いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

映画『マルクス・エンゲルス』 カール・マルクス生誕200年記念作品

 カール・マルクス生誕200年を記念してハイチ出身のラウル・ペック監督が作成した映画である。フランス、ドイツ、ベルギーの合作で2017年に公開。世界各国で上映されている。西欧諸国でマルクスを主人公に描いた初の長編映画となる。出版から150年以上が経過した『共産党宣言』や『資本論』が、なぜ今なお世界の人人のなかで読みつがれ、現代社会を解明する力を発揮しているのか。映画は若き24歳のマルクスと22歳のエンゲルスが、何に怒り喜び、情熱を注いだのかを浮き彫りにし、『共産党宣言』(1848年)を執筆するまでの5年間に絞って描いている。

 

 1843年4月、プロイセン政府によって木材窃盗取締法(貧困者が慣習的におこなっていた木材採集を窃盗として取り締まる法律)が施行された。木材を集める庶民たちを、官憲の男たちがサーベルを振りあげてめったうちにしていく。

 

 19世紀中葉、絶対王制下のヨーロッパを描き出す象徴的な出来事で、民のものだったはずの森が、今や枯木の枝の一本たりとも産業資本家の物であるという所有権をめぐる論争が起こった。それは産業革命がもたらした差別と貧困の問題を浮かび上がらせ、やがてブルジョアとプロレタリアという階級間のたたかいへと発展していく。

 

 ドイツで『ライン新聞』の記者をしていた24歳のマルクスはこの法律に怒り、鋭く批判する。彼は権力の取り締まりにあい、ドイツを追放されてフランスをめざす。一方、22歳のエンゲルスは、イギリスのマンチェスターにある父親の紡績工場で、労働者たちの過酷な労働環境と搾取を間近に見ていた。そして貧民街を調査し、『イギリスにおける労働者階級の状態』などの論文を執筆した。マルクスはエンゲルスの論文に感嘆し、2人はパリで意気投合して生涯の理解者として運命的な出会いを果たす。

 

 若き2人は熱い論議をくり返し、資本主義世界を変革する理論を掴もうと格闘した。その燃えるような怒りやエネルギーの原点は、枯れ枝も拾えず死ぬしかない貧しい人人、紡績工場で搾取にあえぐ労働者への愛情であり、人間の尊厳を奪い不当な労働を強いる資本家への怒りだった。常に労働者階級に身を寄せた彼らは、同盟者であったヘーゲル左派や真正社会主義者、プルードンなど現実に基づかない観念的で抽象的な論説を容赦なく批判する。その過程で資本主義体制に対する、共産主義の理論を鍛え上げていく彼らの姿がいきいきと描かれている。

 

 例えば、1846年3月にパリ在住のドイツ人によって組織された秘密結社・義人同盟のメンバーが、「友愛」を旗印に人人を煽動しようとし、綱領も「すべての人間を私有財産の所有者に変える」といった浮ついた日和見主義的な内容だったものをマルクスは手厳しく批判した。さらに「所有とは盗みである」というテーゼを提唱した思想家プルードンが、労働組合の組織やその闘争を否定し、生産者による平等な商品交換が社会的正義への道だと説いたことに対して、「我々には、“非所有”は抽象論ではなく、絶望的なほどの現実なのです」といい、“持つ者”と“持たざる者”を階級的に鮮明にするよう迫った。彼らは権威に媚びず、闘いをうまく避け、人をよい気分にとどめおく曖昧な言葉に対して容赦なく意見した。

 

 マルクスが「哲学者は世界を解釈するが、肝心なのは世界を変えることだ」と語っているように、みずから労働者階級の側に身を寄せて現実の矛盾を分析し、資本主義を変革しうるのはプロレタリア階級だけであるという普遍性を科学的に解明した。それは共産主義者同盟の「万国のプロレタリアよ、団結せよ」という標語となり、「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」という言葉で始まる『共産党宣言』にまでたどり着く。彼らが理論を構築する動力は、資本主義社会のなかで労働者を搾取する者に対する怒りであり、それを変革するために現実に徹底的に迫って生み出された論文が、今も多くの人に示唆を与えている。

 

 映画では、エンゲルスは支配階級でありながら共産主義を啓蒙するという自身の立場に葛藤して悩み、一方のマルクスは言説が思ったように受け入れられず生活は困窮を極めたことなども描かれている。また、同志のように支え続けた妻たちの存在も印象的だ。

 

 『共産党宣言』が出されて170年、『資本論』が世に発表されてから150年以上が経過した現代は、より巨大な貧富の格差と腐敗がまん延し、1%にも満たない富裕層のために大多数の貧困層が生み出されている。欧米をはじめとした資本主義各国では、若年層や女性を中心に社会主義を志向する動きが広がっているが、そのなかで資本主義の矛盾に切り込んだマルクスの理論に希望を見出す動きは新鮮であり、ある意味必然ともいえる。

 

 「不断の批判こそが変革と自由の第一歩である」というマルクスとエンゲルスの言葉は、現代を生きる私たちにも鋭く問いかける。

関連する記事

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterEmail this to someone

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。