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『膨張GAFAとの闘い』  著・若江雅子

 コロナ禍の下、他の企業や自営業者の苦境を尻目に、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米IT企業4社が異常な高収益をあげ続けている。だが、国境をこえて事業を展開しながら「進出先に拠点を持たない」ことを口実に課税を逃れ、利益をタックスヘイブンに隠匿しており、税負担回避の総額は10兆~24兆円(世界の法人税の1割程度)といわれる。これに対してEUはデジタル課税の導入に動き始めたが、日本政府の対応は鈍い。日本はなぜアメリカの巨大プラットフォーマーにものがいえないのか。

 

 ジャーナリストの著者は、以下の事実をあげている。

 

 2012年6月、孫正義のヤフーが無料のメールサービスに「興味関心連動型広告」を導入すると発表すると、総務省がこれに待ったをかけた。興味関心連動型広告とは、例えば利用者が友人から「京都に旅行に行こう」というメールを受けとると、機械が自動的にこれを読みとって分析し、京都のホテルや飲食店の広告を表示するというものだが、それが電気通信事業法が禁止する「通信の秘密」の侵害に当たるというのだ。同法に違反すれば、3年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される。

 

 実は、グーグルはすでに2006年から興味関心連動型広告を始めていた。グーグルが日本に上陸したさい、総務省は内々に電気通信事業者として届け出ることを求めたが、グーグルは「日本国内にサーバーはないので、私たちは日本の電気通信事業者ではない」と突っぱね、それが通っていた。

 

 IT企業はメール事業の利益を広告収入から得ている。グーグルは「ユーザーが必要だと思ったその瞬間に、欲しい商品の広告を配信できる」と広告効果の高さを売りに広告主を拡大している(この後、ヤフーも認められた)。

 

 民事訴訟をめぐっても様々な問題が起こっている。例えばネット上で誹謗中傷にさらされた被害者が、投稿者を相手に損害賠償請求訴訟を起こそうと思えば、まずSNS運営事業者に匿名投稿者の身元の開示を求めねばならない。それは多くの場合、運営事業者を相手に発信者情報開示請求の訴訟を起こすことになる。だが、誹謗中傷の主戦場は海外事業者の運営するサービスなので、裁判所から最高裁判所↓外務省↓在外日本領事館↓米国務省…と半年以上も余分にかかる。多くの場合、泣き寝入りになっているのが実情だという。

 

 そもそも日本政府の場合、海外事業者に対して、電子商取引きにかかわる法規制にきわめて消極的だ。グローバル化の時代、欧米諸国は競争法(日本の独占禁止法に当たる)を変化させ、外国企業であっても国内に影響を与えるものについては国内法である競争法を適用するという「効果主義」を採用してきた。それによって日本企業は何度も莫大な課徴金や制裁金を科されてきた。一方、日本の公取委が国際カルテルで欧米企業に課徴金を科すことはほとんどない。景品表示法、個人情報保護法、消費者安全関係法、薬事法などは、海外事業者のモノやサービスについて、明確な規定も解釈も持っていないという。

 

 それは、経済社会全般にわたるアメリカの要求を丸呑みさせられる「年次改革要望書」のような対米隷属関係が、とくにIT産業をめぐって強力に貫かれていることを浮き彫りにしている。

 

 さて近年、ネット上でデマや陰謀論が飛びかったり、相手を自殺に追い込むような誹謗中傷がネットで流されてニュースになることが多いが、そこに次のような事情がかかわっていることは見逃せない。

 

フェイクニュース蔓る土壌 人々を混乱に

 

 フェイク(偽)ニュースが大きく注目されるようになったのは、2016年、トランプが当選した大統領選のころからだといわれる。この選挙戦でトランプ陣営に雇われたのが英国の政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカで、同社はフェイスブックのユーザー情報を使って約8700万人分の有権者の年齢や性別、居住地域、性格や信条、行動などの膨大な個人データを取得し分析した。そして、「神経症で極端に自意識過剰」「陰謀論に傾きやすい」「衝動的怒りに流されやすい」などと分析したグループを抽出し、特定の投票行動をとらせるためにピンポイントでフェイクニュースなどを流した。同社の母体は、世界各地で軍事政権の情報戦を支援してきた軍事コンサルティング会社だった。こうしたことが英国議会などで問題になった。

 

 著者は「フェイクニュースは本物の退屈なニュースよりはるかに拡散させやすい」というが、こうした拡散力はネット広告収入狙いのフェイクニュースビジネスを生み出し、大量のフェイクニュースを量産する。偽情報は世界のどこからでも効率的、効果的に収集でき、配信できるようになった。

 

 著者が取材した東欧・マケドニアの人口5万人余りの町には、トランプ支持のフェイクニュースサイトが100以上も立ち上がったという。19歳の男子大学生はサイトを立ち上げた最初の月に3000ユーロ(約40万円)の広告収入を手に入れたが、最多の50万ビューを獲得したのが「トランプ氏、メキシコ国境に壁作成」という「ニュース」だった。「普通のニュースを加工するハーフ・フェイクが手っ取り早く稼げる」と語ったという。

 

 つまり、金もうけのためのフェイクニュースビジネスがはびこって世界の人々を混乱させており、その土壌をつくったのがGAFAである。日頃から世界中のユーザーのデータを収集し、誰がどんな記事を読みそうか把握し配信するプラットフォームのおかげで、みんなが苦しんでいるのだ。

 

民主主義破壊の規制が必須 課税とともに

 

 以上のことは、GAFAになすべきは課税だけでなく、民主主義の破壊に対する規制も必要であることを教えている。それとともに真実を見極める力を育てる教育や、異なる意見を理解しあうコミュニティづくりが、よりよい社会にするために不可欠ではないだろうか。

 

 (中公新書ラクレ、318ページ、定価900円+税)

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