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核兵器禁止条約発効へ 被爆者の訴えが世界を動かす 唯一の被爆国が参加しない異常

 米国が広島と長崎の無抵抗の老若男女の頭上に投下した、人類史上もっとも凶悪な無差別大量殺戮兵器・原水爆を全面禁止する核兵器禁止条約の批准数が24日、条約発効に必要な50カ国・地域に達した。条約は90日後の1月22日に発効する。世界唯一の被爆国・日本では戦後、米占領軍の支配下で原爆投下への批判はおろか、原爆のむごたらしさを伝えることすら徹底的に封殺する圧力が加わってきた。だが被爆者やその家族を先頭にした「再び原水爆の使用を許してはならない」「子や孫を同じ目にあわせるわけにはいかない」という使命感に満ちた発言、行動によってその壁を突き動かしてきた。この粘り強い努力のなかで原水爆を全面的に禁じる国際世論が原爆投下者・米国を包囲し、核兵器を「非人道的で違法」と規定した初の国際条約発効へと進んでいる。

 

核兵器禁止条約が採択された国際会議(2017年)

 50番目の批准国は中米のホンジュラスとなった。国連のグテレス事務総長は24日、条約について「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的被害について注意を喚起する世界的な運動の集大成だ。核兵器廃絶に向けて有意義なものとなる」と声明を発表した。現在、国連が定める五大州別の批准国・地域数は、アフリカ=6、米州=21、アジア=8、欧州=5、オセアニア=10、となった。

 

 この核兵器禁止条約は一部核保有国の核保有を認め、それ以外の国には核を持たせないという不平等な核拡散防止条約(NPT)と違い、どの参加国に対しても原水爆の開発、製造、保有、使用を全面的に禁じる条約である。

 

 前文で「核兵器の使用によって引き起こされる壊滅的な人道上の結末を深く懸念し、そのような兵器全廃の重大な必要性を認識し、廃絶こそがいかなる状況においても核兵器が二度と使われないことを保障する唯一の方法」と指摘し、「核兵器の使用による被爆者ならびに核兵器の実験による被害者にもたらされた受け入れがたい苦痛と被害を心に留める」と被爆者が受けた苦難に言及している。また「核兵器の壊滅的な結果には十分対処できない上、国境を越え、人類の生存や環境、社会経済の開発、地球規模の経済、食糧安全保障および現在と将来世代の健康に対する深刻な関連性を示し、ならびに電離放射線の結果を含めた、特に母体や少女に対する悪影響を認識する」と明記し、広範囲かつ幾世代にも影響を及ぼす放射能被害についても指摘している。そして「核軍縮ならびに核兵器なき世界の実現」が「国家および集団的な安全保障の利益にかなう最高次元での地球規模の公共の利益」と規定し、「いかなる核兵器使用も武力紛争に適用される国際法の規則、とりわけ人道法の原則と規則に反している」「いかなる核兵器の使用も人間性の原則や公共の良心の指図に反する」と明記している。

 

 条約本文では「核兵器の開発、実験、製造、生産、獲得、保有、貯蔵」を禁じ、「核兵器の使用、あるいは使用をちらつかせての威嚇」も禁じている。さらに「締約国は、自国の管轄下で核兵器の使用や実験によって悪影響を受けた者について、適用可能な国際人道法および国際人権法に従って、医療やリハビリテーション、心理療法を含め、差別することなく、年齢や性別に適した支援を提供し、これらの者が社会的、経済的に孤立しないようにする」とし、被爆者支援を重視することにも言及していた。

 

核保有国は条約参加を拒否 唯一の被爆国日本も

 

 だが米英等の核保有国や日本は条約参加を拒み続けている。米国は核兵器禁止条約の50カ国批准が近づくと、複数の批准国に「核保有国と北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は反対の立場で一致している」「批准は戦略的な誤りだ。条約は核兵器の検証と軍縮の時計の針を戻すもので、核不拡散条約を脅かす」という書簡を送りつけ、批准とり下げを迫ったが、応じる国はなかった。

 

 日本の歴代政府は世界で唯一の被爆国でありながら「核兵器の使用をほのめかす相手に対しては通常兵器だけで抑止を効かせることは困難」「日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要」(外務省)との立場を踏襲し、米国の核兵器開発・保有を擁護し続けている。加藤官房長官は「わが国のアプローチとは異なる。署名しない考えに変わりはない」とのべ、岸防衛相は「核保有国が乗れない条約で、有効性に疑問を感じざるを得ない」と表明している。

