いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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タックスヘイブンに有り余った資産溜め込む金持ち

 「パナマ文書」の衝撃とともに、これまで一般市民とは無縁の世界であったタックス・ヘイブン(租税回避地)の実態に注目が集まっている。

 

 新自由主義のもとで、人人の賃金は下がり、「財政難」を理由に税金の負担は増え、年金も医療や介護、保育などの社会福祉も「受益者負担」「自助努力」でカットされていく一方で、独占大企業や金融資本、政治家などには異次元の金が集まり、税金すらおさめなくてすむ特権が許される。この世界は「金がない」から貧困化しているのではなく、あり余った金をごく一部の富裕層が独占して、社会全体を食いつぶしていることを暴露している。タックス・ヘイブンの実態を見てみた。
 


 米本土がケイマン諸島凌ぐ規模



 タックス・ヘイブンとは、一般に、法人税や所得税などの納税義務がないか、きわめて税率が低い国や地域のことで、カリブ海の英国領ケイマン諸島、米国領バージン諸島、南太平洋の西サモア、バヌアツ、アジアでは香港やシンガポール、中東・アフリカのドバイやバーレーンなど世界各地に点在している。膨大な所得や資産を手にする大企業や富裕層が、自国の租税から逃れるために、ここに法人や口座をもうけて資産を移動させたり、金融取引の場として利用している。


 単純には、相手企業との直接取引をすれば、それにともなう収益に課税義務が生まれるが、国外のタックス・ヘイブンにつくった子会社を介して取引すれば、親会社への租税負担がゼロになるという仕組みだ。商標やライセンスなどの知財権をこの子会社に持たせて過大な特許料をここに流し込んだり、原材料をタックス・ヘイブンの子会社に安値で販売し、高税率の国にある子会社がそれを高値で買うことによって、高税率国における利益を圧縮する価格移転操作などが主におこなわれている。主要な産業がなくこれらの外資に依存する島国や、法制度が特殊で目の行き届きにくい旧植民地、英国王室属領などが多く、無課税で好きなだけ金融取引ができる無政府地帯にされてきた。


 ここに置かれるオフショア(岸の向こう側)と呼ばれる企業や法人は、看板とポストだけのペーパーカンパニーで従業員も活動実体もない。ただ登記上の法人であり、ここを経由することで課税もされず、秘密保護法によって情報も秘匿されるため、出所のわからない資金となって、また別の先進国などの投資に運用される。わずか1%の富裕層に世界人口の50%と同じほどの資産が集中する所得格差の増大のなかで、かき集められた21兆~32兆㌦(約3500兆円)ともいわれる富がこの巨大なブラックホールに吸い込まれているのである。


 今回「パナマ文書」であきらかになったパナマも中米カリブ海に浮かぶタックス・ヘイブンの代表国であり、租税逃れのためのオフショア法人設立の代行サービスをしていた法律事務所から21万4000件もの法人・個人のデータが流出して物議を醸している。公表されたのはそのうちわずか150件あまりだがロシアのプーチン大統領の友人や、中国の習近平国家主席の親族、イギリスのキャメロン首相、アイスランド首相など現職の国家要人や周辺の人物も含まれ、増税や緊縮政策を強いながら自分だけ課税逃れの資産隠しをしていたことに、国民から「税金を払え!」「恥を知れ!」と猛反発を受けている。


 一方で、世界一のタックス・ヘイブン大国であるアメリカや日本の企業、要人の名前はほとんど明らかにされていない不自然さがある。その背景として、この文書の分析と公表を手がける国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に情報を提供したのが、世界三大投資家の一人として知られるジョージ・ソロスやフォード財団などの米国機関であることが機密文書公開サイト「ウィキリークス」によって暴かれており、世界一極支配体制が崩れつつあるアメリカが、意に沿わぬ国家をターゲットに仕掛けた側面が大きい。ただ、タックス・ヘイブンによる租税回避は、いまや一部の金持ちがへそくりをこっそり隠していたレベルのものではなく、経済大国の金融資本や政治家のあいだで資産運用の常套手段になっている実態に世界各国で非難の目が向けられている。



