倍率、失業率、就職率など統計数字は軒並み「改善」するが、その実体はいつ首を切られるか分からない非正規雇用の拡大でしかなかった。
 今後目指している「女性活躍」や「1億総活躍」の中身も同様で、正社員の給与水準を引き下げて夫婦共働き家庭や母親のかけ持ち勤務を増やすこと、年金支給額削減や医療費の自己負担増で高齢者まで働かなければ生活できない状態に追い込むことが「成長戦略」の中身となっている。
 「アベノミクス」の傍らで国民が経験してきたのは、非正規の4割超え、所得税、住民税、相続税の増税、子育て給付金の廃止、介護報酬の削減、障害者年金や事業者報酬の削減、福祉給付金の削減、住宅扶助や生活保護費の削減、年金支給の減額、消費税の8%への増税、物価上昇など惨憺(たん)たるものだった。

 政策減税等恩恵の数数 大企業に対する政策

 一方大企業は巨額の内部留保を積み上げ、表には見えない減税措置で恩恵を受けてきた。最近明るみに出たのは税金を特別に安くする企業向けの「政策減税」の実態で、その合計額は2014年度だけで約1兆2000億円に上った。12年度時点の5244億円という額も巨額な減税だが、安倍政府になると倍増した。政策減税は、時の政府がいろいろな減税項目をひねり出し、大企業の税金を減らす企業優遇制度である。14年度の減税項目は87項目に上り、減税の恩恵の約6割を資本金100億円超の大企業が独占している。
 財務省の調査報告書でトヨタ自動車に適用された主な政策減税を見ると、研究開発減税だけで1083億円にのぼっている。それに加え、研究費総額に係る税額控除(777億円)、試験研究費の増加額に係る税額控除(306億円)、雇用者給与が増加したときの特別控除(111億円)、国際戦略特区で機械を取得した特別控除(2・8億円)、国内の設備投資額が増加したときの機械等に係る税額控除(1・3億円)、特定株式投資信託の収益の分配に係る受取り配当等の差金不算入等の特例(7160万円)、認定特定非営利活動法人に対する寄付金の損金算入の特例(5088万円)、特別試験研究費に係る税額控除(1277万円)などがある。細かい政策減税も含めれば約2300億円もの恩恵を受けている姿が浮かび上がる。
 トヨタは約7万人の正社員がおり、ベースアップで平均年収を798万円(14年)から838万円(15年)に上昇させ、連合幹部や経営陣が社員の生活向上に尽くしてきたかのように振る舞ってきた。だがこれに必要な資金は約300億円程度で、これを政策減税総額から差し引いても2000億円が丸もうけとなる。恩恵を受けるのは正社員のごく一部で、下請や孫請の中小零細企業、そこで働く労働者はカヤの外に置かれている。
 このうえに法人減税の拡大である。もともと39・54%(2011年)だった法人実効税率は12年に37%に下げているが、これをさらに引き下げた。14年=34・62%、15年=32・11%にし、これを今年度は29・97%に引き下げる。2018年度には29・74%まで引き下げることを決めている。法人実効税率は約2%減少しただけで約1兆円規模の減税措置となる。ここ5年の10%近い減税で、大企業は全体で5兆円規模の減税措置を受けている。
 さらにトヨタや日産など輸出主体の大企業は、製品を輸出するたびに「輸出品は消費税の回収ができない」という理由で消費税分が還付される制度がある。消費税が1%増えるたびに還付金が増える仕組みで、この還付金は国内の中小商店が納めた消費税納付額から支払われている。還付額がもっとも多いトヨタ自動車の還付金は2014年段階(消費税5%)で1402億円だった。だが消費税が3%増加し8%になったため、還付金は2594億円(2015年)に膨張し、1192億円増えた。この傾向は日産(757億円→1212億円)、ホンダ(432億円→869億円)、マツダ(363億円→734億円)など輸出型大企業はみな同じ。大企業は消費税でも恩恵を受けている。
 こうして大企業が抱える内部留保は約354兆円(2014年)にもなった。

 輸出のマイナスも特徴 中国経済減速の影響

 この間、GDPを押し下げた要因として輸出が0・9%減になり、二四半期ぶりにマイナスになったことも特徴となった。「中国経済減速の影響」を理由にあげるほど中国の経済成長に依存していた関係が露呈している。尖閣諸島問題などで政治的には緊張関係を強めながら、日中貿易や中国人客の「爆買い」が日本経済にとって大きな存在となってきた。
 貿易について見れば、リーマン・ショックが起きる2008年まで最大の輸出相手国はアメリカだった。その後はアメリカ経済が後退し、中国が最大の輸出相手国となった。2014年にアメリカが再びトップに返り咲き、15年の対米輸出額は15兆2249億円となった。しかし依然として輸出額13兆2292億円の中国の存在は大きく、世界への輸出総額75兆6316億円のうちアメリカが占める割合は20%に過ぎない。中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、インドネシアなどアジア圏が40兆3428億円で53・3%を占めている。輸出立国の日本はアジア圏がもっとも重要な市場である。
 輸入相手国は2015年の輸入総額78兆4637億円のうち、中国が19兆4203億円(24・8%)と突出し、2番目のアメリカは8兆532億円(10%)だった。アジア圏は38兆3827億円(48・9%)で全体の5割近くを占めている。
 経済的には中国や韓国をはじめとしたアジア諸国との友好関係を強めなければ、国としての存立基盤を損ない、食料確保もできなくなる関係にある。海外市場を求める独占資本にしても成長著しいアジア市場を犠牲にすれば輸出落ち込みどころでは済まない。
 2012年末に安倍政府が再登板した際、円安で輸出が増大して景気は良くなるといっていたが輸出は伸びなかった。大企業がもうかればおこぼれが下下に滴り落ちるといっていたのも、国民のなかでまるで実感がなく、むしろ日本社会は大不況に見舞われたままである。
 アベノミクスで踊り狂ったのは外資を含めた金融資本にほかならないが、「日銀砲」「黒田バズーカ」などといって持て囃し、散散食い物にした挙げ句、売り浴びせに転じて最近の暴落を演出している。乱高下している東証の姿は、まさに投機が弄んでいる姿そのものである。
 「国にカネがない」といって消費増税をやり、福祉や医療費を縮小し国民負担を強めながら、多国籍化した大企業には法人税減税、政策減税、消費税の還付金などの恩恵を与え、みな海外移転で生産拠点を移していった。国内を散散に疲弊させたもとで、今度はTPPによって農漁業や日本の技術力や人材も含め、日本市場を丸ごと外資の利益のために投げ出そうとしている。
 1億2000万人の国民が消費し、経済活動が循環しなければ景気回復はあり得ない。生活するのに必要な賃金がなければ個人消費が伸びないことも歴然としている。ところが利潤を強欲に溜め込むのが資本で、決して社会に吐き出そうとはしない。非正規雇用の自由化を拡大し、ますます国民を貧乏にして「物が売れない」と嘆き、海外市場を追い求めて権益を争っている。
 さらに、こうした多国籍企業の海外展開に照応して、よその帝国主義国に負けてはならないと軍事力を備え、集団的自衛権の行使すなわち自衛隊の海外での戦斗任務にも道を開いた。
 一連の経済政策は誰のためのものであったのか、軍事にのめり込む根拠とあわせて歴然としたものとなっている。この大企業、大資本の延命策であった「アベノミクス」が株価とともに吹き飛ぶところまできている。

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