 

広島 8月6日午前11時頃の御幸橋(松重美人氏撮影

 

 そもそも原爆を人類に対して使用したのは米国だけであり、原爆の被害をまともに受けたのは日本だけである。しかも戦後日本に居座った米占領軍は「戦争を早く終わらせるために原爆を投下した」「軍都だったから狙われた」等の謬論を振りまき原爆投下を正当化した。さらに「侵略戦争に手をかした日本人は反省せよ」と一億総ざんげを強要し、米国による原爆投下に憤りをあらわすことを封殺した。その一方で米国は日本の被爆者の症状や建物の被害等、原爆の威力を詳細に調査し、次なる核兵器開発に応用した。そして原水爆使用をちらつかせながら、朝鮮戦争、レバノン危機、ドミニカ内戦、ベトナム戦争、グレナダ侵攻、リビア爆撃、パナマ侵攻、湾岸戦争、ソマリア内戦、ユーゴ空爆、アフガニスタン空爆、イラク戦争…と絶え間ない戦争に明け暮れてきた。

 

 米国はいまだに原爆投下を謝罪していないし、反省もしていない。今も日本への原爆投下で得たデータを使って生み出した約6000発規模の核兵器を保有して、世界各国を恫喝し続けている。日米政府は「核による抑止が必要」と主張するが、核廃絶ができない最大の要因は世界唯一の原爆投下者がいまだに大量の核兵器を握りしめ、いつでも使える体制をとっていることにある。

 

 他方、日本国内では戒厳令下の広島において、原爆被害の街頭写真展から始まった1950年8・6広島平和運動を皮切りに、その後は世界大会が開かれるようになり、被爆体験を発信していく努力が強まっていった。原爆で無念の死を遂げた家族や友人の苦しみ、原爆で親や兄弟を失った子どもたちの苦難、原爆によってもたらされた就職や結婚への影響、いつ発病するかわからない原爆症にさいなまれながら生きていく生活、二世や三世への被爆の影響など、被爆の真実が明らかになるにつれて、残虐な無差別殺戮である原爆投下を正当化することはできなくなった。日本の被爆者を先頭にした運動の高まりのなかで、核保有国も「核軍縮」を唱えざるをえなくなり、1970年にNPT(核拡散防止条約)が発効する動きとなった。日本も1976年6月に批准した。さらに1996年7月には国際司法裁判所(ICJ)が、核兵器の使用・威嚇について「一般的に国際法違反」との勧告的意見を出し、同年9月には国連総会が「包括的核実験禁止条約」(CTBT)を採択(未発効)した。

 

 しかしNPTは①核保有国による核軍縮、②非保有国への不拡散、③原子力の平和利用(IAEA=国際原子力機関が査察)の三本柱で構成され、既存核保有国の核保有は容認するが、新しい核保有国を認めないという内容だった。それは米国の核保有は認めるが、それ以外の国が新たに核を保有することは認めないという、核保有大国に都合のよい条約だった。

 

 そのため2012年頃からは「核兵器そのものの非人道性」に言及する論議が活発化していった。そして同年のNPT再検討会議・第一回準備委員会ではスイスなど16カ国が「核兵器の使用は国際人道法に違反する」という内容の共同声明を発表した。翌2013年にはノルウェー政府がオスロで「核兵器の非人道性に関する国際会議」を開いた。2014年にはメキシコ、オーストリアが「核兵器の非人道性に関する国際会議」を開いている。

 

 こうしたなかで2017年7月に国連で、加盟国193カ国中122カ国の賛成を得て核兵器禁止条約が採択される動きとなった。それ以後、米国が「条約発効をさせない」という妨害を執拗に続けたが発効を阻むことはできず、来年1月にも発効する段階にきた。原爆投下から75年経て核兵器を明確に「悪」と位置づけ、全締約国に核兵器の全廃を義務づける国際条約が発効する意義は大きい。

 

 しかし米国をはじめとする核保有大国は条約参加を拒み続けている。こうした不参加国を核兵器禁止条約で縛ることはできず、核兵器廃絶を真に実現するには、そうした核保有国の抵抗を覆す国際世論をより強力に束ねていくことが不可欠になっている。こうした核廃絶に実効性を持たせる最大の原動力は被爆体験の継承であり、後世に被爆体験を伝え、被爆二世や三世が直面している苦難を発信し続けてきた被爆国・日本が果たす役割が重要さをましている。

 

広島平和公園での街頭パネル展示

英訳判冊子を読む外国人(平和公園)

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