 ヘッジファンド暗躍 金融危機の策源地にも



 タックス・ヘイブンはグローバル化の流れとともに1970年代から急速に拡大し、世界貿易の大半がここを経由するといわれるまでになっている。IMF(国際通貨基金)は2010年に、小さな島島の金融センターだけで、バランスシート(貸借対照表)の合計額は少なくとも18兆㌦(世界総生産の約3分の1に相当)にのぼると推定している。南洋の島国だけでなく、もともとはロンドンの金融街のシティ、アメリカのデラウェア州やネバダ州、ニューヨークのウォール街など、税制上独立した「経済特区」や「自治都市」から始まり、国家財政から切り離れ、租税回避や守秘性などの便宜が図られる金融センターでは膨大な金融資産を取り扱い、国際的な銀行業務、債券発行、多国籍企業の海外直接投資などの大半がここを経由して取引されている。


 発祥地といわれるイギリスのロンドンの一角にある金融街シティは、英仏海峡に浮かぶジャージー、ガーンジー、マン島など英王室属領や海外領土、イギリス連邦、大英帝国の旧植民地など世界中のタックス・ヘイブンを抱え込み、国境をこえた巨大な多重構造をつくってきた。


 これに対抗してきたのがアメリカで、ニューヨークのウォール街を拠点に、商標や著作権をはじめあらゆる収益への課税がないデラウェア州にはフォード、GE、アメリカン航空、コカコーラ、ウォルマート、グーグル、アップルなど驚くほど多くの大企業や多国籍企業が本社を置いている。昨年だけで13万3000社もの企業がデラウェア州で設立され、これまで最大といわれた英国領ケイマン諸島をしのぐ規模になっている。代行会社に頼めば簡単に企業法人をつくることができ一つのビルに30万社が「本社」を登記していたり、ほとんどが従業員も活動実体もない課税逃れのためのペーパーカンパニーである。ネバダ州、ワイオミング州にも同じ仕組みがあり、さらに米領バージン・アイランド、渦中のパナマ、マーシャル諸島、リベリアなどの旧植民地を軒並み海外のサテライトにして多重構造をつくっている。


 アメリカの消費者団体が2013年に発表した調査結果では、米巨大企業トップ100社のうち82社がタックス・ヘイブンに2686社もの子会社を持ち、そのトップはバンク・オブ・アメリカ(316社)、モルガンスタンレー(299社)などの巨大銀行である。リーマン・ショックでは7000億㌦(70兆円)もの公的資金の救済を受けたのは記憶に新しいが、この5年の納税額はゼロである。一方で、国民の7人に1人が貧困ライン以下の生活となり、自治体の財政は逼迫し、学校や公共交通、福祉などの予算がことごとく削られ、社会基盤を崩壊させてきた。ただでさえ減税措置によって富裕層400人の実質的な税率は17%でしかないうえに、タックス・ヘイブンに子会社をつくることでさらに租税を回避し、損失だけは国内の納税者に要求する構図に国民の怒りが充満し、ウォール街占拠運動や、大統領選でも「金融資本を収奪せよ」と訴えるサンダース旋風となって爆発している。


 それは単に企業の税金逃れという範囲にとどまらない。タックス・ヘイブンは、世界の金融危機をつくり出すマネーゲームの舞台にもなってきた。


 サブプライム・ローンなどのインチキ金融商品を発明して世界中に売りさばき、リーマン・ショックで大破綻させた後は、量的緩和で紙幣を刷りまくり、その投機資金をアメリカやヨーロッパからBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の新興四カ国)などの新興国に流し込んだ。そして標的にした国の通貨に売りを仕掛けては通貨危機に陥れ、国家財政に大打撃を与えることによって膨大な利益を手にし、破綻させた後はIMFの管理下に置いてさらに投機の具にするなど、ジョージ・ソロスをはじめとする投資家やアメリカ金融資本が、ギリシャをはじめヨーロッパ各国、中南米の途上国などを手玉にとって弄んできた。


 これらのヘッジファンドが設立されるのも社会的規制のないタックス・ヘイブンであり、これらを通じて本来は実体経済に回るべき膨大な資金が世界金融危機をつくり出す投機マネーとなって、他国を支配する道具に使われているのである。


 また、アメリカのCIA(中央情報局)、イギリスのMI6(秘密情報部)の諜報機関がタックス・ヘイブンを利用しているのも周知の事実で、不透明さを増す中東などの武装集団への武器の密輸や資金提供などと深く関係している。イラン・イラク戦争の際にはCIAが関与してイラン、イラク双方に武器を秘密裏に売却し、その売上金を反米路線を掲げるニカラグアのサンディニスタ政府打倒のゲリラ軍に提供していたことが暴露されたが、「パナマ文書」にはその関係者の名前も顧客として記載されていることが小出しに報じられている。


