いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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グローバリズムの破綻 英のEU離脱が示すこと  先鋭化する資本主義の矛盾

 欧州連合(EU)からの離脱か残留かを問うイギリスの国民投票が23日におこなわれ、予想を覆して離脱が1741万742票(51・9%)、残留が1614万1241票(48・1%)となり、翌日にはキャメロン首相が辞任を表明する事態となった。投票結果を受けてニューヨーク株式市場は2011年8月以来の下げ幅となり、欧州各国の主な株式市場でも軒並み株価が暴落。日経平均株価も1200円以上下落した。金融市場は大騒ぎとなり、円相場は1時1㌦=99円まで急騰するなど、“金融立国”のEU離脱が世界に衝撃を与えた。70年代から台頭したグローバル資本主義、新自由主義はほかならぬ米英が牽引し、そのもとで国境の垣根を取り払って各国に市場開放を迫り自由貿易、労働市場の自由化、規制緩和や行政改革などを強いてきた。それは多国籍企業や国際金融資本が世界を股にかけて暴利をむさぼるものだったが、同時に貧困と経済的不均衡を各国にもたらし、リーマン・ショックまできて破綻は明白なものになっていた。イギリスのEU離脱は、その足下から反グローバリズムの大衆世論が噴き上がっていることを示した。
 この間、アメリカのサブプライムローンに端を発したリーマン・ショックが欧州危機へと波及し、ギリシャの債務危機からポルトガル、スペイン、イタリアなどの債務危機に発展するなど各国を揺さぶってきた。米欧の大銀行がつくり出したこの国家財政危機を乗り切るためにEUやIMFが各国に緊縮財政政策を強要し、犠牲を労働者や広範な人民に転嫁してきた。これに対して欧州各国では労働者や青年のストやデモなどが発展し、左翼のバックラッシュといわれる流れも台頭した。今回の国民投票の結果は、グローバリズム・新自由主義の破綻を示すものであり、米ソ二極構造崩壊以後のアメリカを中心とした世界支配の枠組みの崩壊が隠しおおせぬものとなっていることをあらわしている。
 国民投票の実施決定以後、CBI(英産業連盟)やIMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)、IFS(英財政研究所)など、「専門家」たちが口口に「EUを離脱すれば経済成長はおぼつかなくなり、失業率は上がり、ポンドは急落し、イギリスのビジネスはEUの無人地帯に放り出される」などといい、「景気が後退する」(イングランド銀行)、「所得税増税が必要になるうえ、国民医療サービス(NHS)や教育費や国防費の削減も必要になる」(財務省)などと主張。米国のオバマ大統領は、米国との通商協定を望む国国の「列の最後尾にイギリスは並ぶ羽目になる」とのべるなど、EU離脱へと拡大する国民世論を抑えようと躍起になってきた。
 投票の直前には、東欧やソ連崩壊にも関与してきた大富豪で投資家のジョージ・ソロスが、1992年のポンド危機(ブラック・ウェンズデー)よりも大きな混乱を招くと脅しを入れるなど、グローバル化・新自由主義を推し進めてきた側はムキになって「残留」キャンペーンに力を入れた。ソロスはみずからが深く関わって作り上げてきたEU体制が崩壊するなかで、「ロシアが世界の大国として台頭するだろう」と危機感を露わにした。
 各種さまざまな宣伝もあって「残留になるだろう」とたかをくくっていたにもかかわらず、過去最高の有権者数4650万1241人の半数を超える国民がEU離脱を支持する結果となった。

