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『ギャンブル依存症』 著・田中紀子

 安倍政府が国会の会期を延長してカジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案を成立させようとしていることに対し、カジノ解禁でギャンブル依存症がこれまで以上に蔓延するとして危惧する声が高まっている。本書では祖父、父、夫のギャンブル依存症に悩み、2014年に「ギャンブル依存症問題を考える会」を立ち上げた著者が、日本でギャンブルが引き金になって起きた事件の数数を示すとともに、その背後にある問題点を社会に訴えている。


 刑法で賭博行為が禁止されているはずの日本で、ギャンブル依存症患者(病的ギャンブラー)はなんと536万人もいる。厚労省が2014年におこなった調査でわかった。この調査は世界基準にもとづいたものだが、世界各国では病的ギャンブラーは100人に1人程度なのに対し、日本は20人に1人の割合になる。全国に460万台もパチンコ台やパチスロ機があるのをはじめ、競輪・競馬・競艇・オートレースが認められているからだ。


 福岡県の精神科医・箒木蓬生氏が最近、2年間で100人(男性92人、女性8人)のギャンブル依存症患者を診た。そこで明らかになった平均像はこうである。20歳頃ギャンブルを始め、7~8年後には後戻りが利かないほどのめり込んで借金をするようになり、20年後には平均1200万円以上をギャンブルに注ぎ込んでいた。100人のうち28人が自己破産となり、17人がうつ病、5人がアルコール依存症を併発し、配偶者の15%もうつ病やパニック障害で治療を受けていた。家計を破たんさせ、本人も家族も深刻な精神的ダメージを被っていたのである。


 ギャンブル障害専門外来に勤務する北里大の医師によれば、ギャンブル依存症とはWHOが認める「病的賭博」という病気である。ギャンブル依存症になると、ドーパミンの過活動という脳の機能不全が起こり、とくに前頭葉の動きが悪くなって思考回路が働かなくなり、自分をコントロールできず、やめたくてもやめられなくなる。


 そして、初めは少額で満足できていたものが、次第に大金をかけなければ興奮できなくなり、気がつけば借金だらけになっている。きっぱりやめようと思っていながら、気がついたらギャンブルを再開し、止める家族に何度もウソをついてまで続ける。「あのときこうしていれば勝っていた」「次にこうしたら勝つだろう」と考えると快感になり、ギャンブル思考が止められない。「借金を返すためにはギャンブルを続けるしかない」「勝って借金を返したら終わりにしよう」と思うが、勝っても「これを返済に充てても足りない。やっとツキが回ってきたのだから、これを元手にもっと増やそう」とのめり込み、傷口を広げる。


 その結果、家庭内不和や離婚、DVやネグレクト、失職や借金に行き着いたり、会社の金や公金の横領・詐欺・窃盗・殺人などの犯罪につながったり、自殺や一家心中になったりと悲惨な結末を迎えている。


 本書はその多くの例を挙げているが、最近マスメディアを賑わせたものでは、2014年に発覚した、「進研ゼミ」などを運営するベネッセの顧客情報約4800万人分が外部に流出した事件がある。犯人は顧客データベースの管理を委託された外部の会社で派遣社員として働く男性システムエンジニア(当時39歳)で、ギャンブルで借金を重ねて金に困った末に、一年間で合計20回顧客データを名簿業者に売り、約400万円を得ていた。


 また2008年、大阪・難波駅前にある雑居ビル一階の個室ビデオ店で、男性(当時46歳)が放火して16人を死亡させた事件があった。この男性は高卒後に大手電機メーカーに就職し、マイホームを持ち、妻子と暮らしていたが、リストラされると同時に離婚もして、その頃からパチンコや競馬にのめり込み、消費者金融で数百万円の借金をつくっていた。

 

カジノ推進の異常
世界でも対策 遅すぎる日本

 

 著者は、日本はこれほどの被害を出すギャンブル王国であるにもかかわらず、政府は依存症に向き合っておらず、対策が世界的に見ても遅れすぎていると指摘する。たとえば世界最大のカジノ国・アメリカでは、カジノ業者がみずから依存症対策をおこなうことが大前提で、カジノ内に相談窓口をもうけたり、従業員や顧客に教育プログラムを実施している。米国内には相当数の治療施設もあり、依存症患者には補助や保険制度がある。それほど依存症が危険で、危惧する世論も強いということだろうが、一方の日本ではいまだにまったく知識を持たない医者もおり、病気ではなく「だらしのない人間の話」として放置される例も多いという。


 そして安倍政府のIR実施法案では、「依存症対策」としての入場規制は「連続7日間で3日、28日間で10回」というもので、これでは年に120回以上通えることになる。そのうえカジノで金を使い果たしても、その場で事業者から賭け金を借りることができる。石井国交相は「富裕層に限定される」というが、どの程度の高額所得者か定義があいまいなうえ、大王製紙の元会長が連結子会社から106億円以上を引き出し、ほぼ全額をカジノですったという例もある。ジャンケットと呼ばれるカジノ専門の仲介業者が、創業家3代目の元会長をターゲットにしてVIPルームに案内し、現地での資金調達を手伝ったことを、本書はふれている。


 今、「日本にカジノができれば年間で総額400億㌦(約4兆円)の売上が期待でき、米国、マカオに次ぐ世界第3位のカジノ市場になる」といって、米カジノ大手が色めき立っている。ラスベガス・サンズは東京・お台場エリアに複合リゾート施設をつくる構想を、MGMリゾーツ・インターナショナルは大阪湾の夢洲(ゆめしま)に同様の施設をつくる構想をうち出している。夢洲には2025年に万博を誘致する計画もある。


 その代理人となって条件整備を急いでいるのが安倍政府である。日本人の個人資産を差し出すとともに、国民に依存症の正しい知識すら提供せず、今以上に悲惨な家庭を増やして平気というのは売国そのものである。 (浩)

 

 (角川新書、204ページ、定価800円+税)

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