いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来』 著・藤田孝典

 日本で新型コロナ感染者が確認されて1年7カ月が過ぎたが、「政府は自粛をいうばかりで、休業補償は出し渋り、PCR検査は増やさず、ベッドも増やさず、あげく入院制限までいい始めた」と、国民の命と生活に無関心な為政者に対する巷の憤りはますます高まっている。

 

 本書の著者はソーシャルワーカーで、NPO法人ほっとプラスを設立して就労相談に応じたり、相談者に同行して福祉サービスの利用手続きを申請したりしてきた。コロナ禍で仕事もお金も住まいも失った人が急増し、とりわけ非正規雇用で働く多くの女性、若年層、高齢者の暮らしは激変して、これまで年間300~500件だった相談件数が1日100件以上と急増した。

 

 家賃が払えず所持金数百円で退去した人、自殺未遂をした人、生活苦のあまり刑事事件(窃盗や無銭飲食)を起こした人からの相談があいついだ。本書は生活支援の現場でなにが起こっているか、その実態の報告である。

 

 著者によれば、コロナ下の相談は20代女性が圧倒的に多く、雇用形態は非正規、業種別では小売や飲食が圧倒的だという。統計的に見ても、昨年10月の労働力調査では、前年同月と比べ非正規雇用労働者は85万人減少、つまり85万人が職を失っており、そのうち女性が53万人だ。業種別では観光、飲食、小売など女性が多く雇用されてきたサービス業で失業が突出している。

 

 またOECDの調査では、日本はひとり親世帯の相対的貧困率が50%をこえており、多くが10~30%台の先進諸国のなかで群を抜いている。

 

 相談の例では、首都圏のアパートで1人暮らしをしている女性(22歳)から、「カフェで働いていたがコロナで雇い止めになり、次の職場も感染拡大で閉店になって、大家さんに待ってもらっていた家賃がとうとう払えなくなり、明日アパートを出て行かなければならない。ホームレスにはなりたくない」というSOS。また、持病をかかえながら都内の賃貸住宅で一人暮らしをしている就職氷河期世代の女性(44歳)から、「登録型派遣と、1日単発でも働ける土産物店のアルバイトをしてきたが、コロナで両方の仕事がなくなった。ずっと非正規なので貯蓄もない」というものもあった。

 

 都内で暮らす世帯収入1000万円の共働き夫婦(40代)からの次のような相談もあった。「夫が運送業で、コロナで仕事がなくなり、私のパート(飲食店)も雇い止めになった。収入が3分の1になり、月17万円の住宅ローンが払えなくなった。子どもたちはまだ高校進学や大学進学を控えている」。

 

 給料が生活費に届かず、副業で水商売をする女性からの生活相談は1日に何件もある。都内の女性(33歳)は、夫からのDVが原因で離婚し、水商売で働き始めたが、コロナで収入が激減して複数店をかけもちするように。やがて収入基盤が全滅し、所持金数千円の時点でSOSしてきた。

 

 一方、こうした生活困窮者が増えれば増えるほど莫大な利益を得る連中がいることも、著者は見逃さない。

 

 竹中平蔵は小泉純一郎とタッグをくんで「構造改革」をおし進め、「景気の調節弁」である非正規労働者、派遣労働者、いわゆるワーキングプアと呼ばれる層を拡大した。こうして20年以上もの間、日本の雇用を破壊してきた挙げ句、コロナ禍のもとで真っ先に解雇や「休業補償なき自宅待機」を命じられたのは、彼ら非正規労働者だった。

 

 大手広告代理店の電通と竹中平蔵が会長を務める人材派遣会社パソナは、一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」を設立した。彼らは政府がおこなう緊急経済対策の持続化給付金事業(約2兆3000億円)などの支援給付事務を請け負い、政府に寄生して中抜きをおこなっていることが暴露されている。彼らは小規模事業者や働く者が困れば困るほど、事業規模を拡大し利益を増やしている。

 

 本来ならこうした市民生活を守る仕事は公務員がおこなうべきだが、小泉・竹中改革以後、公務員や専門職員は大幅に削減され、その仕事が高額な業務委託費をとるパソナや電通といった請負業者に奪われている。「典型的な貧困ビジネス」といわれる所以である。

 

 ちなみにOECD加盟国の中で、人口に対する公務員の数は日本が最低水準だ。人口1000人当たりの公務員数を見ても、フランス95・8人、イギリス78・3人、アメリカ73・9人に対して、日本は42・2人と半分しかいない。非正規の地方公務員数は全国で約64万3000人と、2005年から約4割増えた。

 

 以上のことは政府の構造改革路線の犯罪性を示している。日本がいかに「公助」が乏しく、国民が自己責任で放置されているかである。それがコロナ禍で暴露されている。

 

 著者は、30年間続いてきた大企業や富裕層への優遇税制と負担軽減を改め、所得税の最高税率を引き上げたり、株式など金融資産の取引における課税を強化して、これを財源に、人間が生きていくうえで不可欠な住まいや医療、介護、教育、保育をほとんど無償で国民に提供する方向を提起している。

 

 コロナ禍を歴史的転機ととらえ、新自由主義政策を転換せよと訴えている。  


 (毎日新聞出版発行、新書判・256ページ、定価1200円+税

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