 各国で離脱の動き拡大 慌てる米欧金融資本 

 イギリスの国民投票結果を受けて、フランス、イタリア、デンマーク、スロバキアなど加盟各国でもEU離脱を問う国民投票を実施するよう求める声が高まっている。
 フランスでは、来年に予定される大統領選挙の有力候補でもある国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が、「フランス国民にも選択する権利がある」とし、「自由に勝利を。何年もいってきたが、フランスや他の国でも同じような国民投票をやるべきだ」とのべた。
 オランダでは自由党のウィルダース党首が「自分たちの国のことやお金、国境、移民政策は自分たちで決めたい」とのべ、「できるだけ早くオランダ人がオランダの欧州連合の加盟について意見をいう機会を得るべきだ」とのべた。オランダでも来年3月に総選挙が実施される予定で世論調査ではウィルダース氏が勢いを増しているとされている。さらにイタリアでもローマで反EUを掲げる市長が誕生した。
 デンマークでも、おりからEUに批判的な「デンマーク国民党」が支持を広げてきた。市民団体がイギリスと同じように国民投票をおこなおうと署名活動を続けており、今回の結果を受けて、さらに運動を活発化させるとしている。
 スロバキアでは、今年3月の選挙で議席を獲得した「人民党、われわれのスロバキア」が25日にEU離脱を目指して国民投票を求める署名活動を開始する方針を明らかにした。同党のコトレバ党首は「沈みつつあるタイタニック号を去る時だ」とのべている。
 ドミノ効果のように離脱の動きが各国に広がるすう勢となっており、フランスやドイツなど六カ国は翌25日に緊急の外相会議を開き、「EU加盟国の結束の維持」に全力を挙げることを確認した。ドイツのシュタインマイヤー外相は「ヨーロッパのまとまりを維持することがわれわれにとって最優先の共通した課題だ」とのべたうえで、他の加盟国に離脱を目指す動きが広がらないよう、今後EUのあり方などについて集中して意見をかわす考えを表明した。
 アメリカのオバマ大統領はすぐにキャメロン首相やドイツのメルケル首相と電話会談し、「イギリスが秩序だった移行にとりくむと確信している。われわれのチームが経済の成長や金融の安定のため、ひき続き緊密に連絡を取り合うことを確認した」とのべ、「国民投票の結果はグローバル化による変化や課題を受けたものだと思う。イギリスとEUとの関係は変わるだろうが、アメリカとイギリスとの特別な関係は変わらず、これからも続く」と強調。さらに「ひき続きEUはわれわれの欠かすことのできないパートナーの一つであり、NATO(北大西洋条約機構)は世界の安全保障の要だ。われわれは数週間後にNATOの首脳会議で会うが、民主主義など共通の価値観がわれわれを結束させ続けるだろう」とした。