 あり余る資金が大企業や金融資本に無制限に流れ込んできたのは、世界各国の圧倒的な勤労市民を犠牲にしてきた産物にほかならない。世界の62人の富豪が世界人口の半分におよぶ36億人もの資産と同額の資産を独占していることを発表した国際NGO組織「オックスファム」は、タックス・ヘイブンが野放しにされるなかで、最上位62人が保有する富は、2010年から5年で44%増加して1・76兆㌦(206兆円)に達し、世界人口の半分の富は41%減少したと発表している。食い物にされている途上国では毎年1700億㌦(18兆7000億円)もの税収を失い、4億人もの人人が基本的な医療さえも受けられない。この格差はさらに拡大し、人民を絶対的貧困状況に追い込んでいる。



 日本も例外なく投資 ケイマン諸島に60兆円



 日本も例外ではない。日銀が作成した国際収支統計によれば、日本からの海外直接投資の最大の仕向地はアメリカで、第2位は税制上優遇措置のあるオランダであり、第3位は世界最大規模のタックス・ヘイブンとして知られるケイマン諸島である。


 佐渡島の3分の1程度のケイマン諸島への日本企業の投資残高は、2001年の18兆6411億円が、13年には60兆9280億円へと12年間で3倍にも膨れあがっている。ケイマン諸島に限ってみればアメリカに次いで世界第2位の規模である。この租税逃れの資産に現在の法人税率23・9%を課せば、14兆5617億円にのぼる。これは8%となった消費税の税収17兆1850億円(2016年度予算)に迫る額であり、ケイマン以外に租税回避した資産もあわせれば消費税をはるかにこえる税収が生まれる。


 ケイマンに子会社を持つ企業には、みずほ、三井住友などのフィナンシャルグループ、三井物産、三菱商事などの銀行や商社がとりわけ多く、東証上場企業の上位45社だけでもタックス・ヘイブンへの資本額の総額は8・7兆円になる。その他、ソニー、NTT、JTなども多額の資産を投じている事実が明らかになっている。


 親会社から子会社への出資の形をとれば資本取引に当たり、日本では課税されない。その後、この子会社から配当を受けず、そのまま租税負担の少ない別の国のビジネスに投資するなどすれば、永久に日本の課税権は失われる。国内で損失を計上すれば、親会社の法人税そのものも免除される。「税の公平性」などくそ食らえで法人税を減税したうえに、国内で生み出された富が国外に流れ出すしくみが合法的にまかり通り、国家財政に巨大な穴が開いているのである。


 そのなかで国債残高は1000兆円をこえ少子高齢化のもとで年金、介護、医療の切り捨て、非正規雇用を拡大して現役世代を貯蓄はおろか子どもを産み育てることもできない状況に追い込み、近年では固定資産税や介護保険料を滞納しただけで情け容赦なく不動産、銀行口座、預貯金、給料まで差し押さえる。さらに、マイナンバー制度で個人情報を一元化させて個人の所得、貯蓄にいたるまで国の監視のもとに置き、「納税逃れ」の摘発や他人の資産監理に躍起になっているのが安倍政府である。アベノミクスを叫んで「企業天国をつくり、大企業がもうかればおのずとそれは国民生活に行きわたる」などといって金融緩和をやり、年金基金まで株式運用につぎ込み、数兆円を溶かしても開き直っているのは、とりもなおさず国民のためではなく大企業と外資の要求に従っているからにほかならない。増税や財政危機は「不景気だから」「少子化で生産力が落ちているから」ではなく、無制限に大企業や外資企業に吸い上げられているからである。


 タックス・ヘイブンを野放しにしてきたOECD(経済協力開発機構)や経団連などは、消費税の増税を主張し、大企業は法人税の高さを理由に生産拠点を海外に移転させ、国内の雇用を空洞化させてきた。国や社会に世話を要求するばかりで、納税すら回避して社会機能の維持には責任を持たず、マネーゲームで引き起こした損失や破綻のツケなど犠牲をみな人民に転嫁する反社会勢力としての末期的な姿を浮き彫りにしている。一握りの独占資本と対決し、まともな社会を展望したたたかいの機運が世界的に高揚することは必至となっている。

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