いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

激化する通信覇権争奪戦 ファーウェイ排除の背景にあるもの

 米中貿易戦争がエスカレートするなか、日本の携帯電話大手があいついでファーウェイの最新スマートフォンの発売延期や予約停止を表明した。米商務省が16日、ファーウェイ本社と関連68社をアメリカ企業との取引を禁止する制裁措置を発動し、米グーグルが今後発売するファーウェイ製品の基本ソフト(OS)のサポートを停止する方向を示したからだ。米半導体メーカーのインテルやクアルコムも取引停止に踏み切り、パナソニックなど日本企業もファーウェイとの取引停止や中国での生産をタイや日本に移す動きを見せている。しかしこの問題は中国製品の使用をやめ、影響の少ない欧米製品に乗り換えれば済むという問題ではない。

 

 国内の携帯電話会社や家電量販店では少し前までファーウェイ製品を目立つ位置で宣伝していた。しかしアメリカ政府が制裁を発動し、それに米大手企業が追随すると、今度は日本企業がこぞって「制裁」に同調し始めた。ソフトバンクは5月24日に最高峰のトリプルカメラを搭載したファーウェイの新型スマホ「P30」シリーズの発売を予定していたが、突然2日前の22日に「発売延期」を発表した。それにKDDI(au)も続き、午後5時頃にはNTTドコモが予約の受付を停止した。

 

 日本国内では近年、高額な米アップル製のiPhone(アイフォン)販売は伸び悩み、高機能で低価格のファーウェイ製品が売上を伸ばしていた。しかし技術面や価格面で対抗することができないため、アメリカが「サイバーセキュリティ上の脅威」を掲げて強引にファーウェイ排除に乗り出した。これに日本企業が雪崩をうって追随する事態になっている。

 

 アメリカが発動した制裁措置は1980年代の第一世代通信(1G)登場から激化してきた通信技術覇権をめぐる争奪戦が根底にある。アメリカはとくに携帯電話通信の根幹となる基地局の支配を重視した。その結果、これまではアメリカ政府と関係の深いエリクソン(スウェーデン)とノキア(フィンランド)の二強が通信機器メーカー(基地局ベンダー)の主導権を握っていた。ところが世界の携帯通信市場の設備投資規模は8兆円をこす規模に膨張した。そこに技術力や低コストを武器にして、ファーウェイやZTEなどの中国勢が食い込んでいる。

 

 基地局ベンダー全売上高の世界シェア(2018年、213億㌦)のうちわけはエリクソンが29%、ファーウェイが26%、ノキアが23・4%、ZTE(中国)が11・7%となっている。大手四社で90%を占め、ファーウェイが世界首位の座を争うまでに勢力を拡大している。

 

 この基地局は企業や個人通信の中枢施設であると同時に、政府や軍事機関が使う中核施設である。それは民間企業であっても一国の基地局をみな牛耳る地位を築けば国政を陰から操る存在になる。そのためアメリカは、世界市場のなかで軍事技術とともに通信技術を重視し常に独占的な地位を保つことに力を注いだ。その政策が功を奏し第四世代通信(4G)まではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米国企業集団が、ネット社会を牛耳る態勢を維持してきた。ところが5Gが本格始動していく動きのなかで、米国は技術開発力で遅れをとっている。そしてITや基地局を軸にした通信技術の独占体制がほころび始めている。

 

 2018年のスマートフォン世界出荷台数シェアを見てみると、

1位=韓国・サムスン電子(20・8%)

2位=米国・アップル(14・9%)

3位=中国・ファーウェイ(14・7%)

4位=中国・シャオミ(8・7%)

5位=中国・OPPO(8・1%)

となっている。5Gに向けた最新スマホは中国勢が急速に売れ行きを伸ばしている。こうして基地局ベンダーではエリクソンとノキアの二強を脅かし、スマートフォン市場ではアップルを脅かす存在として台頭してきた。それを阻止するために開始したのが、国主導で関税引き上げや制裁措置を発動し、競争相手を世界の通信市場から排除することだった。

 

 そのためトランプ大統領は昨年8月段階で、米国の国防権限法に署名している。同法は「19年8月から米政府機関はファーウェイなど特定5社(ファーウェイ、ZTE、ハイクビジョン、ダーファ、ハイテラ)の機器・サービスの利用を禁止する。5社の機器を使った製品も利用を禁止する」「20年8月からは5社の機器やサービスを利用している企業との取引も禁止する」という内容である。中国には日本からも多様な業種が進出し、工場内で使う監視カメラや通信機器は中国製品を使っていた。アメリカの国防権限法はそうした企業もふくめて米政府機関との取引禁止対象にする内容である。そうした今後の動きも見込んで、日本企業が中国から手を引く動きを加速している。

 

 しかし中国勢を排除した後、日本の通信市場の強奪を狙っているのは欧米勢である。現在、日本の基地局インフラは

ノキア=26・1%

NEC=11・7%

富士通=9・9%

サムスン電子=8・7%

エリクソン=7・5%

ファーウェイ=6%

ZTE=2・1%

となっており、欧米勢のシェアは3割程度に過ぎない。これを「中国の企業はセキュリティに問題がある」と騒いで中国勢を排除し、欧米勢のシェアを拡大していく動きが同時進行している。

 

 これまで日本の携帯電話大手三社の基地局ベンダー別売上高は次のようになっている。
【ソフトバンク】
ファーウェイ=54%
ZTE   =21%
エリクソン =14%
ノキア   =5%

 

【KDDI(au)】
サムスン電子=52%
エリクソン =35%
ノキア   =10%
富士通   =3%

 

【ドコモ】
NEC   =33%
富士通   =33%
ノキア   =28%
エリクソン =4%

 

 ソフトバンクは中国勢が75%を占め欧米勢が入り込めない。KDDIも韓国勢が5割以上のシェアを握っている。電電公社の流れを汲むドコモは国産メーカーが7割近くを押さえている。この基本構図を突き崩し、欧米勢が参入していく地ならしが動いている。

 

 安倍政府は4月中旬、合計で10枠ある5Gの周波数を割り当てた。その結果はドコモとKDDIが3枠、ソフトバンクと楽天モバイルが2枠だった。ドコモ、KDDI、楽天モバイルの3社は希望通りの割り当てだった。ソフトバンクだけ3枠希望したが2枠しか獲得できず、今後増やすときは「電気通信設備の安全・信頼性の向上」という追加条件がついた。安倍政府もアメリカの要求にそって中国勢を排除し欧米勢を引き込んでいく動きを強めている。

 

 こうした方向は国産基地局ベンダーが5Gの段階で全滅しかねない危機もはらんでいる。かつてNECと富士通は電電公社時から日本全国の通信機器を保障する基地局ベンダーとして、世界の通信技術を牽引していた。それが1985年の電電公社民営化で、通信事業、回線、端末などへの新規参入を自由化した結果、日本国内の通信市場は民間企業の草刈り場と化した。そのなかで中国や韓国の企業と連携したKDDIやソフトバンクが勢力を拡大し、欧米勢も一定のシェアを確保した。だがNECと富士通は低迷を続け、とうとう昨年、NECはサムスン電子、富士通はエリクソンと提携した。こうして基地局ベンダーから日本勢を駆逐し、日本の通信技術の根幹を欧米勢を中心にした外資が握っていく動きが加速している。「ファーウェイ製品が使えなくなる」「中国製品より欧米製品を使った方がいい」と煽るメディアの宣伝の陰で、国の通信網の根幹である通信インフラ市場を欧米勢を中心とする外資へみな明け渡していく動きが同時進行していることを見過ごすことはできない。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。