いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『団地と移民』 著・安田浩一

 敗戦後から高度成長期にかけて、団地(公営の集合住宅)の造成は国策で、首都圏を中心に大規模なニュータウンが次次と建設され、労働力の東京一極集中を促す役割を果たした。それから半世紀たった現在、団地は高齢者中心の限界集落と化すとともに、外国人にとっても生命線ともいえる場所になっている。外国人労働者問題を追求してきたフリーライターが、それぞれの外国人が日本に住むようになった歴史的背景や生活上の困難、その喜び、悲しみを含めて、団地の今をルポした。

 

 千葉県松戸市の常盤平団地には約5000世帯が暮らすが、半数が65歳以上で、そのうち単身高齢者は約1000人、年間20人が孤独死しているという。それも死後3カ月たって白骨で見つかったり、トイレのなかで便器に頭を突っ込んだまま死んでいたり、ゴミまみれの部屋でゴミと見分けのつかないミイラ状態で死んでいたりなど、聞くに堪えない話が多い。

 

 それは、かつて子どもの声があふれ、味噌や醤油を貸し借りし、お互いの家庭事情を知り抜いた濃密な空間だったものから、子どもが成長するにつれて疎遠になり、今では表札を出さない、自治会に入らない、隣は誰か知らないという空間に変わったからだ。孤独死を防ぐにはコミュニティの力を強めるしかないと、自治会役員の地道な努力が続けられている。

 

 他方、ヘイトデモで有名な埼玉県川口市の芝園団地は、全2500世帯の半数が外国人住民で、そのほとんどがニューカマーの中国人だ。その中国人の多くは日本の大学を出て、そのまま日本企業に就職した会社員とその家族で、民間マンションのように外国人だからと入居審査ではねられることがないので、ここUR(旧住宅公団)団地の住人が増えた。生活習慣や文化の違いで住民同士のトラブルも絶えないが、近隣の悪ガキのいたずらが中国人の仕業として噂になったりと、嫌中を煽るメディアの影響からくる誤解も多いという。

 

ヘイトや衝突を乗り越えて

 

 しかし住民たちはそこにとどまっていなかった。著者は、団地自治会が日中の住民の相互理解を深めるために試行錯誤を続けていく様子を克明に追っている。団地商店街主催の秋祭りのイベントを一緒につくろうと呼びかけるなか、初めて中国人住民が水餃子の店を出して交流するまでになった。

 

 そして2018年度の自治会役員には、初めて中国人の大学院生(29歳)が立候補して選出された。彼は「僕たち中国人は若い世代が多く、日本人世帯は高齢者が中心。僕らは体力で貢献できるし、高齢者は経験と知力で貢献できるので、互いを補う最高のマッチングだと思う」と挨拶した。

 

 この芝園団地自治会のとりくみに、高齢化社会と多文化共生をテーマにする都内7大学の学生ボランティアも加わっている。団地に設置された団らんのための木製テーブルがヘイトの落書きだらけになって誰も使っていないのを見つけると、団地の子どもも大人も中国人にも呼びかけ、落書きを消してアートに昇華させる行事をやって喜ばれている。

 

 こうした住民と対極にいるのがメディアである。著者は、TBSが「川口市内に中国人が増え、ゴミの不法投棄や乱闘騒ぎが増えた」という番組をつくり、芝園団地に取材に来たものの、人と人とをつなぐとりくみは無視したと報告している。

 

 トヨタのお膝元、愛知県豊田市の保見団地では、90年代に出稼ぎに来る日系ブラジル人が増え、今では全住民8000人の半数がブラジル人など日系南米人だ。1999年には日本人とブラジル人の些細なもめ事から、右翼団体や暴走族が鉄パイプや木刀で武装して総結集し、ブラジル人も県内の同胞を集めてバットやチェーンを武器にして、あわや全面衝突寸前までいったことがある。

 

 それが2008年のリーマン・ショック直後、非正規雇用がほとんどのブラジル人が真っ先に首を切られて寮を追い出され、保見団地は失業者であふれた。次に切られたのが日本人の派遣労働者だ。いったい誰が働く者を街頭に放り出し、誰が分断と対立を煽っているのか。派遣法を改悪して日本人の非正規雇用を増やしてきた者と、入管法を改悪してより低賃金の労働力を確保しようとしている者とは同じなのだと思い知らされる。

 

 かつてブラジル人を白眼視していたという保見団地の防犯パトロール責任者は、今では彼らのもっともよき理解者となってブラジル人と一緒にパトロールをおこない、「お互い当たり前の人間だということに気がついた」と笑っている。各地の団地が、国境をこえて人と人とをつなぐとりくみの最前線になっていることがわかる。

 

 (株式会社KADOKAWA発行、B6判・254ページ、定価1600円+税

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