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アメリカのイラン制裁に国際的な批判 医療品輸出制限でコロナ予防を阻害

 新型コロナウイルスの感染者が20日時点で、世界全体で25万人をこえ、その後数日間で40万人にまでなった。中東のイランでは感染者が1万9644人にのぼり、そのうち1433人が死亡する事態となっている(イラン保健・医療教育省発表)。一方で、イラン政府は全国の市民2800万人以上に新型ウイルス検査を実施しており、病床の6745人が回復し退院している。

 

 こうしたなかで、アメリカの「イランに対する制裁」による医薬品や医療器機関連の輸出禁止という非人道的な措置が、イランの専門家・医師、看護師たちのコロナウイルス感染対策と医療努力を阻み、イラン国民に苦難を強いていることを批判する声が国境をこえて高まっている。

 

 イラン側からは、ザリーフ外相がツイッターで「トランプ大統領は現在、違法な制裁を強化しており、そのためにイラン市民が新型コロナウイルスの感染症で死亡している」と発信。ストッカー赤十字国際委員会イラン代表部首席代表が記者会見で、「イランに対する医薬品関連の制裁は、医療患者への影響からして容認できない」「難病の患者や貧民に影響を及ぼしている」とのべたことが報道されている。エブテカール副大統領(みずからも感染)は大学で免疫学を教えていた化学者だが、時事通信とのインタビューで「医療品は制裁対象外のはずなのに、そうはなっていない。必要な医療品確保が難しくなっている」として、アメリカによる制裁強化が感染防止の阻害要因となっていると訴えている。

 

 各国の専門家からもイラン国内の感染者と死者の急増を心配し、その大きな要因として本来は人道的物資として制裁の対象外である医薬品などの輸出を阻むアメリカの対イラン制裁があるとの指摘があいついでいる。

 

 アメリカのラジオ放送NPR(7日放送)は、「経済制裁はイランが医療や医療器機にアクセスすることを難しくしている」として、「アメリカによる制裁とイランを孤立させようとするもくろみが、イランの新型コロナウイルスとの闘いに制限をかけている」ことを伝えた。

 

 『ニューズウィーク』誌(2月27日)は、「米国の制裁がコロナを封じ込めるイランの努力の妨げに」との見出しでこの問題をとりあげた。そこでは、イラン政府高官がインタビューで、「制裁にもかかわらず、イランは現在、必要な医薬品の95%~97%近くを生産し、地域諸国に輸出さえしている。(残りの薬が)私たちが必要とする重要な薬だが、アメリカが制裁を課しているため、入手することができない」と語ったことを伝えている。

 

 ロンドンに本拠を置く人権団体「第一九条」は、「イラン人は自国政府の検閲ではなく、米国が課した経済制裁のために必要な情報の入手にも混乱を招いている。ジョンズ・ホプキンス大学のリアルタイム、コロナウイルスデータベースにもアクセスできない」と告発している。

 

 アメリカは2018年、イラン核合意から離脱し対イラン制裁を再開した。イランの提訴によって国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は同年10月、アメリカに対して人道関連物資(医薬品や医療機器、食料、民間航空機の安全にかかわる部品など)のイラン輸出を阻害しないよう、仮保全措置で指示した。

 

 そこでは、人道的物資であるのに各国の銀行が制裁を懸念して送金を拒んでいると指摘、アメリカは輸出のための支払いが制限されないよう必要な措置をとらねばならないと求めていた。しかし、国際的な金融機関がイラン企業との代金の決済をしない状況が続いている。

 

 新型ウイルス感染前の昨年11月に発行された『グローブトロッター』(独立メディア研究所)に掲載された「イラン民衆の健康被害もたらす 医療器具・薬品の全面禁輸」と題する論文は、「国民皆医療保険は、イラン政府の基本的政策志向である。これが制裁のために、例えば表皮水疱用の包帯とか炎症用薬品(イラン・イラク戦争で欧米がイラクに供給した化学兵器の後遺症治療薬)などの基本的医薬品の輸入に困っている」と指摘している。論文は、次のようにも記している。

 

 2013年ウィルソン・センターの報告は「米国の制裁によって、イランへの薬品と医療器具の供給が滞っている。とくに最先端医薬品やその化学原料の入手ができないのが大きな混乱を招いている」と書いた。医学誌『ランセット』も、米国の一方的制裁がイラン民衆の健康に悪影響を及ぼしていることを何回も記事にしている。この8月号「ランセット」には、米国とイランの4人の医師が、制裁によってイランの国民皆医療保険制度が危機に瀕していること、人々の死亡率と疾病率が悪化していることなどを報告している。

 

米国の制裁に対しイランとベネズエラが連帯

 

 1年前、イラン医学協会長のセイエド・アリレザ・マランティ博士は、臓器移植が必要な患者やがん患者が「やむなく見放されている」状態を訴える手紙を何度も出したが、公式な返事は一度もなかった。国連特別報告者が「イランは人道上緊急に必要な物資を購入できない。このため、世界のメディアが知らない間に、薬品不足で入院患者がつぎつぎ死んでいく恐ろしい事態が発生している」と報告したにもかかわらず。

 

 イランの人権団体への送金すら銀行が拒否している。米国の二次制裁で、第三者もイラン内に送金できないのだ。2019年8月、イラン内にあるアフガニスタン難民キャンプの世話をしているノルウェー難民評議会のヤン・エグランド会長は「ドナーの献金をとり扱ってくれる銀行がない」と嘆いた。20世紀、イランは国産薬品や医療器具の開発に力を入れた。それで少しは間に合っている面もあるが、材料の一部を輸入に頼らざるを得ないので、困難である。

 

 数日前ベネズエラのガブリエル・ヒメネス科学・技術相が、透析装置100台を買いにテヘランを訪れた。アメリカの無法な圧力を受けている二国が助け合っているのだ。ベネズエラはイラン以上にアメリカの制裁の打撃が大きく、基本的医薬品の85%が不足している。イランがわずかながらベネズエラに医療器具を供給できたのは、イランの不屈の精神のあらわれであろう。

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