 秩序失う資本主義経済 社会主義対抗のEU 

 1993年に発足したEUは、もともと52年にフランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの6カ国で設立した欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が前身である。そのはじめから社会主義ソ連と対抗する目的で設立された枠組みだった。67年に欧州共同体(EC)が発足し、イギリスがアイルランド、デンマークとともに加盟したのが73年である。さらに80年代に入ってギリシャやスペイン、ポルトガルが加わり、95年にオーストリアが参加。米ソ二極構造崩壊後の2004年に東欧やバルト諸国などソ連の影響下にあった10カ国を取り込み、さらに2013年のクロアチア加盟で28カ国にまでふくれ上がった。軍事的にはアメリカを含めたNATO(北大西洋条約機構)がロシアと対峙し、その軍事力とセットでEUが経済圏としてアメリカをはじめとした資本主義各国とつながってロシアと対抗してきた。
 現在、アメリカが主導してTPPが進んでいるが、EUはこれに先行して東欧の旧社会主義国を巻き込みながら広範囲にわたって人・モノ・金の移動を自由化してきた。圏内で関税をなくし、経済的な不均衡があるにもかかわらず通貨を統合し、その副作用が今日の混乱にもつながっている。南欧だけでなく旧東欧諸国もEUに取り込み、人件費が安いことから各国企業が生産拠点を構えたり、金融機関が新たな投資先として群がり、もともと貧しかった国国の経済成長や不動産バブルを食い物にしたほか、安い労働力の供給地として「移民」を先進国に取り込み、自国の低賃金労働のアンカーにするなどした。
 ところが08年のリーマン・ショックを受けて急速な資金の引き上げが起こり、アイスランドやギリシャはじめバブルに浸っていた国が崩壊の憂き目にあった。各国は独自に通貨切り下げもできず、金融緩和や財政出動もできない。産業政策も独自におこなえず、国家主権を失ったような状態がEUによって強いられたのだった。
 イギリスでは2004年に東欧各国がEUに加盟して以後、ポーランドをはじめとする東欧諸国からの移民、旧植民地国からの移民の増加が問題になってきた。年間20万~30万人ともいわれる移民が流入しており、ロンドンの人口減少は急激に改善したものの、人口の半数を移民が占めるようになった。
 想定していなかった急激な人口の増加によって、治療費が無料の公的病院で予算が不足したり、住宅の価格の高騰や慢性的な電車・バスの大混雑などといった状況が深刻化していた。低賃金労働力として移民を奴隷的に働かせている問題が後を絶たないと同時に、それがイギリスの労働者の低賃金化や失業につながっていることへの反発が強まってきた。そうしたなかでリーマン・ショック以後の経済危機の煽りを受け、ブラウン政府から交代したキャメロン政府が公務員の削減や教育予算の削減、大学の学費値上げなど緊縮財政政策を推し進め、国内矛盾が激化してデモや集会もあいついで起こっていた。
 昨年の労働党党首選で「異端児」といわれたジェレミー・コービンが圧勝したさいにも、ギリシャに対するEUの対応や「EUは欧州全体の労働者階級や労働者の権利を破壊するフリーマーケットのように運営されている」「EUが許可されたタックス・ヘイブンをもうけていることを真剣に追及しなければならない」などという訴えに支持が広がっていた。

 国境超える正常化要求 TPPの結末を暗示 

 グローバリゼーションを提唱し、自由貿易を各国に押しつけてきたのは、ほかならぬ米英である。60年代のベトナム戦争によるドル垂れ流しなどが響いて71年にはニクソン・ショックとなり、金ドル交換停止に追い込まれてブレトンウッズ体制が崩壊したもとで、今度は管理通貨制・ドル体制へ移行するとともに、軍事力と金融・IT技術の優位性を武器にして新自由主義、グローバル化を唱え、市場原理主義によって一極支配をはかっていった。
 生産に投入できない過剰な資本が積み上がるなかで、市場経済化を迫りながら世界中の市場をこじ開けてバブルを作り出し、各国の通貨や株、証券、国債、原油や食料をはじめとする現物商品を投機の具にして、金融詐欺によって暴利を貪るというものだった。一握りの多国籍化した金融資本が有り余ったカネを握りしめて、国家の財政や税制、金融政策を動かして強欲に利益を得ていく。そのために労働市場を自由化し、邪魔になる各国の法律を障壁といって取り払い、バブルが破綻する度に、ゼロ金利や金融量的緩和を実施し、犠牲はみな各国の人民に押しつけるというものだった。
 そして新自由主義によって強烈なる搾取収奪の社会を作った結果、世界中で貧困が拡大し、いまやアメリカでも欧州でも日本国内でも、資本と労働の矛盾、帝国主義と人民の矛盾が激化している。自由な移動、自由な貿易といったものが、労働者の自由ではなく、巨大独占企業や多国籍企業の自由であったこと、そのもとでは人民生活が破壊され、社会そのものが成り立たないことを多くの人人が実感することとなった。
 イギリスの国民投票におけるEU離脱にせよ、アメリカ大統領選におけるトランプやサンダースの躍進にせよ、いまや統治の側は人民の世論と行動を治めることができず、世界各国でこうした斗争が拡大している。資本主義が断末魔の状態に陥っているなかで、敵と人民の矛盾がかつてなく先鋭化し、その斗争も国境を超えたものになっているというのは、グローバル化のもう一つの側面である。EUの崩壊は、後を追いかけるTPPの結末を物語るものとなっている。
 

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